T-X900の写真
Victor T-X900
FM/AM COMPUTER CONTROLLED STEREO TUNER
                                  ¥64,800

1983年,ビクターが発売したシンセサイザー方式のチューナー。1974年,オーレックスとともにいち早くシ
ンセサイザーチューナーJT-V20を出していたビクターは,シンセサイザーチューナーにおいて優れた技術を
持っていました。そんなビクターが,コンピューター技術を積極的に導入し,A-X1000,A-X900などのアン
プとのペアを想定して発売した,先進的な内容を持つ実力派チューナーでした。

T-X900の最大の特徴は,コンピューター制御を積極的に導入して,受信状態に応じて最適受信モードの自
動設定,さらにアンテナの制御まで自動で行えるシステムを完成し搭載していたことでした。この自動制御は
受信局ごとに,感度,IF帯域,ステレオQSC(クワイティング・スロープ・コントロール)等のメモリーセット機能
とA-B2本のアンテナ切換,方向のメモリーを備えていました。特に,2系統のアンテナ自動切換機能に加え,
指定のアンテナローテーター(江本アンテナ株式会社エモテーター202VF)を接続するとチューナーのアンテ
ナアジャストキーでリモートコントロールが可能となり,チューナーの正確な電界強度表示を見て調整してメモ
リーすることで,受信局によってアンテナ方向が一度セットした方向に自動的に向けられるというものでした。


2系統のアンテナ端子

コンピューターによる受信モード等のメモリー機能を機能させる上に重要な受信状態の表示のために,正確
な1dBステップの電界強度の表示が搭載されていました。受信局のシグナル強度を正確な2重積分型アナ
ログ/デジタル変換器でデジタル化してFLディスプレイにdB表示するようになっていました。この正確な電界
強度検出にもとづいて,チューナー自身がFM SENS(感度),IF帯域,ステレオQSC等を自動セットするよ
うになっており,調整の自動化を実現していました。
選局機能として,コンピューターによるオートチューニング,マニュアルチューニング,FM/AM各10局のメモ
リーが可能となっていました。さらに,FM/AMランダムメモリー(番組予約)も可能で,タイマーを利用してテ
ープデッキと連動させて,7番組のエアチェックが可能でした。

T-X900のパネル面

すぐれた受信精度を誇るシンセサイザー方式の弱点として,デジタルノイズによるSN比の低下があります。
シンセサイザー方式のチューナーでは,さまざまな表示コントロールのためデジタル信号を用いており,これ
がノイズの原因となっていました。T-X900では,フル・スタティックシンセサイザー方式を採用してこのデジ
タルノイズを抑えていました。それまでの一般的な方式では,マイコンがたえず入力キーに質問して動作す
るためデジタル・ノイズが避けられませんでしたが,T-X900のフル・スタティックシンセサイザー方式では,
専用のオリジナルLSIと大型マイコンの搭載により,キーの状態を記憶して動作し,信号線には,1本に1つ
の信号を送るだけにしているため,デジタル・ノイズが少ない動作となっていました。

FMフロントエンドには,通信衛星用に用いられる当時最先端の素子,ガリウムヒ素FETを使用していました。
このガリウムヒ素FETは,従来のシリコンMOS FETに比べて電子の移動速度が6倍と速く,弱入力時のSN
比を大きく高めていました。また,同調素子のバリキャップも銅フレームの高耐圧ハイQバリキャップが5連で搭
載され,実用感度,妨害排除能力が高められていました。
IF段には,ノーマル時の歪み率を徹底的に低減したリニアフェイズフィルターが搭載され,広帯域設計になって
いました。また,検波回路とMPX回路はDC化され,リニアリティが高められていました。

FMステレオ受信の実用感度を上げるためにQSC(クワイティング・スロープ・コントロール)が搭載されていまし
た。これは,ステレオ受信時に電波の入力レベルが低い場合に高域ノイズを約6dB低減し,実用感度を約2倍
に高めるというもので,コンピューターによる自動切換となっており,マニュアルでのON/OFFもできるようにな
っていました。
AM受信に対しては,ダブルバランス型ミキサー回路と広帯域ラダー型IFフィルターを搭載していました。シャー
プな9kHzフィルターで隣接局のビート妨害をカットして高音質な受信を可能にし,HiFiとノーマルの音質切換を
装備していました。

以上のように,T-X900は,シンセサイザーチューナーとして,各種の自動化を達成した先進的な内容をもつチュ
ーナーでした。優れた性能と使いやすさを両立した実用的な1台でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


コンピューターで,アンテナの
向きもメモリー制御。
◎FMアンテナの最適方向をメモリーする
 ローテーター・コントロール機能。
◎多局化時代のFM10局/AM10局合計
 20局オート・メモリー機能とFM/AM
 ランダム7局プログラム・メモリー,
 FMの最適受信モードも自動設定。
◎正確な1dBステップの
 アンテナ端子入力レベル表示。
◎週録タイマーも安心して使える
 長時間メモリー・バックアップ機能。
◎発光表示系とマイコン・キー入力部の
 デジタル・ノイズをゼロにした高S/N
 フル・スタティック・シンセサイザー・システム。
◎ガリウム・ヒ素FETなどの優秀素子を
 駆使した高S/N,広ダイナミックレンジ
 デジタル対応ハイクオリティ設計。
◎FMの実用感度を
 約2倍に高めるST・QSC。
◎AM放送も新回路でHiFi受信。

●T-X900仕様●
 

■FM部■


 
受信周波数 76.0〜90.0MHz
50dBクワイティング感度(75Ω) 1.8μV 16.3dBf(モノ)/38.1dBf(ステレオ・QSC AUTO)
実用感度(75Ω) 0.95μV 10.8dBf
SN比(IHF-A) 88dB(モノ)/82dB(ステレオ)
全高調波歪率(1kHz) 0.04%(モノ)/0.06%(ステレオ)
キャプチャーレシオ(IHF) 1.0dB
実効選択度(IHF) 30dB(NORMAL)/90dB(NARROW)
イメージ妨害比(IHF) 80dB
AM抑圧比(IHF) 65dB
ステレオ・セパレーション(1kHz) 60dB
周波数特性 30Hz〜15kHz+0,−0.6dB
アンテナ入力インピーダンス 75Ω不平衡
出力信号レベル 600mV/2.2kΩ
REC CAL出力レベル FMの約50%変調相当(約333Hz)

 

■AM部■


 
受信周波数 522〜1,611kHz
実用感度 300μV
SN比 55dB
全高調波歪率 0.3%
選択度 50dB(±9kHz)
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 65dB
出力信号レベル 200mV/2.4kΩ

 

■電源部その他■


 
電源電圧 AC100V 50/60Hz
定格消費電力 11W(電気用品取締法)
寸法 435W×77H×298Dmm
重量 3.8kg
アンテナ回転精度 メモリー角度に対し約±15度(エモテーター202VF使用時)
※本ページに掲載したT-X900の写真,仕様表等は1983年10月
 のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。                          
 

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