TX-910の写真
PIONEER TX-910
STEREO TUNER ¥70,000(発売時)
              ¥75,000(1974年)


1973年にパイオニアが発売したFM/AMステレオチューナー。当時のパイオニアのプリメインア
ンプの最上級機SA-910とのペアを想定された チューナーで,MPX部に当時最新のPLL ICを
導入するなど,新しい技術が各部に投入された高性能な1台でした。

FMフロントエンドは,RF増幅2段とミキサー段にデュアルゲートMOS型FETを採用した回路構成
になっていました。デュアルゲートMOS型FETには,低ノイズのものを採用し,実用感度が高めら
れていました。同調回路には高精度な5連バリコンが搭載され,イメージ妨害比,スプリアス妨害比
など混信排除能力にもすぐれていました。
局部発振回路には,とくにバッファー回路が設けられ,電界強度の高い隣接局が存在する場合にも
安定した受信能力を確保していました。

TX-910のフロントエンド部

IF段は,全段にわたって従来のトランジスターにかわって,モノリシックIC(1つの半導体基盤上に回路を
構成して1チップ化されたIC)が採用されていました。回路は差動1段のIC3個と差動3段のIC1個から構
成され,高い安定性とすぐれたリミッター性能が確保されていました。さらに,広帯域のレシオ検波(FM信
号の復調の方式のひとつで、コイルとコンデンサとを結合することによって位相差を設け,ベクトル的 な復
調を行う回路方式)とあいまって,SN比など,すぐれた諸特性を実現していました。
IF段のフィルター素子には,位相差が少なくシャープな選択度特性が得られるセラミックフィルター(2素子
もの4個)が搭載され,通過帯域内での低歪特性と高域までのすぐれたセパレーション特性を確保すると
ともに,高い2信号選択度を実現していました。

MPX回路には,新開発のPLL MPX IC・PA-1310が搭載され,部品点数の減少とすぐれた特性を実
現していました。
PLL(Phase Lock Loop)は,2つの信号の位相を比較し,サーボ機構を含んだ閉ループで両者の位
相関係を一定に保つようにしたもので,MPX回路にPLLを採用することで,パイロット信号,MPX信号の
正確さと安定度が飛躍的に高まり,ビート妨害を抑えるフィルターも省略できるなど,高域まですぐれたセ
パレーションが実現していました。MPX IC・PA-1310は,PLL回路とダブルバランス型差動復調回路
MONO・STEREOを示すインジケーター回路と自動切換回路などの付属回路がすべて内蔵されたモノシ
リックICとなっていました。また,MPX段の全回路は,定電圧回路差動増幅などで構成されており,直流
的な安定度にもすぐれていました。
パイロット信号19kHzやMPX復調の際のキャリアリーク38kHzに対しては,オーディオ帯域の周波数特
性にすぐれ,シャープな特性を持つローパスフィルターが搭載され,FM録音時のビート妨害や混変調など
を抑えていました。

TX-910の内部

ミューティングスイッチは,2段切換方式(OFF,1,2)で,動作開始レベルが2段階設けられていました。1段
目は,局間ノイズをカットするもので2段目は強い局のみを受信するときに使用するものとなっていました。こ
のミューティングは,専用に開発されたICにより,正確なミューティング動作が行われ,さらにリードリレーを組
み合わせたダブルアクション方式でポップノイズが抑えられていました。
また,自動車やオートバイなどから発生するパルス性の雑音を,除去するパルスノイズサプレッサーも搭載さ
れていました。リミッターが十分働かない弱い局を受信している時に入るAM成分の雑音やリミッター回路では
除去できないFM成分の雑音も検出して動作する方式のため,電界強度や雑音の種類など広範囲に効果の
あるものとなっていました。

ダイヤルスケール,シグナルメーターとも,当時比較的多く見られたブルーの照明の落ち着いた色調のもので
特にシグナルメーターは,AGC回路の採用によりリニアリティが改善され,強電界地域でも飽和せず,小入力
時から大入力時まで,リミッター段のレベルディテクターにより,シグナルの強さを正確に表示できるものが搭
載されていました。

