1974年にビクターが発売したシンセサイザー方式のチューナー。国産シンセサイザーチュー
ナーの最も初期の製品で,オーレックス(東芝)の
ST-910と並んで国産初のシンセサイザー
チューナーとして話題になった製品でした。
JT-V20の最大の特徴は,上記のように同調機構に純電子式のシンセサイザー方式を取り入
れたことでした。従来のチューナーがバリコンとコイルの共振回路で必要とする周波数を取り出
のに対して,基準発振器からいろいろな周波数を合成しながら必要な周波数を取り出すため,
基準発振器が安定であるかぎりそれまでのチューナーで問題になっていたドリフト(同調ズレ)が
生じることがなく,機械的な可動部がないことから長期の信頼性も優れていました。
シンセサイザー回路の基準発振器には安定度のきわめて高い水晶発振器が搭載され,バリコン
の代わりに電圧を変えると静電容量が変わるダイオードであるバリキャップを信号選択回路に
搭載し,高安定度かつ純電子的に同調をとるようになっていました。
また,同調の中心に周波数がロックされる独自のオートストップ方式により,絶対的な安定性が
確保されていました。
周波数表示は,シンセサイザー方式ならではのLEDによる赤色のデジタル表示が搭載され,正確に
100kHzおきの周波数が表示されるようになっていました。また,従来の横行ダイヤルに慣れたユー
ザーのために,28個のLEDを横に並べて同調位置を表示する受信チャンネルインジケーターが搭載
されていたのは過渡期を示しているようで面白い部分です。(ラックスの
5T50にもよく似た表示装置が
見られました。)信号強度も5段階でLEDで表示されるようになっていました。
シンセサイザー回路と直結されたフロントエンドには,相互変調,混変調に強く,しかも高感度なデュア
ルゲートMOS型FETを採用し,安定した動作を実現していました。
IF回路は,新開発のデュアル4レゾネーター型セラミック・フィルターと,4ポール・リニアフェイズ・フィル
ターを併用した構成で,優れた伝送特性と選択度を両立させていました。
MPX段には,PLL・ICを使用し,コイルを使用した回路がなく,温度変化や経時変化に強く,全周波数
帯域にわたって高いセパレーションと安定した動作を実現していました。
パネル面は電源スイッチ以外は,すべてタッチスイッチのみで,電子的に同調するシンセサイザー方式
らしさを感じさせるものとなっていました。また,この時期に既にシンセサイザー方式だからこその小型
化がなされ,ペアを想定された
JA-S20と並べて設置することも考えた幅の狭い筐体となっていました。
選局操作は,UPあるいはDOWNスイッチに触れるだけで自動的にスキャンされて,放送電波のある位
置まで周波数が変化し,HIGH SPEEDスイッチで早送り操作もできるようになっていました。
2段のミューティングスイッチ,モノ/ステレオ自動切換・モノスイッチ,ハイブレンドスイッチも装備され,こ
れらもすべて軽い操作のタッチスイッチになっていました。また,電源スイッチも軽いタッチのマイクロスイ
ッチで,この電源スイッチを切った状態でもスタンバイの状態になっていて,メモリーが働いた状態を保つ
ようになっていました。
出力端子は固定(600mV)と可変(MAX1.5V)の2組が装備され,変わったところとして,ディスクリート
4ch放送に備えた検波出力端子(DET・OUT)も装備されていました。このあたりは4chに力を入れてい
たビクターらしいところでもありました。
以上のように,JT-V20は,ビクター初(国産初?)のシンセサイザーチューナーとして革新的な内容を持
ち,最上級機としてもしっかりした内容を持ったチューナーでした。シンセサイザーチューナーとしては1号
機ながらすでに操作性,受信性能等高い完成度を持っていたことは驚くべきことだと思います。