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SONY SS-GR1
4WAY SPEAKER SYSTEM ¥1,100,000
1991年にソニーが発売したフロア型スピーカーシステム。自社開発のユニットによる大型の4ウェイシス
テムで,あのAPM-6以来の凝った作りのエンクロージャーが特徴的な高級機でした。
SS-GR1の最大の特徴は「スーパーオーバルエンクロージャー」と称した凝ったエンクロージャーにありま
した。これは,角形でもない,円形でもない,楕円形でもない断面を持つエンクロージャーで,より理想的な
超楕円形状の断面を持つエンクロージャーでした。
通常の角形断面の場合,エンクロージャー両サイドのエッジで反射波を生み,この反射波と直接波が干渉
して指向性を乱す回折効果を生んでしまいます。反射波の発生を抑える理想の形は円形ですが,円という
形はその中心に焦点を持つためエンクロージャー内部で音圧が集中する点が生じ,湾曲が大きいためスピ
ーカーユニットの取付が難しいという弱点があります。楕円形でも焦点が2点あり,音圧が集中する点ができ
てしまうなど,それぞれの形にデメリットがあります。
そこで,SS-GR1のエンクロージャーは,円形と角形の双方を出発点にして,回折効果を防ぐとともに,内部
音圧の集中を少なくする形として,円形を角形に,角形を円形に近づけつつ,しかも完全な楕円とも異なる超
楕円形状を採用していました。この形は,高次数の楕円関数を応用した形でした。
この独自の形のエンクロージャーの製造には,グランドピアノの側板成形で用いられるラウンディング技法が
導入され,大変手間のかかる工程ながら,内部損失の異なる約1ミリ厚の板を数十枚にわたって重ね,練り
あわせ,切れ目のない1枚のバッフルに仕上げていました。
SS-GR1のエンクロージャーは,十分な遮音特性をもたせながらエンクロージャーから発生する微弱な
共振・音を有害なものとしない全体構造をとっていました。RC(レゾナンス・コントロール)フレームと称す
る堅牢な大型の木枠をエンクロージャー中央に設け,これをエンクロージャーの骨組みとし,前面バッフ
ルと背面バッフルをそこに連結する構造をとり,同時に振動モード・コントロールを入念に行ったエンクロ
ージャーでした。この構造は,ちょうどチェロやコントラバスなどの弦楽器のつくりに近い構造と響きにつな
がっていました。天板左右のスラント構造もピアノの響桟に似た働きをもたせ,エンクロージャーの響きを
より自然なものとしていました。
SS-GR1のもう1つの特徴として,ミッドレンジから上のユニットを周辺にホーン構造が採用されているこ
とがありました。このホーンはCD(コンスタント・ディレクティビティ)ホーンと呼ばれ,前面バッフル一体削
りだし構造となっていました。このホーンは音波の放射効率を高めるだけでなく,良好な指向特性を得よ
うとするものでした。指向特性は軸上基準で,水平方向で外側の音圧を下げた90度,垂直方向で40度
に設定され,部屋の壁の影響を抑えるとともに,ユニット間の有害な干渉を低減していました。
このCDホーンは,バッフル板削りだし一体構造であるため,ホーン鳴きが少なく,開口部に段差や溝が
ないため音波のスムーズな放射を実現していました。また,指向性のコントロールにより,音波の放射を
球面波から平面はに近づけることとなり,4ウェイながら音のまとまりのよい鳴り方につながっていました。
SS-GR1では,4ウェイシステムで位相特性をよくする工夫もされていました。「タイムアラインメントシス
テム」と正相ドライブが軸となっていました。
「タイムアラインメントシステム」は,独特のホーン構造のバッフルを生かして,ウーファー,ミッドレンジ,
トゥイーター,スーパートゥイーターの発音源の位置を鉛直線上に揃え,全帯域の音波の位相を揃える
ようにしたものでした。
ネットワーク回路は,18dB/octの特性のクロスーオーバーが採用され,スロープのきれが良好で,すべ
てのユニットを正相ドライブしてもクロスーオーバー点でも位相がそろうようになっていました。
ネットワークのパーツは,電気的,機械的特性に優れた高音質パーツが採用され,個々のパーツは試聴
により選択が行われていました。低音域には鉄芯入りコイル,中高音域には空芯コイルと適材適所のパ
ーツが用いられ,樹脂モールドで固めたうえで使用されていました。コンデンサーも同様に,アルミ電解タ
イプ,MPタイプ,フィルムタイプと適材適所に選択投入されていました。ネットワーク回路は,各帯域毎に
基板を分離したうえ,配置上もっとも安定したエンクロージャーの底板にまとめて固定されていました。
ウーファーは,天然パルプにきわめてなじみの良い太さ数ミクロンのポリアミド繊維を混抄し,強さとしなやか
さをかねそなえさせた30cm口径のコーン型で,アルニコマグネットによる磁気回路でドライブされていました。
ボイスコイル後方にもダンパーを配した3点支持によるトリプルサスペンション方式がとられ,ボイスコイルの
ストロークの安定化を図っていました。また,通常の2点支持に比べてエッジの素材を柔らかいものにでき,コ
ンプライアンスが高められて超低音域の歪みが低減されていました。フレームには,アルミダイキャストが使用
され,併せて防振のためのデッドニング処理が施され濁りのの少ない音が実現されていました。
ミッドレンジは,ポリアミド繊維混抄パルプによるコーン部と,SiC(シリコンカーバイド)ドーム部で構成された10cm
バランスドライブ型でユニットが搭載されていました。バランスドライブ方式を採用することで,ボイスコイル径とドラ
イブの位置を振動板直径のおよそ60数%に設定し,有害な分割振動を最小限に抑え,ピストンモーション領域を
広げることができていました。また,一般的なコーン型ユニットに比べてボイスコイル,磁気回路ともに大きくなるた
め,歪みも改善され,1kHz〜3kHzでの歪みを0.1%以下に抑えていました。コーン部は,ポリアミド繊維の混抄
率がウーファーより高められ,周波数帯域に合わせより剛性の高いユニットとしていました。また,ユニットは背圧を
適正化するために独立のバックキャビティが設けられていました。
トゥイーターは,SiCによる3cmドーム型で,電気から音響への変換ロスを少なくするために,ボイスコイル・ドライブ
を振動板表面の外側で行うサーフェイスドライブ構造が採用されていました。通常のドーム型ユニットでは,ボイスコ
イル(ボビン)→振動板裏面→振動板内部→振動板表面とう経路で振動が伝達されるのに対して,サーフェイスドラ
イブでは,ボイスコイル→振動板表面という最短ルートで音波になるため,トランジェントが高まり,振動板の固有音
が出にくいというメリットがあるということでした。
スーパートゥイーターは,バクテリアの一種であるアセトバクターが作り出す天然繊維から生まれたバイオセルロース
による2cmドーム型ユニットが採用されていました。このバイオセルロースは,ソニーと味の素(株),工業技術院繊
維高分子材料研究所の共同開発で,アルミニウムなみの高い伝播速度と,紙とほぼ同等の内部損失という振動板
素材としてバランスのとれた特性を備えたものでした。さらに,非常に軽量で,SS-GR1のスーパートゥイーターは,
エッジ部を除いて約0.01gと超軽量を実現し,すぐれた高域再現性を備えていました。
以上のように,SS-GR1は,ソニーがユニット,エンクロージャーに高い技術を投入して作り上げた大型のシステム
で,非常にワイドレンジでしかも歪み感の少ない音を持つ高性能なスピーカーシステムでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
心地よい豊かな響きをめざして,
まず,音波のふるまいを
正すことから突きつめました。
●SS-GR1主な仕様●
形式 | 4ウェイ・バスレフ方式フロアー形 |
使用スピーカー | ウーファー:30cmポリアミド混抄パルプ・コーン型 ミッドレンジ:10cmポリアミド混抄パルプ+SiC・ バランスドライブ型 トゥイーター:3cmSiC・ドーム型 スーパートゥイーター:2cmバイオセルロース・ドーム型 |
公称インピーダンス | 6Ω |
定格最大入力 | 100W |
瞬間最大入力 | 300W |
最大出力音圧レベル | 90dB/W/m |
実効周波数帯域 | 25Hz〜35kHz |
クロスオーバー周波数 | 500Hz,3.5kHz,12kHz |
外装 |
ウォルナットつき板仕上げ |
大きさ | 幅544×高さ1,026×奥行445mm(フロントグリル装着時) |
重さ | 75kg |
※本ページに掲載したSS-GR1の写真・仕様表等は1994年10月
のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
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