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Victor Zero-5
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,800(1台)ビクターが1978年に発売したスピーカーシステム。SX-3を代表とするソフトドームユニットを搭載した
従来のシステムとは異なり,より物理特性を重視したW&D(ワイド&ダイナミック)の設計思想を標榜
した新たなZeroシリーズの原点がこのZero-5でした。Zero-5の最大の特徴は,来るべき1980年代のより情報量の増したプログラムソース(ダイレクト・デ
ィスク,PCM録音,76cm倍速マスター録音,メタルテープ)をターゲットに据え,より広帯域・高リニア
リティをめざした設計・上記のW&D思想にありました。そのために,まず高域特性の優れたリボントゥ
イーターを新開発し搭載していました。
Zero-5のリボントゥイーターは,「ダイナフラット・リボン・トゥイーター」を称され,50kHzまでの再生能
力を持った高性能なユニットでした。ここに使われたプリントボイスコイルの平板リボン・ダイヤフラムは
従来タイプのトゥイーターに比べて非常に軽量で,ボイスコイルが直接空気をドライブするため非常に優
れた過渡特性を誇りました。ベースフィルムには,430℃の高熱に耐えるポリイミド系樹脂を使用し,高
エネルギーのサマリウム・コバルトマグネットのプッシュプル磁気回路でドライブされ,50kHz以上の高
域特性と120Wの高耐入力を実現していました。
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スコーカーは,フェノール樹脂を含浸させて強度を高めた「フェノリックス・コーン紙」とアルミドーム・ダイヤ
フラムを組み合わせた10cm口径の複合型ユニットを搭載していました。コンピュータのシミュレーション等
を繰り返して必要な材質と形状を選定したユニットは,500Hz〜5kHzにおよぶ帯域で分割振動を起こさ
ず,平坦な特性を実現していました。さらに,ドームイコライザーや大型磁気回路,耐熱ボイスコイル等によ
り,指向特性と耐入力,歪率においても優れた特性を実現していました。
ウーファーは,パルプ繊維の長い軽く丈夫な30cm口径のアルファーコーンを使用していました。さらに,磁
気効率の良いエッジ・ワウンドボイスコイルや振動系の強度を高めてfoを低くするボイスコイル・リング,リニ
アリティのよい特殊ダンパー等も使用して分割振動を排除してピストニックモーション帯域の広いウーファー
としていました。
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ネットワークには,モニタースピーカーの開発から生まれた,高性能なメタライズド・フィルムコンデンサー
や,エポキシ・ディッピング・コイル,ねじりピッチの小さい無酸素銅ワイヤなど,厳選されたパーツが投入
され,取り付け位置についても吟味されていました。
バスレフ形のエンクロージャーは,内部の背面反射にも着目し,リフレクターパネル等による特殊内部処
理が施され,」ウーファーのリニアリティを損なう反射や定在波がほとんど排除されていました。
さらに,指向特性の優れたトゥイーターとスコーカーを垂直軸上に配置したインライン配置により,音像定
位の向上を図っていました。
エンクロージャーの表面はローズウッド柾目材仕上げの美しいものでした。以上のように,Zero-5は,中級機ながら,ビクターがW&D思想のもと,新技術を意欲的に投入し,優れ
た性能を実現したスピーカーシステムでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
拡大するプログラムソースの
情報量にこたえて,
W&D思想をかかげた
原点の3ウェイ・システムです。
◎50kHzにおよぶ超高域再生を実現,
広帯域ダイナフラット・リボン・ツィーター。
◎受持帯域全体をピストニック・モーション化,
コンピューター・シミュレーション設計の
10cm複合型スコーカー。
◎ツィーターの高いクオリティに対応,
30cmアルファー・コーン・ウーハー。
◎低歪率・高耐入力の
ディバイディングネットワーク。
◎低音域の放射特性を大幅に改善,
特殊内部処理バスレフ・キャビネット。
型式 | 3ウェイ・バスレフ型 |
スピーカー・ユニット | 30cmアルファー・コーン
メタルドーム付き10cm特殊コーン ダイナフラット・リボン |
最大入力 | 120W(ミュージック・パワー) |
再生周波数帯域 | 30Hz〜50,000Hz |
出力音圧レベル | 92dB/W(1m) |
インピーダンス | 8Ω |
クロスオーバー周波数 | 500Hz/5,000Hz |
レベルコントロール | 定抵抗連続可変型 |
寸法 | 655H×365W×340Dmm |
重量 | 21.5kg |
ファインセラミック技術を中心に![]()
Zero-5Fine
