東西落語特選
殿集め
今どきの年頃の世代を調べますと、年頃の男の数が女の数よりも百万人くらい多いのやそうでございますな。このままでいきますと、世の中にやもめが百万人できる勘定やそうで。まあ、落語を聞かはるくらいのお方なら大丈夫やと思いますが、「男やもめにウジが湧く」てなことを申しますので、やもめが百万もおった日にはさぞかしうっとうしい世の中になりますやろなぁ... 今と昔とでは結婚というもののありようもずいぶんと変わって参りました。昔は結婚といいますとたいていはお見合いでございました。結構なお仲人が間に入りまして、双方親の立ち会いのもとにお見合いですな。気に入ったとなりますと、結納を入れまして、吉日を選んで高砂やと相場が決まっておりました。 当節は見合いてなものは流行りませんな。たいていは恋愛結婚でございます。まぁ、「恋愛結婚」と言いますとなんやえらいろまんちっくそうで聞こえがよろしいが、昔はこれを「くっつきあい」と申しました。「おまはんとこのめおとは仲人があっていっしょになったんか、それともくっつきあいか」なんて友達に聞かれまして、頭を掻きながら「面目ない、実はくっつきあいで」なんて、思わず頭さげたりしたもんですな。 今の若い女性はまことに積極的で、なんでもすぐに直接行動...エホンッ、に移らはりますが、昔はとてもそんなことはございませんでした。見合いやいうても、じっくりと相手の顔を見るような娘さんはむしろ少数派でございまして、ただモジモジモジモジとうつむいてるだけですな。うちへ帰ってきて、「で、相手の男さんはどんな方でした」なんて聞かれて「あっ、しもた。顔見るの忘れてた」てなもんで、それでも親同士がちゃんと話しを決めまして、本人がモジモジしているうちに話しがまとまってしまうような様子でしたな。 ま、善し悪しは別としまして、昔のおなごさんというものはいたってしとやかと言いますか、消極的と言いますか、なかなか、自分から積極的に伴侶を求めるということはなかったものでございます。そういった時分のお噂でございまして... 京都のさる御大家の娘さんでございます。歳が十八、そら近所でも評判の器量良し。そのお嬢さんがあろうことか清水の舞台から飛び降りるという評判が立ちました。 モノの喩えで「清水の舞台から飛び降りたつもりで」てなことを言いますが、この娘さんの場合は本当に飛び降りると言う。あの舞台、いったい何メートルあるのか存じませんが、上から見下ろすと思わずクラクラッとするくらい、大変な高さでございますな。世間ではえらい騒ぎでございます。ただ今の様にマスコミが発達しております世の中ではございませんが、口コミで「今度、えらい別嬪さんが清水の舞台から飛び降りるねんで」と、京都中に伝わりまして、その日になりますと清水の舞台の下は黒山の人だかりでございます。 | |
甲 | あんた、もし、あんた、もし、あんた... |
乙 | え...あの人、こっちの方見ながらさかんに声を掛けてはるが、わしのことかいな......へぇ、わたいでっか? |
甲 | あ...いやぁ、別に誰でもよろしいんやけど、こないぎょうさんに人がおったら暇な人がひとりくらい返事しはるやろと思うて声かけてましてん |
乙 | なんだんねん、それは... |
甲 | いや、ちょっとものを尋ねたいんですわ。あれ、ほんまですか? |
乙 | ほんま、て、なんでんねん |
甲 | いや、そやさかい、今日、舞台から飛び降りはるっちゅう話しですがな。飛び降りはるの、ホンマに娘はんでっか? |
乙 | そうでんねん。なんでも今年十八になる娘はんやちゅう話しでっせ |
甲 | ほんまでっか...ほんまに十八の娘はんが舞台から飛び降りはるの...「娘十八番茶も出ばな」ちゅうくらいでっせ...で、その娘はん、別嬪でっかなぁ? |
乙 | さー、そらわたいが見たわけやおまへんけどなぁ、聞いた話しでは近所でも評判の別嬪さんやいうことですわ |
甲 | さよかぁ...はは、そ、そら楽しみでんなぁ...し、しかし、間違いはおまへんやろなぁ |
