ONKYO
Scepter 2002
2WAY SPEAKER SYSTEM ¥200,000
1990年にオンキョーが発売したフロア型スピーカーシステム。オンキョーは,1967年発売の名機
E-83Aや,1976年の
SCEPTER10,
1977年の
SCEPTER500,
そして1984年の超弩級機
GS-1などにも表れているように,ホーン型スピーカーに継続して取り組んでいるメーカーでした。
Scepter2002は,GS-1の技術的成果も導入して完成された,ホーン型ユニット搭載のトールボー
イ型スピーカーシステムでした。
Scepter2002の最大の特徴であるホーン型ユニットは,豊かなエネルギー感と歯切れの良さなど
スピーカーユニットとして他にはない魅力を持つ方式ですが,反面,使いこなしが難しく,高精度な
設計と調整が必要で,すぐれた特性を生かそうとすると製造コストも高くなるなどの問題があり,メー
カー製のスピーカーシステム,特に普及価格帯のスピーカーシステムにはあまり多く用いられては
いません。そのような中で,Scepter2002には,新設計のホーン型ユニットが搭載され,音質上
でも大きな特徴となっていました。
Scepter2002のホーンは,GS-1で開発された技術を生かしたSH(スーパーハイパボリック)ホー
ンと呼ばれるものでした。これは,ホーンの断面積の変化について,扁平関数と双曲線関数,形の
変化については扁平関数と形状関数を含むスーパー楕円関数を採用し,これらの連立方程式を
解くことにより,急激な形状変化のない滑らかな広がりをもつホーン形状を作り上げていました。
SHホーンの最大の特徴は,形状及び材質等の工夫と配慮により,「ホーン臭さ」と呼ばれるホーン
型ユニットに発生しがちな様々な歪みが徹底的に排除されていました。
SHホーンでは,ホーン内部での音の反射の乱れによる歪み(オンキョーは「マルチパス・ゴースト歪
み」と呼んでいた)をなくすために,ホーン内部のステイ,セパレーター,段差,凹凸を徹底して追い
詰めた滑らかな形状としていました。
さらに,ホーン自体の振動によって発生する時間遅れの残響音(オンキョーでは「リバーブ歪み」と呼
んでいた)をなくすために,ホーンの材料に,約2g/cm3という 比重の高密度,高内部ロスのレジンコ
ンクリートを採用し,12kg近い重量級ホーンとすることによってホーン自体の振動を抑え,この歪み
を低減していました。
このホーンを駆動するドライバーは3.5cmの強化Al-Mg合金振動板を採用していました。Al-Mg合
金振動板は,軽量で高剛性,高内部ロスという特長を持ち,振幅の対称性にすぐれるタンジェンシャル
エッジ(接線方向にひだの入ったエッジ)との一体成型によって作られていました。成型時に金属にか
かるストレスで素材本来の物性が変化するのを防ぐため,安定化処理が施され,成形前のすぐれた
特性が生かされていました。

ウーファーは,28cm口径の,紙パルプをベースとしたバイオクロスコーン・ウーファーが搭載されて
いました。オンキョーは1980年代,デルタオレフィン,クロスカーボンなどの新素材をウーファー等
の大口径の振動板素材として積極的に活用してきていました。当時,他のメーカーも様々な新素材
の振動板に挑戦していました。こういった新素材の振動板は,軽量・高剛性・適度な内部損失など
それぞれの素材ごとにすぐれた特性を持ち,そのメリットを生かそうとした振動板が多く見られまし
たが,逆に,素材ごとの個性や癖もあり,使いこなしの難しさもあったのは事実でした。
その面で,伝統的に用いられてきた紙パルプは,一時,新素材に取って代わられてましたが,天然
素材であり,よい意味で構造が不均質で自然な特性や音が実現しやすいというメリットもあるため,
見直されていきました。
オンキョーが開発した「バイオクロスコーン」は,北極圏に近い高緯度地域で産出された密度の高い
木材パルプに,天然セルロースの中でも最も結晶化度の高いホヤのセルロースを精製して混抄す
ることで,軽量,高剛性,高内部損失,高気密性といった振動板として重要な諸特性を高度にバラン
スさせたものでした。木材パルプにホヤを混抄することで,剛性とともに特に気密性がめざましく改
善されたことが大きなメリットであったようです。
口径28cmのウーファーに対して,7.6cmという大口径のボイスコイルが搭載され,ボイスコイルか
らエッジまでの距離が短縮され,トランジェントの良い低音再生が可能となっていました。この大口径
のボイスコイルを駆動するため,大型マグネットと高調波歪みを減少させる銅キャップ採用の強力な
磁気回路が搭載されていました。
Scepter2002は,フロアタイプの比較的大きな容積のキャビネットに,28cmと比較的口径の大きく
ないウーファーユニットを組み合わせているため,ウーファーユニットのfoを極端に低くしなくても低域
再生は低い帯域まで可能となりますが,ウーファーのエッジ部は,中域のリニアリティと振幅の対称性
にすぐれたコルゲーション・タイプのエッジ(波形のエッジ)が採用され,超低域の締まりと中域にかけ
ての音のヌケが改善されていました。
ウーファーキャビネットは,内容積75リットルのバスレフ型で,後部にダクトの開口部が設けられ
ていました。しかし,単純なリアダクトタイプのバスレフ型キャビネットではなく,様々な構造的工夫
が行われていました。キャビネット自体の振動によって発生する不要な歪み成分(ホーン部同様
にリバーブ歪みと称していた)を低減させるために,キャビネットは充分な補強が施されるとともに
さらに積極的に,制振材と鉄板を使った「拘束ダンピング法」によって振動の発生が抑えられてい
ました。
また,エンクロージャー内部の定在波を抑えるために,アコースティック・ウェイブレギュレーター
(定在波の調整装置といった意味)が設けられていました。上下方向の定在波に対しては,スピー
カー底部に,スリットのあるチャンバー(気室)を設け,ウェイブレギュレーターとし,前後方向の定
在波に対しては,ウーファー後方に,底部同様に,スリットのあるチャンバーを設けてウェイブレギュ
レーターとして,定在波を徹底して抑えていました。また,キャビネット上部から見た断面を,台形と
することによって,左右方向の定在波が起こらあないようにするなど,あらゆる方向の定在波を徹
底的に抑える設計になっていました。
ネットワークは,ウーファー,トゥイーター用のフィルターがそれぞれのユニットに内蔵され完全分離
された構成となっていました。また,それぞれのネットワークにおいて,回路,パーツの分離が必要
な部分はすべて分割され,相互干渉のない「アイソレート・ワイヤリング・ネットワーク」となっていま
した。また,ホーン型ユニットとコーン型ウーファーの振動板の位置的ずれを補正する,時間軸制
御回路が搭載され,ユニット間のつながりをスムーズにしていました。さらに,バイアンプ接続,バ
イワイヤリング接続にも対応していました。
以上のように,Scepter2002は,オンキョーがGS-1で見せたホーン型ユニットへのこだわりと技
術が生かされたスピーカーシステムでした。ホーン型の鳴りっぷリの良い中高域と,少し柔らかめ
の深い低域がバランスした音は,独自の魅力があるものでした。