Technics ST-G90
QUARTZ SYNTHESIZER AM/FM STEREO TUNER
¥55,500
1989年にテクニクスが発売したシンセサイザーチューナー。テクニクスは,バリコンチューナー
の時代から,チューナーの分野で一貫して頑張ってきたブランドでしたが,シンセサイザーチュー
ナーが主流になった時代になっても持ち前の高い技術と総合力で,すぐれたチューナーを作り続
けていきました。このST-G90は,そういったテクニクスらしい高度な技術が生かされた中級クラ
スのチューナーでした。
電波の入口フロントエンド部には,ノーマルとスーパーナローの2つのRF回路を搭載していました。
ノーマル回路は,RF増幅素子・混合素子に4極MOS FETを採用し,局発部にもFETバッファを
搭載していました。スーパーナロー回路には,4極MOS FETを採用していました。そして,この
2つの回路をマイコンが自動切換をするようになっていました。受信周波数の上限と下限(0.5MHz
〜2.5MHz)の範囲に,妨害となる放送局の有無を検知し,自動的にノーマルRFとスーパーナロー
RFを切り換えることによって,良好な受信状態を保つようになっていました。
IF部も,同調と同時に,隣接して発生する妨害波を自動的に検出してマイコンが帯域を選択する
仕組みがとられていました。妨害波が±300kHz以内に存在すると,感度優先のスーパーナロー
帯域が選択され,妨害波が存在しないときは,音質優先のノーマル帯域に自動的に切り換わるよ
うになっていました。これによって,実使用時の受信性能をアップしていました。
フロントエンド部とMPX回路を,ともにクォーツ制御する世界初のツイン・クォーツ制御を1984年に
開発したテクニクスは,このST-G90にも採用していました。
フロントエンド部では,希望局の電波をクォーツで正確な水晶精度にロックし,安定した同調精度を
実現していました。
MPX回路では,VCO(電圧制御発振器)の制御に従来の19kHzパイロット信号を基準とするPLL
(ループ1)に,クォーツ発振信号を基準とする第2PLL(ループ2)を加えたダブルPLL回路としてス
イッチング信号のクオリティを大きく高めていました。
MPX回路には「リニアスイッチングMPX回路」を搭載していました。従来MPX回路のスイッチング回
路は二重平衡差動方式がとられ,素子構成上,非直線歪の発生がありました。そこで,スイッチング
部を大幅にシンプル化し,非直線素子を廃したダイナミック型のスイッチング部を構成してリニアリティ
を高めていました。このリニアスイッチング回路にパイロット信号キャンセル回路やオートレベルアジャ
スタなどの回路もパッケージングしたステレオデコーダ用ICとしてワンチップ化して搭載し,安定度や信
頼性を高めていました。
テクニクスは早くからチューナーのワイドレンジ化を図るため,DC化を図り,パイロット信号キャンセル
回路を開発搭載していました。
DC化は,RF系を含めたDC増幅,DC検波,DCステレオ復調と徹底され,4Hzという超低域からの平
坦な周波数特性を実現していました。パイロット信号キャンセル回路により,ハイフィルターを通さずに
19kHzのパイロット信号が抑制され,18kHzまでのワイドな再生レンジが確保されていました。
出力ポストアンプ部には,セパレートアンプやプリメインアンプで高性能を発揮している「classAA回路」
を搭載していました。「classAA回路」は,通常一つのアンプ内で行われる電圧コントロールと電流ドライ
ブの2つの動作をそれぞれ 独立させ,別個のアンプに受け持たせたもので,左右合わせて2つの電流
ドライブアンプと電圧コントロールアンプで計4個のアンプで構成され,「VC-4アンプ構成」と称していまし
た。これにより,接続するコードやアンプからの影響を受けにくくなり,常に安定した高音質を実現するも
のでした。
機能的には,同社のシンセサイザーチューナーらしいものが搭載されていました。FM/AMそれぞれ10
局メモリーできるプリセット機能,選曲同調→メモリーの操作がワンタッチで簡単にできるオーとスキャン
チューニング&オートメモリー機能,99.999%,333Hzの精度の高い基準信号を発生するレベルチェ
ック信号出力,2dBステップで86dBまでデジタル表示するFM信号強度インジケーターなどが特徴的なも
のでした。
以上のように,ST-G90は,クォーツ制御,マイコン制御といった,テクニクスらしい高度な技術が生かさ
れた機能的なチューナーでした。シンセサイザーチューナー時代になって,テクニクスはチューナーの分野
で頑張りを見せていた数少ない貴重なブランドとなっていきました。