乙 | さあ、それはわたいにもわからしまへんなぁ |
甲 | いや、あんたさっき言わはったがな。「十八の別嬪の娘はんが舞台から飛び降りる」と。今、あんた言わはったやろ! そら、あんた、責任をもって飛ばしてもらわんと |
乙 | そんな無茶言いなはんな。わたいはここの興行主ちゅうわけやおまへんねんで、どっちか言うたらわたいも観客の方だす。娘はんが果たして飛ばはるか飛ばはれへんか、わたいにもわからしまへん。わたいもねぇ、人から聞いてこないして見に来ただけだんがな。そやさかいにどっちかわかりまへん |
甲 | そ、そんな殺生なこと言いなはんな! わたい、今日どんな思いでここへ来たと思てなはんねん、わたい、大工職人でっけどなぁ、義理のあるお店の仕事断わって、ここ来てまんねんで。あんた、わたいお出入り差し止められるかもしれまへんねんで、それで娘はんは飛び降りん、仕事は無くなる、女房子抱えて明日からどないして暮らし立てていったらええと思わはるか、あんさん? |
乙 | そ、そんなん知りまへんがな! |
甲 | あんた、人の生活どうなってもええやなんて...一家心中てなことになったらどないしてくれまんねん...その時はわたいはあんたを許さへん...七たび生まれ変わってもあんたを取り殺して... |
乙 | ちょ、ちょっと待ちなはれ! そないに暮らし向きのことが心配なら仕事に行きなはったらどないだす? |
甲 | さあ、さあ、さあ、それでんがな、それでんがな! ようあるやっちゃ。 そうでっしゃろ、「もうちょっと辛抱して待ってたらよかったのに、あんた帰りはったすぐ後で飛びはりましたんやでぇ」やなんてことを後から聞かされてみなはれ...そ、そら口惜しいて...七たび生まれ変わってもあんたを取り殺して... |
乙 | そればっかりや! |
甲 | そやさかいに言うてますのや。飛ぶのか、飛ばへんのか。飛ぶのやったら飛ぶ、飛ばへんのやったら飛ばへん、とハッキリと言うておくれやす! |
乙 | それはわたいは請け合いかねるちゅうてますやないか! |
甲 | 請け合いかねるて、あんた、そこまで言うといて、今さら責任逃れしようやなんて、よくよく女々しい!! さ、おっしゃれ! どっちでんねん! おっしゃれ! |
乙 | そ、そんな、わたいに怒ってどないしまんねん。 そやけど、考えたら、まあ、これだけの人数が集まってまんねやさかいに、まんざら噂だけとも思えまへんがな。飛びはりますねやろ |
甲 | ほ、ほんまに、 ほんまに飛びまっか...ほ、ほんまに...グスッ |
乙 | 泣いてますのか? 情けない、女房子までおるええ歳したおっさんが、こんなことで泣きなはんな! |
甲 | 泣かしておくれやす! よろしい。あんさんを信じて、今日は仕事休みまっさ。 こうなったらいつ飛びはるかわからんけど、飛びはるまで待ちますわ。 ...ところで...なぁ、なんで飛びはるんでっしゃろ? |
乙 | なんで...て? |
甲 | いや、そやさかいに...どういうわけがあって、あんな高いところから飛びはるんだす? |
乙 | さぁ...それは考えたこともおまへんでしたなぁ |
甲 | 考えたことも、て...あんた、よくよく無責任な! |
乙 | 無責任やなんて、わからんもんはわかりまへんがな! |
甲 | わからんかて、人には想像力ちゅうもんがおますやろ! 「考えたこともおまへん」「わかりまへん」そんなことは犬でも言いまっせ! |
乙 | ほう、あんた犬が「考えたこともおまへん」「わかりまへん」てなこと言うの聞いたことがおますのか |
甲 | もし犬がしゃべったらちゅうことですがな。 想像してみなはれ、あんた、どない思うてはるねん |
乙 | どない思うて、て言われても、わたいはただ、娘はんが飛ぶちゅうことを聞いたもんやさかい、こないして来てるだけで、そないに難しいに考えたことおまへんがな... まあ、想像で言うたら...あ、わかりました。こらぁ親のためだすな |
