パイオニアが1987年に発売したプリメインアンプ。それまでA-200,A-150等で電源切換方式による高効率で高出力PIONEER A-717
STEREO AMPLIFIER ¥79,800
を実現する手法をとっていたパイオニアが一転して正攻法で物量を投入して作り上げたアンプでした。前年の1986年に
発売されたソニーのTA-F333ESXの驚異の物量投入による大ヒットに触発され,各社が同じようなコンセプトでライバル
として次々に物量投入の強力モデルをこの価格帯に投入したことが記憶に新しいところです。このA-717はそれらの中
でも非常に強力なモデルでした。この価格帯では考えられない贅沢な作りの重量級アンプで,パイオニアの意地を感じた
ものでした。A-717の1つ目の特徴は,信号系路を最短距離にするために各信号ブロックを適正配置したことでした。これをパイオニ
アは「ダイレクト・コンストラクション」と称していました。入力ブロックでは,インプット&レコーディングセレクター及びメイン
ボリュームを機械的にリモートコントロールする構造にして背面の入力端子に近接して配置し信号系路を最短化していま
した。ソース・ダイレクトスイッチをオンにすることにより,信号はフロントパネル側には一切流れないようになっていました。
そして,パワーアンプブロックは信号経路に沿ってレイアウトされ,パワー段の出力はダイレクトにスピーカー端子に向か
うようになっていました。スピーカーセレクターブロックでも,リレーを使用することにより信号系路を最短化し,さらに回路
を最短化するために,スピーカー端子もA端子をB端子の下に持って来るという徹底ぶりでした。
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A-717の2つ目の特徴は,外部からの振動,自己振動の影響を徹底して抑えるために剛性が高く振動減衰特性に優れ,
工学的に理想の形と言われるハニカム形状を採用して随所に採用していたことでした。絞りによるハニカムをトランスフレ
ームやフレームシャーシに,パンチングによるハニカムをボトムプレートやボンネットケースに,アルミ押し出しハニカムをヒ
ートシンクに,樹脂成形によるハニカムを大型ハニカムインシュレーターにそれぞれ採用して,徹底して振動対策を図って
いました。うなり現象を起こしやすいトランスにも対策を図り,シールド効果が高く,高剛性で,内部損失が高く,振動減衰
特性に優れ,共振周波数をほとんど持たない鋳鉄をトランスケースに採用していました。この鋳鉄ケースと内部のトランス
との間に熱伝導性の良いピッチ素材を充填することによとともに放熱フィンを設けて温度上昇によるトランス巻線の内部抵
抗の増加を防ぎ,充分なパワーを取り出せる構造としていました。さらに,+−独立の2トランス構成にすることにより安定
かつ強力な電源供給能力を持たせていました。
振動の影響を受けやすいボリュームノブは,軸受けを中心として両方向のバランスをとるという方法を用いてボリューム本
体に機械的ストレスがかからないようにしていました。さらに,ボリューム基板を支えているシールドカバーを特殊紙でボデ
ィ部分からフローティングし,音質に特に有害な2〜4kHzの共振を吸収する構造になっていました。ボリュームを含むすべ
てのロータリーノブはアルミムク材の削り出しという豪華さで,共振しにくく重厚で優れたコントロールの感触を実現していま
した。
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基本回路構成は,パイオニア自慢の可変バイアス式A級増幅回路,ノンスイッチングサーキットのタイプVを搭載し,従
来のノンスイッチングサ−キットよりもアイドル電流の安定化とパワー段の入出力信号の差の検出・補正の向上を図り
さらに歪みの低減を実現し,強力電源部とあわせ,低負荷時のスピーカー駆動能力を高めていました。
その他,PHONOイコライザー及びRECセレクターは使用しないときのOFFポジションを持ち,さらなる回路のシンプル
化を図っていました。また,電磁歪みを排除するために,リアパネル部やボトムプレート部などに銅メッキ部品を採用し
電源コードは無酸素銅極太タイプを使用するなど,上記したアルミムク材もあわせ,クラスを超えた贅沢な作りになって
いました。結果として,ソニーのTA−F333ESXと並んでこのクラスの水準をはるかに超えた19.6kgもの重量級アン
プとなっていました。このような作りから出される音にもクラスを超えた重量感を持っていました。人によっては,厚く重い
感じが好まれないところもありましたが,このクラスを代表する個性派プリメインアンプだったと思います。また後に,ビデ
オ端子を搭載したAV対応型のA-717V(¥96,000)も追加されました。
以上のように,A-717は,その基本構成をもう一度見直し,正攻法で設計された,当時のパイオニアのプリメインアンプ
の原器ともいえる存在だったと考えられると思います。その意味で印象深い1台です。
以下に,当時のA-717のカタログの一部をご紹介します。
「原点に帰り,原点を超えた」
オーディオの新しい思想が,
このアンプに開花する。美しい音を徹底してつきつめていくと,
すべてのカタチは個性美を極める。◎アンプ設計の原点ともいえる信号系路を最短
距離とするために,各信号ブロックを適正配置
にして音の純度を飛躍的に高めた,<ダイレク
ト・コンストラクション>。
◎4種類のハニカム形状を採用し,トランス部や
ボリューム系も併せてトータルに振動を解析。
音の歪みにつながる振動や共振まで少なくした
<無共振化コンストラクション>。
◎高S/N,大容量電源,ノン・スイッチング・サー
キットタイプVなどが,スピーカーの動的ドライ
ブ能力を一段と向上。(歪率0.005%/20Hz〜
20kHz,150W+150W(4Ω)ドライブ時)
●A−717の主な仕様●
■アンプ部■
定格出力 | 100W+100W(0.003%,20Hz〜20kHz,8Ω)
120W+120W(0.003%,20Hz〜20kHz,6Ω) 150W+150W(0.005%,20Hz〜20kHz,4Ω) |
ダンピングファクター | 200(1kHz,8Ω) |
入力端子
(感度/入力インピーダンス) |
PHONO MC 0.2mV/100Ω
PHONO MM 2.5mV/50kΩ CD,TUNER,LINE,TAPE 150mV/50kΩ |
PHONO最大許容入力 | PHONO MC(高調波歪率0.008%,1kHz)19mV
PHONO MM(高調波歪率0.008%,1kHz)200mV |
出力端子
(レベル/出力インピーダンス) |
TAPE REC,ADPT OUT 150mV/2.2kΩ |
周波数特性 | PHONO MC 20Hz〜20kHz±0.3dB
PHONO MM 20Hz〜20kHz±0.3dB CD,TUNER,LINE.TAPE 1Hz〜150kHz+0,−3dB |
トーンコントロール | BASS ±8dB(100Hz),at−40dB
TREBLE ±8dB(10kHz),at−40dB |
サブソニックフィルター | 5Hz(12dB/oct) |
ラウドネスコンター | 100Hz/10kHz(5dB/3dB),at−40dB |
S/N
(IHF-Aネットワーク,ショートサーキット) |
PHONO MC 71dB(at0.25mV)
PHONO MM 89dB(at2.5mV) CD,TUNER,LINE.DAT/TAPE1,TAPE2 108dB |
スピーカー負荷インピーダンス | 4〜16Ω |
■電源部・その他■
電源電圧 | AC100V 50,60Hz |
消費電力(電気用品取締法) | 270W |
ACアウトレット | 電源スイッチ連動:2(200W)
電源スイッチ非連動:1(100W) |
外形寸法 | 420W×162H×435Dmm |
重量 | 19.6kg |
※本ページに掲載したA-717の写真,仕様表等は,1987年7月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作
権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
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