NEC CD−803
デジタル・コンパクト・ディスク・プレーヤー ¥215,000
コンピューターのNECが1982年に発売したCDプレーヤ第1世代の名機でした。それまで,コンピュータメーカー
というイメージだったNECが突如オーディオ界に進出してきたので驚くと同時に,CDはコンピュータ技術だし,デジ
タルオーディオというのは,人工衛星などと通信するときに使われる技術だから当然かな,と期待も持った1台でし
た。そして,実際には,第1世代としては優れた音質で人気を呼び,NECがプリメインアンプA−10等でオーディオ
界に本格的に進出する契機となった名機だと思います。CD−803の大きな特徴は,当時のCDプレーヤーとしてはデジタル部が非常に先進的だったことがあります。さす
がにコンピュータ技術,デジタル技術のNECだなあと感心したものです。その中でも最大の特徴はデジタルフィル
ターにありました。今でこそ,オーバーサンプリングにより余分な高調波成分を高い周波数に追いやるデジタルフ
ィルターはあたりまえのものですが,当時はマランツ(フィリップス製)のCD−63ぐらいにしか例はなく,ほとんど
は,LCフィルターとかアクティブフィルターなどといった高次のアナログ式のローパスフィルターを使っていました。
その中で,先進的なデジタルフィルターを採用していたのですから話題になりました。(なぜかマランツはあまり話
題にならなかった。)このデジタルフィルターはND(ノン・ディレイ)フィルターと呼ばれ,1チップ4万素子のLSIを4
個使った当時としては大規模なもので,かなりコストもかかっていたはずです。しかし,このデジタルフィルターによ
り,当時の他機にはない高域方向のレンジの広さが感じられました。2つ目の特徴としては,当時としては強力なサーボ系を持っていたことです。3段アクションサーボと呼ばれ,起動
時のサーボが1系統と動作中のサーボが2系統になっていて読み取り精度を高めていました。(後には,サーボ系
もデジタル化されていくわけですが,このころはアナログサーボしかなかった。)3番目の特徴は,DAコンバーターからのL/R信号を振り分ける高速電子スイッチです。これも後のCDプレーヤー
のようにDAコンバーターを左右独立で設ければ必要ないものではあるのですが,当時は,DAコンバーターが1つ
というのがあたりまえだったのです。(今ではいくつものDAコンバーターによる並列処理もあるのですから隔世の感
はありますね。)これにより信号の振り分けが高速にでき,信号の歪みが抑えられていたそうです。最後に印象的なのが,何と言ってもそのコンピュータ機器そのものといった外観デザインでしょう。当時,他社のCD
プレーヤーと大きく異なったこのデザインを見たとき,またも,さすがコンピュータのNECだな,と感じたものです。し
かし,このデザインが示すように,機能的にも,当時としては最大の99曲までのメモリープレイができたなど,機能
的には非常に多機能で先進的でした。選曲速度等は速くはありませんでしたし,コンピュータ的なデザインはオーデ
ィオ機器として使いやすい方ではありませんでしたが,デジタル時代の機器なんだと強く訴えていたこのデザインは
印象深いものがありました。当時多かった縦型ローディング(カセットデッキみたいですが,使いやすくはなかったせ
いか,第2世代からは縦型は姿を消した。)で,銀色のディスクがくるくる回る姿が上半分の窓から見える様を見てい
ると,今までのオーディオ機器とは違うんだと妙に納得させられたものです。第1世代のCDプレーヤーの中では,レンジも最も広く,位相特性が優れていたせいか,音場の広がりもよく感じられ
聴きやすい音だった記憶があります。進歩の早いデジタル機器のこと,現代の水準から言えば,まだまだといった感
じですが,記憶に残る名機だったことは間違いないと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
世界に誇るNECの総合エレクトロニクス・
テクノロジーが成し得た,究極のクオリティー機。
◎音質を左右するデジタルとアナログの接点に,
新開発”デジタル・フィルター”を採用。 これはもう,コンパクト・ディスクのリファレンス機だ。 ◎デジタル信号を余すことなくピックアップする, 独自の制御システム ”3段アクション・サーボ”搭載。 ◎格段に速いスイッチングスピードを誇る ”高速電子スイッチ”の採用で 未踏のクリアな高域を獲得。 ◎高性能だから,多機能になれる。 先進のマイクロプロセッサ技術が可能にした, 簡単で,迅速で,正確なオペレーション。 |
●CD−803規格(仕様)
方式 | 光学式(コンパクトディスク方式) |
ピックアップ形式 | GaAlAs半導体レーザー |
標本化周波数 | 44.1kHz |
量子化ビット数 | 16ビット 直線 |
チャンネル数 | 2チャンネル |
周波数特性 | 5Hz〜20kHz±0.5dB |
ダイナミックレンジ | 90dB以上 |
SN比 | 90dB以上 |
全高調波歪率 | 0.01%以下(5Hz〜20kHz) |
チャンネルセパレーション | 70dB以上(5Hz〜20kHz) |
ワウ・フラッター | 測定限界値以下(水晶発振精度) |
出力 | 固定端子2.0V(470Ω) 可変端子0〜2.0V(2.5kΩ) |
選曲機能 | プログラムナンバーおよびサブナンバーにて可能 |
メモリー機能 | プログラムナンバーおよびサブナンバーにて99曲までメモリー可能 |
アクセスタイム | 平均3秒 |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 48W |
外形寸法 | 幅430×高さ150×奥行360mm |
重量 | 12.0kg |
※本ページに掲載したCD−803の写真・仕様表等は1983年3月の
NECのカタログより抜粋したもので,NECホームエレクトロニクス株式
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