YAMAHA NS-2000
NATURAL SOUND SPEAKER ¥228,000
ヤマハが1982年に発売した大型の密閉型ブックシェルフスピーカーシステム。1974年発売の1000M直系の上級機
として発売されたスピーカーシステムで,NS-1000Mの良さを引き継ぎながら,より高性能をめざした意欲作でした。ヤ
マハ自身,名機NS-1000Mを超えることは容易ならざることだったようで,本システムの発売まで8年もかかったことが
それを物語っているともいわれたものでした。NS-2000の最大の特徴は,「ピュアカーボンファイバーコーン・ウーファ」でした。カーボンファイバー(炭素繊維)自体はそ
の軽さと高剛性が注目されてスピーカーの素材として早くから使われていましたが,細かく切ったものをパルプコーンに混
ぜて使ったものがほとんどで,カーボンファイバー自体を振動板に使ったものはそれまで見られませんでした。ヤマハ自身
パルプコーン以外のコーンを初めて使ったのが本機でした。NS-2000の「ピュアカーボンファイバーコーン・ウーファ」は,
カーボンファイバーの優れた性質を生かすために,カーボンファイバーを長い繊維状のままコーン型に成形する工夫を行っ
ていました。繊維が一方向にそろった8枚のカーボンファイバーのシートを放射状に並べ,その裏側には同じくカーボンファ
イバーのベルト状のものを渦巻き状にして合わせ,この2つを特殊樹脂でがっちりと一体のコーン状に固めて作られた振動
板でした。こうして作られたピュアカーボン振動板は指で押してもかちかちなほど高い剛性を持ち,反応の早い低音を実現
していました。
ウーファーを駆動する磁気回路は,有限要素法によるシミュレーションで磁束分布を計算し,ボイスコイルに働く駆動力の歪
み成分が最少になるように設計されていました。マグネットは180φ-100φ-20tという強力な大型フェライトマグネットが
使われ,ボイスコイルは88φの大口径,エッジワイズ巻きのロングボイスコイルとしていました。エッジは,発泡ウレタンの
ロールエッジで,フレームは肉厚の特殊アルミ合金製の高剛性なものでした。
スコーカーは,NS-1000M直系の「ピュアベリリウムドーム・ユニット」が搭載されていました。軽量で高剛性のベリリウム
をLSI製造技術に用いられている電子ビーム真空蒸着法で成形した振動板は,極めて反応の早い音を実現していました。
NS-2000では,NS-1000Mに比較してさらに粒子の細かなものによる振動板を製造し,また,より深いドーム状に成形
した振動板として,よりきめ細かな表現力と広い指向性を実現していました。
磁気回路は,180φ-50φ-20tmmとスコーカーとしては極めて大型のフェライトマグネットを使用していました。エッジは,
粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂を二重にコーティングしてリニアリティを高めた特殊繊維のタンジェンシャルエッジとしていました。
これらの結果,スコーカーは周波数特性的には300〜10,000Hzと大変広い周波数をカバーし,foも320Hzと低くとれた
結果,ウーファーとのスムーズなつながりが実現していました。ツィータは,ピュアベリリウム振動板を口径23mm,重さ0.028gという小型・軽量なものとし,100φ-50φ-20tmmという
大型のフェライトマグネットによる磁気回路により,可聴帯域外まで余裕を持って再生する能力を持っていました。スコーカー
同様にタンジェンシャルエッジにより振動系を支えていました。エンクロージャーは,内容積80リットルの大型なもので,全面に25mm厚の高密度パーチクルボードを使用し,補強桟,隅材
を大量使用した強固なエンクロージャーとしていました。前面は,ブナのムク材によるラウンドバッフルとし,ユニットをインライ
ンセンター配置して,水平面の指向性を左右対称としてより明確な音像定位を実現していました。エンクロージャーはモーダ
ル解析などの当時最新の振動解析により設計され,ただ振動を抑え込むだけでなく,全体の振動のバランスが良くなるような
設計とされていました。
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ネットワークは,NS-1000Mの設計を受け継ぎ,大型フェライトコアと無酸素銅線を使用したインダクタとオールMP(メタライ
ズド・ペーパ)コンデンサーという贅沢な構成がとられ,コイル同士は互いの影響をなくすように直角に十分な距離を保って配
置され,線材は全て無酸素銅線とし,1本1本融着処理して鳴きを止めたものを使用し,これらの部品を専用のモールドベー
スに配置した構造としていました。以上のように,ヤマハが自らの名機NS-1000Mを超えるべく開発したNS-2000は,その鮮烈な中高域に引き締まった低
音が重なるという,従来のNS-1000Mにはない音を持っていました。当時,試聴してその鮮烈な音に,思わず欲しくなった
ことを今でも覚えています。また,NS-2000はNS-1000M以上に,アンプのちがいを鳴らし分ける能力を持ち,実は意外と
アンプの性能を要求する,使いこなしがいのあるスピーカーでもありました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ピュア・カーボン・ファイバーの
新型ウーファをはじめ無数の
新技術が一つにシステムとして
融解結晶してどうしようもなく音楽的で
人間的に完熟した感動の音
◎新開発ピュアカーボンファイバーコーン・ウーファ
◆カーボンファイバーの特性を100%生かす
◆新設計低歪磁気回路を採用
◎ピュアベリリウムドーム・スコーカー
◆リニアリティに優れたタンジェンシャルエッジ
◆オリジナル・アコースティックディフューザ
◆ヤマハならではの豪華で強力な磁気回路
◎ピュアベリリウムドーム・ツィータ
◆有害な3次高調波歪が減少
◎新設計ラウンドバッフル
●NS-2000の主な規格●
型式 | 完全密閉型3ウェイ |
使用ユニット | ウーファ:33cmカーボンダイヤフラム・コーン型
スコーカ:8.8cmベリリウムダイヤフラム・ドーム型 ツィータ:3cmベリリウムダイヤフラム・ドーム型 |
許容入力 | 125W |
ミュージック許容入力 | 250W |
インピーダンス | 6Ω |
出力音圧レベル | 90dB/1m・1W |
最低共振周波数 | 33Hz |
再生周波数帯域 | 28〜20,000Hz |
クロスオーバー周波数 | 500Hz,6kHz(−12dB/oct) |
レベルコントロール | 中音:+3dB〜−∞
高音:+2dB〜−∞ |
エンクロージャー | 完全密閉型,ラウンドバッフルタイプ |
ボックス内容積 | 80リットル |
外装 | アメリカンウォルナット・オープンボア仕上げ |
外形寸法 | 752H×440W×404Dmm |
重量 | 47kg |
※本ページに掲載したNS-2000の写真・仕様表等は1982年9月の
YAMAHAのカタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著
作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
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