FM放送は数多くの専門誌があったほど人気のある
ソースでした。そのため,数多くの個性あふれるチュー
ナの名機たちが存在していました。そんな名機・銘機
たちについて振り返ってみましょう。
FMチューナーといえば,これを取り上げないわけにはいかないでしょう。![]()
KENWOOD L-02T
とにかく価格もさることながら超弩級のチューナーでした。その性能,特
にそのあまりに生々しい音にはただ驚きでした。個人的に当時欲しくて
たまらなかったのですが,ついに手にすることはありませんでした。これ
でFMエアチェックをしたらどんなにか音が良かったでしょう。(FM放送も
今より音が良かったような気がします。)とにかく,FM放送全盛期の最
期を飾った名機でした。
FMのトリオが1976年に初のパルスカウント方式のチューナーとして発![]()
TRIO KT-9900
表したKT−9700に続いて,2年後の1978年にパルスカウント検波の
IC化に成功し,初めて搭載して発売した最高級チューナーでした。後の
L−02Tに引き継がれていくサンプリングホールドMPXなどの新技術を
搭載し,各部部品などにも贅を尽くして開発したため,価格が当時でも
200,000円にも達し,重量もL−02Tより3kg近く重い15kgもある
高性能重量級チューナーでした。ちょっとした高級プリメインアンプ並の
その筐体は,シンセサイザーチューナー時代の現代から見ると隔世の
感がありますが,オーディオ機器としてのどっしりとした存在感が印象的
です。
1979年に,トリオは高級品のLシリーズ専用のケンウッドブランドを国内![]()
KENWOOD L-01T
向けに使い初めました。その第1号機のプリメインアンプL−01Aとペア
になる高級チューナーとして同年発売されました。KT−9900の技術を
受け継ぎ,さらにマグネティックディストーションを排除するための非磁性
体構造を採用し,検波回路やMPX回路の電源部を他から独立して設け
た2電源構成などを加え,性能を向上させて登場しました。何よりも,非
磁性体構造による全身樹脂製ブラックパネルとアクリル製のフロントパ
ネルを持つ独特のデザインは当時きわめて印象的で,従来のトリオの
チューナーのイメージを変えるものでした。
![]()
ONKYO T-429R
それほど目立ってはいませんでしたが,オンキョーも性能の良いチュー
ナーをいろいろ作っていました。ここに上げた2機種は,同じカタログ
(1983年9月)の中に並んで掲載されていました。
T−429Rは1981年発売のT−429の改良版として1983年に発売
され,7連バリコン採用の高性能アナログチューナーとして優れた性能
を発揮していました。オンキョーの優れたアンプ技術を生かしたサーボ
アンプICをオーディオ部に採用し,トリオとはまた違った柔らかみのある
厚みのある音を実現していました。T−437は,同じく1983年発売の
デジタルシンセサイザーチューナで,バリコンの代わりにバリキャップを
使っており,サイズがやや小さくなり重量もやや軽くなり,AM部も搭載
して価格は同じ69,800円でした。カタログデータを見ても一長一短で,
恐らくT−437がお得に見えたのではなかったかと思います。しかし,
個人的にはT−429Rの方が好きでした。みなさんは,今ならどちらが
魅力的に感じますか?それぞれの詳しいページを見て比較してみるの
もおもしろいかもしれません。この時代以降アナログチューナーは次第
に衰退してゆき,バリコンを作るメーカーもなくなっていきました。そして,
FMチューナの絶頂期はL−02Tを最後に終わりを告げたのでした。
パイオニアは,トリオほど知られていませんでしたが,性能の良いチュー![]()
PIONEER F-700
ナーを作っているメーカーでした。このF−700はトリオ以外で「パルスカ
ウント方式」を採用していたFM専用チューナーで,性能のなかなか良かっ
たものです。パイオニアでは「ビートレス・パルスカウント」と呼んで,歪み
やSN比などの特性がより改善されているとうたっていました。価格も考え
るとバランスの取れた製品で,当時,私も「チューナーは,やはりトリオか
な。」と思いつつも気になっていたチューナーでした。
パイオニアが1982年に発売したFM/AMチューナー。上記のF−700![]()
PIONEER F-120
から2年後の製品です。この頃になると,シンセサイザー方式全盛となり,
アナログ式チューナーが見られなくなっていました。それとともにチューナー
が話題に上らなくなっていきました。
そんなとき登場し,新しい回路方式,復調過程のデジタル化で久々に大い
に話題になり,人気を博したチューナーでした。実際,手ごろな価格の割
に音もよく使いやすい実用的なチューナーだったことが印象に残っていま
す。同じパイオニアの上記のF−700と比較してみてもおもしろいかもしれ
ません。どちらが魅力的に感じますか?
