YAMAHA
NS-1000x
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM ¥158,000
1984年にヤマハが発売したスピーカーシステム。同社を代表する名機
NS-1000Mの発展形とも
NS-2000の弟機ともいえるスピーカーシステムで,ヤマハらしさをしっかり凝縮した1台でした。
ウーファーは,NS-2000で開発された「ピュアカーボンファイバーコーン・ウーファ」が搭載されてい
ました。NS-2000の33cm口径に対してやや小振りの30cm口径のもの(JA-3114)でしたが,
構造等は同じものとなっていました。繊維方向の剛性が著しく高いカーボンファイバーの特性を生か
すために,コーン面積を8分割して扇状にし,それぞれ繊維方向が中心から放射状に並ぶよう一方
向配列コーンに仕上げられていました。その上で,このコーンを,1/16ずつずらして4枚重ね,全
体で4層構造となっていました。後面には,同じピュアカーボンによる8本の同心円状のコルゲーショ
ンが設けられ,表面の繊維と直角方向の同心円の剛性が高められ,カーボンファイバーを用いたコ
ーンとしてはクロスカーボンタイプより,カーボン繊維の剛性がそのまま生かされた最も剛性の高い
構造となっていました。コーンの形状は,NS-2000と同様のストレートタイプのコニカルコーンとなっ
ていました。エッジ部は,NS-2000のウレタンと異なり,NS-1000Mゆずりの布製エッジとなって
いました。
ウーファーを駆動する磁気回路は,NS-2000以来の有限要素法によるシミュレーションで磁束分
布を計算し,ボイスコイルに働く駆動力の歪み成分が最少になるように設計されていました。マグネ
ットには磁束密度10,500gaussというストロンチウムマグネットを使用し,総磁束22,000マクス
ウェルという強力な磁気回路でした。また,ボイスコイルは,無酸素銅線を使用した直径66.6mm
の大口径エッジワイズ巻のロングボイスコイルが搭載されていました。
トゥイーターとスコーカーは,NS-1000Mの改良型で,ユニットの外形寸法などの諸元は同一で
すが,それぞれJA-0548,JS-0803と称され,10年の時代を経て,ベリリウムの熱処理方法
の改良など,新たに技術が投入され強化されたものでした。

トゥイーター・JA-0548は,直径3.0cm(ドーム部2.3cm)のドーム型で,自重0.028g,高剛
性・超軽量のヤマハ自慢のピュア・ベリリウムドーム振動板に,銅クラッドアルミ線のボイスコイル
をボビンを用いずに直結した構造となっていました。ドーム振動板は粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂
を二重にコーティングしてリニアリティを高めた特殊繊維タンジェンシャルエッジに支えられ,ウー
ファー同様に強力なストロンチウムマグネットを使用した強力な磁気回路が搭載されていました。
スコーカー・JA-0803は,直径8.8cm(ドーム部6.8cm)のドーム型で,トゥイーター同様に真
空蒸着法による自重0.6gの高剛性・超軽量のピュア・ベリリウム振動板を搭載していました。
磁気回路には,ウーファー,トゥイーター同様にストロンチウムマグネットによる,磁束密度18,400
gauss,総磁束150,000マクスウェルという強力なものが搭載されていました。ボイスコイル径は
直径66.6mmとウーファーと同サイズという大口径の無酸素銅線エッジワイズ巻きのものが搭載さ
れていました。ドーム振動板を支えるエッジ部は,トゥイーターと同じく粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂が
二重にコーティングされた特殊繊維タンジェンシャルエッジとなっていました。

エンクロージャーは,ぶ厚いパーティクルボードをベースに作り上げられたNS-2000ゆずりの強
度の高い重量級のものとなっていました。ユニット配置は,NS-2000同様にインライン配置となり,
前面バッフルはラウンドバッフルとして回折効果を抑え,すぐれた指向性を実現していました。また,
NS-2000では,ラウンドバッフルは分厚い前面バッフルとしてラウンド状に加工されていましたが,
NS-1000xでは,「バイ・キャビネット」方式が採用されていました。これは,通常のオーソドックス
な角形のエンクロージャーの側板に前方側だけラウンドの付いたもう一つの側板を接着する方式
で,側板の厚みは45mmに達し,高い剛性も実現していました。
内部はウーファーの取付穴の上部に合板を背面板にわたして補強材としたり,ウーファーのくり抜
き部分を裏板の補強に使っているなど,NS-1000M以来の設計が受け継がれ,各所に補強が
施されていました。このしっかりとした内部補強に加え,モーダル解析などの当時最新の振動解析
により設計され,ただ振動を抑え込むだけでなく,全体の振動のバランスが良くなるような設計にも
なっていました。これらの結果により総重量42kgに達するNS-1000Xは,NS-1000Mゆずりの
リアルウッド仕上げ,黒色半艶仕上げで,ユニットのアルミフレームとのコントラストはヤマハらしさ
を感じさせるものでした。
また,NS-1000xと同仕様で,エンクロージャーがアメリカンウォルナットのリアルウッドオープン
ポア仕上げのNS-1000xwも発売されていました。
YAMAHA NS-1000xw
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM ¥175,000
ネットワークも,NS-1000M,NS-2000を受け継いだもので,大型のフェライトコア使用の無酸
素銅線巻きコイル,MP(メタライズド・ペーパ)コンデンサーという贅沢な構成がとられ,コイル同士
は互いの影響をなくすように離され,コンデンサーを2階建てとしたりして,専用の頑丈なモールド
ベースにセットされた構造となっていました。内部配線は,16ゲージという太いものが使用され,ヤ
マハ伝統の無中継端子方式がとられていました。スピーカー端子は,太いケーブルにも対応するた
め,1000Mのワンタッチ式からネジ式に改められていました。
以上のように,NS-1000xは,ヤマハ自身にとっても孤高の名機的存在であったNS-1000Mに
対して10年分の新しさが投入された新たな1000番でした。1000Mで課題といわれていた低域
再生能力が高まり,エンクロージャーもより強化され,低域から高域まである意味統一性のある
より現代的なストレートな音を実現していました。逆に1000Mにあった独特の中高域の艶や魅力
が薄まったという声もあり,1000xと1000Mは,また違った個性のスピーカーとして併存していく
ことにもなりました。