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DENON SC-5000
FLOOR-TYPE SPEAKER SYSTEM ¥350,0001980年にデンオン(現デノン)が発売した大型のフロア型スピーカーシステム。スピーカーではあまり
目立った存在ではなかったデンオンがPCM(実は,デンオンの商標です)時代に対応すべく発売した,
本格的な大型システムとして数多くの新技術が投入された意欲作でした。SC-5000の最大の特徴は,オールコーン形ユニットのシステムであることでした。オーソドックスな
コーン形スピーカーの優位性を主張して,コーン形で理想を追求したという意味でも,特徴的な意欲
作でした。ウーファーは,40cmの大口径で,新開発のHigh-M・P(ハイムP)振動板を使用したもので,紙パルプ
振動板の優れた面を生かしつつ,剛性を高めるなど,弱点を補強したものでした。この振動板は,木材
パルプよりヤング率の高い精製ラミー(麻)繊維を木材パルプに配合し,入念に叩解処理を行って繊維
長の分布をコントロールした後,新開発の特殊抄紙技術によって,リブ・パターンと一体構造に製造され
たもので,40cmという大口径でありながら36gの軽質量と高い剛性を実現していました。リブ・パター
ンは同心円状および放射状のリブによって形成され,剛性を従来の約2倍向上させ,振動板の変形と
歪みの低減,ピストンモーションの領域を1.5倍に拡大するなどの効果を持っていました。駆動系には,外径220mm,総磁束480,000マクスウェル,11,000ガウスの磁束密度を持つ大型
フェライトマグネットを使用していました。さらに,約直径100mmのセンターポールには,空気流の変化
による非直線性歪みや大振幅時での低域共振周波数付近のインピーダンス変化を抑えるため,有孔部
を設けた構造になっており,銅の特殊形状コントロールリングを設け電流歪みを10dB以上改善していま
した。また,100mm径の大口径ボイスコイルには,ポリアミドイミド樹脂被膜の導電率のすぐれたリボン
銅線を使用し,ノーメックスボビンに特殊高耐熱処理を施して捲き上げ,ユニット全体では,瞬時最大許
容入力は1kwをクリアするものとなっていました。振動板を支持するエッジおよびダンパーは,フェノール樹脂に,耐劣化性にすぐれた特殊樹脂を配合し
た素材を使用し,経時変化の少ない高耐久性と適度な粘弾性を確保していました。また,エッジおよび
ダンパーの波形は,特殊リニアモーション・コルゲート曲線を採用し,振動板の前後の振幅に対称的な
直線性を実現し,直線領域も拡大していました。ミッドレンジは,15cmのコーン形で,High-M・T振動板を使用していました。この振動板は,高分子化
合物の一種である高弾性繊維のアラミド繊維織布をエポキシ樹脂で強化し,内部損失とヤング率の高さ
を広帯域にわたって両立させたものでした。結果として,ヤング率は紙の約3倍で,内部損失が同等,
7.8gの軽量という特性をもち,ピストンモーション領域の拡大と分割共振域の共振Qの低減を実現して
いました。
駆動系には,最外径140mmの大型フェライトマグネットを使用し,センターポールには銅のコントロール
リングが設けられ,電流歪みを12dB低減していました。直径40mmのボイスコイルには,ウーファーと
同等の高耐熱処理を施し,耐熱リボン銅線を使用して,軽量化・高耐入力化を図っていました。エッジ
やダンパーもウーファー同様にリニアモーション・コルゲート曲線を採用し,加えてフェノール樹脂に特殊
樹脂配合による特殊処理織布を用い,直線性の拡大と耐久性の向上を実現していました。
また,振動板表面に均一に制動剤を塗布し,エッジの以上共振を防止して,広帯域にわたる平坦な周
波数特性を実現していました。
ミッドレンジユニット背部には,大型のウーファーの音圧による影響をなくすためにバックキャビティをもた
せた構造となっていて,高密度の吸音材を充填していました。ミッドレンジユニットのフレームには,低圧
鍛造法によるアルミ合金を使用し,フレーム自体の剛性を高め共振を防止していました。トゥイーターは,5cmコーン形で,ミッドレンジ同様にHigh-M・T振動板を使用していました。構造的には
セミドーム形の振動板形態をとり,センタードーム部には,厚さ30ミクロンの特殊アルミニウム合金を使
用し,ドーム部の面積を大きくして,振動板部との音圧放射バランスをとっていました。振動板ネック部に
は,折り返し部を設けてさらに高剛性化を図り,センタードーム内部には,超極細ガラス繊維を充填して
制動効果と吸音効果を図り,音圧周波数の平坦化を実現していました。ボイスコイルから振動板までの
距離を短くするため,ダンパーを排除した構造をとり,振動板外周はフィックスドエッジとして,ゴムのサン
ドイッチ構造とすることで終端反射による特性の乱れを抑えていました。
磁気回路は,外径120mmのストロンチウム・フェライトマグネットを採用し,ウーファー,ミッドレンジ同様