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KENWOOD L-03T
ケンウッドは最後までバリコンを使ったアナログ式チューナーにこだわり
を見せたメーカーでした。このL−03Tは,L−02Tの弟機として発売さ
れましたが,シンセサイザー式への時代の流れの中で最後のアナログ
式チューナーとなりました。これ以降,バリコンを作るメーカーも技術者
もいなくなり,アナログ式のチューナーは完全に姿を消しました。
KT−3030はそんな中,L−03T発売の約1年後に発売されたケンウッ
ド初の高級シンセサイザー式チューナで,音質的にアナログ式に劣ると
いわれていたシンセサイザー式チューナへのケンウッドの一つの回答
だったのかもしれません。しかし,時代は移り変わり,チューナー自身が
話題の中心とならなくなっていってしまったのです。(FMエアチェックも死
語となりましたね。)
サンスイが1979年に,発売した高級チューナ。大型で超弩級のプリメ![]()
SANSUI TU-X1
インアンプAU−X1とペアになるチューナーとして発売されていました。
当時は,プリメインアンプと同じ大きさのチューナーというのが普通でし
たが,それにしてもパネル高が20cmもあり,重量も16kgもあるまさに
超大型重量級のチューナーでした。これはFMチューナーとAMチューナ
の2台が一体化した設計になっていたためで,FMの音だけでなく,AM
の音も重視した設計により,AMの音はとてもAMとは思えないほどしっ
かりしたものでした。今作るといくらかかるか分からないほど凝った設計
が印象的な1台です。
オンキョーが1979年に発売したFM専用高級チューナー。新開発のセ![]()
ONKYO T-419
ラソイド検波という高性能な検波器を持ち、7連バリコンによるトリプル
チューン、スーパーサーボ方式を初めて搭載したオーディオ部など中味
の濃い優れた性能の高級チューナでした。デザインが半値以下の弟機
T-417とほとんど変わらず特に高級感を外観に出そうとしていないとこ
ろがオンキョーらしいところで、外観で損をするタイプのオンキョーの最
高級機でした。
ヤマハが1979年に発売したアナログ式の高級チューナー。ヤマハらし![]()
YAMAHA T-9
い繊細なデザインと高性能を誇るヤマハ製アナログチューナー最後の名
機だったと思います。シンセサイザー式チューナーへの過渡期に現れた
チューナーとしてアナログ式ながらプログラム選曲機構を持つというユニー
クなチューナーとしても印象に残っています。
テクニクスが1983年に発売したシンセサイザーチューナー。このころに![]()
Technics ST-G7
はすでにチューナーはシンセサイザー方式が主流となり,チューナーも軽
薄短小化が進み,5万円以上のチューナーは珍しくなっていました。その
ような中で,テクニクスが持ち前のデジタル,コンピューター技術を投入し
て作り上げた高性能チューナーでした。7万円をこえる価格の本機は,当
時すでに高級品的存在となっていました。その後のテクニクスのチューナー
の基礎となったチューナーだったともいえると思います。
ナカミチが1986年に発売した高級チューナー。ナカミチの高級システム![]()
Nakamichi ST-70
ステレオとでもいった「System70」の一員として開発されたチューナーで
した。ステレオ受信が高音質でできるエリアを大きく拡大する「ショッツNR」
というシステムを搭載していたことが特徴でした。
トリオが1980年に発売したAM・FMチューナー。KT-9900,![]()
TRIO KT-1000
L-01Tなどの高級チューナーの流れを受け継ぎ,そこで開発
された技術を投入して作り上げられた中級クラスのアナログ
チューナーで,その受信性能と音の良さは高い評価を得ました。
手の届く高性能チューナーという感じでした。
オーレックス(東芝)が1974年に発売したシンセサイザーチューナー。![]()
Aurex ST-910
当時海外ではぼちぼち登場し始めていたデジタルシンセサイザー方式
を取り入れた国産初のシンセサイザーチューナーとして画期的な1台で
した。ツマミが1個もなく,ガラスパネルをタッチして操作するそのデザイ
ンは,非常に未来的なものでした。
ヤマハが1981年に発売したシンセサイザーチューナー。ヤマハもチュー![]()
YAMAHA T-8
ナーの分野でよく頑張っていたメーカーでした。シンセサイザーチューナー
には比較的慎重な姿勢を見せていたヤマハも,T-6を皮切りにシンセサ
イザーチューナーで力の入ったモデルを発売していきました。その中で,
このT-8は,ヤマハのシンセサイザーチューナーの技術的な基礎を完成
させたという意味で名機だと思っています。その洗練されたデザインも今
見ても美しいと思いますが・・・。
ソニーが,1976年に発売した高級チューナー。ラジオの分野で優れた![]()
SONY ST-A7B
技術を持っていただけに,チューナーの分野ではソニーも優れた製品を
出していました。ST-A7Bは,5連バリコンにクリスタルロックを組み合
わせた高性能チューナーで,ソニーのバリコン式チューナーとしては,
最後の高級機でした。ガンブラックの精悍なデザインが印象的でした。
ヤマハが1983年に発売した高級チューナー。サイドウッドを配した優![]()
YAMAHA T-2000W
美なデザインの中に,これまで培ってきたヤマハ独自のチューナー技
術を投入して作られたシンセサイザーチューナーでした。ヤマハらしさ
を持った重厚かつ洗練されたデザインは同時期のチューナーの中でも
目立っていました。
テクニクスが1974年に発売した,高級チューナー。9連バリコンをはじ![]()
Technics ST-9700
め,各所に当時,最高のパーツと回路を投入した贅沢な作りのチュー
ナーで,アナログチューナーとして,水準をはるかに超えた優れた性能
を誇りました。テクニクスの歴史の中でも,最高級機になるのではと思
います。
※ここに掲載された写真は,各製品のカタログからの抜粋で,
その版権・著作権等は,各オーディオメーカーにあります。
したがって,これらの写真を無断で転載等することは,法律
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