ESPRIT TA-E901
STEREO PRE-AMPLIFIER ¥250,000
1982年に,ソニーがエスプリブランドで発売したプリアンプ。前年に発売された
TA-E900の
弟機といった
存在で,回路構成等もTA-E900譲りですが,機能的なファンクションディスプレイの搭載に表れているよう
に,コントロールアンプとしての側面も重視し,より機能的で,使いやすさも考えられたプリアンプでした。
イコライザーアンプは,初段をデュアルFETによる差動アンプとしていました。電気特性がよく揃い,熱平衡
も良好なFETをペアで使用することで,相互コンダクタンスが大きく,帰還容量が小さくなるように設計され,
SN比がよく安定した動作を確保していました。各素子はカスコードブートストラップ接続されており,見かけ
上の帰還容量はさらに小さくなり,すぐれた高域特性を実現していました。
2段目は,NPNトランジスターによる差動アンプで,同じくカスコード接続されて差動ペアトランジスターのコ
レクタ損失を均等にして温度ドリフトを抑え,リニアリティの改善と低歪み化を図っていました。
出力段は,大きな負荷にも対応できるダーリントン接続のエミッタホロワPP型となっていました。
MCカートリッジに対してはヘッドアンプを搭載していました。このMCヘッドアンプは,差動コンプリメンタリー
1段,No NFBループの非常にシンプルな構成で,電源から供給される電流も直流バイアスだけで電源の
影響を受けにくく,電源への影響も小さいというシンプルな回路で,モジュールユニット化して搭載されていま
した。
フラットアンプは,初段のFETを除いてイコライザーアンプと同じ構成になっていました。初段のFETには,
150mVの基準レベルに対してSN比が充分にとれ,入力容量,帰還容量が非常に小さく高域の劣化が起こ
りにくいものを使用していました。また,DC電圧の安定化,ならびにDC帰還の音質に対する影響を考慮して
0.13Hz以下の低域にDCサーボをかけていました。
必要最少限にシンプル化されたTA-E900に対して,TA-E901は,より幅広い用途への対応が考慮され,
可変範囲±10dB,ターンオーバー周波数BASS 300Hz,TREBLE 5kHzのトーンコントロール,2台の
デッキをフルに活用できるテープコピー機能。フェザータッチのファンクションスイッチおよび設定されたポジシ
ョンがひと目で分かるファンクションディスプレイが装備されていました。
ファンクションスイッチ,テープモニタースイッチなどは,リモートコントロールタイプの電磁式スライドスイッチを
駆動するコントロール回路が備えられ,フェザータッチの操作用キーボード型スイッチ入力にロジック回路を搭
載し,動作時にソレノイドに電流を流し,その電流の極性により動作を反転させるようになっていました。そのた
め電源のON-OFFでもポジションは保持されるようになっていました。

TA-E901は,上級機TA-E900を受け継ぎ,コンストラクションの上では,シンプル&ストレート伝送,相互干
渉の排除,徹底した振動対策などが特徴となっていました。
L・Rチャンネルを独立させたツインモノラル構成がとられ,部品配置も信号の流れに沿って最短距離で結ばれ
ていました。素子・部品はプリント基板に直付けされ,信号系の切替スイッチは接触抵抗の劣化を防ぐセルフク
リーニング型のリモートコントロールタイプとすることで,線材の引き回しを可能な限り抑え,L・Rチャンネルだけ
でなく,同一チャンネル内の信号系の交錯も避けていました。また,集中グランド方式により,各アンプ間の干渉
を防ぎ,動作の安定性を確保していました。
TA-E900のアルミ製フレームに対し,3本の補強材を要所に配して,プリント基板やそこに取り付けられた部品
の振動を防止する,堅牢なシャーシ構造がとられ,アンプ回路をユニット化し,全体を樹脂で固めたモジュール方
式としていました。この樹脂は,熱伝導性にすぐれており,各部品のサーマルディストーション(温度変化により特
性劣化)も防止する働きをしていました。さらに,このモジュールの上に厚さ10mmのレジンコンクリートを置くこと
により,振動の抑制を更に徹底していました。
プリント基板,配線材には第一種無酸素銅(銅純度99.99%以上)が導電材に使用され,電源コードにも無酸素
銅が使用されたスタッガードケーブルが使用されていました。
以上のように,TA-E901は,エスプリブランドのプリアンプの最上級機TA-E900の弟機としてだけでなく,高い機
能性と,繊細で誇張感がなく,よりこなれた聴きやすい音質を持つ,別の魅力を持ったプリアンプでした。