銅のコントロールリングが設けられていました。ボイスコイルには,厚さ30ミクロンの特殊アルミ合金にア
ルマイト処理を施した直径25mmのボビンに,ポリアミドイミド樹脂で処理した銅被膜リボン形アルミニウ
ム線を均一に捲き上げた,軽量化されたボイスコイルが搭載されていました。ネットワークには,損失の小さいメタライズドフィルム・コンデンサーを主体に,すべて2個以上の並列接続
という形で,4種類のコンデンサーが帯域に応じて使用されていました。コイルは,ウーファー用には,L形
硅素鋼板に直径1.4mmの高純度銅線を強固に捲き上げたものが使用され,ミッドレンジ,トゥイーター用
には,大入力に対しても歪みがほとんどない空芯コイルを使用していました。また,回路内抵抗を最小限
にするため,プリント基板によらず,ダイレクト接続となっていました。さらに,マルチアンプに対応した,マ
ルチチャンネル端子も装備されていました。キャビネットは,大型フロア形として強固で堅牢に設計され,内容積は,40cmのウーファーをバスレフ方
式で駆動するため185リットルが確保され,定在波を抑える寸法比と2種類の吸音材の取り付けが行わ
れていました。また,キャビネットの振動モードを複雑にしてしまうツナギ桟などを一切排除した構造で,
頑強な側板によって両側から天板,底板,背板を堅固に締め込まれたサンドイッチ構造で強度を確保し
ていました。側板は,板共振の発生を低減するため,10mm厚・10mm厚・15mm厚の3種類の高密度
パーチクルボードを貼り合わせた35mm厚としていました。天板,底板,背板は25mm厚高密度パーチ
クルボードを使用していました。以上のように,SC-5000は,40cmという大口径ウーファーを新開発し,オールコーン形で性能を追求し
た本格的フロア形スピーカーの意欲作でした。フロア形ならではの堂々とした音を持ち,かつ癖のない
聴きやすさも持っていました。スピーカーのブランドとしてメジャーではなかったためか,広く人気を得る
までには至りませんでしたが,実力派の1台だったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
DENONオリジナルユニットによる
フロアータイプの本格派
周辺・関連特許12件,実用新案2件
◎音楽と対話する
高性能ユニットの完成
●リブ一体構造High-M・P振動板40cmコーン形ウーハー
●最大音圧レベル128dB,瞬時最大入力1kwを支える強力駆動系
●直線性領域の拡大と高耐久性をはかったエッジとダンパー
●High-M・T振動板採用15cmコーン形ミッドレンジ
●ダンパーレス構造High-M・T振動板採用5cmコーン形ツイーター
◎荘重かつ重厚にシステム化されたSC-5000
●伝送特性のすぐれた高品質ネットワーク
●DENONオリジナル・ユニットの性能をストレートに再現する
マルチチャンネル端子装備
●入念に設計された185リットルバスレフ形キャビネット
●システムの主な仕様●
形式 | 3ウェイ・3スピーカー・バスレフ形 |
入力インピーダンス | 8Ω |
再生周波数範囲 | 25Hz〜30kHz |
平均出力音圧レベル | 97dB(1m/1w) |
最大許容入力 | 300W(プログラムソース),1kW(瞬時最大) |
使用スピーカー構成 | ウーハー:40cmコーン形,ミッドレンジ:15cmコーン形
ツイーター:5cmコーン形 |
クロスオーバー周波数 | 400Hz,3.2kHz |
レベルコントロール | 中音域・高音域連続可変(前面操作) |
寸法 | W572×H925×D445mm |
重量 | 70kg |
その他 | マルチ・チャンネル(3ch)端子つき |
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平均出力音圧レベル | 98dB(1m/1W) | 97dB(1m/1W) | 97.5dB(1m/1W) |
最低共振周波数 | 36Hz | 150Hz | 1250Hz |
最大許容入力 | 300W(プログラムソース) | 300W(プログラムソース) | 300W(プログラムソース) |
瞬時最大音圧 | 128dB(1m・at200kHz・1kw) | 127dB(1m・at1kHz・1kw) | 122.3dB(1m・at5kHz・300w) |
再生周波数帯域 | fo〜4kHz | fo〜15kHz | fo〜30kHz |
推奨カットオフ周波数
(−12dB/oct) |
500Hz以下 | 350Hz〜5kHz | 2kHz以上 |
重量 | 14.4kg | 3.2kg | 2.6kg |
※本ページに掲載したSC-5000の写真,仕様表等は1980年10月
のDENONのカタログより抜粋したもので,デノン株式会社に著作権
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