AMセクションは,FM同様に高精度の周波数直線型の3連バリコンが搭載され,高い周波数帯の選局もしや
すくなっていました。さらに,同調型RF1段増幅の採用により,イメージ妨害比,IF妨害比が向上していました。
新開発の高集積度ICの搭載により,性能と安定性,信頼性の向上が図られていました。各増幅段には,十分
なAGCが施され,検波出力を一定に保つことで,強入力時の飽和による歪みを抑え,ミキサー段は,平衡型
ミキサーの採用でスプリアス特性が高められていました。IF段にはシャープな選択度特性を持つセラミックフィ
ルターが搭載されていました。

出力端子は,FIXED(固定)とVARIABLE(可変)の2系統が装備され,VARIABLEはFM,AM独立でレベル
調整が可能になっていました。チューナーとしては珍しくダーリントン接続のOTL方式のヘッドホンアンプを搭載
したヘッドホン端子が装備され,チューナーだけで聴くこともできるようになっていました。その他,オシロスコー
プを接続することができるマルチパス端子が装備されていました。

以上のように,TX-910は当時のパイオニアのチューナーの中で最上級機として,充実した回路構成と機能を
持ったチューナーで,受信性能と音のバランスの取れた1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



《PLL》をMPX回路に導入,デュアルゲートMOS FETを
フロントエンドに差動増幅モノリシックICをIF全段に採用

視点を変えた設計から
明日のチューナーが生れました。


◎デュアルゲートMOS型FET,5連バリコン使用の
 RF2段増幅FMフロントエンド
◎バッファー付の局部発振回路を採用
◎全段差動増幅モノリシックICによる,6段リミッ
 ターを採用したIF部
◎位相特性の良いフェイズリニア・セラミックフィ
 ルター
◎MPX回路に《PLL》を導入
◎キャリアリークをシャープにカットするローパス
 フィルター
◎ミューティングレベルは2段切換式
◎聴感フィーリングを重視したダブルアクションミュー
 ティング
◎音質を損なわずパルス性雑音だけをカットするパル
 スノイズサプレッサーつき
◎リニアリティのよいシグナルメーター
◎周波数直線型3連バリコン使用の同調式RF1段増幅
 付のAM部
◎AM部に高集積度の専用ICを採用
◎AM IF段にセラミックフィルターを採用
◎FM,AM独立式レベルコントロール
◎ヘッドホン端子付
◎マルチパス端子付
◎なめらかなチューニングダイアル機構





●TX-910の規格●



●FMチューナー●

回路方式
MOS FET RF2段5連バリコン差動6段リミッター
PLL MPXディモジュレーター
実用感度(IHF)
1.5μV
キャプチュアレシオ(IHF)
1dB
実効選択度(IHF)
90dB
S/N
75dB
イメージ妨害比(82MHz)
110dB以上
IF妨害比(82MHz)
110dB以上
スプリアス妨害比
110dB以上
AM抑圧比
65dB
高調波歪率
モノ:0.2%以下
ステレオ:0.3%以下
周波数特性
ステレオ
20Hz〜15kHz+0.2,−2.0dB
50Hz〜10kHz+0.2,−0.5dB
ステレオセパレーション
1kHz:40dB以上
50Hz〜10kHz:30dB以上
キャリアリーク抑圧比
65dB
アンテナ
300Ω平衡型,75Ω不平衡型
ミューティング
2段レベル切換
MPXノイズフィルター
ON-OFF




●AMチューナー

回路方式
同調型RF1段3連バリコン
実用感度(IHF,バーアンテナ)
300μV/m
実用感度(IHF)
15μV
選択度
40dB
S/N
50dB
イメージ妨害比
65dB以上
IF妨害比
85dB以上
アンテナ
フェライトバーアンテナ付




●オーディオ部,電源部その他●

出力端子
(出力レベル/インピーダンス)
FIXED:650mV/4.7kΩ
VARIABLE:70mV〜2V/300Ω
HEAD PHONES:150mV(8Ω)
使用半導体
FET 6,IC 8,トランジスター 33,ダイオード他 21
電源電圧
AC100V 50〜60Hz
定格消費電力
30W
電源コンセント
電源スイッチ非連動1
外形寸法
430W×138H×345Dmm
重量
8.9kg


※本ページに掲載したTX-910の写真,仕様表等は1974年6月
 のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会
 社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

★メニューにもどる       
 
 

★チューナーのページPART3にもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp