SS-8150の写真
SONY  SS-8150
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥245,000

1974年にソニーが発売した,大型の3ウェイスピーカーシステム。当時,テープデッキをはじめ
アンプ,チューナー,アナログプレーヤーなどオーディオの分野で優れた技術力を世に示してい
たソニーの中で,スピーカー部門は今ひとつの世評を受けていたのも事実でした。そうした中で
スピーカーの分野にも力を大きく入れ始めたのがこの時期でした。後に名機Gシリーズを生み出
す,スピーカー専門の甲府工場の建設が始まった年でもありました。そして,ソニーがスピーカー
への意欲を世に示した本格的高級機がこのSS-8150でした。

SS-8150の大きな特徴はコーン紙にありました。ウーファー,ミッドレンジ,トゥイーターの各ユニ
ットとも振動板にはソニー自慢の「CARBOCON(カーボコン)」採用していました。天然パルプ材
に炭素繊維を混ぜて抄紙したコーン紙で,従来のコーン紙より軽く,剛性が高く,共振鋭度が抑え
られるというもので,当時各社がカーボンファイバーに注目し,カーボンを振動板に生かしていこう
としていました。ソニーは中でも最も早くカーボンファイバーを混抄したコーン紙を開発し「CARBO
CON」の商品名で売り出したものでした。

ウーファーは30cm口径のコーン型で,バランスドライブ方式を採用していました。コーン紙をでき
るだけ忠実にピストン運動させるために,コーン紙に対するボイスコイルの位置・ドライブポイントに
注目して改良を施したものでした。具体的には,(1)ボイスコイル駆動点からみて,コーン内外の
慣性モーメントを等しくする。(2)ボイスコイル内外の質量バランスをとり,重量を等しくする。(3)伝
播時間を短くする。という考え方でドライブポイントが設定されていました。

バランスドライブ方式

上記の最適ドライブ点は,コーン外径とボイスコイル径の比率で推定し,コーン材の厚さ,硬さ,
繊維の並び具合なども考慮しながら度重なる実験で設定され,その結果,スピーカーのドーム部
が大きく突出した独特の形となり,コーン紙の追従性が上がり,ピストン運動領域の拡大が実現>
されていました。また,剛性が低く分割振動が起きやすいコーン紙の外周部エッジ付近には,R状
のリブが設けられ,より高い剛性とピストン運動領域の拡大が行われていました。

磁気回路は,1970年に,ULMスピーカーで開発された低歪率磁気回路が採用されていました。
ULMはUltra Linear Magnetic Pathの略で,特殊な構造のセンターポールを開発し,磁気回
路での歪みをそれまでの1/5に低減したものでした。センターポール中心部に切り欠き部を設け
その部分に厚い銅メッキ,銅キャップの併用により低歪み化したもので,強制的にボイスコイル周
囲の鉄材を飽和に近づけ,ヒステリシス損(強磁性体のヒステリシス現象による非直線特性)を小
さくし,歪みを大きく低減していました。また,ボイスコイルの接着剤に耐熱性の高い合成樹脂接
着剤を使用して,温度上昇に耐える特性を高め,耐入力を高めていました。
SS-8150では,91dB/W/mという高能率をめざし,バランスドライブ方式によりボイスコイル径
が大きくなったため,ウーファーは総磁束47万マクスウエルの新開発の強力な磁気回路となって
いました。ウーファーはショートボイスコイル4層巻きで,ケイ素鋼板が採用されていました。これら
の結果,ウーファーの磁気回路での磁気電流歪みは0.1%以下に抑えられていました。

SS-8150のスピーカーユニット

ミッドレンジとトゥイーターはドーム型で,振動板にはウーファーと同じく「CARBOCON」を使用して
いました。ミッドレンジは4cm口径,トゥイーターは2cmとウーファーの30cmに比べて,小口径とな
っていました。SS-8150では,ウーファーユニットがCRBOCON振動板とバランスドライブ方式に
よりワイドレンジな特性を実現していたため,クロスオーバーが1kHzと高くとられ,ウーファーとミッ
ドレンジの2ユニットで,主な帯域をカバーできるようになっていました。トゥイーターは7kHzのクロス
オーバーで,2ウェイ+スーパートゥイーター的な構成になっていました。
ミッドレンジとトゥイーターを小口径とすることで,すぐれた指向特性を実現し,15kHzで30度方向で
−3dB,60度方向で−10dB以内という特性が達成されていました。

キャビネットは,板振動が少なく,板振動の響きの良いものという視点で,音色の素直なブナ合板が
採用されていました。バッフル,裏面のみでなく内部の補強材にも30mm厚のブナ合板を使用し,内
容積90リットル,重量35kgに及ぶ強固な大型キャビネッ トを形成していました。また,ターミナル板
やダクトなどには,3mm厚の鉄板を使用し,各ユニットには強固なダイカストフレームを採用して,音
を濁らせる不要な振動を抑えていました。
強力なユニットに対応して,バスレフ型のキャビネットを採用し,スペースファクターを考慮したトール
ボーイタイプとしていました。低域のブーミーさを避けるために,ウーファーはキャビネットの比較的
上部に配置され,音質に悪影響を与えるキャビティ効果を避けるために,ユニットの近くの反射物を
排除し,前面はフラットパネルを採用していました。グリルネットの取付時も周囲に隙間が空くように
なっており,グリル自体もアルミの押し出し材フレームとすることで,強度を高めて厚みを最小に抑え
ていました。ブラックとメタリックグレーの塗装仕上げとマッチしてデザイン的にもシャープなイメージ
を出していました。

ネットワークは,12dB/octのものを搭載していました。素子数も遮断特性も抑えて,位相特性を向上
させていました。また,ユニットに直列につながる素子として,ケイ素鋼板入り鉄芯コイルと金属化ポリ
エステル・フィルム・コンデンサを採用し,ネットワーク自体の歪率と損失を低く抑えていました。ネットワ
ークの定数もヒヤリングによって慎重に決められていました。また,耐熱性にすぐれたものを採用し,
ネットワーク自体から発生する熱の吸音材等周囲への影響も抑えるためにネットワーク部は板で囲い
遮蔽した構造がとられ,耐入力を高めていました。
機能的には,ミッドレンジ+2〜−4dB,トゥイーター+1〜−5dBの連続可変型アッテネーターがバッ>
フル面に装備されていました。また,背面には通常のフルレンジでの使用と3チャンネルマルチでの
使用が切り換えられるスイッチがあり,通常のネットワーク経由のスピーカー端子とマルチチャンネル
アンプ・ダイレクト用の端子が装備されていました。

ESUシリーズの一例

以上のように,SS-8150は,ソニーのスピーカーへの意欲を示した1台で,ユニット,ネットワーク等
新開発の強力なパーツを搭載し,当時のソニーの高級機たちとのコンビネーションも考えられ高級機
でした。そして,ここでの技術的挑戦の姿勢は,後の名機SS-G7へとつながっていくこととなりました。
クリアで重厚なしっかりした音は,ソニーのスピーカー技術の可能性を感じさせたものでし


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



忠実な音響エネルギーへの変換。
一途に,音質に磨きをかけました


音楽に対する情熱から生まれました。
技術と聴感の対応をとりながら・・・


◎ピストン運動領域の拡大
◎新開発炭素繊維混抄コーン紙
(CARBOCON)採用
◎バランス・ドライブ方式
◎新開発の低歪率磁気回路
◎幅広い指向特性>
◎新開発スピーカキャビネット>
◎最大入力100W>
◎低歪率,低損失ネットワーク
◎ずっしり響く低音。バスレフ方式
◎音響特性を考えたデザイン
◎3チャンネル・マルチ端子つき
◎6dB連続可変アッテネータ




●SS-8150 主な規格●

型式
3ウェイ 3スピーカ 床置 バスレフ方式
構成
ツィータ:2cmドーム型1個
ミッドレンジ:4cmドーム型1個
ウーハ:30cmコーン型1個
実効周波数帯域
30Hz〜25kHz
公称最大入力
100W
定格インピーダンス
8Ω
出力音圧レベル
91dB/W/m
クロスオーバー
1kHz,7kHz
アッテネータ
ミッドレンジ+2〜−4dB,ツィータ+1〜−5dB
連続可変型(前面バッフル)
マルチ端子
3ウェイ用切換えSWつき
外形寸法
910H×440W×385Dmm
重さ
約55kg

※本ページに掲載したSS-8150の写真・仕 様表等は1974年7月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作>権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
 することは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

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