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,800(1台)1979年,Zero-5Fineにモデルチェンジしました。各部に改良が施され,より高性能なスピーカーシステ
ムになっていました。最大の改良点は,スコーカーのファインセラミックダイヤフラム化でした。ファインセラミック粒子を10,000℃
に達する超高温で耐蝕アルミの表面に融着させる新技術により実現された高性能なダイヤフラムでした。
同時,従来は不可能だったアルミの深絞り技術を開発し,理想に近いダイヤフラム形状を実現していました。
これらにより,スコーカーは,550Hz〜5kHzの受持帯域に対し,約16kHzという高域共振周波数を実現し
ていました。
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ウーファーは,磁気回路の見直しにより,磁気効率を高めながら電流歪が20dB低減され,アルファーコー
ン紙は含浸剤の改良や強化リブ構造によってより剛性が高められていました。また,シールデッドエッジ
構造を採用して,エッジの固有音を抑える構造になっていました。
ダイナフラットリボントゥイーターにも改良が施され,100kHzに及ぶワイドレンジと5kHz以下の使用帯域
では200Wのピーク入力にも耐える高性能トゥイーターへと改良されていました。レベルコントローラーは,従来の連続可変型から,音質を重視して,4ステップ切換式の定インピーダンス
L型レベルコントローラーへと変更されていました。
ユニット配置は,従来のインライン配置から,左右対称型の配置へと変更されていました。
●Zero-5Fine型仕様●
型式 | 3ウェイ・バスレフ型 |
スピーカー・ユニット | 30cmアルファー・コーン
10cmファインセラミック・ダイヤフラム ダイナフラット・リボン |
最大入力 | 120W(ミュージック・パワー) |
再生周波数帯域 | 30Hz〜100,000Hz |
出力音圧レベル | 92dB/W(1m) |
インピーダンス | 8Ω |
クロスオーバー周波数 | 550Hz/5,000Hz |
レベルコントロール | 定インピーダンス4ステップ切換型 |
寸法 | 655H×365W×340Dmm |
重量 | 21.5kg |
デジタル時代の![]()
Zero-50Fine
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥65,000(1台)1983年には,Zero-50Fineへとモデルチェンジされ,デジタル時代において,より高性能なスピーカー
システムへと変貌を遂げました。Zero-50Fineでは,Zero-5Fineから始まったダイヤフラムのセラミック化がより押し進められ,スコーカ
ーに加えてウーファーもセラミックを使用したユニットになりました。
Zero-50Fineに搭載された33.5cmセラミックコーンウーファーは,ファインセラミックファイバーに特殊な
接着剤を添加し,紙と同様に漉きあげてから高音でプレス成型して作られたもので,紙のコーンに比べて
約1.8倍の剛性を持つものでした。この強力なウーファーは,アルミダイキャストフレームにマウントされ
従来の2倍の12本のスクリューでバッフルに強固にサンドイッチロックで取り付けられていました。
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スコーカーは12cm口径のファインセラミックダイヤフラムとなり,ダイナフラットリボントゥイーターも,5作目
となり振動系の強化や銅製ラジエーターピースにより耐入力が高められたマークXとなっていました。
各ユニットの強化で,耐入力も150W,瞬間最大で300Wを実現していました。
●Zero-50Fineの仕様●
型式 | 3ウェイ・バスレフ型 |
スピーカー・ユニット | 33.5cmファインセラミック・コーン
12cmファインセラミック ダイナフラット・リボン |
最大入力 | 150W(ミュージック・パワー)
300W(瞬間最大) |
再生周波数帯域 | 40Hz〜80,000Hz |
出力音圧レベル | 92dB/W(1m) |
インピーダンス | 6Ω |
クロスオーバー周波数 | 550Hz/4,200Hz |
レベルコントロール | 定インピーダンス・ステップ型 |
寸法 | 655H×380W×325Dmm |
重量 | 22.0kg |
傑出したファインセラミック技術で![]()
Zero-50FX
3WAY AV SPEAKER SYSTEM ¥65,000(1台)1984年,Zero-50FXへとモデルチェンジされました。AV対応を打ち出すなど,少し方向性の変わった
モデルでもありました。ユニット構成においては,これまでZeroシリーズの特徴であったリボントゥイーターがなくなり,ユニットの
ファインセラミック化が進められていました。
ウーファーは,Zero-50Fineで初搭載された,セラミック・コーン(アルミナファイバー・コーン)にカーボン
コーティングが施され,剛性と内部損失が高められていました。
スコーカーは,Zero-5Fine以来のアルミ一体深絞り振動板に,アルミナ粉体とチッ化シリコンのウィスカ
