PIONEER
S-933
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥118,000
1979年に,パイオニアが発売したブックシェルフ形スピーカーシステム。
S-955の弟機として
開発された3ウェイスピーカーシステムで,当時,各社がNS-1000Mに対抗していた10万円
クラスの1台で,弟機といいながら,パイオニアとしても力の入ったモデルでした。
トゥイーターは,上級機S-955と同様に,単体ユニットPT-R7Aと同等のリボン型ユニットを搭
載していました。パイオニアは,1974年,100kHzまでの超高域の再生を可能としたリボン型
トゥイーターPT−R7を発表し,高い評価を得ていました。そして,その改良型のPT-R7Aはさら
に性能が高められ,120kHzまでの超高域再生が可能となっていました。
トゥイーターユニットのリボン振動箔は,わずか0.009gという超軽量振動板で,超高域までフラ
ットな特性と空気そのものを駆動するかのような再生を実現していました。また,わずか9ミクロン
という超薄アルミ製の振動箔は,連続六角錘成形とされて剛体化が図られていました。縦,横,斜
めのどの切断面を取っても直線とならない形に成形されたもので,折れ曲がりの心配のない強固
な構造となっており,リボン振動箔のピストン運動領域を大幅に拡大し,すぐれたパワーリニアリ
ティを確保していました。
ミッドレンジは,6.5cm口径のドーム型で,振動板には軽く剛性の高い純ベリリウムを使用してい
ました。ユニットとしての1つめの特徴は,新開発のカンチレバーサスペンションを使用していたこと
でした。片持ち式の支持構造を取り,音の輻射が少なく大振幅時にも確実にセンター保持ができる
ようになっていました。また,追随性を良くするために,粘性制動材を薄い銅合金でサンドイッチした
素材をしようしていました。さらに,固有共振を少なくするために,長さの違うサスペンションを交互
に配置するなど形状も工夫されていました。これらの結果,ミッドレンジの再生限界は20,000Hz
に達し,8,000Hzのクロスオーバー周波数に対して十分な余裕のある特性となっていました。
ウーファーは,32cm口径のコーン形で,オーソドックスなパルプコーン振動板でした。パルプの繊維
を痛めないような特殊な製法を取り入れ,コルゲーションを加えて強度を高め,くせのないしっかりした
低音再生を実現していました。センターキャップにはアルミが用いられ,中域にかけての芯のある再生
を可能としていました。エッジは内部損失を検討したウレタンエッジで,磁気回路には,直径160mmの
強力なマグネットと,歪み成分を低減するT型ポールが採用されていました。
ネットワークは,回路構成,素子,レイアウトに吟味が行われたもので,コンデンサー,コイルに精度の
高い低損失のものを用い,不要な誘導をさけるためにウーファーコイルは別付けにされていました。
エンクロージャーは,高密度でかつ内部損失の大きい針葉樹パーチクルボード製で,エンクロージャー
だけで20kgもの重量に達するしっかりしたものでした。ユニット配置は左右対称となっており,音場定
位にも配慮されていました。表面仕上げは,非常に硬いマーブルエボニーが使用され,光沢のある美
しい仕上げとなっていました。
以上のように,S-933は,オーソドックスな3ウェイスピーカーとして,ワイドレンジな再生を実現し,明
るくバランスの取れた音は,パイオニアらしいものでした。当時,10万円クラスのスピーカーへのグレー
ドアップを考えていた私にとって,非常に気になる1台でもあり,比較試聴していたことを思い出します。