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SONY ST-S555ESX
FM STEREO/FM-AM TUNER ¥74,0001986年にソニーが発売したシンセサイザーチューナー。重量級プリメインアンプTA-F555ESXとのペアを
想定されたチューナーでした。トランジスタラジオや通信型受信機でも高い技術を見せ,ST-J88以来シン
セサイザーチューナーで優れた製品を出していたソニーならではの1台で,「Wave Optimizer Technol
-ogy(波形の最適化技術)」を標榜した高性能で実用的なチューナーでした。フロントエンドには「SST(Super Sound Tracing Circuit)」が搭載されていました。これは,2つの技
術により成り立っていました。1つ目は,妨害排除能力と位相特性を両立させるために,フロントエンド内の
電圧可変容量素子(バラクターダイオード)のコントロール電圧を巧みに補正し,帯域内での特性をフラットに
した理想的なハイハット・フィルター特性を実現していました。2つ目は,フロントエンドのトラッキングエラーを
抑えて,低歪みを実現するために,フロントエンドの局部発振器のバラクターダイオードとコントロール電圧を
分離し,バンド内を8分割し,その分割地点ごとにアジャストすることで,トラッキングエラーを減少させる「トラ
ッキングエラー・コレクター回路」を搭載していました。以上のような「SSTサーキット」によって5連相当のフロ
ントエンドとして,すぐれた,妨害排除特性,歪み特性,安定した受信性能を実現していました。IF段(中間周波増幅段)は,「WOIS(Wave Optimized IF System)」と称され,IFフィルターにおいて,
妨害排除能力を高めた帯域幅の狭さゆえの鋭いフィルターカーブに,フィルターの中心周波数を軸として双頭
のカーブをもつ補正曲線を作りだして合成することで,結果的に帯域幅は狭く,かつ放物線状の理想のカーブ
をもつIFフィルターとしたもので,モノラル時には群遅延特性を,ステレオ時には振幅特性をそれぞれ理想的
な波形に最適化しようとした設計で,選択度65dB,ステレオ歪率0.008%を実現し,高選択度と高音質の
両立を達成していました。検波段は,「WODD(Wave Optimized Direct Detector)」と称され,PLL検波器で問題となっていた,
VCO(発振器)における,非直線性の最適化を実現したものでした。VOC回路内のバラクターダイオードの
非直線性と,同じVOC回路内のFETの帰還容量が,バラクターダイオードと反対の非直線性を示すことを
利用し,2つのカーブを重ね合わせることで,理想的な直線性をもつVOCとしていました。この結果,106dB
0.002%(1kHz,モノラル)という,高SN比・低歪率特性をもつ検波段を実現していました。ステレオ復調段は,高速ICによって構成された「WODSD(Wave Optimized Digital Stereo Detect-
or)」が搭載されていました。これは,MPX段に混入した近接局による妨害の影響を防ぐために従来採用され
ていたビートカットフィルターが,サブチャンネル帯域の位相,振幅への悪影響,ステレオ・セパレーションの劣
化等の弊害をもつことから,このWODSDでは,高調波の発生を抑えてビートを追放しようとするもので,コン
ポジット信号中のパイロットをPLLによって一旦152kHzを作成し,これを用いて0度,45度,135度,180度
225度,315度の6相の信号を出力。極めて歪みの少ないスイッチング信号を生成し,音質と妨害排除特性
を両立させていました。さらに,ローノイズ&高スルーレイトのオーディオ用OPアンプ,低歪みのスイッチング・
ディバイスの採用や,信号系からのLCフィルターの排除により,高音質化がなされていました。ST-S555ESXは,ソニーのシンセサイザーチューナーとして,1980年にST-J75に初搭載された伝統の「ダ
イレクトコンパレーター」を採用していました。これは,シンセサイザーチューナーの弱点を解消する技術のひとつ
でした。シンセサイザーチューナーでは,フロントエンドの局部発振周波数を分周した比較周波数と,水晶発振子
で発振させた基準周波数を比較し,そのズレを検出して送り出す一種のサーボ機能があり,安定した受信を実
現していますが,通常,この周波数を比較するためのPLL ICの処理限界から,25kHzなど低い周波数が比較
周波数として使われてきました。このため,19kHzのパイロット信号と干渉を起こし,ノイズやビートの原因となる
おそれがありました。そこで,「ダイレクトコンパレーター」では,220MHzという高い周波数まで扱えるPLL IC
を開発し,これにより,比較周波数を日本のFM局の置局間隔と同じ100kHzまで上げていました。この結果,
19kHzのパイロット信号だけでなく,38kHzのサブキャリアとも十分に離すことができ,ビートやノイズを大幅に
低減することができていました。電源部は,コントロール系と信号系の巻線を独立させた大型電源トランスを,固有振動の異なる材質でシャーシと
機械的にフローティングさせて搭載し,トランスの巻線自体のもつ周波数特性を改善し,ACラインからのノイズをカ
ットするESフィルター採用していました。また,厳選した大容量の音質用電源コンデンサーを搭載し,強力な電源
部を構成していました。さらに,シャーシについては,一体型の高剛性のものを,大型の脚部とともに採用していま
した。そのうえレジスト材によるパターン間の静電容量の増加を防ぐために,銅箔の上だけにレジスト材を盛った,
ES基板を採用していました。磁気による音質への悪影響を抑えるため,オーディオ段付近に穴を開けた天板を使
用し,出力端子も金メッキ仕様としていました。機能的には,オーソドックスですが,実用的に設計されていました。局の周波数だけでなく,STEREO/MONOの
MODE,ミューティングON/OFF,WIDE/NARROW・IF帯域,アンテナ選択までの情報を,電源を切っても半永
久的にメモリーできる不揮発性メモリー採用の「マルチプロセスメモリー」が搭載されていました。そのほか,タイマ
ーに対応して,電源スイッチのON/OFFに連動して4局までプリセット局を呼び出せる「プログラムメモリー」,オート
/マニュアルチューニング機構,FM IF帯域切替,メモリースキャン機能,キャルトーン機能,などが搭載されていま
した。以上のように,ST-F555ESXは,ESシリーズのチューナーの最高級機として,先進的な回路を採用し,シンセサ
イザーチューナーとして優れた性能と機能性を両立させた実用的なチューナーでした。サイドウッドパネルも備え
高級感ある機能的で精悍な外観は,プリメインアンプTA-F555ESXともよくマッチしていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
FM電波が秘めている
すべての表情を克明に再現する。
「Wave Optimizer Technology」に
込められた,ソニーの先進思想が,
妥協を許さない秀逸のチューナーに
磨き上げていきます。
●主な仕様●
実用感度 | 0.9μV(IHF),10.3dBf(IHF) |
高調波ひずみ率 | 0.005%(モノラル)
0.008%(ステレオ)1kHz,WIDE |
実効選択度 | 65dB(400kHz,WIDE)
65dB(300kHz,NARROW) |
周波数特性 | 15Hz〜15kHz(+0.2,−0.5dB)
(1kHz,ステレオ) |
スプリアス妨害比 | 120dB |
SN比 | 99dB(モノラル),92dB(ステレオ) |
セパレーション | 70dB(1kHz,WIDE) |
大きさ | 470W×86H×345Dmm |
重さ | 5.6kg |
消費電力 | 21W |
※本ページに掲載したST-S555ESXの写真,仕様表等は1986年9月の
SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
れていますのでご注意ください。
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