SONY TA-8650
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER
¥295,000
1974年にソニーが発売した高級プリメインアンプ。独自開発のV-FETを搭載し,プリメインアンプとしては
国産第1号のFETアンプとして発売され,従来のトランジスタアンプとは異なる新しいサウンドを実現した画
期的な1台でした。TA-8650の主な回路構成は,フェーズリニアDCアンプでモジュールユニットアンプ構成のプリ部と,フェー
ズリニアDCアンプ,V-FETピュアコンプリメンタリー回路のパワー部という構成となっていました。TA-8650の最大の特徴は,新開発のPチャンネル,NチャンネルV-FETを使用したトリプルプッシュプル,
純コンプリメンタリィ出力段にありました。V-FETは,縦型構造のFETのことで,従来のFETが横型構造で
あったことと比較してその名が付けられていました。それまでも,FET(電解効果形トランジスタ)は,小電力
時や高周波に対して優れた特性を持っているため,アンプやチューナーなどの初段の小電力部分には使わ
れていました。しかし,高耐圧,高電流の電力用の素子は存在していませんでした。V-FETは,内部構造
や半導体の不純物濃度などを見直して日本で開発された素子で,1971年に初めて試作に成功したもの
でした。V-FETは三極真空管に似た特性を持った電圧制御素子で,当時,オーディオ用として画期的な素
子として注目され,特にヤマハとソニーがいち早く搭載アンプの開発に成功したものでした。
このV-FETは,オーディオ用として専用に開発され,(1)パルス応答特性が優れているため,高域特性が優
れている。(2)ピンチオフ特性が滑らかなため,B級動作時の高次高調波歪みが少ない。(3)オーディオアン
プとして最適な高入力インピーダンス,低出力インピーダンス特性を示す。(4)Nチャンネル,Pチャンネルのコ
ンプリメンタリー素子が得られる。(5)構造上局部的電流集中がなく,熱的破壊に強い。などの優れた特長を
持っているというものでした。TA-8650の2つ目の特徴として,当時最新のDCアンプとして,DCアンプをユニットアンプとして使用すると
いう構成になっていることがありました。初段にFETを使用した位相特性の優れたDCアンプ〈BX-269〉と,
バッファアンプ,フィルターアンプをモジュール化したDCユニットアンプ〈BX-270〉を搭載していました。Aクラス段には,3段差動アンプ構成で,初段には特性の揃った新開発のデュアルFETを使用していました。
イコライザー回路にはユニットアンプ〈BX-269〉とICアンプで構成され,低域にNF型と高域にCR型を組み
合わせてそれぞれの長所を使った混合タイプで,ソリッドステートアンプとしては国産で初の採用でした。
また,MCカートリッジに対しては,新開発のローノイズトランジスタによるヘッドアンプを搭載していました。トーンコントロールは,ターンオーバー周波数切換式で,カットオフ周波数が10Hzと40Hzに切り換えられる
ローフィルター,9kHzと20kHzに切り換えられるハイフィルターも搭載されていました。機能的に少し変わっ
たところでは,中域や低域のf特を5段に変化させる再生音場補正用アコースティック・コンペンセーター,アン
プの飽和レベルを素早く検出できるクリップレベル・インジケーター,プリセット付きのボリュームコントロール
ローノイズIC使用のマイクアンプなどが搭載されていました。
以上のように,プリメインアンプとして豊富な付属機能を搭載していましが,付属機能を下部の囲いの中に集
中させ,通常使用するツマミやスイッチを上部に配置した,このころのソニーのアンプに共通したデザインをも
っていて操作性も良好でした。以上のように,TA-8650は,国産初(世界初?)のFET出力段を持つプリメインアンプとして,まさに画期
的な1台でした。その独特のシャープで滑らかな高域を持つ音は,通常のトランジスタアンプにない魅力を
持っていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ソニー技術が生かすクリエイティビティ
新開発V-FET搭載第1号機,
ステレオプリメインアンプ
●主な規格●
回路方式 | 《パワー部》
フェーズリニアDCアンプ構成 V-FETピュアコンプリメンタリー回路 《プリ部》 フェーズリニアDCアンプ構成 モジュールユニットアンプ構成 |
トランジスタ等 | トランジスタ78,IC7,デュアルFET2,V-FET12
ダイオード58,SCR2,発光ダイオード(LED)2 |
出力 | (1kHz両チャンネル動作)
100W+100W(4Ω) 90W+90W(8Ω) (20Hz〜20kHz両チャンネル動作) 90W+90W(4Ω) 80W+80W(8Ω) |
高調波歪率 | 0.1%(定格出力時) |
混変調歪率 | 0.1%(定格出力時) |
ダンピングファクター | 200以上(スピーカーDIRECT端子にて,1kHz8Ω) |
SN比 | 100dB以上(クローズドサーキット) |
入力感度 | 1V |
残留雑音 | 1μW以下 |
入力端子 | 入力感度及び入力インピーダンス
PHONO-1 2.5mV(50kΩ) PHONO-2 2.5mV,4.5mV(50kΩ,100kΩ) HEAD AMP 0.1mV(30Ω) TUNER 150mV(100kΩ) AUX-1 150mV(100kΩ) AUX-2 150mV(100kΩ) AUX-3 150mV(100kΩ) TAPE-1 150mV(100kΩ) TAPE-2 150mV(100kΩ) EXT.ADAPT 150mV(100kΩ) MIC 0.2mV(50kΩ) |
出力端子 | 出力レベル及び出力インピーダンス
REC-1,2 150mV(600Ω) EXT.ADAPT 150mV(10kΩ) PRE OUT 1V(600Ω) |
高調波歪率 | 0.03%以下(1kHz,定格出力時) |
混変調歪率 | 0.05%以下(定格出力時) |
周波数特性 | PHONO RIAA偏差±0.2dB以内
MIC 20Hz〜20kHz+0,−2.5dB TUNER,AUX-1,2,3,TAPE-1,2,EXT.ADAPT 10Hz〜100kHz+0,−2dB |
トーンコントロール | ターンオーバー周波数および動作特性
BASS 250Hz:50Hz ±10dB 500Hz:100Hz ±10dB TREBLE 5kHz:20kHz ±10dB 2.5kHz:10kHz ±10dB |
フィルター | LOW 10/40Hz 12dB/oct
HIGH 9k/20kHz 12dB/oct |
アコースティックコンペンセーター | LOW-1 20Hz+10dB,50Hz+6dB,100Hz+3dB
LOW-2 20Hz+11dB,50Hz+9dB,100Hz+6dB PRESENCE 1kHz+3dB LOUDNESS 50Hz+10dB,10kHz+3dB |
電源 | 100V 50/60Hz |
電源コンセント | 600W(電源スイッチと連動2,非連動1) |
消費電力 | 240W |
寸法 | 440W×170H×425Dmm |
重量 | 20.8kg |
※本ページに掲載したTA−8650の写真,仕様表等は,1975年6月
のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権が
あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
法律で禁じられていますのでご注意ください。
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