KENWOOD KP-11001985年にケンウッドが発売したアナログプレーヤーシステム。L-07Dの以来の高剛性を追求した正攻法の設計で
AUTO-UP DD TURNTABLE ¥99,800(カートリッジレス)
高性能を実現したプレーヤーシステムでした。デザイン的に華やかさや豪華さはありませんが,すでにCD時代に入
っていた1985年にあえてそれに挑戦するがごとく発売された,正攻法で性能を追求したしっかりした作りのプレー
ヤーシステムとして人気を得ました。KP-1100の一つ目の特徴は,アーム系,モーター系,トランスを除く回路系の三大要素をすべて強固なフレームに
取り付け一体化した高剛性「ユニファイド・ダイキャストフレーム」でした。この高剛性フレームを中心に,剛体化すべき
部分,分離すべき部分を明確化した構造を「高剛性メカニカル・ショート・サーキット」と呼んでいました。「メカニカル・シ
ョート・サーキット」では,(1)モーター,ターンテーブル・トーンアームはフレームに剛体結合(2)プレーヤーケースは,
フレームに弾性結合(3)振動の起きやすい電源トランスはプレーヤーケースに弾性結合,したがってフレームに対し
ては二重弾性結合(4)ダストカバーと底板はプレーヤーケースに剛体結合(5)インシュレーターはフレームに対して
剛体結合,または弾性結合が選択できる独自の高剛性防振構造を保つ・・・という構造になっており,プレーヤーケ
ースやダストカバーに伝わる振動や床からの振動を遮断し,アームの支点とモーターの支点間を常に一定に保つこ
とで針先の正確なトレースを実現していました。
モーターには,1982年のKP-800で開発され,初めて搭載されたDL(ダイナミック・センターロック)モーターを搭載し
ていました。DLモーターシステムは,ヘリングボーンと呼ばれる特殊なオイルスリットをスピンドル外径面に切り,スピン
ドルの回転によりオイルが循環しスピンドル全体を超高圧薄膜でカバーしてスラスト受け部と剛体化するというもので,
流体の圧力を利用した強力な力でスピンドルを回転軸上に固定するというものでした。この結果,高剛性回転を実現し,
0.005%の優れたワウ・フラッターを得ると同時に,摩耗部分を持たないため性能劣化を防止していました。
モーターの駆動には,従来のスイッチング方式に比べて軸方向への力が発生しないため振動がきわめて少なく,高次
のトルクムラが少ないという2相正弦波方式の駆動回路を採用していました。さらには,マグネットの着磁波形の歪みや
ホール素子の感度差や回路の直流オフセットなどによる超低域でのワウ・フラッターに対しては,3つの閉ループをもつ
ツインカレント・スクエアサーボ回路を開発し,モーターに流れる電流有効値を制御して。超低域でのワウ・フラッターを減
少させ,トルクのふらつきをなくしていました。
トーンアームは,1ナイフ・2ピボット方式のDS(ダイナミック・スタビリティ)トーンアームを搭載していました。1983年に
KP-880Dに初搭載された高剛性を追求したトーンアームで,大信号時の音溝の力によりアームが前方に引っ張られ
アームの支点が前に引っ張られて生じる支点のずれを防ぐため,前方へのアームの動きを防ぐ独自のナイフエッジを設
置してトーンアームの支点をがっちり固定したものでした。軸受け部のガタがなくなり,高剛性なアーム支持を実現して
いました。さらに,KP-1100では,ナイフエッジの針先とセンターウェイトが常に接触する独特な形状を持つナイフエッジ
を開発し,搭載していました。
床からの振動や空気を伝わってくる振動に対しては,特殊な防振特性を持つ弾性体を使いキャビネットをフローティングし
て,キャビネットの振動をフレームに伝えない構造をとっていました。さらに,防振ゴムの三段積み上げ式の大型インシュ
レーターを搭載していました。また,このインシュレーターは,置き方にあわせてフローティングすることも剛体化することも
自由に選択できる構造になっていました。以上のように,KP-1100は,これまでケンウッドが積み上げてきたアナログプレーヤの技術を投入し,L−07D以来の
高剛性の思想を追求して作り上げられた,実力派のアナログプレーヤーでした。価格的には驚くほど高価でもなく,外観
も特に高級でもありませんが,非常に中身のしっかりした質実剛健ともいえるプレーヤでした。5年ほど後に,ほぼ同じプ
レーヤーがKP-9010(¥110,000)として再発売され,まさにデジタル時代において数少ない実力派のアナログの雄
として人気を得ました。そのことからも本機の作りの確かさがうかがえます。派手ではありませんでしたが,カートリッジの
実力を生かして高解像度のしっかりした音を聴かせる名機ではなかったかと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
SN比90dB,プレヤーはまたひとつ,
難問を解決した。KP-1100◎ユニファイド・ダイキャストフレームをベースに
完成した高剛性回転メカニズム
◎スピンドルを回転絶対中心点にロックした。
世界初の高剛性回転機構
DL(ダイナミック・センターロック)モーター
◎安定した回転とこのクラス最大のトルクを実現した
ツインカレント・スクエアサーボ
◎1ナイフ・2ピボット方式の
DS(ダイナミック・スタビリティ)トーンアーム
◎防振思想を具体化した
キャビネットフローティング構造と大型インシュレーター
●モーター部●
駆動方式 | ダイレクトドライブ |
モーター | クォーツPLLコアレス&スロットレス |
起動トルク | 2.0kg・cm |
ターンテーブル | 33cm,1.9kg,アルミ合金ダイキャスト |
慣性モーメント | 450kg・cm2(ゴムシート含む) |
回転数 | 331/3,45rpm |
ワウ・フラッター | 0.005%(FG直読法) |
SN比 | 90dB |
定常負荷特性 | 0%(針圧470gまで) |
起動特性 | 1.1秒 |
回転数偏差 | ±0.003%以内 |
時間ドリフト | 0.0005%/h以内 |
温度ドリフト | 0.00005%/℃以内 |
電源電圧特性 | 0%(±10V) |
●トーンアーム部●
型式 | スタティックバランスJ字型アーム |
アーム実効長 | 245mm |
オーバーハング | 15mm |
トラッキングエラー | +1.8°〜−1.0° |
針圧可変範囲 | 0〜3g(0.1gステップ) |
適用カートリッジ重量 | 2〜12g |
●電源部その他●
電源 | AC100V,50/60Hz |
消費電力 | 14W(電気用品取締法に基づく表示) |
寸法 | 490(幅)×182(高さ)×410(奥行)mm |
重量 | 14.5kg |
付属機構 | 無接点オプティカル検出オートアップ機構 スタティック型アンチスケーティング機構 トーンアーム高さ調整機構 |
※本ページに掲載したKP−1100の写真・仕様表等は1985年11月
のKENWOODのカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に
著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等
をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。