YAMAHA
NS-890
NATURAL SOUND SPEAKER ¥89,000
1978年に,ヤマハが発売したブックシェルフ型スピーカーシステム。比較的縦長のエンクロージャー
に4つのユニットを納めた,ヤマハの歴史上でも珍しい4ウェイスピーカーシステムで,
NS-1000M
や
NS-690シリーズとは,また違った魅力を持った1台でした。
NS-1000Mで開発されたベリリウムドームユニットは,当時鮮烈なほどの鮮やかな中高域再生能力
で高い評価を得る一方,音の硬さ,低域とのつながりの難しさなども指摘されていた面がありました。
実際,NS-1000Mでは,甘口の低域と辛口の中高域のバランスをとるのが使いこなしのこつである
とともに,難しさでもありました。
NS-890は,中域ユニットとして,ベリリウムドーム型のミッドハイとコーン型のミッドバスを搭載するこ
とで,高域から低域にかけてのつながりをよりスムーズにして,より鳴らしやすいスピーカーシステムと
しようとしたもので,そのための4ウェイ構成でした。
トゥイーターは,3.0cm口径のドーム型のJA-0520で,NS-1000M同様にベリリウム振動板を採
用していました。ベリリウムを半導体製造技術に用いられる電子ビーム真空蒸着法を応用してドーム
型に成形したもので,5ミクロンの厚さのコーティングすることにより,科学的に活性なベリリウムを空
気中の物質から保護していました。ベリリウム振動板には,耐熱処理が施されたアルミリボン線エッジ
ワイズ巻ボイスコイルが直結され,粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂を二重コーティングした特殊繊維のタ
ンジェンシャルエッジによって支えられていました。ボイスコイル背後の空間のセンターポールをテー
パー状にして,隙間には吸音材を充填して共振による影響を抑えていました。
磁気回路は,直径80mm,重量0.8kgで,磁束密度14,500ガウス,総磁束20,000マックスウェル
のフェライトマグネットを使用し,再生周波数帯域は2kHz〜20kHzを実現し,特に3次高調波歪成分
の少ない6kHz以上を使用していました。

ミッドハイは,5.0cm口径のドーム型のJA-0521で,トゥイーター同様にベリリウム振動板を採用し,
耐熱処理が施された銅リボン線エッジワイズ巻ボイスコイルが直結され,粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂
を二重コーティングした特殊繊維のタンジェンシャルエッジによって支えられていました。エッジの動き
をスムーズにするためにエッジ背面のアウターポールに空気穴をあけ,エッジ背面の空気を逃がして
いました。また,センターポールをテーパーをつけてくりぬいた空気室は,振動板の背後で空気共振を
防ぎ,振動板のリニアな動作を確保して,大入力時の歪みを抑えていました。
磁気回路は,直径100mm,重量1.2kg,総磁束12,000マックスウェル,磁束密度15,500ガウ
スのフェライトマグネットを搭載していました。このベリリウムミッドハイは,500Hz〜10kHzの再生周
波数帯域を実現し,この中でも特に歪みの少ない2kHz〜6kHzの部分を使用していました。
ミッドバスは,12cm口径のコーン型のJA-1205で,軽量に仕上げられたコーン紙を使用していま
した。ボイスコイルは,耐熱処理が施された銅リボン線を巻いたもので,直径が42mmありました。
エッジは,布を樹脂系材料で特殊加工したもので,使用帯域内の振幅に対して高いリニアリティを実
現していました。磁気回路は,直径90mm,重量1kgのフェライトマグネットで,総磁束60,500マッ
クスウェル,磁束密度11,300ガウスのものが搭載されていました。このミッドバスは,400Hz〜
8kHzの再生帯域を実現し,この中でも特に歪みの少ない600Hz〜2kHzの部分を使用していまし
た。

ウーファーは,30cm口径のコーン型ユニットJA-3065で,コルゲーション入りのコニカルタイプとさ
れ,パルプコーンながら分割振動も少なく抑えられていました。エッジには気密性にすぐれたウレタン
ロールエッジが採用されていました。磁気回路は,直径156mm,重量4.4kg,総磁束200,000
マックスウェル,磁束密度10,000ガウスの強力な大型フェライトマグネットが採用されていました。
ボイスコイルボビンには,デュポン社のナイロン繊維系のノーメックスが採用され,銅リボン線のエッ
ジワイズ巻きのロングボイスコイルを採用して,リニアリティのよい動作が確保されていました。セン
ターポールには銅キャップが被せられて磁気歪みが抑えられていました。
このウーファーは,最低共振周波数20Hz,再生周波数帯域は20Hz〜2kHzで,600Hz以下の
歪みの少ない帯域を使用していました。フレームは1.3kgのアルミダイキャスト製で,総重量6kg
のウーファーをしっかりと支える構造体となっていました。
ネットワークは,コイルにフェライトコア入りのボビンに直流抵抗の少ないホルマール線を巻いたも
のが使用され,コイル同士のインダクタンスを少なくするためにお互いに直角に取付けられていま
した。コンデンサーには,特性のよいMPコンデンサーが採用されていました。クロスオーバー周波
数は,ウーファーとミッドバスが600Hzのクロスーオーバー周波数で12dB/oct,ミッドバスト,ミッド
ハイが2kHzで12dB/oct,ミッドハイとトゥイーターが6kHzで12dB/octとされていました。
エンクロージャーは,完全密閉型のブックシェルフ型で,表面はオーク仕上げ,バッフル板のみ黒色
仕上げとなっていました。素材は,全面ともパーティクルボードで,バッフル板と裏板は厚さ25mm,
他は厚さ18mmで,各所に補強を施した頑丈なものとなっていました。
以上のように,NS-890は,ヤマハの中堅モデルとして,意欲的な設計の4ウェイシステムとして仕
上げられ,音のまとまりもよく考えられた1台でした。名機NS-1000MとNS-690の間に挟まれた
感じで,損をした感じはありましたが,再生レンジのゆとりも感じられ,実力派のスピーカーでした。