PIONEER
CS-3000
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥80,000
1971年にパイオニアが発売したブックシェルフ型スピーカーシステム。国産ブックシ
ェルフ型スピーカーシステムとして海外製のARに負けじと頑張っていたパイオニアの
力作で,後のS-955シリーズへとつながっていく高級機でした。
ブックシェルフ型スピーカーは1950年代後半に登場し,その中でもアメリカのAR社
(Accoustivc Reserch)は1956年にAR-1でエアサスペンション方式(密閉型)で
小型スピーカーでの低音再生に道を開き,ブックシェルフ型全盛への道筋を作りまし
た。日本国内でも,名機AR-3等高い評価と人気を得,ブックシェルフ型の元祖として
君臨しました。その中で,国産メーカーもARに負けじとブックシェルフ型スピーカーの
力作を作っていきました。またそっくりさんを作る国産メーカーもありました。
パイオニアは1967年,ARの名機AR-3に真っ向から挑んだ独自設計のCS-10
(¥55,000)を発売しました。そして,このモデルが,より高性能で高級な発展形と
してCS-3000へとつながっていきました。
CS-3000は,ブックシェルフ型の本格的な3ウェイシステムで,ウーファーとして大口
径の30cmコーン型ユニットを搭載していました。CS-3000のウーファーは,コーン紙
としてパルプコーンの強度を高めたFB方式クリアコーンを採用し,さらに大入力に耐え
るために,特殊制動材を貼り付け,高域での分割振動を防止すると同時に,低域特性
の改善が図られていました。エッジとして,従来のものより高品質タイプの発泡ウレタン
のエッジを採用していました。ウレタンが後に耐久性の問題をもたらすことにはなったわ
けですが,当時としては温度変化による特性の変化が少なく,音質的には優れたエッジ
でした。
ボイスコイルには,アルミリボン線によるエッジワイズ巻きとして,アルミ箔リボンと熱硬化
性エポキシ樹脂剤,それにショート巻きの効果により,高い放熱効果,ひいては耐入力特
性の向上が図られていました。
ウーファーを駆動する磁気回路には,同社の38cm口径ユニットに使用していたマグネッ
トと同じ大きさ(直径180mm,重量1.8kg)のマグネットが使用されていました。さらに,セ
ンターポールには純銅製のキャップがかぶせられ,磁気回路に起因する磁気歪みも大きく
低減されていました。
ミッドレンジには,6.5cm口径のドーム型ユニットが搭載されていました。ジュラルミン製の
ドーム型ダイアフラム6.5cmという口径により,振幅が小さく抑えられ,IM歪みの低減が図
られ,700Hzまでの低域再生能力を確保していました。振動系のサスペンションとして,従
来の平材のコルゲーション処理に代えて,ベリリウムカッパー線によるワイヤードサスペンシ
ョン方式がとられていました。このサスペンションは,ドーム型振動部をワイヤーを介して5点
で支持する方式で,ワイヤーは振動の方向性を持たせるために振動方向に若干のカーブを
を描きながらフランジ側が太く,ボイスコイル側にいくに従って細くなるテーパー状のシリコン
ゴムによってモールドされるという構造でした。このサスペンションにより,エッジから出る音
の輻射が防止され,さらに支持位置の明確化が確保されるため,大幅な歪みの減少と過渡
特性の改善が図られ,立ち上がり良い繊細な音を実現していました。
ミッドレンジの磁気回路は,後部にバックチャンバーが設けられ,foは300Hzという低い値に
抑えられていました。ポール中央の穴はテーパー状に加工され,内面にフェルトが貼られて,共
振が防止され,バックチャンバーにはグラスウールが入れられて,充分な吸音効果が持たされ
ていました。さらに,センターポールにはウーファー同様に銅製のキャップがかぶせられ,磁気
回路からの歪みが抑えられていました。
マグネットには,直径156mm,重量1.2kgという30cm口径ウーファークラスのものが搭載され
ボイスコイルには,アルミリボン線によるエッジワイズ巻きを採用して高能率化を実現していまし
た。
トゥイーターには,2.0cm口径のドーム型が搭載されていました。直径20mm,材厚30μのジュ
ラルミンドームに,2重構造の発泡ウレタンエッジ,それにアルミリボン線のエッジワイズ巻きボイ
