ＳＯＮＹ ＡＰＭ-７７
３ＷＡＹ ＳＰＥＡＫＥＲ ＳＹＳＴＥＭ ￥１５０，０００（１台）
ＡＰＭ-７７Ｗ（ウォールナット突き板仕上げ）
３ＷＡＹ ＳＰＥＡＫＥＲ ＳＹＳＴＥＭ ￥１６０，０００（１台）１９８１年にソニーが発売した３ウェイスピーカーシステム。ＡＰＭスピーカー第１号機のＡＰＭ-８（１９７９年），
第２号機ＡＰＭ-６（１９８１年）を経て開発された平面振動板ＡＰＭ方式の３号機で，先行した２つがＥＳＰＲＩＴ
ブランドの超高級機であったのに対し，初めてＳＯＮＹブランドで登場した一般向けといえそうなＡＰＭスピー
カーでした。当時，スピーカー選びをしていた私にとっても気になる１台でした。ＡＰＭ-７７/７７Ｗの最大の特徴はもちろんＡＰＭユニットの搭載にありました。ＡＰＭ（Ａｃｃｕｒａｔｅ Ｐｉｓｔｏｎｉｃ
Ｍｏｔｉｏｎ）ユニットはその名の通りソニーが正確な振動をする振動板を目指して開発した平面形ユニットで，四
角い個性的な外観から想像されるとおり独創的な構造で高性能を誇るユニットでした。
このＡＰＭユニットは，特定の周波数で振動板の各部が一様な振動をしなくなる現象・「分割振動」の追放を
徹底的に追及したものでした。分割振動をなくすためにＡＰＭユニットでは，軽量で高剛性ハニカム構造の平
面振動板を採用していました。さらに，振動板の形を正方形にすることで，分割振動の節目が一定の位置に
発生するようにし，その分割振動の節目４点をボイスコイルで駆動して分割振動の発生を抑えていました。ま
た，ボイスコイルを前面スキンに取り付けることにより，ダイレクトな駆動を実現していました。以上のように，
ソニーらしく非常に理詰めのアプローチがなされた独特のユニットでした。
ウ−ファーは，５３０ｃｍ2のＡＰＭユニットで，振動板は，アルミスキンによってアルミハニカムをサンドイッチした
構造をとっており，さらにこのサンドイッチ構造の中には板振動を抑える制動材を組み込んでいました。この振
動板を４つの磁気回路とボイスコイルで４点駆動する構造になっていました。
ミッドレンジは，２７ｃｍ2のＡＰＭユニットで，振動板はカーボンファイバーシートでアルミハニカムコアをサンドイッ
チした構造をとっていました。高い周波数の分割振動を抑えるために軽量で剛性の高いカーボンファイバーシ
ートをスキン材に採用していました。口径が小さいため，一つの磁気回路で４点を駆動する方式でした。
トゥイーターは，７ｃｍ2のＡＰＭユニットで，振動板はミッドレンジ同様，カーボンファイバーシートでアルミハニカム
コアをサンドイッチした構造で一つの磁気回路で４点を駆動する方式をとっていました。３つのユニットともアルミ
ダイキャストの頑丈なフレームを持ち，バッフル板にしっかりと固定されていました。
エンクロージャーは，１台１００万円のＡＰＭ-８と同じ素材の高密度パーチクルボードを使用した堅牢なバスレフ
方式のエンクロージャーでした。裏板の内面外周部に細溝を施し，胴板を含めた各板の振動周波数を微妙にコ
ントロールし，和音に近い耳に心地よく響く音を聴感で求める，バスレフのダクトを地板に接着して鳴きを止める，
あるいは天板・ダクトには制振材を貼り付けるなどの工夫も施されていました。吸音材にはグラスウールと高分
子繊維の２つを使い分けることにより吸音材固有の音を制御してより自然な音を追求していました。ウーファー用，ミッドレンジ用，トゥイーター用のそれぞれのネットワーク基板を分離配置して相互干渉を防止し，
構造的に低歪み化を進める一方，音質的に素材を厳選し，無誘導巻きで低共振のケミカルコンデンサー，ポリ
エステルフィルムコンデンサーを使い分け，内部配線材や導電部は，無酸素銅線および４００μ厚の無酸素銅
板を採用していました。以上のように，ＡＰＭ-７７/７７Ｗは個性的なユニットを搭載し，各部に手の掛かった高性能スピーカーでした。そ
の透明感のあるワイドレンジな音はすばらしいものでしたが，あまりに個性的な外観が大人気を得るまでにはい
かなかったようです。しかし，そのユニットの凝った構造からも分かるように，ソニーの熱意と気合いが感じられる
相当のコストのかかったスピーカーで，その優れた特性と個性的な外観が印象に残る名機であることは間違いな
いでしょう。そして，ＡＰＭ-７７/７７Ｗ以降，ＡＰＭ-３３，５５といった平面ユニットの名機たちが次々に登場したの
でした。
以下に，当時のカタログの一部をご紹介します。
