EXCLUSIVE
S5
SPEAKER SYSTEM ¥638,800(1台)
1988年に,パイオニアがエクスクルーシブブランドで発売したスピーカーシステム。パイオニアは
1987年の
S-55TWIN以
来,仮想同軸型スピーカーシステム「バーチカルツイン」のシリーズで
好評を得ていた同社が,満を持して発売した「バーチカルツイン」の最高級機で,唯一のエクスク
ルーシブブランドからの「バーチカルツイン」のスピーカーシステムでした。
S5の最大の特徴は,同社のプロ用スピーカーユニット・TAD直系の高性能ユニットをトールボーイ
型のキャビネットに搭載していたことでした。TADは(Technical Audio Devices)の略で,「来る
べきデジタルレコーディング時代を見通したスピーカー設計理論を追求すべく」1975年に発足した
プロジェクト・「ロカンシープロジェクト」から生まれたブランドでした。主としてスタジオモニター,SR
用スピーカー、コンサートホール、映画館、劇場などのプロ用スピーカーの分野で活躍しているブラ
ンドで,1979年のアメリカへの試験導入以来,高い性能と精度で評価を確立し,現在もすぐれた
スピーカーユニットとシステムを送り出しています。
S5は上述したように,ホーン型トゥイーター1個を挟んで2つのウーファーが上下に配置されたバー
チカルツイン方式がとられていました。これらのユニットの磁気回路には,すべてTAD直系のアルニ
コマグネットが使用されていました。アルニコマグネットを使用した内磁型磁気回路は漏洩磁束が少
なく歪み特性に優れ,入力に対する反応が早いなどの特徴があり,S5のすぐれた性能を支えるも
のでした。
トゥイーターは,本格的なホーン型ユニットで,高い解像力とすぐれたリニアリティーを備えたドライ
バーユニットを搭載していました。このドライバーユニットはTADのTD2001をS5用に改良したも
ので,磁束密度18,000ガウスに達する強力なアルニコ磁気回路と直径4.8cmの軽量で高硬
度なベリリウム振動板から構成された高性能ユニットでした。

ホーンは,ハンドメイドによるイタヤカエデ積層削り出しの木製ホーンで,工芸品のような美しい
仕上がりのものでした。広帯域における高感度化と指向性のコントロールを両立しつつ,木製な
らではの自然な響きを実現していました。このホーンによりバーチカルツイン方式ならではの音
場感とともに定位感も確保していました。
ウーファーは,25cm口径で,プロフェッショナルユースのTAD直系の新開発のユニットが搭載
されていました。アルニコマグネットを使用した強力な磁気回路に軽量な振動系を組み合わせ,
優れたリニアリティを実現していました。さらに,口径が25cmと比較的小さめであるため,反応
のよい再生が可能となっていました。また,エージング処理を行った天然パルプを主材にした特
殊なエージングコーンとリニアリティのよい振動系の組み合わせは,経年変化にも強い設計とな
っていました。
エンクロージャーは,同社のバーチカルツインのシステムに共通するトールボーイフロア型で,バ
ッフル版には大きな弧を描く楕円曲線バッフルが採用され,バッフル自体がスリムにできている
ことと相まって,音の反射や回折現象が抑えられ,音場感・定位感のすぐれた再生が可能となっ
ていました。
エンクロージャーの材質は,天板,バッフル板上部にはバーズアイメープルが使用され,その他
の部分にはウォールナットが使用され,オイルステン仕上げが施されていました。2種類の天然
木のコンビネーション構造は,美しい高級感ある外観を実現するとともに,無共振化にも効果が
ありました。
バッフル板には,ユニット取り付け部の下部をウォールナット仕上げとし,さらに境界面に仕切り
を入れることで,不要なバッフル板表面波が伝わるのを防ぎ,SN比のさらなる向上がはかられ
ていました。さらに,ウーファ,トゥイーターのドライバーともに,エンクロージャー内部のインナー
バッフルにしっかり固定され,フロントバッフルの不要な共振を低減した「ミッドシップマウント」が
採用され,天板の不要振動を抑えるフローティングトップ,フレームに伝わる不要振動を抑えるシ
ールドフレームなど,システム全体にわたる無共振・無振動化が追求されていました。
ネットワークは,チョークコイルや配線コードに無酸素銅ワイヤーが使われ,各素材やコードには
振動対策が施され,共振や鳴きをコントロールしていました。また,各素子,配線コードの干渉に
よる音質への悪影響を抑えるため,配線にも配慮され,ダイレクトで均一に信号が伝わるラジア
ル給電方式がとられていました。
ネットワークとユニットとの接続は,伝達ロスを徹底的に低減するため,端子を経由せずにカシメ
圧着配線が施されていました。ウーファーユニットは,特に錦糸線までもハンダを用いずカシメ接
続が行われていました。また,2つのウーファー間の逆起電力相互干渉を抑えるために,それぞ
れのウーファーに専用の回路が搭載されていました。
スピーカー端子は,バイワイヤリング接続に対応した端子が備えられ,シングルワイヤリング接
続でも,高域側からつなぐか低域側からつなぐかで音の変化が楽しめるようになっていました。
以上のように,S5は,エクスクルーシブブランドから発売されたバーチカルツイン方式のスピー
カーシステムとして,それまでの同方式のスピーカーシステムとはグレードの大きく異なる贅沢な
作りになっており,音の面でも,ホーン型ユニットならではのクリアーで生々しい音と,豊かな音
場感を備えた完成度の高いものでした。