ＹＡＭＡＨＡ　Ｂ-２
ＮＡＴＵＲＡＬ　ＳＯＵＮＤ　ＰＯＷＥＲ　ＡＭＰＬＩＦＩＥＲ￥２００，０００

ヤマハが１９７６年に発売したステレオパワーアンプ。１９７３年に自社開発 のＳＩＴ（Ｖ-ＦＥＴ）を搭載した
オールＦＥＴの弩級パワーアンプＢ-１を発売した同社が，より現実的な形で開発・発売したＶ-ＦＥＴアン
プでした。

Ｂ-２では，Ｂ-１で開発されたパワーＦＥＴ・２ＳＫ-７７を一回り小型にし，コンプリメンタリー化した，新開
発のパワーＦＥＴ・２ＳＫ-７６（Ｎｃｈ），２ＳＪ-２６（Ｐｃｈ）が搭載されていました。Ｖ-ＦＥＴは，３極真空管に
も似た動作をする電圧制御素子で，ＭＯＳ　ＦＥＴとはまた違った魅力を持った素子でした。しかし，当時
の技術では量産，ペア特性を合わせての製造が難しいものでした。ヤマハは，Ｐｃｈ，Ｎｃｈのディバイス
のチップサイズ，不純物濃度，ゲートメッシュ構造に十分に検討を加え，製造工程で厳密にコントロール
することで，広い動作範囲でのペア特性を合わせ，さらに独自のペア選別方法で，選別した「ヤマハスー
パーペアＦＥＴ」として使用していました。この結果，Ｂ-２では，ヤマハ初のＦＥＴコンプリメンタリープッシュ
プル構成がとられていました。



新開発のリニアリティに優れ，ゲインの十分高いＦＥＴを使用したことで，小電力でドライブでき，ドライバー
段以前を安定にＮＦＢがかけられる２段増幅のシンプルな回路構成がとられていました。また，カレントミ
ラー回路のコンビネートや初段を除く全段をプッシュプル構成にしていることなどによって歪み発生を，低く
抑え，すぐれた裸特性が実現されていることで，ＮＦＢを控えめにかけながらすぐれた歪率特性が確保さ
れていました。さらに，ＮＦＢループ内からコンデンサをなくし，入力のコンデンサまでも除去した完全なＤＣ
アンプ構成となっていました。

出力段は，ヤマハオリジナルのスーパーペアＦＥＴを２個使用したピュアコンプリメンタリーパラレルプッシュ
プルＯＣＬ回路で構成されていました。このパワーＦＥＴは，ドレイン損失１００Ｗで，リニアリティがよくペア特
性がよく揃っているもので，広い出力帯域，周波数帯域で低歪率を得ていました。このすぐれたＦＥＴによ
り，それまでのＦＥＴアンプの常識を破る低アイドリング電流で動作していました。ヒートシンクは大型のも
のをＬｃｈ，Ｒｃｈそれぞれに使用し，パワーＦＥＴは特殊加工を施したヒートシンクに直接取り付けられ，熱
抵抗を下げて効果的な放熱が行われ，フルパワー時でも十分な余裕をもっての動作が可能でした。



このパワーＦＥＴをドライブするドライブ回路には，シンメトリカルプッシュプルドライブ方式が採用されてい
ました。これは，パワー段のＮｃｈ，ＰｃｈのＦＥＴをそれぞれピュアコンプリメンタリープッシュプル回路でドラ
イブするという贅沢な回路で，すぐれた特性に貢献していました。
以上のような，立ち上がり，直線性にすぐれたパワーＦＥＴとそのペアリング，シンメトリカルプッシュプル回
路により，高いスルーレイトと，低歪みを実現していました。

電圧増幅段には，初段にカスコードブートストラップつきＦＥＴ差動増幅，プリドライブ段にカレントミラー差動
プッシュプル増幅を採用していました。
初段には，ペア特性を精密に揃えたスーパーローノイズＦＥＴを，熱的にもカップリングし差動アンプを構成
していました。ｇｍの高いＦＥＴを使用し，ソース側に温度補正をした定電流バイアスをかけ，同相信号除去
比（ＣＭＲＲ）を非常に大きくとることで中点電位のドリフトを極小に抑え，また，電源の微少なリップルの影
響もキャンセルされ，高いＳＮ比を確保していました。
差動アンプ初段に，カスコードブートストラップ回路を搭載し，入力信号の変化でドレイン−ゲート間の電圧
が変化しないようにして，入力インピーダンスが変わっても歪みが劣化しないようにしていました。プリドライ
ブはカレントミラー回路を組み合わせた差動プッシュプルでＡ級動作をさせ，十分なゲインを低歪み率で確保
していました。

電源回路は，Ｂ-１と同様に，電源トランスを左右独立で搭載し，チャンネル間の相互干渉をさけていました。
片チャンネルあたり１８，０００μＦ×２の大容量ケミコンを使用し，豊かな低音特性を実現していました。
また，ドライブ段以前は，完全な定電圧電源として，外部雑音やリップルによるＳ/Ｎの劣化を抑え，アンプ回
路の安定動作を確保していました。
パワーＦＥＴのバイアス回路には，電源電圧の変動によって起こるバイアス電圧の変化を自動的に補正して
常に一定に保つ自動安定化バイアス回路を採用していました。また，ダイオードマトリックスを用い，ＰＯＷＥＲ
スイッチＯＮ時にＦＥＴに流れるラッシュカレントを防止してＦＥＴの破損を防ぐようになっていました。