甲 | 親のため!? なんだす、それ。 娘が飛んだら親のためにどうなりまんねん。 親がどうしたっちゅうねん! |
乙 | もちろん病気でんがな |
甲 | えっ、親が病気? はぁはぁはぁ..なるほど...あんた、なかなか考えよるなぁ...よろしいで、よろしいで...それで、その「病気」っちゅうのはなんだす? やっぱり年いかはって中風しなはったか、それとも痔か? |
乙 | あんたなぁ、中風と痔といっしょくたに並べて喋りなはんな。 だいたいここはどこや思てなはる? ここは清水の観音様だっせ。観音様で病気ちゅうたら決まってまっしゃろ。 眼病でんがな |
甲 | あぁ、なるほど。清水の観音様やさかいに眼病。これは理屈でんな。ほんで、眼が悪いねやったら、流行り眼でっか、のぼせ眼でっか? |
乙 | アホなこと言いなはんな。そんなもんやったら井戸の水でジャバジャバッと洗うといたらじきに治りますがな。そんな病気でなんで娘はんが一命を投げ打たなあきまへんねん |
甲 | あ、さよか? ほたら、なんだす? |
乙 | そうでんなぁ。眼病で一番治り難いちゅうたらやっぱりそこひ (=白内障) でっしゃろ。 |
甲 | おっ! ええこと言いなはった。 ここはそこひに決めまひょ! |
乙 | あんたがそんなこと決めてどないしますねん。 わたいはたぶんそこひやろうと思うたちゅうだけのことでっせ |
甲 | えぇ? さよか? そこひがええと思うけどなぁ... で、そこひやったらなんで娘はんが飛び降りますねん? |
乙 | いーぇな、そこでんがな。観音さんへ、おとっつぁんの眼病平癒の願を懸けはって、今日がその満願の日やさかいに、清水の舞台から飛び降りて、命を捨てはるちゅうわけですわ |
甲 | わからんなぁ |
乙 | なにが? |
甲 | いや、なにがて、そうでっしゃろがいな。 たとえ親にしろ、老い先は短こぅおまんがな。そんなもんの眼が悪いからちゅうて、なんでこれから末永う生きはる、しかも 別嬪の 娘はんが死ななあきまへんねん |
乙 | えらい「別嬪」に力がはいってますなぁ。 なんでて、わたいの想像では、まあ、ここの家はおとっつあんとその娘はんと弟の三人暮らし、ところがおとっつあんが眼が悪い。というて弟はまだ歳がいかん。店を継がせるわけにいかんがな。この娘はんはよそへ嫁ぎはる段取りができてましたんや。せやけど、それでは店が潰れまっしゃないか。それではおとっつぁんも幼い弟も路頭に迷う。親兄弟のため、一身を投げ打って、と思うて命を懸けはるっちゅうわけだす |
甲 | なるほど、そら...親孝行でんなぁ...グスッ |
乙 | そうでんがな。これだけの親孝行娘が他にいてますか? |
丙 | ちょっと...おまはんら...ええ加減なことを言うてたらあかんで。おまはんなにを感心して泣いてんねん。違う、違う! |
甲 | な、なにが違うねん! |
丙 | なにが、て...おまはんら眼病や言うてたやろ。それが大きな間違いやっちゅうねん。ちゃいまっせ。娘が患うてんのは横根 (よこね=性病の一種。鼠径部のリンパ節が腫上がってとても痛い) だ。 |
甲 | な、なんですて!? |
乙 | よ、よ、よこ、よこ、横根ぇ...... |
甲 | なんでっか、今日飛びはるのは横根だすかいな...十八の娘はんだっせぇ? 別嬪はんだっせぇ? |
丙 | 十八やろうと、別嬪の娘はんやろうと、横根になるときはなるがな |
甲 | さよか...そら、まあ、そうやけど...いやぁ、わたいもいっぺんだけ横根患うたことがおますわ。そら、えらい膿んできて腫れるんだ。膿が溜まりよってねぇ。痛うて辛抱たまりまへんでぇ、そら歩くこともできしまへん。そいでもうしゃぁないさかいに医者へ行って切ってもろうたけど、その痛かったこと、痛かったこと... で、横根やからちゅうて、なんであんな高いところから飛び降りなあきまへんねん? |
丙 | おまはんら何も知らんねんなぁ。ええか、横根ちゅうのはあんたの言わはるとおり、医者に切ってもろうても、自分で切ってもそらなかなかに痛いもんだす。ところがやねぇ、高いところから飛び降りたら、痛いこと無しに膿がみな出よりますのや |
