ST-9038Tの写真
Technics ST-9038T
QUARTZ SYNTHESIZER FM STEREO TUNER ¥65,000
        SH-9038P
MICOM PROGRAMABLE UNIT ¥80,000

1977年にテクニクスが発売したFM専用シンセサイザーチューナー。「システムチューナー」という考え方を
打ち出し,マイコンを内蔵したタイマーユニットのSH-9038Pと組み合わせることにより,シンセサイザーチュ
ーナーならではの多機能を実現したテクニクスの意欲作でした。

チューナーの38Tは,テクニクスらしく理詰めで回路を見直し,波形伝送特性を高めた設計が特徴でした。フ
ロントエンドは,5連バリコン相当の5連バリッキャップ使用純電子同調方式で,ハイQコイルを使用した2カ所
のダブルチューン回路,4極MOS FETを使用したRFアンプを採用していました。また,局発では,ジャンク
ションFETを使ったバッファアンプを介して安定した発振周波数をミキサーに供給するようにし,周波数ズレ,
妨害に極めて強いフロントエンドとなっていました。38Tに使用されていた水晶発振子は,特に高精度の発
振を得るために,内面金メッキ処理し,真空中で接合するコールドウェルタイプの容器を採用し,経年変化や
半田ガスの影響をも抑えた高精度のものでした。その他のパーツも高精度なものが使用されていました。
IF部のフィルターには,群遅延特性と振幅特性を独立して選択できる表面弾性波(SAW)フィルターと4共振
素子型セラミックフィルター2個が搭載され,高選択度と低歪率を両立していました。

ST-9038Tの内部

MPX部には,パイロット信号キャンセル回路とサブキャリアキャンセル回路を装備し,この結果,19kHzのパ
イロット信号は−65dB以下に抑制し,20Hz〜18kHz+0.1,−0.5dBという平坦でかつ広帯域の優れた
周波数特性を実現していました。また,狭帯域のバンド・パス・フィルターを通したピュアなパイロット信号を差
動増幅で安定にMPX ICに供給することでビートを大幅に低減するジッター歪除去回路を採用し,セパレーシ
ョンと歪率をさらに向上させていました。さらに,SN比55dB以下の電界強度で自動的にオーディオ信号をハイ
ブレンドするオートマチック・ハイブレンド機構を搭載し,ステレオ受信のサービスエリアを拡大していました。
AF回路には,初段差動増幅の全段直結SEPPという,高性能アンプなみの回路構成の低周波増幅部をIC化
して搭載し,電源は,±2電源の定電圧電源を搭載して出力端まで波形伝送特性を高めていました。

38Tでは,シンセサイザー方式ならではの高精度な受信を実現していました。選局ボタンを押すと,放送電波
を自動的にとらえ,さらにボタンを押し続けると選局を続けるオートスキャンニングを採用していました。A・B・
OFFの3段階のミューティングスイッチを備え,Aポジションでは,ステレオ歪率0.2%相当以下の局を,Bポジ
ションでは0.2%相当〜1%相当の局をそれぞれ自動選局するようになっており,OFFでは,選局ボタンのワン
プッシュで0.1MHzずつ移動し,押し続けるとオートスキャンして周波数移動を続けるようになっていました。

マイコム・プログラマブルユニットの38Pは,チューナーの38Tと組み合わせることにより,1週間単位でのFM
選局,さらには,FMエアチェックの自動制御を実現できました。
まず,38PのプログラムモードをFMmemoryにセットすることでFM局の8局プリセットメモリーができるようにな
っていました。(逆に言うと38T単体では,プリセットメモリー機構がなかったわけではありますが・・・)さらに,プ
ログラムモードをwriteのポジションにすると,曜日・時間・放送局・ACラインON/OFFのプログラムを32番地ま
で記憶でき,チューナーの38T,アンプおよびAC1・2の計4つのACアウトレットをコントロールするとともに,自
動選局をするようになっていました。これらの機能の組み合わせにより,1週間単位でのFMエアチャックの自動
化が可能となっていました。また,録音テープの残量を計るときなどに便利な加算型ストップウォッチ機能も装備
していました。

