F-780の写真
PIONEER F-780
FM/AM  DIGITAL SYNTHESIZED TUNER ¥49,800

1981年にパイオニアが発売したシンセサイザーチューナー。中級機ながら,それまでのパイ
オニアのより上級のチューナーに搭載されてきた技術を継承し,使い易いシンセサイザーチュ
ーナーとして,洗練されたデザインの中にまとめられた1台でした。

フロントエンド部は,RF相互変調(2つの強力な電波がチューナーに入った場合,使用半導体
の非直線性のために,その周波数の和や差などの妨害信号が発生し,妨害波となったり架空
の局が出現したりする現象)を排除するために,ツインバリキャップと新開発のID MOS FET
で構成した「リニアプッシュプルフロントエンド」を採用していました。

リニアプッシュプルフロントエンド

シンセサイザーチューナーに搭載される同調素子バリキャップは,バリコン同調に比べ,ダイオ
ード素子同調であるため,素子自体が飽和状態になりやすく,ダイナミックレンジが狭く同調性
能で劣るといわれていました。F-780では,このバリキャップをツインにして搭載して,従来の
バリキャップ同調に比べ大幅に性能を高め,バリコンに匹敵する入力特性を実現していました。
RF増幅素子として従来の素子に比べ特性を8dBも高めた新開発のID MOS FETを採用し,
これをプッシュプル構成としていました。これらの結果,ダイナミックレンジは,従来機種に比べ
て11dBアップしていました。

水晶発振器でつくる基準周波数とローカル発振周波数を位相比較して発振周波数をロックす
るクォーツシンセサイザー方式のチューナーでは,従来基準周波数を12.5kHzとしていまし
たが,F-780では,この値を25kHzにアップした「パルススワロー方式」を採用していました。
基準周波数を再生帯域外に追いやることで,基準周波数が信号ラインに残留してノイズにな
ることを防ぎ,クォーツシンセサイザーの安定した動作と高SN比を実現していました。
また,受信周波数のデジタル表示には,一定のサイクルで常に信号を送り続けるダイナミック
方式ではなく,周波数を変えるときだけ信号を送るためSN比の劣化の少ないスタティック方式
が採用されていました。

検波回路には「パルスカウント方式」が採用されていました。 パルスカウント方式は,トリオが
初めて採用した方式でしたが,従来LCによる共振回路を用いて行っていた検波段にデジタル
技術を導入したものです。FM波を一度パルス化しデジタル的に処理することで,ひずみの原因
となる非直線性や温度変化によるドリフトを排除した優れた方式でした。さらに,IF(中間周波数)
を2段階設けるダブル・コンバート方式を採用して高感度と優れた特性を実現していました。ダブ
ルコンバート方式で発生しやすいビートに対する対策をとっていることが特徴で,第2ミキサー段
にリニア掛け算器を使用し,高調波による和や差の成分によるビートを抑え,さらに,第2ローカ
ル発振器にプッシュプル回路を採用し,ここでも高調波を出にくくし,ビートの発生を抑える設計
で,「クリーンパルスカウント」と称していました。
MPX部は,コンポジット信号そのものが,能動素子を通過せず,不要な信号はアースに落とされ
るようにした「ダイレクトスルーMPX」として,SN比と歪率特性を高めていました。

FM/AMとも各6局プリセットできるようになっており,スイッチを消した後もバックアップ電源回路
の働きで,再びスイッチを入れたときにも同じ局が受信されるラストワンメモリー機構が内蔵され
ていました。また,FM/AM双方に音質と選択度を電波状況に応じて使い分けられるWIDE and
NARROW切り換え回路も搭載されていました。

F-780のシーリングポケット内

プリメインアンプのA-980との共通性をもたせた,中央に集中的に表示部を配置したデザインは,
A-980とともに,通産省の1981年度グッドデザイン部門別大賞を受賞していました。実際,見やす
く分かりやすい斬新なデザインでしたが,反面,それまでのコンポーネントや他社製品と組み合わせ
るとマッチングしないため,ユーザーからは賛否両論でもありました。

以上のように,F-780は,パイオニアの蓄積してきたチューナー技術を,シンセサイザーチューナー
としてスマートに形にしたともいえるモデルでした。当時,次第に主流となり始めていたシンセサイザー
チューナーの中級機の中で,受信性能と音質を高い次元で両立させた1台として高い評価を受けてい
ました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



リニアプッシュプルフロントエンド搭載。
妨害排除能力を高めた高音質
デジタルチューナー。


◎妨害排除能力をいちだんと高めた
 リニアプッシュプルフロントエンド。
◎クォーツシンセサイザーのメリットをより高めた
 パルススワロー方式。
◎受信性能をクリアーな音質を得た
 クリーンパルスカウント。
◎FM/AM
 各6局プリセット。

●SN比と比率特性を高めた,ダイレクトスルーMPX
●音質と選択度を電波状況に応じて使い分けることのできる
 AM/FM各WIDE and NARROW切換え回路
●スイッチを消したあともバックアップ電源回路の働きで,
 再びスイッチを入れたときも同じ放送局が瞬時に受信できる,
 ラストワンメモリー機構内蔵
●SN比劣化のないスタティック表示方式
●RECレベルチェック





●主な仕様●



(FM部)

SN比50dB感度 3.2μV 新IHF16.2dBf(モノ)  19.5μV 新IHF37.2dBf(ステレオ)
実用感度(NARROW 75Ω) 0.95μV 新IHF10.8dBf(モノ)
SN比 92dB(モノ,80dBf入力時)  86dB(ステレオ,80dBf入力時)
高調波歪率 (WIDE)   モノ    :0.03%(100Hz),0. 03%(1kHz),0.03%(10kHz) 
         ステレオ:0.04%(100Hz),0.04%(1kHz),0.09%(10kHz) 
(NARROW)モノ    :0.08%(1kHz) ステレオ:0.3%(1kHz)
キャプチュアレシオ (WIDE)1.0dB  (NARROW)2.0dB
実効選択度 (WIDE)40dB(400kHz)  (NARROW)60dB(300kHz)
ステレオセパレーション (WIDE)   60dB(1kHz),50dB(50Hz〜10kHz)
周波数特性 20Hz〜15kHz ±0.5dB
イメージ妨害比 80dB
IF妨害比 100dB
スプリアス妨害比 80dB
AM抑圧比 60dB
サブキャリア抑圧比 70dB
ミューティング動作レベル 5μV(25.2dBf)
アンテナ入力インピーダンス 300Ω平衡型,75Ω不平衡型




(AM部)

実用感度 300μV/m(バーアンテナ)  30μV(外部アンテナ)
選択度 WIDE18dB,NARROW50dB
SN比 50dB
イメージ妨害比 65dB
IF妨害比 90dB




(出力部,電源部その他)

出力端子 
(出力レベル/インピーダンス)
FM(100%変調):650mV/1.1kΩ 
AM(30%変調):200mV/1.1kΩ
電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力 12W
外形寸法 420(W)×60(H)×380(D)mm
重量 4.5kg

※本ページに掲載したF-780の写真,仕様表等は1982年3月
 のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式
 会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
 転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
 さい。

 

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