甲 | へ? そらほんまだすか? あ、あはは、あはははははは、そ、そしたら、今日は娘はんの横根の膿出さはるのん、みなで見物できるちゅうわけだすか。こら仕事休んで来てよかった。あははは、こ、こら楽しみですわ |
侍 | コリャ、そこな町人! 昼日中から横根、横根とむさ苦しい! 静かにいたせ! |
乙 | こ、これは、お侍さん、どうもあいすまんこって |
侍 | まあよい。 ちょとモノを尋ねる。 娘御はもう飛ばれたか? |
乙 | いえ、まだ...のようでおます |
侍 | まだか。さようか。これで拙者、安堵仕った。拙者が来たからには、むざむざ娘御に命を落とさせるようなことは絶対にいたさぬゆえ、安心いたせ |
甲 | お侍さん、あんさん、何しに来はったんでっか? 見物とちゃいますのか? |
侍 | むろん、娘御の命をば助けるために参った |
甲 | さよか... やっぱりおとっつぁんがそこひで、弟がまだ歳がいかんさかいに嫁入り前なんのを幸いに、身を捨てはるんでっか? |
侍 | 誰がそのような出任せを申した? |
甲 | へぇ、この人が言いはったんでんねん。そこひやと、この人が決めはったんだす |
乙 | う、うそつきなはれ、あんたがそこひに決めなはったんや。お侍さん、わ、わたいは何も言うてぇしまへんで! |
甲 | まあまあ、よろしいが。ほたらなんでっか。そこひやおまへんのか? |
侍 | そうではない |
甲 | ほたら、この人が言いはった横根でっか? |
侍 | そのようなものではない! |
甲 | ほたらなんでっか? |
侍 | 恋患い |
甲 | へっ? |
侍 | 恋患いじゃ |
甲 | 恋患い...はぁはぁはぁ...なるほど、ようあるやっちゃ。御大家の娘はんが、粋な大工かなんかに惚れはったんでっか? |
侍 | 大工風情ではないわ! |
甲 | 大工風情て、あんさん...ほんなら、いったいなんでんねん |
侍 | 浪人者じゃ |
甲 | なんじゃ、浪人者風情か...あんさんみたいな? |
侍 | 左様、さよう |
甲 | えろう収まってはりますなぁ...よほどくわしいと見えますが、そうとはっきりわかってまんのか? |
侍 | そうじゃ。よいか、町人、女と申すものはな、ひとたび思い込むと他の男のことは絶対に思わぬものじゃ。昔から、「貞女、両夫に見えず (貞女、両夫に見えず :ていじょ、りょうぶにまみえず。「貞女と言うものはたとえ夫と死別したからと言って別の男と連れ添ったりはしないものだ」という儒教的教え) 」と申してな |
甲 | えらいもんやな、こら素人では見られん芸でっせ |
侍 | なんじゃ、芸とは? |
甲 | いや、両手で逆立ちして屏風こしらえはるんでっしゃろ? |
侍 | なにをたわけたことを申しておる! 「貞女、両夫に見えず」じゃ! |
甲 | そら、なんでんねん? |
侍 | 訳の分からぬ輩よのう... たとえ夫が先立っても、決して他の男とはまみえぬ、これが女の道というものじゃ |
甲 | さよか。するとうちのかかとえらい違いですわ。 うちのかかねぇ、家主の甚兵衛はんの紹介でもらいましたんや。そのときかか、二十四だした。わたい、かかに聞きましてん「こないしてめおとになると初めてか」て。そしたら「この歳になるまで初めててなことがおますかいな!」て笑いまんねんで。ほたら二人目か、ちゅうたら「なかなか」、三人目かちゅうたら「どうしてどうして」「ほんならいったい何人目やねん」ちゅうたら十人目や言いよりますねん... ...うちのかかは...まみえ過ぎでんなぁ... |
侍 | なにをしみじみと申しておる! そのようなおなごとおなごが違う! なかなか立派なものじゃ! |
甲 | ほんで、なんでっか、あんたが来て安心せぇと言わはったけど、どないしはりますねん |
侍 | 拙者の顔を見れば、死ぬ気を起こさぬ |
