YAMAHA
CX-2000
NATURAL SOUND STEREO CONTROL
AMPLIFIER
¥270,000
1988年にヤマハが発売したコントロールアンプ。CD,DAT,BSなどのデジタルソース,LD,VTR
などのビジュアルソースなど,従来からのアナログソースに加え,当時,増えてきた多彩なソースに
積極的に対応していこうとしたデジタル&AV時代のコントロールアンプとして発売されたものでした。
技術的には,1986年に発売された超弩級コントロールアンプ
CX-10000,1987年
に発売された
DAC内蔵プリメインアンプAX-2000などの流れも汲んだもので,チタンカラーの外観とともにヤマハ
らしい個性を発揮していました。
CX-2000の最大の特徴は,コントロールアンプとして多彩なソースに対応していることでした。その
ために,アナログ入力10系統に加え,デジタル入力5系統,ビデオ入力4系統という非常に多くの入
力系を装備していました。
デジタル入力回路とD/Aコンバーター部の間のデータ復調回路には,ワイドキャプチャレンジ・ジッター
レスPLL回路によるクリーンデジタルシステムが搭載され,有害なジッター(信号の時間軸方向のゆ
らぎ)の混入を極少に抑えるようになっていました。これは,データ復調回路に新たに完全2次積分型
のフィルタ回路を組み込み,PLLが正規のデータを引き込むとループフィルタの高域ゲインを減少させ
高周波のジッター成分を減少させるというものでした。データ復調回路は,32kHz,44.1kHz及び
48kHzのサンプリングレートに対応したもので,VCO (voltage controlled oscillator=電圧制御発振
器)にこの完全2次積分型フィルタ回路を接続するとともに,VCOからPD(位相比較器)への多重帰
還ループを構成することで,入力信号に対するPLLの引き込み能力が向上しキャプチャーレンジが
大きく拡大し,安定度の高いデジタルデータ受信を実現していました。さらに,データ復調回路に侵入
する外来雑音による誤動作を防止するために,入力信号に差動積分回路によるDCサーボをかけ,
DC成分をゼロにすることで歪みの極めて少ない再生を実現していました。
CX-2000に内蔵されたD/Aコンバーター部は8fs×18bitデジタルフィルターと18bit動作ツインD/A
コンバーターで構成されるハイビットシステムが搭載されていました。このハイビットシステムは,通常
の16bitD/Aコンバーター部と比較して,デジタル信号の分解能を時間軸に対して8倍,振幅幅にして
4倍,計32倍の分解能に高め,D/A変換の直後から極めて滑らかなアナログ信号出力が可能となり
音質的に大きな影響のあるアナログローパスフィルターを後段に設けることなく,D/A変換信号をその
まま送り出すピュアDACダイレクト再生を実現していました。
また,CX-2000のハイビットシステムでは,D/AコンバーターLSI自身に内蔵のI/V変換オペアンプを
用いず,別に独自のより高性能のI/V変換オペアンプを搭載していました。このオペアンプにより電流
出力のままD/Aコンバーターから信号を取り出し,ゲインを従来比10dBアップし,後段のFSH(フロー
ティング・サンプル・ホールド)でゲインを10dBダウンさせることでD/A変換ノイズを低減させる効果を
持たせ,D/Aコンバーター部全体で123dBの高S/N比を実現していました。
CX-2000は,アナログ信号を高純度なままパワーアンプに伝送するために,ハイレベルアンプを
20dBフラットアンプと0dBバッファアンプの2段構成とし,高性能4連ボリュームにより入出力の前後
2箇所で音量を絞り込むことで実使用時のS/N比を大きく向上させていました。このボリュームはモー
ター駆動でリモコンでの音量調整も可能となっていました。トーンコントロールは,TREBLE,BASS
に加えMIDも装備された3バンドタイプが搭載され,サブソニックフィルタも装備されていました。
また,ソースダイレクトをONにすると,トーンコントロール,モード切換,バランスをジャンプし,シンプ