スコイルを組み合わせたものとなっていました。
口径が小さく,それに対して深い絞りを持つ形状により,ワイドな指向性(60°で3dB以内)が実
現されていました。また,2重構造のエッジは,前面が連続気泡面になっていることにより,エッジ
からの音の輻射がほとんどなく,歪みの低減が図られていました。エッジ自体のコンプライアンス>
内部損失も大きくとられていました。さらに,ドーム内部に埋め込まれたミクログラスウールは吸
音性に富み,優れた過渡特性を実現していました。トゥイーター前面には,振動板の保護と音の
拡散効果をもつ10枚のフィンが設けられていました。

トゥイーターの磁気回路には,磁束密度16,000gaussの強力なものが搭載され,そのマグネ
ットの大きさは,同社の16cmスピーカーPAX-A16と同等のものでした。
ネットワークには,700Hz,6000Hzのクロスオーバーで減衰量12dB/octのものが搭載され
ていました。このネットワークの特徴は,ミッドレンジ,トゥイーターのfoにおけるインピーダンスの
もち上がりを補正回路で修正し,各スピーカーのインピーダンスをフラットにしたことで,これによ
り,遮断特性が素直で位相特性が改善されていました。レベルコントロールはコイルのステップ
ダウンと補正抵抗の同時切換で行う方法がとられ,ミッドレンジは2dBステップで4段,ハイレンジ
は,2dBステップで5段の切換が行えるようになっていました。
エンクロージャーは,完全密閉型(エアサスペンション方式)で,板厚25mmの硬質パーチクルボ
ードとラワン合板の組み合わせが採用されていました。内部補強は,従来の棒状の補強材に代
わって,平板に4つの小さな穴を開けたものを使い,前後左右の補強と同時に定在波の防止が
図られていました。さらに,800gのグラスウールが内蔵され,効果的な内部処理が行われてい
ました。
エンクロージャーバッフル面は,平面性を保つと同時に,グリルネットにも工夫が凝らされ,再生>
特性の劣化を抑えていました。表面仕上げはブラジリアンローズウッド仕上げで,意匠的にも高
級感を感じさせるものでした。
以上のように,CS-3000は,パイオニアが海外製のブックシェルフスピーカーに負けじと作り上
げた力作で,ユニットからエンクロージャーまで正攻法で仕上げられた高級機でした。パイオニア
らしい明るい音を持ち,特に中高域の音が輝かしく魅力的といわれたものでした。
PIONEER CS-3000A
3WAY SPEAKER SYSTEM
¥108,000
1973年には,CS-3000はCS-3000Aへとモデルチェンジされました。中高域の再生のすばらしさで
高い評価を得ていたCS-3000の弱点といわれた低音再生能力を中心に改良が施されていました。
CS-3000Aの大きな改良点はウーファーでした。新開発のウーファーは同じ30cm口径ながら,マグネ
ットに湿式製法による直径200mmの大型フェライトマグネットが搭載され,より過渡特性が向上していま
した。センターポールには,CS-3000同様に純銅キャップをかぶせて,磁気材料の非直線性による歪
も抑えていました。フレームには,アルミダイキャスト製の頑強な構造で,共振を排除していました。>

コーン紙は,CS-3000A用に新開発され,センターキャップもコーン紙と同じ素材を使用したものとなり
波状の凹凸を付けて強度を高めた設計となっていました。コーンエッジには,CS-3000同様に発泡ウレ
タンエッジが採用されていました。センターキャップ内のコーンネック部には,連続気泡の特殊発泡体を
使った新しい機構を採用していました。キャップ内の空気流通による非直線性歪が抑えられ,また,ネッ
ク部の集中コンプライアンスのために発生する異常音を防止するメカニカルフィルターの役目を果たすも
のでした。ダンパーには,対称に配置されたダブルダンパー構造を採用し,サスペンションの直線性と信
頼性を高めていました。
ボイスコイルは,CS-3000同様に,アルミリボン線によるエッジワイズ
巻きとして,アルミ箔リボンと熱硬
化性エポキシ樹脂剤,それにショート巻きの効果により,高い放熱効果,ひいては耐入力特性の向上が図
られていました。
以上のように,CS-3000Aは,CS-3000の低音部を強化したモデルで,優れた中高音に見合うより強
化された低音再生能力を実現した強力な1台となっていました。