TU-850の写真
DENON TU-850
FM STEREO TUNER ¥70,000

1977年にデンオン(現デノン)が発売したFM専用チューナー。同年に発売されたプリメインアンプ
PMA-850とのペアを想定したチューナーで,下半分がブラックのツートンカラーのフロントパネル
ドラム式のダイヤルスケールなど,デンオンらしい外観が強い印象を与えますが,しっかりと技術が
投入された実力派の1台でした。

フロントエンドは,デュアルゲートMOS FETを採用し,周波数直線型5連バリコンを搭載して,高
SN比,高感度と高い妨害排除能力を実現していました。

中間周波増幅部は,音質と妨害排除特性を両立させるために,ワイドバンド特性とナロウバンド特
性の切換えが装備され,さらにコントロール系のための副増幅系を別に設けられていました。
ワイドバンドは,リニアフェーズ4素子セラミックフィルターで構成され,ステレオひずみ率0.06%,
セパレーション55dBを実現していました。セラミックフィルター3素子をさらに増すナロウバンドは,
実効選択度65dB(300kHz)が確保されていました。

検波部は,直線性を良くするために,従来機より広帯域化したレシオ検波器が搭載されていました。
さらに,検波段とIF最終段とのインピーダンスの整合をとることにより,振幅と位相特性が平坦です
ぐれた検波器が実現され,検波器単体で混変調ひずみ分含めた全高調波を0.02%,離調特性
±100kHzで0.1%以下のひずみ率となっていました。検波回路のS/Nに大きく影響するダイオー
ドにはゲルマニウム・ダイオードにありがちな過剰雑音を避けるために厳選されたシリコンダイオー
ドを使用するとともに,検波回路の周辺に使用する回路中の抵抗,トランジスター等まで配慮が行
われ,従来の同社のレシオ検波器に対してS/Nを10dB以上改善していたということでした。また
シリコンダイオードの立ち上がり特性を補償するために,ダイオードに固定バイアスをかけ,低歪率
化が図られていました。

MPX部には,従来よりひずみ,セパレーション,S/Nの特性にすぐれた新開発のICを使用し,さら
に独自の「PLLによるMPXビート除去法」を開発・採用していました。これは,妨害信号等により
PLL(位相同期回路・Phase Locked Loop)の中の位相比較器の出力に出てくるパイロット 信
号をゆする成分を反転し,反転信号でゆすれ分をキャンセルするというもので,19kHzのパイロッ
ト信号にごく近い妨害信号によるゆすれも大幅に減少することが可能となっていました。また,新開
発ICには,パイロットキャンセラー,ひずみ特性をよくするための100%NFB回路も内蔵されてい
ました。新開発ICとMPXビート除去法があいまってMPX部単体では,セパレーション60dB,ひずみ
率0.02%,S/N比86dBという特性を実現していました。

前述したとおり,当時のチューナーとして個性的な外観を持っていました。ダイヤルスケールは,多く
のバリコン式チューナーが採用していた横長スケールではなく,指針が固定でスケールがドラム式で
回転するタイプで,ツートンカラーのパネル面と合わせて,デンオンらしさを発していました。メーター
は,L・R独立の大型のレベルメーターとダイヤルスケール横のセンターチューニングメーターの3つ
が装備されており,スイッチの切り換えで,Lchレベルメーターはマルチパスメーターに,Rchレベル
メーターはシグナルメーターになるようになっていました。また,このレベルメーターは,レベルメー
ター外部端子に接続した外部のオーディオ機器の信号のレベル測定にも使えるようになっており,
そのために,3段階のアッテネータースイッチも装備されていました。
チューナーとしては,局間ノイズをカットするミューティングスイッチ,IF段の選択度を切り替えるIFバ
ンド切換え,セパレーションを調整してステレオ受信時のS/N比を向上させるハイブレンドなど,必要
な機能はしっかり備えられていました。

以上のように,TU-850は,しっかりとした中身を持ったすぐれたチューナーでした。デンオンはチュー
ナーではあまりブランドイメージが強くなく,人気モデルとはいえませんでしたが,受信性能と音質,
機能のバランスが取れた実用性の高い実力派チューナーでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹 介します。



革新的な新回路を導入した
DENON新シリーズ登場!!


《特長》
1.正確なチューニング・・・・ドラム式ロング
 スケールダイヤル機構
2.二系統方式中間周波数(IF)増幅段,
 音質重視の中間周波増幅帯域切換えつき
 (WIDE−NARROW)
3.新しいレシオ検波方式とパイロット・ビート
 除去方式の採用で,84dBの高S/N,
 0.05%の低ひずみを実現
4.2個の大形レベルメーター採用

◎デュアルゲートMOS FET
 5連バリコンのフロントエンド
◎伝送特性を重視し,バンド切換をもった
 中間周波増幅部
◎広い直線性と高S/Nを示すFM検波回路
◎クリアサウンドを可能にする
 PLLステレオ復調部




●仕様●

形式
ドラム式ダイヤル,ソリッドステートFMステレオチューナー
FMセクション
回路方式
スーパーへテロダイン方式
受信周波数範囲
76〜90MHz
中間周波数
10.7MHz
実用感度
1.7μV(9.8dBf)
S/N50dB 感度
3.3μV(15.6dBf・モノーラル),30μV(34.7dBf・ステレオ)
実効選択度
35dB(400kHz WIDE),65dB(300kHz NARROW)
イメージ妨害比
120dB
IF妨害比
110dB
スプリアス妨害比
110dB
AM抑圧比
65dB
キャプチャレシオ
0.8dB(WIDE),1.5dB(NARROW)
オーディオセクション
周波数特性
20Hz〜15kHz+0.2dB,−1.5dB
SN比
84dB(モノーラル),82dB(ステレオ)
全高調波ひずみ率
モノーラル:0.05%(WIDE),0.1%(NARROW)
ステレオ:0.06%(WIDE),0.3%(NARROW)
ステレオセパレーション
1kHz:55dB(WIDE),45dB(NARROW)
10kHz:45dB(WIDE),40dB(NARROW)
19kHz,38kHz抑圧比
80dB
出力電圧
固定:1V(100%変調時)
可変:0〜1V(100%変調時)
出力インピーダンス
固定:1.7kΩ,可変:1.7kΩ以下
レコーディングレベルチェック
出力電圧(440Hz)
固定出力端子:0.5V
可変出力端子:0〜0.5V
レベルメーター
(シグナル及び外部オーディオ信号測定可能)
指示誤差
±0.2dB以内
外部オーディオ測定レンジ
+10,+20,+30dB(0dB:0.775V)
外部オーディオ入力インピーダンス
200kΩ以上
周波数特性
20Hz〜15kHz±0.5dB
動特性
JIS C-1504に準ずる
 
接続端子
アンテナ端子:75Ω F形コネクター 300Ω,75Ωネジ式
マルチ検出端子,オーディオ出力端子(固定,可変)
レベルメーター外部端子
電源電圧
AC100V 50/60Hz
消費電力
14W
寸法
434W×164H×400Dmm(含むゴム足,ツマミ,端子)
重量
8.9kg

※本ページに掲載したTU-850の写真,仕様表等は1979年11月
 のDENONのカタログより抜粋したもので,デノン株式会社に著作権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

★メニューにもどる       
 
 
 
★チューナーのページPART3にもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp