ＰＩＯＮＥＥＲ ＴＸ-９９００
ＰＨＡＳＥ ＬＯＣＫＥＤ ＦＭ ＳＴＥＲＥＯ ＴＵＮＥＲ ￥１４０，０００
１９７４年にパイオニアが発売したＦＭステレオチューナー。当時の同社の最高級プリメインアンプであった
ＳＡ-９９００とペアを想定された大型の高級チューナーで，ＦＭ専用機として高性能を実現した１台でした。
フロントエンドは，ＦＭ専用７連バリコンを搭載していました。この７連バリコンは３個のデュアルゲートＭＯＳ
ＦＥＴと組み合わされ，シングルチューン，ダブルチューン，トリプルチューンの３段構成として，総合的な選
択度を高めていました。同時に，ダブルチューンはＬ結合，トリプルチューンはＣ結合といった独自の使い方
で，全帯域にわたる利得偏差を０．５dB以内に抑え，高感度と高い妨害排除能力を実現していました。
技術的に最大の特徴は，ＡＰＣ（オートマチックフェイズコントロール）によるロックドチューニング方式の採用
でした。バリコン式チューナーで最も問題となるドリフトとよばれるチューニングずれを防ぐために採用された
もので，水晶発振器を内蔵したＡＰＣによって受信周波数は１００ｋＨｚ刻みとなり正確にロックされるため，ド
リフトが起こらないようになっていました。このＡＰＣは，基本となる１個の水晶発振器から得られる，正確に
１００ｋＨｚごとのパルスで，局部発振器からの発振周波数をサンプリングし，位相のずれを検知して得られる
電圧変化を局発にフィードバックさせるもので，局部発振器からは常に正確な１００ｋＨｚ刻みの正確は周波
数が発振されるようになっていました。このため，チューニングダイヤルの回転を止めれば，局発は正確なそ
の周波数でロックされるため，ドリフトが起こりえない安定性を実現していました。このＡＰＣは，あのエクスク
ルーシブＦ-３にも採用されました。
ＩＦ段は，電波条件に合わせて，無理に選択度を高めず，歪みやセパレーションの特性を優先したワイドバン
ドＩＦ回路と，選択度を高めたナローバンドＩＦ回路の２本立てとなっていました。
さらに，検波器もナローバンド用とワイドバンド用の２種類が搭載され，ＩＦ回路と同時に切換え，受信状態に
応じて，ミューティングスイッチと一体化されたスイッチによって選べるようになっていました。ミューティング回
路は，ミューティングレベルが２段切換になっており，ナローではミューティングＯＦＦとレベル１が選べ，ワイド
ではミューティングレベル１と２が選べるようになっていました。
ワイドバンド用の検波器には，新開発の超広帯域直線検波器が搭載されていました。この超広帯域直線検
波器は従来の広帯域検波器の帯域幅が１〜２ＭＨｚなのに対し，６ＭＨｚもの帯域幅とすぐれた検波効率を
もつというもので，高ＳＮ比と低歪率を実現していました。
さらに，検波器の出力をＭＰＸ段に入れる前に，２００ｋＨｚ離れた隣接局からのビート妨害を防ぐため，不要な
高域成分をカットするアンチバーディーフィルターが内蔵され，ＭＰＸ段への不要波の混入が抑えられていまし
た。
ＭＰＸ回路は，温度変化等による変動を抑え安定した特性を発揮するＰＬＬ（Ｐｈａｓｅ Ｌｏｃｋ Ｌｏｏｐ）方式が採
用されていました。ＴＸ-９９００では，使用するＩＣをＳＮ比や歪みの特性で厳選したものとしていました。
また，一段とシャープなハイカット特性を持つローパスフィルターによって，キャリアリークを抑え，再生帯域の
周波数特性をフラットなものとしていました。
フロントパネルはプリメインアンプＳＡ-９９００とサイズを合わせた大型のもので，強度を落とさないためかメー
ター，ダイヤルスケール等の開口部の少ない特徴的なデザインでした。ダイヤルスケールも精度の高い１００
ｋＨｚ刻みで実効長２５０mmのロングスケールとなっていました。
大型のシグナルメーターは９０dBまでリニアな特性をもつものが搭載されていました。さらに，シグナルメーター
の右隣には，通常の当時のチューナーに搭載されていたセンターチューニングメーターにかわりロックメーター
が装備されていました。このロックメーターは，ＡＰＣによるロックチューニングならではのもので，放送を受信す
れば，針がぴたりと中心を指して同調点を示し，さらに最良の中心同調点になるとロックインジケーターが赤く
点灯するようになっていました。
その他の機能として，弱電界でのステレオ受信時で生じやすい高域ノイズをカットするＭＰＸフィルター，マルチ
パス観測用の出力端子，ＦＭディスクリート４チャンネル放送に備えた４チャンネルＭＰＸ端子などが搭載されて
いました。
以上のように，ＴＸ-９９００は，当時のパイオニアのチューナー技術を集めたような高性能チューナーで，ここで
使われた技術は，超高級チューナー，エクスクルーシブのＦ-３にも生かされていきました。
以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。
