ST-S8の写真
Technics  ST-S8
Quartz Synthesizer FM/AM Stereo Tuner ¥98,000

1980年にテクニクスが発売したシンセサイザー方式のチューナー。テクニクスはバリコンチュー
ナーの時代にも高い技術のすぐれたチューナーを発売していたブランドでしたが,1980年頃より
シンセサイザー方式のチューナーに全面的に移行し,ST-S5,ST-S7,ST-S4,ST-S4T(タイ
マー内蔵のST-S4)ST-S6,ST-S8とST-Sシリーズを発売していきました。その理詰めの設計
と薄型の筐体はテクニクスらしい個性を感じさせていました。このST-Sシリーズの中の最高級機
であったのがST-S8でした。

ST-S8の大きな特徴は,オーディオ特性を高めるためのDC化の徹底にありました。先行して発売
されたST-S7,ST-S5で実現された技術で,クォーツPLLシンセサイザー方式による局部発振周
波数の安定性を生かしてフロントエンド,検波段,MPX出力段までのDC化を実現し,DC増幅,DC
検波,DCステレオ復調を実現していました。
クォーツシンセサイザー部は,18000素子を1チップに収めた多機能LSIで構成されていました。
この独自開発の高速LSIでは,基準周波数を可聴帯域外の25kHzに設定し,音楽信号への悪影
響を防ぎ,SN比の改善が図られていました。また,シンセサイザー部には,独自のスワローインカ
ウンタ方式が採用されていました。1/16,1/17の分周期をプリスケーラコントローラ(PLLシンセサイ
ザの出力周波数が高くなり,可変分周回路が応答できない場合に,前段に挿入される固定分周比
の高速カウンタ)で制御する特殊な分周方式により,スプリアス妨害が放送帯域内に発生すること
が抑えられ,伝送特性がより高められていました。

フロントエンドは,7連バリコンに相当するdouble-doubule-doubule構成の電子同調回路とMOS
FETのRF段が搭載され,イメージ妨害比の改善が図られていました。
IF段では,オーディオ特性と選択度特性を両立させるために吟味されたフィルタが搭載され,全段差
動増幅器で構成されていました。また,FM多局化に備え,IFノーマルポジションに加え,200kHz離
調時で25dB以上の実効選択度を持つスーパーナローIFが搭載され,従来のもの以上の高選択度
を実現していました。

ステレオ復調を行うMPX回路には,独自のDCピークサンプリングホールドMPXが採用されていまし
た。これは,ステレオ復調用に通常の方形波ではなく,立ち上がりの早いパルス信号を使用し,コン
ポジット信号のピーク値を正確にサンプリングホールドするというもので,DC化の効果と相まって,
20kHzにおいても1kHzと同じ60dBというすぐれたステレオセパレーションを実現していました。
また,ステレオ復調後オーディオ再生にはじゃまになる38kHzパイロット信号を,ローパスフィルタ
ではなく電子回路でキャンセルするパイロット信号キャンセラーも搭載されていました。さらに,パイ
ロット信号の変動を防ぐオートレベルアジャスタを搭載し,5Hz〜18kHz+0.2dB,−0.5dBとい
う極めてフラットな周波数特性を実現していました。
また,MPX回路で復調される38kHz信号が,高域のオーディオ信号に揺られることによって発生
するジッター歪を,急峻なLCフィルタでを使用して除去し,高域信号の再生をさらにクリアにしてい
ました。

シンセサイザーチューナーとして,ST-S8には4bit2Kの新開発のオリジナルマイクロプロセッサが
搭載され,これにより多彩な機能を実現していました。
チューニングはUP/DOWNボタンによるマニュアルスキャンとオートスキャンが搭載され,プリセット
チューニングはFM/AMランダムに16局がメモリーできるようになっていました。プリセットの呼び出
しボタンは8個でしたが,軽くワンプッシュするか0.4秒以上長く押し続けるかで,ch1とch2の使い
分けができ,これにより16局のプリセット呼び出しができるようになっていました。また,独自の機能
として「オートメモリー」が搭載されていました。これは,メモリーボタンを4秒以上押し続けることによ
り,その時点での同調周波数から周波数の高い方へ,自動的に放送局を捜し,捜し当てた放送局か
ら順に,FMポジションではプリセット1〜8に,AMポジションではプリセット9〜16に自動的にメモリー
していくというものでした。

周波数ディスプレイチャンネル表示信号強度表示

周波数アナログ表示

周波数ディスプレイは,FL表示管によるデジタル表示が搭載されていました。この周波数ディスプレ
イは,プリセットチューニングボタンを押すとFM/AMの表示とともにchナンバーが表示され,約4秒
後に周波数表示に戻るようになっていました。さらに,周波数表示時にシグナルディスプレイスイッチ
を押すとFM信号強度に表示が切換わり,2dBステップで80dBまで表示されるようになっているなど
多機能なディスプレイとなっていました。
また,FMは16個,AMは15個のLEDが同調周波数に応じて点灯して,従来のダイアル同調の感
覚で周波数を表示する周波数アナログ表示も装備され,5つのLEDで信号強度をバー表示し,マル
チパスインジケーターにも切換えられるアナログ式のシグナルメーターも装備されていました。

