NS−1000Mの写真
YAMAHA NS-1000M
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM  ¥108,000(1台)
ヤマハが1974年発売以来23年間にわたって作り続け,20万台以上売れたという,言わずと知れた国産スピーカーの
名機です。他の多くのメーカーにとって,そしてヤマハ自身にとって本当の意味でどうしても超えられなかった,独走を続け
た孤高の名機でした。

何と言っても,高純度(99.99%)のベリリウムをLSIの製造にも用いられていた電子ビーム真空蒸着によって真空中
で直接ドーム型振動板に成形した,スコーカーユニットとツィーターユニットが大きな特徴でした。ベリリウムは,ハードド
ームユニットに使われる金属系素材の中でも,比重が小さく,高い剛性と硬度を持つというもので,ハードドーム型振動
板としてかなり理想的な特性を備えていたようです。特に音の伝播速度については非常に優れていました。そのため,
NS-1000Mの中高域の音のすばらしさは,現代のスピーカーと比べてもそんなに遜色はないのではと思います。さす
がにピアノメーカーでもあるためか,ピアノの音は絶品だと思います。ベリリウムは,その毒性の問題で,今はスピーカー
にはあまり使用されていないようですが,海外メーカーでは最近になって採用されている例も見られます。そして,この
NS-1000Mの成功は,その後ハードドーム型ユニットの全盛期を招いたとも言われています。

ベリリウムダイアフラム   

ツィーターJA-0513は,直径23mm,0.03g以下という超軽量のドーム型振動板を搭載し,粘弾性樹脂と熱硬化性樹脂を
二重コーティングした布製のタンジェンシャルエッジが採用され,スコーカーとの音のつながりをスムーズにする低いfo(1kHz)
を実現していました。
ボイスコイルは直径23mmで,ベリリウム振動板直結のアルミ線エッジワイズ巻きが採用されていました。ボイルコイルの背
後空間のセンターポールはテーパー化されて,不整形に吸音用ウレタンが充填され,共振の影響を抑えていました。

NS-1000MのトゥイーターNS-1000Mのスコーカー

スコーカーJA-0801は,直径68mmの大口径のベリリウムドーム振動板を搭載し,ツィーター同様に粘弾性樹脂と熱硬
化性樹脂を二重コーティングした布製のタンジェンシャルエッジが採用され,ウーファーとの音のつながりをスムーズにす
る低いfo(300Hz)と低歪率を実現していました。
ボイルコイルは,直径66mmの大口径で,銅リボン線エッジワイズ巻きとして高い効率を実現していました。振動板背後
は,センターポールをくり抜き,バックキャビティに通じ,また,エッジの背後はボイスコイルボビンの空気穴を通じ,さらに
アウターポールにも空気穴をあけてエッジ部の空気を逃がすようにして,振動板,ボイルコイル,エッジなど各部分の空
気圧が同一になるように考慮された設計となっていました。
磁気回路は,直径156mmとウーファーと同一口径という大型のマグネットを採用し,磁束密度は16,000gaussを確保
していました。

ウーファーJA-3058は口径30cmの紙コーンでしたが,これも強力なボイスコイルを持ち,じっくり検討され開発された
特製コーン紙を使った強力なユニットでした。辛口のツィーター,スコーカーの音に比べ,ウーファーの音はやや甘口だ
ったので,それをバランスをとって鳴らすのがこつでした。 また,エッジ部が当時一般的だったウレタンエッジではなく,
熱硬化性樹脂と粘弾性樹脂を二重コーティングした布製だったのも特徴で,そのため,長く使ってもエッジ部がぼろぼ
ろになることがなく,高いリニアリティを実現していました。
磁気回路は,直径156mmの大型マグネットを採用し,ボイスコイルは銅リボン線のエッジワイズ巻きとなっていました。

NS-1000MのウーファーNS-1000Mの内部NS-1000Mのネットワーク

ネットワークも強力なものが搭載されていました。専用の大型モールドベースにMP(メタライズド・ペーパーコンデンサー)が
林立し,線形の太いしっかりとしたコイルが整然と配置されたもので,かなりのコストがかかったものでした。
アッテネーターには,二重巻き線の耐入力特性のよい大型のものが搭載され,スコーカー用,ツィーター用それぞれ−∞〜
+3dBまで連続可変することができるようになっていました。
               
