YAMAHA NS-690V
NATURAL SOUND SPEAKER ¥79,000
ヤマハが1980年に発売したスピーカーシステム。1973年発売のオリジナルモデルNS-690から数えて3世代目のモデル
にあたり,各部に改良が施され,ヨーロピアンサウンドに磨きがかけられ,完成度の高い音楽性豊かな音を聴かせてくれた名
機でした。

オリジナルモデルNS-690(¥60,000)は,白木エンクロージャー,ソフトドームユニットなどを特徴とし,バランスのとれた音
楽再生で人気を呼び,ビクターのSX-3とともにソフトドームユニットの名機としてロングセラーを続けることになりました。1975
年には,NS-690Uにマイナーチェンジを受け,このNS-690Uが「ヨーロピアンサウンドの名機」としてロングセラーを続けま
した。
NS-690Vは,ロングセラーモデルNS-690シリーズの改良型最終モデルとして,その基本設計を受け継ぎ,より高性能化
されたモデルでした。最大の改良点は,ウーファーユニットでした。NS-690Vでは,ウーファーユニットのコーン紙に,世界で
初めてスプルース100%のコーン紙を採用していました。スプルース材は,ピアノの響板に使われることの多い素材で,音の
響きの美しい木材といわれています。ヤマハは,世界のいろいろな樹木の中からこのスプルースを選び,オリジナルの100%
スプルースパルプによるコーンを苦心の末,完成させたということでした。NS-690Vのスプルースコーンには,特に響きの美
しいグランドピアノの響板用のスプルースを採用し,しかも,1本の木の中でも特に木目の素直なところを使用するという贅沢な
ものでした。まさに,楽器メーカーヤマハならではのコーンユニットといえました。

ウーファーユニット・JA-3060Aは,30cm口径のコーン型で,コルゲーション入りのコニカルタイプ,分割振動を抑えた広いピ
ストニックモーション領域を確保していました。エッジは,発泡ウレタンのロールエッジを使用していました。ボイスコイルは,銅
リボン線をボビンにエッジワイズ巻きしたロングボイスコイルタイプで,156φ(外径)−80φ(内径)−20t,磁束密度10,000
ガウス,総磁束200,000マックスウェルの大型フェライトマグネットともに大入力にも耐える強力な駆動系を形成していました。
この強力なウーファーユニットは立ち上がりのよいクリアな低音を実現していました。

スコーカーとトゥイーターにはNS-690伝統のソフトドームユニットが搭載されていました。ソフトドーム型の振動板は,織布にコ
ーティング剤を塗布して成形するため,コーティング剤が実質的な振動板にあたり,その音への影響は大きいものがあります。
NS-690Vでは,数種類の粘弾性薬品をブレンドしたマルチコーティング剤を開発し採用していました。また,ソフトドームの布
は専用に開発した織布で,縦糸と横糸の密度を同じにして,方向性やバラツキを抑えていました。そして,このソフトドームは,
専用布にコーティング剤を塗布後,タンジェンシャルエッジも含めた一体成形で作られ,高い精度とバランス確保をしたものでし
た。

スコーカーユニット・JA0701Cは,7.5cm口径のドーム型で,上記のような優れたソフトドーム振動板により高いリニアリティ
を実現していました。ガラス繊維を用いたFRPシートに占積率の良い銅平角線を強固に巻いた高耐入力のボイスコイルは,空
気穴をあけて内外の空気圧を均等にしスムーズな動作を確保したボビンとともに,ハイトランジェントでリニアな駆動を得ていま
した。磁気回路には120φ〜60φ−22t,磁束密度14,500ガウス,総磁束72,000マックスウェルの大型フェライトマグネ
ットが搭載され,この強力な磁気制動とユニット内部のグラスウールとスコーカーユニットのバックキャビティにより300Hzという
低いfoが実現し,300Hz〜15kHzという広帯域な特性を実現していました。NS-690Vでは,特に低歪率な800Hz〜6kHz
の帯域で余裕をもって使っていました。

トゥイーターユニット・JA0509Cは,3cm口径で,特に軽量化に留意して作られていました。ドーム本体を薄手にし,薄くなった
分強度を増すためにより深いドーム形状に仕上げられていました。ボイスコイルは,軽量で導電率に優れる純アルミリボン線を
エッジワイズ巻きにし,軽量化のため,ボイスコイルボビンレス構造で振動板直結とされていました。磁気回路には80φ〜40φ
−20t,磁束密度15,500ガウス,総磁束22,000マックスウェルの強力なフェライトマグネットが搭載されエッジのスムーズな
動きを得るためにエッジ背面のアウターポールにあけられた空気穴の効果と相まってトランジェントの良い高域を実現していまし
た。

