![]()
Victor AX-Z911
DIGITAL BASIC INTEGRATED AMPLIFIER
¥89,800ビクターが1987年に発売したプリメインアンプ。ビクター初のD/Aコンバーター内蔵アンプで,シンプルな
未来的デザインにビクター伝統のアンプ技術とデジタル技術を投入した力作でした。特に,D/Aコンバータ
ーを生かした信号予知回路によるAクラス動作という特徴を打ち出した1台でした。「デジタルピュアA」と称したこの回路は,純Aクラス動作とハイパワーを両立させようと,電源回路の制御
にデジタル技術ならではの工夫を加えたもので,D/Aコンバーターをアンプに内蔵したことにより,デジタ
ル信号が直接入力可能で,そのデジタル信号が記憶素子にメモリーできるというメリットを生かしたもので
した。入力されたデジタル信号は通常のアンプ回路と信号予知回路に振り分けられ,アンプ回路に入った
主となるデジタル信号は,タイムベースプロセッサに一瞬記憶され,わずか150msという短い時間差をつ
くった後,D/Aコンバーターに送り出されるようになっていました。そして,もう一方の先行デジタル信号は
信号予知回路に送られ,いち早く入力信号の大きさを判定し,同時に,D/A変換後の主信号レベル,ボリ
ュームのゲインを分析して予知信号を形成,その予知信号を受けてパワー段のアイドリング電流を変化さ
せ,入力信号にみあった電圧を電源回路が供給するという仕組みになっていました。これにより,無駄な
電流を消費することなく,高効率のうちに純Aクラス動作を可能にし,純Aクラスで120W+120W(6Ω)
という大出力を実現していました。なお,通常の入力では,20WまでがAクラス動作となっていました。D/Aコンバーターには4倍オーバーサンプリングデジタルフィルターを採用した16ビットマルチビットタイプ
を搭載していました。D/Aコンバーターを内蔵することで問題になる,デジタル部や電源部のオーディオ部
への干渉を抑えるため,デジタル信号処理部をプレートでシールドし,大型ヒートシンクを境に基板ごとア
ナログ信号処理部とデジタル信号処理部をセパレートした構造がとられていました。
![]()
デジタル信号をそのまま入力できるアンプとして光1,同軸2の3系統のデジタル入力を装備し,さらに回路
内での信号経路の短距離化・シンプル化を図っていました。スピーカー端子をシンプルに1系統にするととも
に,入力信号を前面操作パネルまで引き回さずに切換えできるようにリレーと電子スイッチを用いていました。
このことにより,デジタル入力時には,DACダイレクトスイッチONで,信号経路がわずか0.5m(同社,従来
機2.7m),接点数1(同社従来機10)と信号経路の徹底した短縮化・シンプル化が実現していました。さら
に,入力の切換え,電動ボリュームによるボリューム操作のリモコン操作が可能になり,当時プリメインアン
プとしては珍しいリモコン装備となりました。アナログ入力時にも端子類を基板に最短の距離に配置して信号
経路の短縮化が図られていました。また,MCカートリッジにも対応し,MCヘッドアンプを内蔵していました。以上のように,AX-Z911は,デジタル対応アンプとしてDAC内蔵のメリットを積極的に生かそうとしたビクター
の意欲作でした。ビクターらしい,明るく滑らかな感じの音を持っていました。そして翌年,AX-Z921へとモデ
ルチェンジされ,このユニークな設計は引き継がれ,強化されたのでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
デジタルを使いこなし,
ピュア&シンプル思想を徹底した
新世代のデジタルアンプを,
エスパノーツと呼ぶ。
ただDAコンバーターを
内蔵しただけではない。
デジタルを駆使した信号予知回路が
生む,純粋Aクラス120W+120W
絹のように滑らかな音が,
未体験のエネルギーを持った。
◎デジタルソースのクオリティをフルに引き出す
デジタルベーシックアンプ。
◎アンプの理想,純Aクラス動作。
◎デジタル信号予知回路”デジタルピュアA”が
実現した,純粋Aクラス120W+120Wの大出力。
◎4倍オーバーサンプリングデジタルフィルターを
採用のD/Aコンバーター。
◎内部干渉を排除するD/A分離コンストラクション。
◎光デジタル入力+信号経路の短距離化で
ピュア伝送を追求。
◎優れた操作性と高音質を実現する
プリメイン初のリモコン装備。
![]()
Victor AX-Z921
DIGITAL BASIC INTEGRATED AMPLIFIER
¥99,800ビクターが1988年に発売したプリメインアンプ。前年に発売されたAX-Z911を大幅に強化し,充実した
内容を持つD/Aコンバーター内蔵型アンプでした。特に,D/Aコンバーター部を中心に強化が図られてい
ました。最大の変更点は,外部から送られてくるデジタルデーターの入力部つまりD/Aコンバーターの直前への
「K2インターフェース」の搭載にありました。デジタル信号の波形伝送において,ジッター(時間差歪)や
リップル(波形歪)などの外乱ノイズが波形に付加されることが大きな問題としてあります。「K2インター
フェース」は波形伝送を符号伝送に変換して符号外成分だけを取り除くことで信号波形の純度を高める
技術でした。具体的には,半導体の高速スイッチ動作により,デジタル入力信号の符号情報だけを検出
し,符号情報をもとに,別のブロック上に新たなデジタル波形を作り出すことにより,ジッターなどの影響
を受けずに変換出力の精度を高く保つことができるという技術でした。そのために,PLL回路を2つ搭載
し,1stPLL回路が,入力デジタル信号の揺らぎに素早く追従しながらタイミングをとらえクロックデータを