甲 | ...えろうすんまへん...今のところをもういっぺん、はっきりと言うてもらえまへんか |
侍 | 拙者と会えば死ぬ必要は無いと申しておる! |
甲 | なんで? |
侍 | 察しの悪い奴よのう...先ほど申した恋患いの相手は...フフッ、拙者じゃ |
甲 | その顔で...ほんまでっか、それ...すると娘はんの家は、骨董屋でっか? |
侍 | なにゆえ? |
甲 | 骨董屋かなんぞやなかったら、そんなおもろい顔... |
侍 | おもろい顔とは何ということを申す! 拙者に惚れたのじゃ! |
甲 | さよかぁ、それやったらこんなところにいてんと、上に上がって止めた方が早いのと違いまっか? |
侍 | いったんは向こうから飛び降りさせ、拙者がここで大手を広げて抱き止める。抱き止めた時には娘はすでに気を失うておる。さっそく腰に提げたる印篭より... |
甲 | お侍はん、あんた印篭もなにもおまへんがな... |
侍 | あれば、という話しじゃ |
甲 | あれば、でっかいな |
侍 | そうじゃ。 あればすぐに薬を与える。気が付いて拙者の顔を見るなり、「ああ、うれしい、きゃーっ」と申して抱きつくのじゃ、ふっふっふ...これで縁談がまとまるのじゃ |
甲 | なんで |
侍 | 思い焦がれた男と観音様のお引き合わせで巡り合えるのじゃ、これでことがうまく収まらぬはずはあるまい? |
甲 | さよか、たいしたもんでんなぁ...けど、なんでっか。この場合、気が付いてすぐにあんさんの顔をみるちゅうことになりまへんか? |
侍 | むろん、第一に拙者の顔を見る |
甲 | そらぁ、あきまへん...あきまへんて。 そら身体に悪うおまっせ。せっかく気がついてんのに、あんさんの顔見たら、てっきり地獄の一丁目や思いまっせ。そんなもん、またすぐに気ぃ失うてしまいますて。あんさん、顔見せん方が... |
侍 | 重ねがさね無礼な奴! まあよい。その節穴のような目玉をかっぽじってよく見ておれ。 証拠はすぐに見せてつかわす! |
言うてますうちに、女中さんを三、四人つれました、それはそれは、絵に描いたようなきれいな娘はん、まず清水さんへご参詣遊ばして、参拝を済ませたあと、清水の舞台へ出ておいでになりました。さあ、下では大騒ぎでございます。 | |
甲 | いよーっ、待ってました! 頼んまっせぇっ、そこひでっか? 横根でっか? それとも恋患いでっかぁっ?? |
侍 | 静かにいたせ。静かにいたせと申すに! 退けぃ、無粋な輩めが! 人の恋路を邪魔するものではないわ! 娘御! 拙者が見事に抱き止めて見せるによって... さあ、いつなりと、飛びなされ! |
娘はん、じーっと下を見渡しておりましたが、ハァ、とひとつため息を吐きますと、そのままクルッと背を向けて帰っておしまいになった。 | |
甲 | モシモシ...モシモシ、飛べしまへんがな。どないなってまんねん!? |
侍 | たしか飛ぶはずじゃがなぁ |
甲 | 飛ぶはずて、いんでしまいましたがな! あんた、どない責任を... |
乙 | まだそんなことを言うてまんのんか! |
丙 | こらぁ、娘はん、あんた横根治らんでもええんかい!? |
侍 | ふむむむ...どうも子細がわからぬ。跡をつけよう。ついて参れ! |
物好きな連中が十人ほど後ろからついてまいりますと、娘はん、お供の女中さんに声をかけております。 | |
お嬢様 | すみや、すみ... |
女中 | はい、お嬢様 |
お嬢様 | ねぇ...殿御はたくさん集まったけど、よい殿御はいないものねぇ... |
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面白くてためになって、やがて哀し...くはないけれど、落語ってのは楽しいものですね。この噺、実は録音が無くて、昔聞いた噺の粗筋だけメモってあったものから起こしました。枕は拙作です。どうでしょう... |
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