NS-690Vの内部

ネットワークは,NS-1000Mの設計に似た,大型フェライトコアと高純度の銅線を使用したインダクタとオールMP(メタライズド・
ペーパ)コンデンサーという贅沢な構成がとられ,コイル同士は互いの影響をなくすように直角に十分な距離を保って配置された
ものでした。
キャビネットは,完全密閉型で,高密度パーチクルボードを使用したものでした。バッフル板と裏板は25mm厚,側板と天板は20
mm厚の頑丈なキャビネットは,各部に補強が行われ,ユニット搭載時に27kgの重量に達する,徹底した無共振化が図られた
堅牢なものでした。内部には,新しく厳選された2種類の吸音材はたっぷり詰め込まれ,キャビネットに取り付けられるユニットの
フレームも重量級のアルミダイキャスト製で,振動板を強固にサポートしていました。キャビネットの仕上げは,アメリカンウォルナ
ットのリアル化粧でオープンポア仕上げとなり,従来より茶色が濃くなり,落ち着いた仕上げになっていました。

以上のように,NS-690Vは,NS-690の最終モデルとして入念な作りがなされ,高い完成度を誇るスピーカーとなっていまし
た。NS-1000Mとはまた違った,クラシックを得意とする明るいヨーロピアンサウンドは,音楽を聴く道具としてすばらしいもので
した。ヤマハのスピーカー史の中で,このシリーズは,1000Mと並ぶロングセラーの名機だったと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 

グランドピアノ用スプルースコーン紙による
新開発ウーファや
豊かに音楽性を深めた
ソフトドームスコーカ&ツィータなど
あらゆる部分が音楽を鑑賞する人のための
完熟のマークV

 
 

●NS-690Vの主な規格●


型式 完全密閉3ウェイ
使用スピーカ ウーファー JA-3060A・30cmコーン型 
スコーカー JA-0701C・7.5cmソフトドーム型 
ツィーター JA-0509C・3.0cmソフトドーム型
最大許容入力 80W
定格入力(JIS連続) 40W
音圧レベル 90dB/W/m
周波数特性 35Hz〜20,000Hz
最低共振周波数(fo) 40Hz
インピーダンス 8Ω
クロスオーバー周波数 800Hz,6000Hz
レベルコントローラー 中・高音,連続可変+3dB〜−∞
エンクロージャー アメリカンウォルナットオープンポア仕上げ
ボックス内容積 44リットル
外形寸法 358(W)×630(H)×315(D)mm
重量 27kg


NS-690の写真
YAMAHA  NS-690
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM  ¥60,000

NS-690のオリジナルモデルは,上述したように1973年に発売されました。ブックシェルフ型キャビ
ネットにソフトドームスコーカーとトゥイーターを搭載した3ウェイ構成で,前年にビクターから発売され
たSX-3と同様に白木のキャビネットが目を引きました。また,当時ヤマハが展開していたNS-600
シリーズ(NS-670(¥45,000),NS-650(¥33,000),NS-630(¥27,000),NS-620
(¥21,000)がありました。)の最上級機でもありました。

ウーファーユニット・JA-3056は,30cm口径のコーン型で,重量が大きく非常に丈夫でヤング率が
大きく内部損失も大きいコーン紙が使用されていました。コーン紙は複合カーブドコーンに成形され,
高域再生限界と強度が高められていました。
ボイスコイルは,磁気効率の良い銅リボン線をエッジワイズ巻きにしたロングボイスコイルで,直径
66mmの大口径ボビンに巻かれていました。
ボイスコイルをドライブする磁気回路には,156φ(外径)−80φ(内径)−20T,有効空隙磁束密
度10500ガウスの強力なフェライトマグネットを使用していました。また,センターキャップは中心部
に通気性の良い薄い素材を使い,キャップ内部の空気を外部へ逃がしてリニアーな振動を実現して
いました。

