Technics ST-8600
FM/AM STEREO TUNER ¥72,800
1975年にテクニクスが発売したFM/AMチューナー。オーソドックスなアナログチューナーですが
前年に発売された最上級機
ST-9700の技術を受け継ぎ,この間の技術的新しさも盛り込まれた
中身の充実した中級クラスの実力機でした。
FMフロントエンドには,電気的精度が高く,温度変化や経年変化にも強い新開発の周波数直線型
5連バリコンが搭載されていました。これに,4極MOS型FETを用いたRF増幅段が組み合わされ,
複復の同調回路が設けられ,すぐれた妨害排除能力が確保されていました。
局部発振回路は,VHFローノイズトランジスタを用い,アルミコア入り発振コイルとステアタイト(特 殊
な高周波絶縁体で,高周波コイルのボビンや絶縁物として用いられる)との組み合わせで,高い性能
を実現していました。この局発回路で発振された信号は,エミッタフォロアによるバッファー回路を通
して,デュアルゲート4極MOS型FETによるバランスドミキサーに供給されるようになっていました。
さらに,IF段から狭帯域AGCがRF増幅段にかけられ,すぐれた受信性能が実現していました。
IF回路の信号系のフィルタには,波形伝送特性にすぐれた2素子構成の群遅延平坦型セラミックフィ
ルタを4個用いて選択度特性を高めるとともに,リミッタ特性のよい,差動増幅6段のIF増幅系を構
成して,振幅特性を高めていました。これらの結果,選択度85dB,SN比80dBという混信や雑音の
極めて少ないFM受信・復調が実現していました。
制御系IF回路は,AGCのかかった5段構成の増幅部とセラミックフィルタを2個使用し,電界強度
計用として用いられ,さらに独立したL・C複同調回路による帯域制御回路とのアンド回路によりミュー
ティング回路が形成されていました。入力レベル制御は2段で行われるようになっていました。
さらに,テクニクス独自の19kHzパイロット信号キャンセル回路が搭載され,リークキャリア(キャリア
のもれ)を−65dBという極めて少ない値に抑えながら,フィルタを用いないため,位相の乱れも少な
い状態で20Hz〜18kHz+0.2,−0.8dBというきわめて平坦な周波数特性を実現していました。
正確なチューニングを保持するために「サーボチューニングシステム」が搭載され,安定度の高い
受信が実現されていました。このシステムは,フロントエンドだけでなく,IF回路も含めた広い回路で
周波数ズレ,同調ズレを検出し,電子微同調して正確な同調点保持する独自のシステムで,送信周
波数のズレにも追随して正確な同調ができる柔軟性のある同調システムとなっていました。「サーボ
チューニング」はservo tuningスイッチをAUTOにすると働くようになっていました。
また,ステレオ感をできるだけ損なわず雑音を低減する「ハイブレンド」も搭載され,hi−blendスイッ
チがAUTOの位置では,入力電波の強弱によりハイブレンドがON-OFFされ,manualの位置では
常にハイブレンド回路が動作するようになっていました。
AM受信回路は,周波数直線形3連バリコンが搭載され,RF増幅段,ミキサー段,局発回路,IF増
幅回路とL・Cフィルタで,音質と受信性能を両立したAM部としていました。
その他,ユニークな機能として,FM放送のプリエンファシス(送信時の高域を持ち上げた状態)の
ままテープに出力し,それを再びチューナーでディエンファシス(高域を下げてフラットな状態に戻す)
ことにより,ノイズリダクション的な効果を持たせた「FMローノイズ録音・再生システム」が搭載されて
いました。そのため,ST-8600のリアパネルには,通常のラインアウト以外にテープデッキ専用の
入・出力端子が装備されていました。
また,録音レベル調整やスピーカーの音質調整,位相確認等に便利なピンクノイズ(−6dB)発生器
も装備されていました。
以上のように,ST-8600は,中級クラスのチューナーでしたが,ST-9700でも採用されていたテク
ニクスのすぐれたチューナー技術が投入された1台で,すぐれた性能を実現していました。また,テク
ニクスらしさを漂わせた,ホワイトパネルを上品に照らす,周波数,信号強度計等,見やすい表示部
を持った,雰囲気のあるデザインも魅力的でした。