ＯＮＫＹＯ Ｇｒａｎｄ Ｉｎｔｅｇｒａ Ｍ-５１０
ＳＵＰＥＲ ＨＩＧＨ ＦＩＤＥＬＩＴＹ ＳＴＥＲＥＯ ＰＯＷＥＲ ＡＭＰＬＩＦＩＥＲ
￥８５０，０００
１９８４年にオンキョーが発売したステレオパワーアンプ。電源部をはじめとして超弩級の中身を持つ
オンキョー最大のアンプで，重量は６０Ｋｇを超えていました。同じ年に同社が発売した超弩級スピー
カーシステムＧｒａｎｄ Ｓｃｅｐｔｅｒ ＧＳ-１をドライブすることを想定したかのような強力なアンプでした。
Ｍ-５１０の最大の特徴は，「位相」の正確さを求めた設計にありました。オンキョーは，オールホーン
型の超弩級スピーカーシステムＧＳ-１でも位相の正確さを徹底して求め，正確な音像・音場再生を
実現して高い評価を得ましたが，Ｍ-５１０にもその設計思想を展開し，ステレオパワーアンプにおけ
る位相の乱れを解決する手段として「インフェイズ・トランス」を新開発し，搭載していました。
スピーカー駆動電流がスピーカーの特性によって位相の乱れを起こし，その位相のずれた電流が，フラ
ックス，アース，Ｂ電源などを通じて増幅部へ帰ってくることになり，入力信号も乱してしまいます。この
スピーカーを駆動している電流の位相のずれたものが増幅部へ帰ってくることを防ぐために電流の経路
に新たにもう一つ入れられたトランスが「インフェイズトランス」でした。「インフェイズトランス」は，プラス側
にある波形の電流が流れると，それによって， マイナス側に，ちょうど逆位相で波形の同じ電流が流れる
ようになっています。マイナス側を流れる電流はプラス側に逆位相で同じ波形の電流を流させる働きをし
ます。逆位相で同じ波形の電流がプラス側とマイナス側に流れれば，波形の山，谷は互いに打ち消し合
って平坦になるということで，「インフェイズトランス」の中では，プラス側とマイナス側の電流がお互いにコ
ントロールし合って，電流に乗ってきた余計は成分だけをキャンセルするという仕組みでした。この働きを
させるために，オンキョーは試行錯誤を重ね，インピーダンスが非常に低くて結合度が高いという特別な
トランスを作り上げたということでした。
この「インフェイズトランス」の効果により，低域の駆動力・制動力が高まり高いスピーカー駆動能力を持っ
たアンプとなっていました。また，巨大な電源部から発生するフラックスの影響をもキャンセルされるため
ハイパワーアンプでありながらローレベル再生にもすぐれた性能を持っていました。
Ｍ-５１０の電源部は，５つのトランスが林立する巨大なものとなっていました。左右独立で電源トランスを
搭載し，信号系以外の電源のためにもう一つトランスを搭載することで，合計３つのトランスとなり，さらに
左右の電源回路にそれぞれ「インフェイズトランス」が搭載されることで，合計５トランス構成となっていまし
た。また，容量３３，０００μＦ／１００Ｖの超大型電解コンデンサーが４個搭載されていました。この電解コ
ンデンサーは新たに型から起こされた防振構造材で保持される構造となっていました。
出力段は，片ｃｈあたり１４個のハイパワートランジスターを用いた７パラレルプッシュプル構成で，８Ω負
荷時で３００Ｗ／ｃｈの出力を実現していました。主要回路はすべてガラスエポキシ基板にマウントされて
いました。
フロントパネルには大型メーターと中央のインジケーター以外には，電源スイッチのみというシンプルで上品な
外観となっていましたが，下部のシーリングドアを開けると，メーターの設定，出力レベル調整，スピーカー切
り換えなどの操作系が隠されていました。出力レベル調整により可変入力（ＶＡＲＩＡＢＬＥ）端子にはＣＤなど
の高出力機器がダイレクトに接続可能となっており，出力レベル調整を通らないＤＩＲＥＣＴ入力端子も備えて
いました。スピーカー出力も２組備えていました。
左右の出力メーター（ピークホールドタイプ）の間にはメーターレンジ，スピーカー出力のインジケーターとさら
にＷＡＩＴＩＩＮＧ ＭＯＮＩＴＯＲというインジケーターが備えられていました。これは，電源オン後，ウォームアップ
の状態が８段階に表示されるという凝ったものでした。
以上のように，Ｍ-５１０は，オンキョー史上でも最大のパワーアンプで，それまでの同社のパワーアンプと比
べても桁外れに巨大で贅沢な造りとなっていました。それだけに，底力のあるクリアな音を持っていました。
Ｇｒａｎｄ（偉大で）Ｉｎｔｅｇｒａ（完全であれ）と称するだけあって，オンキョーの中でもスピーカーのＧＳ-１と並ぶ
超弩級モデルでした。
以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。