NS-690のウーファー

スコーカーユニット・JA-0701は,口径7.5cmのソフトドーム型ユニットで,NS-690を大きく特徴づ
ける部分でした。ヤマハ新開発のソフトドーム振動板は,検討の上厳選された布に形状保持のための
熱硬化性樹脂と共振抑えの粘弾性樹脂を2重にコーティングしたもので,タンジェンシャル型エッジとと
もに熱板プレスで一体成型されたものでした。このように振動板とエッジ部の一体成型であるために寸
法誤差や偏重心などの要因が除かれ高い精度を実現し,振動板としてすぐれた特性を実現していまし
た。タンジェンシャル型エッジは,ドーム状振動板の円周から接線方向に多くのヒダを作ったもので,サ
スペンションを長くするとともにエッジでの定在波の発生を抑え,リニアリティを高めていました。
ボイスコイルは,銅リボン線をボビンにエッジワイズ巻きしたもので,ボビンには,当時すでに同社の
大入力スピーカーに使用されて実績のあったFRPシートが採用されていました。これは,ガラス系繊維
を素材としたもので,200℃以上の温度上昇にも耐える丈夫なボビンでした。また,ボビンには数か所
空気穴が設けられ,ボビン内外の空気圧を平衡化して歪みを低減していました。
磁気回路には,120φ−60φ−22t,有効空隙磁束密度14,500ガウスの大型フェライトマグネット
が搭載され,振動系のQを0.5と充分に下げて過渡特性を改善していました。この強力な磁気制動と
ユニット内部のグラスウールとスコーカーユニットのバックキャビティにより280Hzという低いfoが実現
し,800Hz〜6kHzの帯域で,余裕を持って低歪率でフラットな再生をさせていました。

NS-690のスコーカーユニット

トゥイーターユニットJA-0509は,口径3.0cmのソフトドーム型ユニットで,スコーカーと同系統の材質
を使用し,2重コーティングやタンジェンシャル型エッジとの一体成型など製法も同一ですが,小さい口径
に合わせて,ドーム本体を薄手にし,薄くなった分強度を増すためにより深いドーム形状に仕上げられて
いました。ボイスコイルは,軽量で導電率に優れる純アルミリボン線をエッジワイズ巻きにし,軽量化のた
め,ボイスコイルボビンレス構造で振動板直結とされていました。磁気回路には80φ−40φ−20t,有
効空隙磁束密度15,500ガウスの強力なフェライトマグネットが搭載され,スコーカーと同様にエッジ背
面のアウターポールに空気穴を設け,エッジ部の空気を逃がしてエッジの動きをスムーズにしてリニアリ
ティを高めていました。

NS-690のトゥイーター

ネットワークは,大型フェライトコア入りのボビンに1φホルマール線を巻いたものと高純度の銅線を使用
したインダクタとMP(メタライズド・ペーパ)コンデンサーという贅沢な構成がとられ,コイル同士は互いの
影響をなくすように直角に十分な距離を保って配置されたものでした。

NS-690の内部NS-690の背面

キャビネットは,完全密閉型で,バッフル板と裏板は25mm厚パーチクルボード,側板と天板は20mm厚
の合板を用いていました。さらに,ウーファー取付穴の上部に25mm厚の合板をくりぬいた強固な補強材
を渡したほか,各部に補強が施されていました。内部にはグラスウールが充分に詰め込まれて箱内の音
圧を低減し,ウーファーをしっかりと制動するようになっていました。キャビネットの仕上げは,キャストール
(栓)オープンポア仕上げで,当時非常に新鮮な明るいデザインでした。
NS-1000M同様に,−∞〜+3dBまで連続可変タイプのスコーカーとトゥイーターのレベルコントローラー
が備えられていました。
また,初代NS-690の背面には,ワッタッチタイプのプッシュターミナル式入力端子に加えマルチチャンネ
ル用端子も設けられていました。

以上のように,NS-690は,NS-600シリーズの最上級機として,NS-1000Mとは違った魅力を持った
力作でした。モニタースピーカー的特性をもったNS-1000Mに対して,音楽を聴くスピーカーとして使いや
すい面を持った1台で,バランスの取れたクリアな明るい音は高い人気を得,この後モデルチェンジを受け
ながらロングセラーモデルとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ソフトドームによる
リッチでさわやかな中高音,
ハイコンプライアンスウーファー
による重低音
ブックシェルフの本格派!!


◎豊かな再現性を追求した総合設計
◎2重コーティングによるヤマハ独自の
  精巧なソフトドーム型ユニット
◎リッチな音質のスコーカーJA-0701
◎クリアーな音質のツィーターJA-0509
◎重厚な低音域再生を実現する
  30cmウーファーJA-3056
◎細心設計のネットワーク
◎堅牢な重量級エンクロージャー




●NS-690の規格●

使用スピーカ ウーファー JA-3056・30cmコーン型 
スコーカー JA-0701・7.5cmソフトドーム型 
ツィーター JA-0509・3.0cmソフトドーム型
最大許容入力 60W
音圧レベル 90dB/W/m
周波数特性 35Hz〜20,000Hz
最低共振周波数(fo) 40Hz
インピーダンス 8Ω
クロスオーバー周波数 800Hz,6000Hz
ネットワーク
3ウェイ・12dB/oct
レベルコントローラー 中・高音,連続可変型
エンクロージャー 密閉ブックシェルフ型
キャストールオープンポア仕上
外形寸法 350(W)×630(H)×312(D)mm
重量 22kg


NS-690Uの写真NS-690Uのサランネット
YAMAHA  NS-690U
NATURAL SOUND SPEAKER  ¥69,000

NS-690は,1975年にNS-690Uにモデルチェンジされました。ソフトドーム型ユニット,白木(栓)の
外観は継承されていましたが,キャビネットの作りをはじめ,各部に改良が施されていました。

最大の変更点はウーファーでした。同じ30cm口径ながらNS-1000Mのウーファー・JA-3058Aと構
造的にも素材的にもほとんど同一なユニット・JA-3060を新たに搭載していました。そのため,コルゲー
ション入りのコーン紙で,コニカルタイプに仕上げられた,当時としては非常に強力なコーン型振動板を直
径156mmの大型・強力なフェライトマグネットで駆動する,クラスを超えた強力なユニットとなっていました。
ボイスコイルボビンには,デュポン社のナイロン繊維系のノーメックスが採用され,ボイスコイルは銅リボン
線のエッジワイズ巻きになっていました。銅センターキャップの採用により,インピーダンス特性のあばれが
抑えられ,歪みが低減されていました。1000MのJA-3058Aとの大きな違いはエッジ部で,JA-3058A
は,熱硬化樹脂と共振抑えの熱弾性樹脂を2重コーティングした布によるエッジでした。NS-690Uに搭載
されたJA-3060では,ソフトドーム型ユニットとのバランスが考慮され,コンプライアンスにまさる発泡ウレ
タンエッジが採用されていました。

NS-690Uの内部

もう一つの大きな変更点はキャビネットの強化でした。寸法や構造は同じでしたが,それまでR/C合板
であった側板と天板が裏板と同じパーチクルボードになっていました。また,パーチクルボード自身も試
聴によって選ばれた響きの良い針葉樹系の素材に変わり,密度も従来より10%高くなっていました。
また,バッフル板のウーファー切り抜き部分が有効利用されて裏板に補強材として裏板に接着され,より
裏板の強度が高められていました。また,裏板の密閉方式もネジ止めから接着方式に変更され,より密
閉度が高められていました。これらの改良が施されたキャビネットは40%近く重量が増加し,スピーカー
システム全体の重量も22kgから27kgとなり,ブックシェルフ型としては重量級のシステムとなっていまし
た。また,サランネットはグレーから落ち着いたブラウンに変わり,少し横に丸みが付けられて外観の印
象も少し変わっていました。

その他,ソフトドームユニットも新しい混合塗布剤が開発されて塗布され,キャビネットの仕上げ用塗布剤
もチェックされていました。スピーカーユニットのダイキャストフレームも内容や製法が見直され改良されて
いました。細かく見れば90%以上の部分で見直し,改良がなされたNS-690Uは,より円熟した音になっ
ていました。マルチアンプ端子も省かれていたのは,システム自身のバランスが高められたということだっ
たのかもしれません。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



完成されたソフトドームによる
リッチで爽やかな中高音
ピストンモーションのウーファに
よる豊かで緻密な低音
ハーモニーの虹が広がる
センシティブでエレガントな音


◎NS-1000/Mそのままのウーファを・・・・
◎リッチで気品あふれるスコーカ
◎爽やかで気品あふれるツイータ
◎細心で贅沢なネットワーク
◎27kgもの重量級キャビネット
◎小入力から大入力までリニアな波形伝送




●NS-690Uの規格●

使用スピーカ ウーファー JA-3060・30cmコーン型 
スコーカー JA-0701B・7.5cmソフトドーム型 
ツィーター JA-0509B・3.0cmソフトドーム型
最大許容入力 80W
音圧レベル 90dB/W/m
周波数特性 35Hz〜20,000Hz
最低共振周波数(fo) 40Hz
インピーダンス 8Ω
クロスオーバー周波数 800Hz,6000Hz
ネットワーク
3ウェイ・12dB/oct
レベルコントローラー 中・高音,連続可変型
エンクロージャー 密閉ブックシェルフ型
キャストールオープンポア仕上
外形寸法 350(W)×630(H)×312(D)mm
重量 27kg

※ 本ページに掲載したNS-690,NS-690U,NS-690Vの
 写真・仕様表等は1974年4月,1976年5月,1981年4月
 のYAMAHAのカタログより抜粋したもので,日本楽器製造
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
 を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられています
 ので,ご注意ください。
 

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