ル&ストレートな信号経路となるようになっていました。
入力系は,PHONO,CD,TUNER,DAT1,DAT2,TAPE,VDP1/DBS,VDP2,VCR1,VCR2
のアナログ10系統,CD(光/同軸),DAT1(光/同軸),DAT2(同軸),VDP1/DBS(光/同軸),
VDP2(同軸),ACCESSORY(光/同軸)のデジタル5+1系統,VDP1/DBS,VDP2,VCR1,
VCR2の映像4系統が装備されていました。
PHONO入力は1系統ですが,本格的なイコライザーが搭載され,6ポジションのインピーダンス切換
機能も装備し,MCヘッドアンプも内蔵されたものでした。
出力系は,DAT1,DAT2,TAPE,VCR1,VCR2のアナログ5系統,DAT1(光/同軸),DAT2
(同軸),ACCESSORY(光/同軸)のデジタル2+1系統,PRE OUT2系統,VCR1,VCR2,
VIDEO MONTORの映像3系統が装備されていました。デジタル系のACCESSORY端子は,
DSPシステム(DSP-3000等)の接続などを想定したものでした。
CX-2000は,多様な入力信号を扱うアンプであるため,当然,相互干渉等の問題に対しての対策
がとられていました。内部配線の引き回しによる干渉や特性劣化を防ぐために,半導体セレクタスイ
ッチを採用し,入出力端子の間近で切り換えるようになっていました。このセレクタスイッチはマイコン
によるロジックコントロールとなっており,確実で安全な切換が行われ,独立選択再生も可能なため,
ビデオ画像を見ながらCDを聴くといったこともできるようになっていました。
そして,基板を各セクションごとに分離したセパレート構成にするとともに,それぞれを独立のBOXに
分割収納する高剛性6BOXシャーシ構造が採用されていました。6つのBOXの内訳は,(1)デジタル
部,(2)マイコン部,(3)フォノイコライザ部,(4)電源部,(5)トーンアンプ部,(6)フラットアンプ部となって
おり,キャビネット内部を非磁性・銅メッキのフレームで縦横に分割し,さらに,デジタル&マイコン部
とラインアンプ部は,同じく非磁性・銅メッキの内部シャーシで上下に2分割し,そのうえでキャビネット
全体を組み上げる構造で,堅牢な構造となっていました。これにより,耐振性も確保され,機械的振
動による音質の変調も抑えられていました。また,シャーシ,フレームをすべて非磁性・銅メッキとす
ることで,磁気歪みも抑えられていました。
さらに,別途に非磁性・銅メッキのトップカバーを用いて,デジタル部全体をカバーし,キャビネット内
部,外部へのデジタルノイズの伝搬を防ぐシールドが施されていました。
電源部は,デジタル・ビデオ部/アナログ部/マイコン部を各々トランスから分離した独立3電源トラン
ス構成として,電源ラインを通じての相互干渉を抑えていました。さらに,デジタル・ビデオ部用電源
トランスは3巻線に,アナログ用トランスは2巻線に分離して,デジタル基板,マイコンシステムコント
ロール基板,フォノイコライザーアンプ基板,トーンアンプ基板など各基板ごとに定電圧回路を設け
たマルチレギュレーター方式が採用され,ローノイズ・低インピーダンスの電力供給を実現していま
した。また,ビデオ部電源は単独にON/OFF可能であり,デジタル部は,アナログソース選択時に
デジタル復調回路のIC動作を停止するなど,ソース選択ごとの相互干渉をできるだけ抑える設計と
なっていました。
以上のようにCX-2000は,超弩級機CX-10000の流れも受けつつ,セパレートアンプとしての
クオリティと多機能を両立させようとした意欲作でした。パネル面の印象と通じるすっきりとクリアで
シルキーな音はヤマハらしいもので,機能的にも後のAVアンプに通じる多機能を実現していました。
ただ,オーディオ用,AV用の中間的なアンプとして見られ,中途半端な印象を与えたためか,広く
人気を得るまでには至りませんでした。しかし,これだけの内容のアンプを現在作ると,とうていこ
の価格では不可能であるのも事実ではないかと思います。