Victor SX-1000
3Way Speaker System ¥450,000(受注生産)
1988年にビクターが発売した3ウェイスピーカーシステム。ワイドレンジ・物理特性を追求してきたZeroシリーズ
とソフトな音楽再生を持ち味としたSXシリーズとの両者の集大成ともいえるモデルで,Zeroシリーズで開発されて
きた先端素材を使った高性能ユニットによる音楽性豊かな高性能スピーカーという位置づけで,両方の良さを併せ
持つ1台でした。SX-1000の最大の特徴は,全ユニットに贅沢にもアルニコマグネットを使用した壺型内磁構造の磁気回路を採用
していることでした。フェライトの200倍以上の導電率と,約1/4の磁気抵抗という優れた性能のアルニコマグネット
を高磁束・低漏洩で高効率の壺型内磁構造の磁気回路で駆動することでより高い駆動エネルギーを実現していまし
た。磁束密度は,トゥイーター18,000ガウス,スコーカー14,000ガウス,ウーファー12,000ガウスにも達してい
ました。
ウーファーは31.5cm口径で,パルプコーンとクロスカーボンのハイブリッド構造のファインクロスカーボン材を使用した
新開発のコーンで,高い剛性と軽量,適度な内部損失を実現していました。スコーカーは,多結晶人工宝石振動板,ピュ
ア・ファインダイヤモンドセラミック・ダイアフラムによる8cm口径のドーム型ユニットを搭載していました。このピュアファイ
ンダイヤモンドセラミック振動板は,Zeroシリーズで開発された単層構造の高剛性・高音速のセラミックドームの表面に
さらに非結晶状態(アモルファス)のダイヤモンドコーティングを施したもので,高い音速,伝搬速度を実現していました。
さらに,トゥイーターは,結晶質ダイヤをアルミナ多結晶焼成ドームに薄膜コーティングした世界初のピュア・ダイヤモン
ドセラミックス振動板による3cmドーム型振動板を搭載していました。
エンクロージャーはフロア型の大型のものとなっていました。ウーファーの口径(31.5cn)に対して充分に余裕のある内容
積を持たせることで,余裕のある低音域の再生が可能となっていました。定在波の影響が出にくく強度の高い寸法比を追求
してこの大きさと縦横奥行きの比になったというエンクロージャーでした。また,内部の吸音材には,振動によるノイズ発生の
少ない100%ウール吸音材を使用していました。
全ユニットのフレームには肉逃げのない丸型無垢アルミダイキャスト材を採用して高剛性を徹底させ,キャビネット内部の補
強も,モーダル解析等のによって分割振動を抑える構造とされ,総重量13kgにおよぶウーファーユニットをはじめ,8.5kg
のスコーカー,高エネルギーのトゥイーターをしっかり支えるようになっていました。
ユニット配置は,ビクター伝統のGライン配置で,前後面ダブルスーパー楕円バッフルの採用で,指向性と放射特性が改善さ
れ豊かな音場感が実現していました。フロントバッフルは優れた振動減衰特性を持ち響きの美しいカラ松材プライウッド38mm
厚を採用していました。また,全6面とも仕上げの施されたエンクロージャーは部屋の中央に配置しても不自然さのない美しい
ものでした。付属しているサランネットは,音響反射の少ない枠形状がとられ,バッフル面のコイン状鉄片に磁石で吸着される
バッフル面に凹部のないマグネットキャッチ式で,がたつきもなく着脱もしやすいものでした。ネットワークは,相互干渉と振動の悪影響を避けてウーファー,スコーカー,トゥイータ用がに3分割配置され,素子間の接続は
ハンダを用いないカシメ接続としていました。入力端子は,バイワイヤリング対応型となっていました。
別売で,ブナ材の圧縮積層合板を組み合わせた堅牢な専用スピーカースタンドLS-1000(2本1組,¥100,000)があり,
組み合わせて使用することで,音の細かなチューニングがとれバランスのとれた再生が可能になりました。以上のように,SX-1000は,SXシリーズのみでなく,Zeroシリーズも含めた集大成といえるモデルで,隅々にまで非常に手
の込んだコストのかかった作りはすばらしいものでした。ワイドレンジ・高解像度といった再生機としての高い性能を持ちつつ,
優れた音楽再生能力を持った1台で,その繊細かつビクターらしい明るくバランスのとれた音は音楽を楽しめるものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
先端素材の振動板技術と
アルニコ磁気回路が織り成す
想像外のハーモニー。
ネオSXの異境へ。
◎世界初のピュア・ダイヤモンド・セラミックス
振動板など,先端素材技術を結集。
◎全ユニットに高磁束・低磁気抵抗の
ポット型アルニコ磁気回路を採用。
◎全帯域高密度・鮮明音像,ワイドな
Dレンジの3ウェイユニット。
◎豊かにひろがる音場と自然なひびき,
厳選素材の大型キャビネット。
