PIONEER
M-90
STEREO POWER AMPLIFIER ¥200,000
1986年にパイオニアが発売したパワーアンプ。
C-90とのペアを想定されたパワーアンプで
セパレートアンプとしては比較的手頃な価格帯ながら,本格的な内容を持ち,デジタルオーディ
オ,AV機器等への対応を積極的に考えた設計が特徴でした。
M-90は,ペアを想定されたコントロールアンプC-90同様に,L・Rの分離と信号経路の最短化
を考えたコンストラクションがとられていました。
電源部は,電源トランス,整流回路,電源コンデンサーと,すべてL・R独立させ,電源トランスを
シャーシの中央に配置し,大電流ルートを完全にL・R分離させることで,相互干渉を排していま
した。また,パワー部に入力されるまでの信号経路は極力短く,大電流部の近くを避けるために,
ダイレクト入力に対応したボリュームもボリューム本体は入力端子の間近に配置し,アルミ製リ
モートシャフトを介してコントロールされるようにし,入力切換もリレーによる電子コントロールで,
配線の引き回しをできるだけ避けていました。

パワー部は,Pc=130Wのパワートランジスターによる4パラレル・プッシュプル構成で,定格出力
200W/8Ω,ダイナミックパワーは,280W/8Ω,750W/2Ωを実現し,高いパワーリニアリティを
確保していました。パワー部には,パイオニア自慢の可変バイアスによる「ノンスイッチング・サーキッ
ト」をさらに改良した「ノンスイッチング・サーキットTypeU」を搭載し,スイッチング歪みゼロの領域を
さらに拡大し,広帯域化を図っていました。また,電源スイッチON直後や大信号入力時,外気温の
変化などによって絶えずドリフトしているアイドル電流を瞬時に安定させ,サーマル歪の発生も抑え
ていました。さらに,入力信号と出力信号の差を検出・補正し,出力段の非直線性歪みを1/30以
下(同社比・従来B級アンプ)に抑えていました。
電源部は,220VAの大型のトランスをL・R独立で防振シートを挟んで搭載していました。電解コン
デンサーは,L・R独立で4本,トータルで48,000μFのものが搭載されていました。さらに,ハイス
ピード・ローノイズダイオードによるブリッジ整流回路をL・Rそれぞれのプラス側とマイナス側に独立
して搭載し,電源部全体として47Aの大電流供給能力を確保していました。
CD等のデジタルオーディオ機器の時代になり,パワーアンプダイレクト接続などのシステム全体とし
て信号通過経路のシンプル化が考えられるようになっていました。M-90では,コントロールアンプか
らのノーマル入力端子とは別に,CDプレーヤー等とパワーアンプを直結するCDダイレクト入力端子
が装備されていました。M-90自体にレベルコントロールも備えられていました。また,さらに多くなる
デジタル関連機器のための予備入力として,LINEダイレクト端子も併設され,CDダイレクト端子と同
様に使えるようになっていました。そして,通常のコントロールアンプとCDダイレクト,LINEダイレクト
からの入力は,前面のスイッチで切り換えられるようになっており,M-90単体でもプリメインアンプ的
に使えるようになっていました。また,このCD/LINEダイレクト端子には専用の出力端子が設けられ,
ここからコントロールアンプへリターンすることで,テープへの録音なども自在に行えるようになってい
ました。
前面パネルには,印象的な39ミリ×39ミリの大型FLパワーインジケーターがL・R独立で搭載され
外観上の大きなポイントとなっていました。2mW〜300Wまで切換なしで直読でき,0.6秒間の
ピークホールド機能も搭載されていました。また,スイッチによりOFFにすることもできました。
シャーシは,C-90と同じく磁気歪みを抑えるために銅メッキシャーシが使用され,パーツの非磁性化
や銅メッキビスなどとともに,異種金属の貼り合わせによる振動減衰能力のアップも図られ,銅自体の
内部損失の大きさもあいまって,外部振動に強く,振動による歪みを抑えていました。
さらに,4つの脚としてのインシュレーター以外に,本体のセンターにもインシュレーターが装着された
5点支持方式で,重いトランスを中心でもしっかりと支える,振動に強い構造となっていました。
直流抵抗,インダクタンスを軽減するために70μm厚の銅箔基板が採用され,配線材には無酸素銅
線が使用されていました。パーツの面でも,黄銅キャップカーボン抵抗,樹脂ケースコンデンサー,金メ
ッキピンジャック,極太無酸素銅線ACコード(極性表示付)など,しっかりと配慮されていました。
以上のように,M-90は,デジタルオーディオ時代に対応した,パワーアンプの新しい方向を示そうとし
た意欲が感じられる1台でした。癖のないしっかりとした厚みのある音は,オーディオ的快感というより
音楽を聴くアンプとしてバランスが良く,使い易いアンプとなっていました。
PIONEER
M-90a
STEREO POWER AMPLIFIER ¥220,000
1988年に,M-90がモデルチェンジされM-90aが発売されました。,フロントパネルの高さ
が8mm増し,全体の重量が7.1kg増していることからも類推されるとおり,改良・強化が施さ
れていました。

最大の改良点は,振動対策がより徹底されたコンストラクションの採用でした。L。R独立の電源
トランスは,シールド効果が高く高剛性で内部損失が大きく振動減衰特性にすぐれた鋳鉄ケース
を採用していました。この鋳鉄ケースとトランス本体の間に熱伝導性の良いピッチ素材を充填す
るとともに,放熱フィンを設け,温度上昇による内部抵抗の増加を防止したキャステッド・パワー
トランスとしていました。この電源トランスを支えるために銅メッキを施した1.6mm厚防振ハニカ
ムパンチングボトムプレート(写真B)が採用されていました。
ヒートシンクは,パワートランジスターの振動・共振を効果的に抑え,フィン型に比べて放熱効果の
すぐれたアルミ押し出しハニカムヒートシンクが新たに採用されていました。
インシュレーターは,5点支持方式を受け継ぎながら,新たに充填タイプの特殊セルポリマー製大
型ハニカムインシュレーターが採用され,トランスを支える5本目のインシュレーターには鋳鉄製の
インシュレーターが搭載されていました。
パーツの面では,高音質ボリューム,柔らかいコーティング材を用いた防振タイプのフィルム系コン
デンサー,高SN比を実現する特殊樹脂コーティングの電解コンデンサー(写真D)などが採用され
ていました。
以上のように,M-90aは,M-90をさらに強化し,癖のないしっかりとした厚みのある音は,クリアさ
も増していました。オーディオ的快感というより音楽を聴くアンプとしてバランスの良い使い易いアンプ
であることは同様でした。