ピークレベルメーターは，Ｂ-１用アダプターのＵＣ-１と同じもので，−５０dB（１mW)から＋５dB（３００Ｗ）までレ
ンジ切換なしで表示でき，１０kHzの正弦波１波でも−２dB以内の指示誤差に入る高精度な対数圧縮型ピークメ
ーターが搭載されていました。このメーターは，パワー表示だけでなく他の用途にも使えるように「ＥＸＴＥＲＮＡＬ」
と「ＩＮＴＥＲＮＡＬ」の切換が設けられ，「ＥＸＴＥＲＮＡＬ」では，メーター単独の使用も可能となっていました。そのた
め，マルチアンプの時など，他のパワーアンプの出力レベルを見たり，プリアンプの入力電圧を見たりすること
にも使えました。
スピーカー出力はＡ，Ｂの２系統備えられ，前面パネルで切換えができるだけでなく，Ａ，Ｂ２系統のレベルを左右
それぞれ独立にレベルボリュームで調整できるようになっていました。インプットも２系統あり，これも前面パネル
で切換が可能となっていました。

以上のように，Ｂ-２は，超弩級機Ｂ-１に次ぐＦＥＴパワーアンプとして，新しいだけあって，オールＦＥＴにこだわら
ずバイポーラトランジスタとハイブリッドで用いるなど，バランスの取れた設計になっており，当時のアンプとしては
物理特性も非常に優れたものを持っていました。音の方も，Ｂ-１ほどの力強さはないものの，Ｖ-ＦＥＴならではの
繊細でニュアンス豊かな魅力ある音のアンプでした。

以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。

●Ｂ-２の規格●


■アンプ部■

ダイナミックパワー （１ｋＨｚ，８Ω，０．１％ＴＨＤ）	１４０Ｗ＋１４０Ｗ
実効出力 （２０Ｈｚ〜２０ｋＨｚ，０．０８％ＴＨＤ）	８Ω：１００Ｗ＋１００Ｗ ４Ω：１４０Ｗ＋１４０Ｗ
全高調波歪率 （２０Ｈｚ〜２０ｋＨｚ，８Ω）	実効出力時：０．０８％以下 ５０Ｗ出力時：０．０１％以下 １０Ｗ出力時：０．００８％以下
混変調歪率 （７１Ｈｚ：７ｋＨｚ＝４：１）	５０Ｗ出力時　 　８Ω：０．０３％以下 　４Ω：０．０３％以下 　１６Ω：０．０３％以下
周波数特性（８Ω）	１Ｗ出力時（ＤＣ切換）：ＤＣ〜１００ｋＨｚ＋０−１dB 　　（ＮＯＲＭＡＬ切換）：１０Ｈｚ〜１００ｋＨｚ＋０−１dB
位相特性 （１０Ｗ出力時ＤＣ〜１００kHz）	＋０°，−３０°以内
パワーバンド幅 （８Ω，０．５％ＴＨＤ）	５Ｈz〜１００kHz−３dB
ダンピングファクタ（８Ω）	２０Ｈz：７０ １kHz：７０ ２０kHz：５０
入力インピーダンス	２５kΩ
入力感度	７７５mV
ＳＮ比 （ＩＨＦ-Ａネットワーク）	１１５dB（入力４．７kΩショート）
残留ノイズ	０．２５mV
入力端子	１，２（前面切換ＳＷ） ＮＯＲＭＡＬ，ＤＣ（後面切換ＳＷ）
出力端子	Ａ，Ｂ（前面切換ＳＷ）

■ピークメータ部■

指示範囲	−５０〜＋５dB （０dB＝８Ω/１００Ｗ/１００kΩ　０dBm/４３kΩ）
指示誤差	−２０〜＋５dB：±１．０dB −２０〜−４０dB：±２．０dB −４０〜−５０dB：±３．０dB
周波数特性	２０Ｈz〜２０kHz±１．０dB
応答速度	１００μＳ
復帰速度	１sec
指示切換	ＩＮＴＥＲＮＡＬ，ＥＸＴＥＲＮＡＬ
感度切換	８Ω/１００Ｗ/１００kΩ　０dBm/４３kΩ

■その他■

定格消費電力	ＡＣ１００Ｖ，５０/６０Ｈｚ　２９０Ｗ
使用半導体	たて型ＦＥＴ：８，横型ＦＥＴ：４，Ｔｒ：９５，ＩＣ:：２， Ｄｉｏｄｅ：６６
外形寸法	４３６Ｗ×１５１Ｈ×３７０Ｄmm
重量	２６kg

※本ページに掲載したＢ-２の写真，仕様表等は１９７６年４月のＹＡＭＡＨＡ
　のカタログより抜粋したもので，日本楽器製造株式会社に著作権があり
　ます。したがってこれらの写真等を無断で転載，引用等をすることは法律
　で禁じられていますのでご注意ください。
 

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