TA-N7Bの写真
SONY  TA-N7B
STEREO POWER AMPLIFIER ¥160,000

1976年にソニーが発売したパワーアンプ。プリアンプTA-E7Bとのペアを想定されたパワー
アンプで,V-FETの搭載,4つのトランスを持つ強力電源部等しっかりと物量が投入された
力の入った1台でした。

全体の回路構成としては,電圧増幅段,電力増幅段とも,増幅回路の時定数を形成するコン
デンサーを取り除いたDCアンプ構成となっていました。入力端子と増幅段の間もコンデンサー
を用いないダイレクトカップリングで,入力から出力まで完全DCパワーアンプとなっていました。

電圧増幅段は,初段にデュアルFETを用いたカスコード接続の差動アンプを配し,カレントミ
ラー負荷によって出力を取り出すようになっていました。このデュアルFETは,新開発された
もので,同一のシリコンスライス上のペレットのうち隣り合ったペレットをワンパッケージした差
動アンプ用のペアーFETで,熱平衡が良く,電気的特性にも優れたものでした。ま た,デュア
ルFETの共通ソース抵抗としてトランジスタによる定電流源を挿入し,CMRR(Common  M
-ode Rejection Ratio=同相分抑圧比)を大きく取ることで,同相成分のハ ム,雑音電源
変動による不要成分を打ち消し,DCドリフトも抑えていました。さらに,デュアルFETのソース
−ソース間に半固定抵抗器を挿入して,デュアルFETの僅かな特性差も補償していました。
2段目も,定電流負荷を持ったカスコード接続という構成となっていました。エミッター接地とベ
ース接地の複合回路であるカスコード接続は,出力側コレクターの帰還容量によって生じるミ
ラー効果を抑え,高域周波数での伝送能力を高め,リニアリティを大幅に改善し,ひずみを約
1/7以下にまで低減していました。

TA-N7Bの内部

電力増幅段は,終段に優れたパルス応答特性を もつV-FETと高周波用バイポーラトランジス
タによるカスコード接続トリプルプッシュプル構成のピュアコンプリメンタリーSEPP-OCL回路
を採用していました。
TA-N7Bでは,V-FET単独使用ではな く,高周波用(fT=150MHz)バイポーラ トランジスタ
と組み合わせることで,持ち味をより生かす設 計となっていました。V-FETは接合形FET であ
るため,B級動作で使用した場合,ゲートバイアスが0Vのときもオフ状態にならず,逆バイアス
をかけてオフ状態にする必要があること,非飽和形の静特性であるため,B級動作では,電源
電圧が変動したとき,動作点が移動しアイドリング電流がずれること,などがあるため,バイア
ス安定化回路が必要となります。しかし,カスコード接続を用いることで,V-FETにバイポーラ
トランジスタのVceがバイアス電圧としてかかり,逆バイアスをかけるための積み上げ電圧が不
要になるとともに,静特性も飽和型になり,バイアス安定化回路も不要となっていました。

TA-N7Bの透視図

電源部は,左右チャンネルを完全独立化するとともに,同一チャンネル内でもAクラス段とBク
ラス段用電源も各々専用の電源トランスを搭載した4トランス構成の強力なものでした。
電力増幅段(Bクラス段)用の電源トランスは,オリエントコア・ハイビーZ6Hを用いた新開発の
トロイダルトランスをL・R独立で搭載していました。Z6Hは,厚さ0.3mmの方向性電磁鋼板で
励磁電力や磁気歪みが少なく,鉄損も大きく減少させた新しい素材でした。これを円形トロイダ
ルコアとしたトロイダル構造とすることで,効率が良く,漏洩フラックスも少なく,ハム雑音も少な
い電源トランスとしていました。これを絶縁性が高く熱伝導率の高いコンパウンドで充填して角
形ケースに封入して搭載していました。
平滑用コンデンサーは,22,000μFのものを両チャンネル合わせて4本,計88,000μFと
いう容量で搭載していました。この電解コンデンサーは,アルミ電解箔の巻込みによるインダク
タンスを小さく抑え,誘電正接の減少を図るため,電極の引き出しリードを複数本にしたマルチ
タブ方式を採用し,高域周波数でのインピーダンス上昇を抑え,高域周波数での特性や安定
度が高められていました。

電圧増幅段(Aクラス段)用電源も,角形ケースに封入された電源トランスをL・R独立で搭載し
さらに,FETバッファ電源を加えてチャンネル間,及びBクラス段との干渉を抑えていました。
FETバッファ電源は,制御用トランジスタのベースバイアス回路の定電流源にFETを用いたも
ので,入力側電圧の変動(リップル)に対するリジェクション能力がすぐれ,広い周波数範囲に
わたって低出力インピーダンスを示す,応答特性のすぐれた定電圧電源として採用されていま
した。