さらに,FMレセプションコントローラSH-9038Rというものも限定生産で存在し,資料によると,これを組み合わ
せると,より高い受信性能をもたらし,受信状態の精密な表示,アンテナローテーターのコントロールができると
いうことでした。
SH-9038Rにもクォーツ・シンセサイザが内蔵されており,チューナー本体のST-9038Tと組み合わせると,
ダブル・クォーツ・シンセサイザを構成し,より高度な受信性能を発揮する仕組みになっていました。
4ポジションのRFラインセレクタが装備され,4つの受信モードがありました。「ブースター」のポジションでは,
30dBのゲインを持つRFアンプが挿入され,ST-9038Tとの組み合わせで,バリコンで7連相当のRF段となり,
実用感度は−4dB(0.6μV・75Ω)を実現していました。「リピータ」のポジションでは,ST-9038Tと合計して
14連バリコン相当のチューナーとなり,±400kHzで90dB以上のIM妨害排除特性が得られるようになってい
ました。「アッテネータ」ポジションでは,強電界に対応して,入力を30dB減衰できるアッテネータが挿入され,
「スルー」ポジションでは,SH-9038Rがスルーとなりました。
SH-9038Rのデジタルディスプレイには,電界強度を20dB(10μV)から110dB(316mV)まで2dBステップ
で表示する機能と,マルチパスのレベルをIF段の途中から取り出して,1dBステップで表示する機能があり,受
信電波の状態を正確にとらえられるようになっていました。
付属のアンテナローテーターを使用すると,フロントパネルのスイッチ操作でアンテナを左右いずれの方向にも自
由に回転が可能となり,その際のアンテナの方向は任意に設定した規準方向に対しての偏差を,0°〜358°
まで2°ステップでデジタル表示されるようになっていました。上記の受信電波の電界強度とマルチパスレベル
をもとに決定したアンテナの最適方向は,最大8局までメモリーが可能で,チューニングに連動してアンテナが
最適方向へ向くという動作が可能となっていました。

SH-9038Rの写真

以上のように,ST-9038TとSH-9038Pを組み合わせたシステムチューナーは,非常に先進的な内容を持っ
ていました。薄型のすっきりした未来的な筐体のFMチューナーとプログラマブルユニットの組み合わせにより,
多機能を実現し,また,チューナーとして高い受信性能を実現していました。さらに,SH-9038Rを組み合わせ
ることもにより,さらに高度な受信性能と受信機能を持つというより高度な先進性も併せ持っていました。これら
3台を組み合わせると30万円を超えたという情報も入ってきており,全てを揃えていた方がどれくらいいるかも
想像もできませんが,テクニクスならではの先進的な内容を持つ高級システムチューナーとして印象に残ってい
る1台です。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


38T
 38Tは,回路の徹底的な見なおしで,すぐれた
波形伝送特性を実現し,しかもクォーツシンセサ
イザ方式を採用して,ワンタッチ自動選局を実現
しました。

38P
 38Pは,マイクロコンピュータを内蔵し,1週間
32ステップのタイマー動作がプログラムできる
プログラマブルユニットです。
 
 

●38T 定格●


受信周波数帯 76.0〜89.9MHz
実用感度 1.2μV(75Ω),12.8dBf(新IHF)
SN50dB感度 mono 2.2μV(75Ω)18.1dBf(新IHF)
stereo 22μV(75Ω)38.1dBf(新IHF)
歪率(100%変調) mono 0.1%
stereo 0.15%
SN比 mono 75dB
周波数特性 20Hz〜18kHz +0.1dB,−0.5dB
実効選択度 75dB
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 105dB(83MHz)
IF妨害比 105dB(83MHz)
スプリアス妨害比 105dB(83MHz)
AM抑圧比 55dB
ステレオセパレーション 1kHz  45dB
10kHz 35dB 
リークキャリア −65dB(19kHz)
出力 0〜1.5V
ピンクノイズ 50%変調成分
消費電力 8W
電源 AC100V(50/60Hz)
外形寸法 450W×53H×291Dmm
重量 4.8kg

 

●38P 定格●


機能 1チップ4ビットマイクロコンピュータによるウィークリープログラマ
(1週間にわたる分単位のタイムプログラミングが可能)
プログラム内容 曜日,時刻(時・分),FMチャンネル,
ACアウトレット(tuner用,amp用,AC1,AC2)のon-off指定
プログラムの書き込み
呼び出し,リセット
全プログラムのリセット可能,各プログラムステップの呼び出し,内容確認可能
各ステップのプログラム書き換え,プログラム書き込み中のキャンセル可能
プログラムステップ数 最大32ステップ/1週間にわたる分単位のプログラミング
被制御ACアウトレット
最大定格
tuner用:100W,amp用:500W,AC1・2:200W
クロック機能 AC電源同期式,50Hz-60Hz切換スイッチ付,週間時計(曜日,時刻を表示)
停電表示あり
タイマー 秒単位カウント可能,最大表示59分59秒,リセット,スタート,ホールド可能
38Tとの組み合わせによる機能 ●FMプリセット FM8局をプリセット可能(メモリーの停電補償あり)
●その他の機能 auto動作優先機能(プログラムモード”auto”のポジションで)
           ディスク再生中チューナー録音機能
消費電力 12W
電源 AC100V(50/60Hz)
外形寸法 450W×53H×285Dmm
重量 5.2kg
※本ページに掲載したST-9038T,SH-9038Pの写真,仕様表等は1978年
 1月,8月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等するこ
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