キャビネットも頑丈な作りで,すぐれたユニットをしっかりささえていました。前面バッフルボード24mm厚,背面板25mm厚,
側板,天板,底板には20mm厚の高密度パーチクルボードを用い,ウーファーの取付穴の上部に厚さ24mmの合板を背面
板にわたして補強材とするなど,各所に補強も施され,きわめて頑丈な構造となっていました。黒塗装仕上げでスピーカーユ
ニットの頑丈なアルミダイキャストフレームの銀色とよくマッチし,虚飾を排した精悍なデザインでした。全面の金属製の網は
取り外しができませんが,ユニットをしっかり保護してくれます。音質的にはどうなのか分かりませんが。 

NS-1000の写真
YAMAHA NS-1000
NATURAL SOUND SPEAKER SYSTEM ¥145,000(1台)

また,同一ユニットを使用し,黒檀高級ウレタン仕上げのエンクロージャーをもち,サランネットも付属した落ち着いた色
調のNS-1000も当初発売されていました。前面バッフルボード29mm厚,背面板40mm厚,側板,天板,底板24mm
厚という,より重量の増したやや大型のエンクロージャーを持つだけに,音の方もやや重厚感を増した感じになっていま
した。

以上のように,NS-1000Mは,モニターと名乗っているだけあって,高域から低域までエネルギーバランスがとれており,
バランスのとれた再生音でした。しかし,アンプの素性の違いもよく出し,アンプが駆動力がないとウーファーがしっかり動
いてくれず,アンプの力をある程度求めるところもありました。しかし,家庭でも使いやすいサイズと音のスピーカーだった
と思います。

国営放送スタジオ

当時,スウェーデン国営放送のモニタースピーカーに採用されたということで,初めて海外で認められた国産スピーカーとも
評され,このことも人気につながりました。当時,スウェーデン国営放送の試聴・選定にあたっては,アナウンサーの声が
もっとも忠実に再現されていたことが決めてであったと言われています。
1997年3月の生産中止が残念がられた1台でした。ベリリウムユニットの生産やネットワーク,アッテネーターのパーツの
入手が困難になったということなのでしかたありませんが・・・・。まさに,国産スピーカーの歴史に残る名機だったと思います。
 

以下に当時のカタログの一部をご紹介します。
  

 
 

ツィーター,スコーカーに
ベリリューム振動板採用
音楽の心を
明解な音像の中で豊かに表現
すぐれた素材から開発された
高性能スピーカーシステム

 
 
◎ベリリューム振動板の開発と採用
◎新開発の特性コーン紙採用のウーファー
◎音質を執拗にチェックしたネットワーク
◎ブラックの精悍なデザインと
  高級仕上げのエンクロージャー
                 
            
             

●NS−1000/NS-1000MONITORの規格●

使用スピーカー ウーファー JA-3058(NS-1000)・30cmコーン型
        JA−3058A(NS-1000M)・30cmコーン型 
スコーカー JA−0801・8.8cmドーム型 
ツィーター JA−0513・3.3cmドーム型
最大許容入力 100W
定格入力(JIS連続) 50W
音圧レベル 90dB/W/m
周波数特性 40Hz〜20,000Hz
最低共振周波数(fo) 40Hz
インピーダンス 8Ω
クロスオーバー周波数 500Hz,6000Hz
ネットワーク 3ウェイ,12dB/oct
レベルコントローラー 中・高音,連続可変型
エンクロージャー 完全密閉3ウェイブックシェルフ型 
黒檀高級ウレタン塗装(NS-1000)
黒色反艶仕上げ(NS-1000M)
外形寸法 395(W)×710(H)×349(D)mm(NS-1000)
375(W)×675(H)×326(D)mm(NS-1000M)
重量 39kg(NS-1000)
31kg(NS-1000M)
※本ページに掲載したNS-1000/NS-1000Mの写真,仕様表等は1981年7月の
 YAMAHAの
カタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社 に著作権がありま
 す。したがって
,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられて
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