ST-S7の写真
ST-S7(K)の写真
ST-S7/ST-S7(K) ¥59,800


ST-S5の写真
ST-S5 ¥44,800

ST-S6の写真
ST-S6/ST-S6(K) ¥59,800

ST-S4/ST-S4Tの写真
ST-S4/ST-S4T ¥44,800/¥52,800

以上のように,ST-S8はテクニクスらしい先進的な回路技術とパネル高さわずか44mmという薄型の
スマートな筐体を持つ,技術的にも機能的にも洗練されたチューナーでした。弱電界にも強いそのすぐ
れた受信性能と歪み感の少ないテクニクスらしい音を持った高性能チューナーでした。ST-S8をトップ
に,テクニクスは薄型チューナーST-Sシリーズを展開していきました。LSI技術の発達とともに進んだ
その後のFMチューナーの多機能化と小型軽量化の始まりともいえるシリーズで,いろいろな意味で時
代をつくったチューナーシリーズだったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



DC化伝送による高い音質と
すぐれた機能,操作性を実現


◎クォーツシンセサイザだから成し得た
 DC化伝送によるオーディオ特性の向上

  ●すぐれたステレオセパレーションを実現
   DCピークサンプリングホールドMPX
  ●ワイド&フラットな周波数特性を実現する
   パイロット信号キャンセラ
  ●高域再生をクリアにする
   ジッター歪除去回路

◎クォーツシンセサイザチューナの質を
  示すリファレンス周波数25kHz
◎すぐれたオーディオ特性を支える
  基本性能重視のRF段とIF段
◎FM多局化への対応を考慮した
  スーパーナローIF搭載
◎新開発の高集積マイコンを搭載し
  多彩な機能で,すぐれた操作性を実現

  ●FM/AM計16局ランダムアクセスメモリー
  ●マニュアル/オートチューニング
  ●オートメモリー

◎chナンバー/周波数/信号強度を
  デジタル表示するFLディスプレイ

  ●chナンバー・リードアウト
  ●シグナルストレングス・リードアウト
  ●5LEDのマルチパス兼用シグナルメータ
  ●ダイアル同調感覚の同調周波数アナログ表示





●主な定格●



■ST-S8■

(FMチューナー部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.04% (normal)
ステレオ 0.06%(normal)
SN比
84dB(モノラル)
周波数特性 5Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB
実効選択度 normal 55dB(400kHz)
super narrow 25dB(200kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 120dB(83MHz)
IF妨害比 140dB(83MHz)
スプリアス妨害比 120dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 20Hz  60dB
1kHz  60dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −70dB(19kHz)
アンテナ 75Ω


(AMチューナー部)

受信周波数 522〜1611kHz
実用感度 250μV/m,30μV(SN=20dB)
選択度 55dB
イメージ妨害比 55dB
IF妨害比 45dB


(総合)

停電補償
約1週間,充電方式
消費電力 9.9W
電源 AC100V 50/60Hz
外形寸法 430W×53H×390Dmm
重量 4.1kg
出力電圧
0.6V




■ST-S7/S7(K)■

(主なファンクション)

●FM/AM各8局プリセット●FMミューティングモードボタン
●プログラムモードセレクタ●クロックコールボタン●録音レベルチェックボタン
●LEDチューニングディスプレイ●タイムプリセットボタン


(FM チューナー部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度(75Ω) 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.06% (normal)
ステレオ 0.08%(normal)
SN比
80dB(モノラル)
周波数特性 20Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB
実効選択度 75dB
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 95dB(83MHz)
IF妨害比 105dB(83MHz)
スプリアス妨害比 95dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 20Hz  60dB
1kHz  60dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −70dB(19kHz)


(AMチューナー部

受信周波数 522〜1611kHz
実用感度 30μV
選択度 55dB
イメージ妨害比 45dB
IF妨害比 45dB


(タイマー部)

クロック機能
クォーツロック式,24時間表示
時間精度
月差0秒〜+10秒以内
タイマー機能
24時間のタイムプログラミング
every day動作:2回,once動作:1回
プログラム内容
FM/AMの受信局と電源on〜off時刻の設定
タイマーセット時間間隔
1分〜23時間59分(1分間隔)
優先動作
once,evry day2,every day1の順で優先動作



(総合)

停電補償
約3か月
REC LEVLE CHECK
440Hz,50%変調度相当
消費電力 8W
電源 AC100V 50/60Hz
メモリーバックアップ用単三乾電池
SUN-3:1.5V×3
外形寸法 430W×53H×310Dmm
重量 4.1kg
出力電圧
0.6V