電源部のみでなく,コンストラクションの上でも,徹底してクロストークを防ぐ設計がなされてい
ました。AC1次側のみ共通とした左右独立,対称配置の2モノアンプ構成セパレーションを徹
底し,左右スピーカー端子までの出力線路を最も遠くに配置して,出力線材での相互干渉を抑
えていました。さらに,シールドしたスピーカー端子部やスピーカー端子への出力線路をシャー
シとサイドフレームの空隙に通すというシールド方法がとられ,電源部とアンプ部の間にもシー
ルドが行われ,出力信号と入力信号間,電源部とアンプ部間の相互干渉が徹底的に抑えられ
ていました。また,入力切替スイッチ,レベルコントロール,スピーカー切替スイッチなどがすべ
て排除され,電源スイッチのみという,シンプルでダイレクトな構成で音質が追求されていました。

以上のように,TA-N7Bは,ソニーらしい理詰めの設計で音質が追求されたパワーアンプでし
た。ヒートシンクを前方に配置し前面パネルに放熱用スリットを設け,4個の電源トランスと電解
コンデンサーをシャーシ上部にマウントし,アルミダイキャストの堅牢なサイドフレームでガードし
た力感のある精悍なデザインは印象的で,V-FETならではの,クリアで温かみのある音が使い
やすい1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



V-FETカスコード接続。
DCアンプ構成。
4トランスFETバッファ電源。
低クロストーク化と,より自然な音を目指した
パワーアンプです。TA-N7B


◎ 音質に影響するコンデンサーを排除
  位相特性が改善され重低音再生に威力を発揮
  DCアンプ構成

● 差動増幅カスコード接続の電圧増幅段(Aクラス段)
●V -FETとバイポーラトランジスタをカスコード接続した
  電力増幅段(Bクラス段)
● 低域から高域まで,位相回転を抑えています
● 併用機器を考慮したDCアンプです

◎AB・ LR独立の4電源トランスとFET
  バッファ電源,加えて左右対称の部品配置
  などで,極限に近い低クロストークを実現

● オリエントコアによる高能率角形トロイダルトランス
● 総容量88,000μFマルチタブ方式の電解コンデンサー
● 電源に起因する音のひずみを低減した画期的な
  定電圧電源回路,FETバッファ電源

◎ 付属機能を排除,シールド化された信号経路など
  シンプル&ダイレクトなコンストラクションで,低クロ
  ストーク化とSN比向上を徹底的に追求しました。

● 信頼性,安全性にも十分考慮したパワーアンプです
  トリプルに保護するプロテクション回路採用
● ラッシュカレント抑圧回路




●TA-N7Bの規格●

実効出力
100W+100W
(8Ω負荷,両チャンネル駆動時に高調波ひずみ率0.01%で
         20Hz〜20kHzの帯域内で得られるRMS出力)
高調波ひずみ率
実効出力時 :0.01%(20Hz〜20kHz),0.05%(5Hz〜50kHz)
10W出力時:0.008%(20Hz〜20kHz),0.02%(5Hz〜50kHz)
1W出力時 :0.008%(20Hz〜20kHz),0.02%(5Hz〜50kHz)
混変調ひずみ率
(SMPTE
 60Hz:7kHz=4:1)
実効出力(等価正弦波出力)時:0.01%
10W出力(等価正弦波出力)時:0.008%
1W出力(等価正弦波出力)時 :0.008%
出力帯域幅
5Hz〜35kHz(実効出力−3dB高調波ひずみ率0.01%  IHF)
ダンピングファクター
100(1kHz8Ω)
残留雑音
0.024mV(8Ω Aネットワーク)
SN比
120dB(入力ショート Aネットワーク)
周波数特性
DC〜100kHz+0−1dB(DIRECT端子使用時)
6Hz〜100kHz+0−1dB(C.COUPLE端子使用時)
入力端子
DIRECT
C.COUPLE(カットオフ周波数3Hz,遮断特性6dB/oct)
入力感度/入力インピーダンス
0.3V(実効出力100Wを得るに要する入力電圧)/50kΩ
出力端子
SPEAKER(ワンタッチ方式)
適合スピーカーインピーダンス
4〜16Ω
電源
100V 50/60Hz
消費電力
215W
大きさ
430W×170H×335Dmm(最大突出部寸法,端数切上げ)
重さ
21kg(本体のみ)
回路形式
ピュアコンプリメンタリーSEPP OCL方式 DCパワーアンプ
 初段:デュアルFETカスコード接続カレントミラー差動アンプ
 次段:定電流源負荷カスコード接続
 終段:V-FETカスコード接続
使用半導体
FET22石(V-FET12石を含む)
トランジスタ62石
ダイオード34個

※本ページに掲載したTA-N7Bの写真,仕 様表等は1977年4月の
 SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株 式会社に著作権が
 あります。したがってこれらの写真等を無断で転載, 引用等をする
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
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