◎音楽のファンダメンタルを支える
低域の躍動感とS/N重視設計。
Victor SX-1000LABO
3Way Speaker System ¥800,000
1990年,SX-1000はモデルチェンジが行われ,各部が全く新設計といえるくらいに強化され,ラボラトリーシリーズの
一つとして音質,仕上げ等大幅にグレードが上がり,価格の面でも大幅にアップしました。ウーファーは,31.5cm口径,内磁型アルニコ磁気回路を継承しつつ,CFRP(炭素強化繊維プラスチック)発泡ハイブ
リッド三層振動板が新たに採用されていました。これは,パルプコーンベースに,樹脂発泡の中間層と,カーボンクロス
にポリプロピレン樹脂マトリクスを採用したコーンで,適度な内部損失を持ちながら,音速は紙の1.5倍,曲げ剛性は11
倍という強さを実現し,低域再生の質感は大きく向上していました。
スコーカーは,8cmドーム型,内磁型アルニコ磁気回路を継承しつつ,新たに「ピュアダイヤモンドセラミック振動板」が採
用されていました。これは,優れた内部損失と軽量化のために三層構造としたピュアファインセラミックスに,結晶構造の
ピュアダイヤモンドをコーティングしたもので,より優れた解像度を実現していました。
トゥイーターも,3cmドーム型,内磁型アルニコ磁気回路を継承しつつ,新たに「ピュアダイヤモンド」振動板が採用されて
いました。これは,薄さわずか30μmの100%結晶ダイヤモンドによる振動板で,16,500m/sという,当時存在する
振動板中で最高値の音速を実現し,超高域までの正確な再生能力を持つことになりました。エンクロージャーもユニットに対して充分な容積を持たせた大きさはそのままに,材質・仕上げ等が大きくグレードアップが
図られていました。特にフロントバッフルにはカナダ産のカエデ材が採用され,38mmの厚さはそのままに,表面の仕上げ
材は,1本のカエデからわずかしかとれないバーズアイの突き板が使用され,さらにイタリアで海外の高級家具によく見ら
れる灰色の染色が施されるという贅を尽くしたものとなっていました。その他の5面は針葉樹のパーチクルボードが使用され
前後バッフルともSX-1000同様にラウンドバッフルとなっていました。SX-1000LABOでは,「インディペンデントベース」という専用置き台が標準装備となり,この専用置き台も含めたバラン
スのとれた音造りがされていました。この「インディペンデントベース」は,分厚いパイン材の台の4隅に丸い穴が空いてい
て,そこにブナ材ランバーコアの円柱がはめ込んである構造で,円柱はフェルトを介して台と接する構造なので実質的に
は各々が相互干渉を起こさない独立した4本の支柱がスタンドとなり,床面との定在波の発生を外観上の台の部分が防
ぐという巧みな仕組みになっていました。以上のように,SX-1000LABOになって「LABORATORYシリーズ」と銘打たれたプレステージモデルとして贅を尽くした
作りと先端技術の融合したスピーカーシステムとなっていました。音の方もより情報量の多い透明で高分解能の物理特性
の良さを感じさせつつ躍動感のある音となっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ひとつひとつの工程に最高を求めた
手作りの音が,原音再生の規準を作る。
◎音楽の輝きを頂点へ。ピュアダイヤモンド振動 板。
◎量感を奏でる低音。CFRP発泡ハイブリッド振動板。
◎豊かな響きと洗練されたデザインのキャビネット。
◎バイワイヤリング対応で入力設計も徹底高音質。
●主な仕様●
SX-1000 | SX-1000LABORATORY | |
種類 | 3ウェイ密閉型 | ← |
ユニット | 31.5cmウーハー
8cmドーム・スコーカー 3cmドーム・ツィーター |
← |
再生周波数帯域 | 25〜50,000Hz | 25〜80,000Hz |
最大入力 | 150W(瞬間最大300W) | 180W(EIAJ),定格入力45W |
インピーダンス | 4Ω | ← |
出力音圧レベル | 90dB/W/m | ← |
クロスオーバー周波数 | 440Hz,5,000Hz | ← |
寸法 | 550W×807H×376Dmm | 550W×926H×370Dmm
(スピーカースタンド,サランネット含む) |
重量 | 68.0kg | 82kg(スピーカースタンド含む) |
※本ページに掲載したSX-1000,SX-1000LABOの写真・仕様表等
は1987年12月,1995年12月のVictorのカタログより抜粋したもので
日本ビクター株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意
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