パイオニアが1987年に発売した3ウェイスピーカーシステム。S-955シリーズの後継機とも言えそうで![]()
PIONEER S-3000
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥170,000
すが,1986年より同社が展開していた「ミッドシップマウント」を採用したスピーカーのシリーズの最高級
機として,徹底した無共振化を図った強固なエンクロージャー構造と,海外で高い評価を得ていた同社の
ブランドTAD(Technical Audio Devices)の技術を受け継いだ強力なユニットによる,優れた性能を持
ったスピーカーシステムでした。S-3000の最大の特徴は,その強固なエンクロージャーの構造にありました。バッフル板の不要共振を
排除し,ユニット間の干渉を抑える「フルミッドシップマウント」と呼ばれるユニット支持機構を軸にした,強
固なエンクロージャーが形作られていました。「フルミッドシップマウント」は,バッフル面にユニットを取り
付けるねじがないのが特徴で,3つのユニットがすべてバッフル以外の箇所で支持され,これにより音質
に悪影響を与えるバッフル面の不要振動が抑えられていました。ウーファーは,高剛性のアピトン合板2
枚の間に2.5mm厚の鉄板をはさみ込んだエンクロージャーベース(底板)にアルミダイキャストのフレー
ムでがっちり固定されていました。ミッドレッジ・トゥイーターは,高密度針葉樹パーチクルボードをアピトン
板でサンドイッチしたアピトンPCBのインナーバッフルに磁気回路後部を強固に固定されていました。
バッフルの共振を抑える「ミッドシップマウント」方式を採用したスピーカーのラインナップを当時のパイオ
ニアは揃えていましたが。S-3000はその中の最高級機として,上記のように,ウーファーだけでなく,
ミッドレンジ,トゥイーターをも含むすべてのユニットをミッドシップマウント化した「フルミッドシップマウント」
方式という凝ったエンクロージャー構造になっていました。また,前面バッフルは左右のコーナーにRをと
ったラウンドバッフルとして音の回折現象を排除していました。
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「ミッドシップマウント」構造に加え,エンクロージャー全体,ユニットなどの面からも無共振化が図られ,
音の純度が高められていました。バッフル板,裏板,天板は互いに密度の異なる高密度パーチクルボ
ードを組み合わせてエンクロージャー全体が高剛性化されていました。さらに,ウーファー,ミッドレンジ,
トゥイーターの各磁気回路は,鉄材を銅メッキ処理し,異種金属の組み合わせによる共振点の分散の
効果により,ユニットの不要振動が大幅に抑えられていました。ネットワークも,基板とキャビネット,基
板と各素子の間に防振材を介在させ,ネットワークの微少振動による歪みを抑えていました。
また,専用のスピーカーベースCP-3000(2台1組,¥60,000)が用意され,高密度アピトンPCB
積層構造の強固なこのスピーカーベースがS-3000と六角ボルトにより一体化されると,設置状態で
の振動特性がトータルで改善され,65kgという重量級のフロア形システムとなりました。(写真の状態)ユニットにおいては,TADで培われた技術を生かして,ユニットの駆動力を高めるために,磁気回路の
高性能化が図られ,従来のレベルを大きく超えた「高磁束密度」の磁気回路が開発・搭載されていまし
た。この「高磁束密度化」は,TADで培われた高精度か高技術を生かしたもので,(1)強力なマグネット
の使用,(2)ミクロンオーダーの高精度工作技術で追い込んだギャップ幅とポールピース,ボイスコイル
マグネットの高い真円度,(3)ギャップへと効率よく磁束を集める磁気回路の形状開発などによるもので
した。この強力な磁気回路により,微少な入力信号に鋭く応答する反応のよいユニット駆動が可能とな
っていました。
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トゥイーターは,2.5cm口径のドーム型で,炭素原子を2次元的に配列させた結晶構造を持つグラファイ
トをバインダーやベース材をいっさい用いずに成形しセラミック化した新素材,純度99.99%のセラミック
グラファイトの振動板を採用していました。このセラミックグラファイト振動板は軽量かつ高剛性で,高内部
損失という優れた特性を持っていました。磁気歪みや不要振動を抑えるために銅メッキが施された磁気
回路には,φ85×20mmのストロンチウムフェライトマグネットを使用し,20,000ガウスという高磁束密
度を持たせていました。
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ミッドレンジは,6.5cm口径のトゥイーターと同じくセラミックグラファイトドーム型振動板を採用し,φ156×
17mmのストロンチウムフェライトマグネットにより,16,000ガウスという高磁束密度の高精度な磁気回
路で駆動されていました。磁気回路の鉄部にはトゥイーターと同様に銅メッキが施され,磁気歪みが低減
されていました。さらに,タンジェンシャルエッジとエッジワイズ巻きのボイスコイルなども採用され,信号へ
の応答性が高められていました。ウーファーには高剛性で軽量かつ内部損失の大きい素材ニューインプルーブドカーボングラファイトを新た
にカーブ形状で使用した30cmコーン型ユニットを搭載し,φ165×24mmの大口径ストロンチウムフェライ
トマグネットによる,14,000ガウスという高磁束密度の磁気回路で駆動されていました。磁気回路はトゥ
イーター,ミッドレンジと同様に銅メッキが施され,磁気歪みが低減されていました。さらに,磁気回路にポ
ールピースの切れ込みとサブポールを設置し,磁束密度を前後対称にしてボイスコイルの振幅歪みを抑え
るLDMC(Linear Drive Magnetic Circuit)を採用していました。以上のように,S-3000は,パイオニアが無共振化技術を投入した強固なエンクロージャーにTADの技術
を投入した高性能なユニットを搭載した,高性能なスピーカーシステムでした。決して派手な存在とはいえま
せんでしたが,その歪み感の少ない鮮やかな音は印象に残っています。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
動かす思想。静止させる思想。
鋭く応答するユニットと,無共振化を追求したフルミッドシップマウント。
◎バッフル板の不要共振を排除する先進の鋭い応答性で,空間を描写する。
支持機構フルミッドシップマウント
◎エンクロージャーの素材の選択からネットワーク
まで。細部にわたりシステムの無共振化を徹底
◎ミッドシップマウントに直結。スピーカー自体の振動を
抑える重量級スピーカーベース。
◎純度99.99%のセラミックグラファイトと
20,000ガウスの高磁束密度が,音場感を
際だたせた2.5cmドームトゥイーター
◎新素材セラミックグラファイトの
鮮やかな表現力。16,000ガウスの高磁束
密度でドライブする6.5cmミッドレンジ
◎豊かに広がる,圧倒的な重低音。14,000
ガウスの高磁束密度を実現したφ165mm
大口径マグネット採用30cmコーンウーファー
◎妥協を排し,あくまでも高音質を追求した
高純度ネットワーク,ラウンドバッフル
形式 | 位相反転式ブックシェルフ型 |
スピーカー | ウーファー:30cmコーン型
ミッドレンジ:6.5cmドーム型 トゥイーター:2.5cmドーム型 |
インピーダンス | 6Ω |
再生周波数帯域 | 25Hz〜40,000Hz |
出力音圧レベル | 90dB/W(1m) |
最大入力 | 180W(EIAJ) |
クロスオーバー周波数 | 450Hz,3,500Hz |
外形寸法 | 410(W)×725(H)×360(D)mm |
重量 | 47kg |
※本ページに掲載したS-3000の写真・仕様表等は1987年9月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作
権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をす
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