送り,さらに2ndPLL回路が,このデーターをもとに安定した同期信号を作り,マスタークロックとして発
振する仕組みになっていました。このマスタークロックに合わせてもう一度生成され,「K2インターフェー
ス」から出力されるデジタルデーターは,結果として外乱ノイズが除かれたピュアな信号波形になるとい
うものでした。D/AコンバーターもAX-Z911の16ビット4倍オーバーサンプリングタイプのものから大きく強化されてい
ました。デジタルフィルターには8倍オーバーサンプリングのものを採用し,D/Aコンバーターには,下位
ビットを分離し,上位ビットと電流加算する18ビットL・R独立コンビネーション4DACを搭載していました。「デジタルピュアA」はタイプUとして引き継がれ,入力されたデジタル信号がD/Aコンバーターに入る直
前に,瞬時に信号の大きさを予知してアイドリング電流を最適レベルに設定されるようになっていたほか
アナログ入力信号に対しても,出力電流と動作電流の関係が常に最適になるよう,光バイアス回路で制
御されるようになっていました。出力も130W+130W(1kHz・6Ω)にアップされていました。
電源部も,130Wの出力に対応して強化され,バランス巻線,低インピーダンス構造のコアサイズがクラ
ス最大のものとなっていました。この電源トランスは,振動による影響を抑えるため,振動減衰特性に優
れたディンプル構造の高剛性プレートにマウントされていました。DACダイレクトスイッチONで,信号経路がわずか0.5m,接点数1の信号経路の徹底した短縮化・シン
プル化を引き継ぎつつスピーカー出力は独立2リレー方式の2系統となり,バイワイヤリングにも対応して
いました。以上のように,AX-Z921は,AX-Z911をもとに各部に改良が施された2代目モデルとして,これもまた
ビクターらしい明るく滑らかな音を持った,コストパフォーマンスの高い実力機でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎空間や空気感まで再現する,K2インターフェース。
◎消え入りそうなレベルの解像力を高めた,
8fs&フルタイム18ビットDAC。
◎Aクラス130W+130Wの高出力を生む
デジタルピュアAタイプU。
◎クラス最大。バランス巻線,低インピーダンス構造の
大型トランス。
◎効果的なD/A分離設計で,内部干渉を排除。
◎光デジタル入力と信号経路の最短距離化で
ピュア伝送を追求。
●主な仕様●
●総合特性●
(CD,LINE1,LINE2,LINE3(Z921のみ),DAT1/TAPE1,DAT2/TAPE2)
|
|
|
定格出力 | 120W+120W
(6Ω,1kHz,歪率0.0007%) 110W+110W (6Ω,20〜20,000Hz,歪率0.0035%) |
130W+130W
(6Ω,20〜20,000Hz,歪率0.005%) 110W+110W (8Ω,20〜20,000Hz,歪率0.004%) |
全高調波歪率 | 0.0035%(8Ω,20〜20,000Hz,定格出力時) | 0.004%(8Ω,20〜20,000Hz,定格出力時) |
出力帯域幅 | 7〜60,000Hz(8Ω,両ch動作,歪率0.02%) | 5〜100,000Hz(8Ω,両ch動作,歪率0.1%) |
周波数特性 | DC〜200,000Hz(+0dB,−3dB) | 5〜100,000Hz(+1dB,−3dB) |
ダンピングファクター | 200(1kHz,8Ω) |
|
入力感度/インピーダンス
(1kHz) |
400mV/30kΩ | 300mV/30kΩ |
SN比 | 86dB(EIAJ),112dB(IHFショートサーキット) | 83dB(EIAJ),113dB(IHFショートサーキット) |
バス・コントロール | 0〜+5dB
(50Hz,MASTER LEVEL−30dB) |
|
フォノRIAA偏差 | ±0.2dB(20〜20,000Hz,MM,MC) |
|
●D/Aコンバーター●
対応サンプリング周波数 | 32KHz,44.1kHz,48kHz(自動切換) |
|
全高調波歪率 | 0.0035%(1kHz,EIAJ) |
|
SN比 | 102dB(EIAJ) | 107dB(EIAJ) |
ダイナミックレンジ | 97dB(EIAJ) | 98dB(EIAJ) |
入力 | DIGITAL1(オプティカル)−23〜−14dBm
DIGITAL2(コアキシャル)0.5Vp-p/75Ω DAT PLAY(コアキシャル)0.5Vp-p/75Ω |
|
出力 | DAT REC(コアキシャル)0.5Vp-p/75Ω |
●電源・その他●
電源電圧 | AC100V(50,60Hz共用) |
|
消費電力 | 200W(電気用品取締法基準) | 225W(電気用品取締法基準) |
電源コンセント | 電源スイッチと非連動1個(最大200W) | 電源スイッチと非連動2個(最大200W) |
最大外形寸法 | 435W×166H×442Dmm | 435W×173H×459Dmm |
重量 | 19.0kg | 18.0kg |
付属品 | リモコン送信機(RA-SA911)1個 | リモコン送信機(RA-SA921)1個 |
※本ページに掲載したAX-Z911,AX-Z921の写真,仕様表等は1987年12月,
1988年11月のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に
著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。