ーを加え,プラズマジェットコーティングが施された新しいセラミックダイヤフラムユニットになっていました。
トゥイーターは,リボントゥイーターから小口径のドーム型振動板に変わり,アルミナ非結晶イオンプレーテ
ィングにより,高域共振周波数が50kHzまで高められたファインセラミックドームユニットになり,指向性が
広げられました。結果として,全ユニットがファインセラミックダイヤフラムとなりました。Zero-50FXでは,新たにAV対応がうたわれ,ウーファー,スコーカー,トゥイーターの全ユニットがダブル
マグネット方式となり,メインマグネットと逆着磁したサブマグネットと防磁カバーによって漏洩磁束を抑え
AV対応がなされていました。あわせて,ストロンチウム・フェライトマグネット採用のダブルマグネット方式
は,キャビネット内部への磁束漏れを抑え,ネットワークなどへの影響も抑えられるとともに,駆動力も高
まっていました。
さらに,トゥイーター,スコーカーのレベルントロール機能を応用して,AVソースの種類に応じて周波数バ
ランスを変えるAV対応のプレゼンスコントロールを搭載していました。
また,エンクロージャーもバスレフ形から密閉型に変更されていました。
●Zero-50FX SPECIFICATIONS●
型式 | 3ウェイ・密閉型(防磁タイプ) |
スピーカー・ユニット | 33.5cmファインセラミックコーンダイヤフラムスピーカー
12cmファインセラミックダイヤフラムスピーカー 2.5cmファインセラミックドームスピーカー |
最大許容入力 | 150W(ミュージック・パワー) |
瞬間最大入力 | 300W |
再生周波数帯域 | 40Hz〜50,000Hz |
出力音圧レベル | 92dB/W(1m) |
定格インピーダンス | 6Ω |
クロスオーバー周波数 | 550Hz/4,500Hz |
レベルコントロール | 定抵抗連続可変型 |
寸法 | 655H×380W×325Dmm |
重量 | 24.0kg |
表現力。![]()
ZERO-FX5
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,800(1台)1986年には,ZERO-FX5へとモデルチェンジが行われ,AV対応から純オーディオシステムへと設計思想が
もどされ,DIGIFINE(デジファイン)のうたい文句のもと,よりデジタル対応が鮮明にうちだされ,また,スピーカ
ーにおける598戦争の本格化の中,歴代最重量級のエンクロージャーにも見られるように,他メーカーの影響を
受けつつ登場し,物量の投入が最も顕著だった,ZERO-5シリーズの最終型でした。ユニットはすべて新設計となり,これまでの流れのセラミック技術を生かしつつより先端技術を投入したユニット
構成になっていました。
ウーファーは,クロスカーボンとファインセラミックのラミネート構造のダイヤフラムとなり,音楽のチューニングの基
準440Hzを基準としたチューニングが施されていました。
スコーカーは,カーボンファイバーをベースにダイヤの単結晶粒子と炭化シリコンのウィスカーを添加した新開発の
C.F.D.C(クロスカーボン・ファイン・ダイヤモンド・セラミックス・ウィスカー・コンポジット)ダイヤフラムが搭載されて
いました。複合強化構造を持つ高性能ダイヤフラムでした。
トゥイーターは,チタンを基材にして,アモルファスダイヤの被膜を施し,その間にファインセラミック層を設けて金
属であるチタンとダイヤの結合力を高めた3層構造を持つF.D.C(ファイン・ダイヤモンド・セラミックス)ダイヤフラム
トゥイーターが搭載されていました。エンクロージャーも強化され,前面は厚さ25mmのスーパー楕円バッフルにより回析効果を抑えていました。また,
リアバッフルは,2層構造の50mm厚のものとなり,剛性を高め,重量バランスを取る構造となっていました。この
エンクロージャーの強化により,総重量が30kgに達する重量級のスピーカーとなっていました。
●ZERO-FX5の主な仕様●
型式 | 3ウェイ・密閉型 |
スピーカー・ユニット | 33.5cmC.F.Lダイヤフラムウーハー
12cmC.F.D.Cダイヤフラムスコーカー 2.5cmF.D.Cダイヤフラムドームツィーター |
最大入力 | 150W |
瞬間最大入力 | 300W |
再生周波数帯域 | 40Hz〜50,000Hz |
出力音圧レベル | 91dB/W(1m) |
定格インピーダンス | 6Ω |
クロスオーバー周波数 | 500Hz/4,000Hz |
レベルコントロール | なし |
寸法 | 665H×380W×351Dmm |
重量 | 30.0kg |
※本ページに掲載したZero-5,Zero-5Fine,Zero-50Fine,Zero-50FX,
ZERO-FX5の写真・仕様表等は1980年2月,1982年3月,1984年5月,
1984年10月,1986年8月のVictorのカタログより抜粋したもので,日本
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