■ST-S5■

(主なファンクション)

●FM6局プリセットメモリー●ステーションインデックスシート
●FMミューティングスイッチ


(FMチューナ部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度(75Ω) 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 16.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率
(100%変調)
モノラル 0.06% (normal)
ステレオ 0.08%(normal)
SN比
80dB(モノラル)
周波数特性 20Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB
実効選択度 75dB
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 95dB(83MHz)
IF妨害比 105dB(83MHz)
スプリアス妨害比 95dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 20Hz  60dB
1kHz  60dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −70dB(19kHz)



(総合)

消費電力 6W
電源 AC100V 50/60Hz
外形寸法 430W×53H×234Dmm
重量 3.0kg(乾電池除く)
出力電圧
0.6V




■ST-S6/S6(K)■

(主なファンクション)

●FM/AM計16局ランダムプリセット●FM IFバンド切換
●オートスキャンチューニング●オートメモリー
●シグナルストレングス/マルチパスインジケーター


(FMチューナー部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度(75Ω) 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.04% (normal)
ステレオ 0.06%(normal)
SN比
82dB(モノラル)
周波数特性 5Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB
実効選択度 normal 55dB(400kHz)
super narrow 25dB(200kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 95dB(83MHz)
IF妨害比 105dB(83MHz)
スプリアス妨害比 95dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 20Hz  60dB
1kHz  60dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −70dB(19kHz)



(AMチューナー部)

受信周波数 522〜1611kHz
実用感度 250μV/m,30μV(SN=20dB)
選択度 55dB
イメージ妨害比 55dB
IF妨害比 45dB



(総合)

停電補償
約1週間,充電方式
消費電力 8W
電源 AC100V 50/60Hz
外形寸法 430W×53H×300Dmm
重量 3.3kg





■ST-S4■


(主なファンクション)

●FM/AM計16局ランダムアクセスメモリー●FM IFバンド切換
●FM信号強度デジタル表示●オートスキャンチューニング
●オートメモリー●FMモードスイッチ


(FMチューナー部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度(75Ω) 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.06%
ステレオ 0.08%
SN比
80dB(モノラル)
周波数特性 20Hz〜15kHz +0.5dB,−1.5dB
実効選択度 normal 60dB(400kHz)
super narrow 25dB(200kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 75dB(83MHz)
IF妨害比 95dB(83MHz)
スプリアス妨害比 95dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 1kHz  55dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −35dB(19kHz)



(AMチューナー部)

受信周波数 522〜1611kHz
実用感度 250μV/m,30μV(SN=20dB)
選択度 55dB
イメージ妨害比 45dB
IF妨害比 40dB



(総合)

停電補償
約1週間,充電方式
消費電力 7W
電源 AC100V 50/60Hz
外形寸法 430W×53H×300Dmm
重量 3.2kg




■ST-S4T■


(主なファンクション)

●FM/AM各8局ランダムアクセスメモリー●FM IFバンド切換
●オートスキャンチューニング●FMモードスイッチ
●タイマープログラムモードセレクタ


(FMチューナー部)

受信周波数 76.1〜89.9MHz
実用感度(75Ω) 12.8dBf,1.2μV(IHF’58)
SN50dB感度(75Ω) モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.06%
ステレオ 0.08%
SN比
80dB(モノラル)
周波数特性 20Hz〜15kHz +0.5dB,−1.5dB
実効選択度 normal 60dB(400kHz)
super narrow 25dB(200kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 75dB(83MHz)
IF妨害比 95dB(83MHz)
スプリアス妨害比 95dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 1kHz  55dB
10kHz 40dB 
リークキャリア −35dB(19kHz)


(AMチューナー部)

受信周波数 522〜1611kHz
実用感度 250μV/m,30μV(SN=20dB)
選択度 55dB
イメージ妨害比 45dB
IF妨害比 40dB



(タイマー部)

クロック機能
クォーツロック式,24時間表示
時間精度
月差±10秒以内
タイマー機能
24時間のタイムプログラミング
every day動作:2回,once動作:1回
プログラム内容
FM/AMの受信局と電源on〜off時刻の設定
タイマーセット時間間隔
1分〜23時間59分(1分間隔)
優先動作
once,evry day2,every day1の順で優先動作



(総合)

停電補償
約2か月
消費電力 7W
電源 AC100V 50/60Hz
メモリーバックアップ用単三乾電池
SUN-3:1.5V×3
外形寸法 430W×53H×300Dmm
重量 3.3kg
※本ページに掲載したST-S8,ST-S7/S7(K),ST-S5,ST-S6/S6(K)
 ST-S4,ST-S4Tの写真,仕様表等は1980年6月,1980年11月
 1981年9月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,松下電器株式
 会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
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