東西落語特選

短命



 落語には様々な落ちの種類がございますが、中で「間抜け落ち」なんてサゲがございます。
  
 ●吉っぁん、見ねぇ、あのタバコ屋の角んところ。...ありゃぁ、いい女だ
 ◯え? ああ、ありゃおめぇも知ってんだよ。ありゃ横丁の乾物屋の後家さんだよ。
 ●えぇ? おらぁ、亭主が生きてる時分にワカメやなんか買いに行って釣り銭もらったりしたけど、あんないい女じゃなかったぜ?
 ◯そこだ! 女ってものは、亭主が亡くなる、独り身になる、やつれた頬に紅をさしたりするとね、がらっと見違えるように色っぽくなるもんだ
 ●へーーーーぇっ!? ほーぅっ、そんなもんかねぇ。後家になるとああも色っぽくなるもんかねぇ...へへっ、うちの女房も後家にしてぇ
  
なんてバカなやつもあるもんですが...

熊五郎 こんちわ
ご隠居 え? ああ、親方、久しぶりだねぇ、まぁお上がり...どうしたんだい、今日はやけに改まった格好で...
熊五郎 いや、それなんでさぁ、ええ。実はご隠居さんにちょいと伺いたいことがあってやって来たんでさぁ
ご隠居 ほう? あたしに聞きたいこと? そりゃ何だい?
熊五郎 いや、実は今から悔やみに行くんでさぁ
ご隠居 ほう、悔やみに... それで、何を習いに?
熊五郎 いや、習いにったって他でもねぇ...悔やみの文句を教わりたいんで
ご隠居 悔やみの文句なんて決まってるじゃないか
熊五郎 いや、それなんですよ。決まりきった文句が人前でズバッと言えれば一人前ってぇますが、ホントでねぇ。あっしゃこの前生まれて初めて悔やみに行ったんでさぁ。あんな難しいものとは思わなかったね。頭下げてモゴモゴなんか言って帰ってくりゃいいのかと思ってたら、そうじゃねえや。泣いてる後家さん目の前にしてね、さてこのたびは、と頭を下げた
ご隠居 うまいじゃないか、習うことないよ。悔やみの枕詞は「さて、このたびは」と相場が決まってる
熊五郎 へぇ、そこまではうまくいったんでさぁ、ところがね、ふと、目を上げたら、仏壇に美味そうなものがズラーッと並んでんだ。それ見たら思わず「ご馳走様」、なんて言っちまって、泣いてる後家さんがひっくり返って笑い出すし、もう締まりが無いったらねぇや。だからさ、こう、聞いてる相手が思わずジーンと、涙が湧いてくるようなうまい悔やみの名文句を教えてもらいてぇんでさあ
ご隠居 いや、わたしもそんな名文句なんて知らないがな、まあ、悔やみなんて時は出来合いの文句で行くのが一番いいんだよ、あぁ。
 畳に手をついて

「さてこの度は、まことにご愁傷様なことでございます。承りますれば、まぁ、どなた様かお亡くなりだそうで、しかし老少不定、定め難きは人の命。年を取っているから亡くなる、若いから死なない、というものではございません。定められた命、人には定命というものがございます。あまりお嘆きになりますと、亡くなった方がかえって浮かばれません。後のことをしっかりとやっていくことが亡き人への何よりのご供養で」

...てな具合でな、何か用があったら手伝って帰って来たらいいんだよ。

しかし、お前さん、いったいどこのうちでご不幸があったんだい?
熊五郎 いや、それなんですよ。あの伊勢屋の旦那ね、あれ、また死んじゃったんですよ
ご隠居 おまえ、言葉づかい知らないね、何だいその「また死んだ」てぇのは
熊五郎 いや、あっしゃ気が短いから話しをはしょって横っ腹から言っちまうからわかんねぇんで。筋道通すとさ、八年前にあそこの大旦那が亡くなったでしょ
ご隠居 いい方だったな。慈善家で。あの人を悪く言う人は誰もいなかったね
熊五郎 ま、あの大旦那が亡くなって、あとにお嬢さんとおばあさんが残った。あのお嬢さんが、まぁ評判の器量よし。いゃー、世の中にあんないい女がいるのかね、ってぇくらいのいい女だ。用もねえのにあの店が繁盛するってのは、お嬢さんの顔見たさにみんな行くんだよ。それくらい、いい女だ。

 なんて美人なんだ、一人娘で婿取りだ、どんなお婿さんが来るのかな、なんて言ってると、当のお嬢さんが、男嫌い、とでも言うのかね、あれこれ縁談はあるものの、どうしても首を縦に振らない。さーぁ、困った、あんな美人が生涯行かず後家か。もってぇねぇ話しだ、なんてみんなで言ってるとさ、ヒョイと舞い込んだ縁談にお嬢さんが乗った。

 その婚礼の当日、行ってみて驚いた。そのお婿さんのいい男ったってね、大概いい男ってのはどっか嫌みなもんなんだけどさ、そのお婿さんってのはもう嫌味も何も無い、スッキリとしたいい男。お嬢さんとならべておくとまるで一対のお雛様だ。結構だねってんで、高砂やだ。するとおばあさんも安心したんだろうねぇ。じきにあの世におさらばしちまった。

 そうなりゃもう二人っきりだ。仕事は番頭任せ。そりゃもう、仲がいいったらねえよ。いやぁ、結構だねって言ってるとね、一年半ほどすると、そのお婿さんがまるで透き通るように色が白くなってきちゃった。あれ、いいのかな? って言ってたら寝込んだってんだ。あれ、見舞いに行こうかな? って言ってたら死にましたってんですよ。気の毒にねぇ

 それで、二度目のお婿さん。これがあぁた、先の亭主に懲りたってんじゃねぇんだろうけど、なんだい、ありゃ。丈夫一式。

 男ってのは鉄骨じゃねぇんだから、丈夫でありさえすりゃいいってもんじゃねぇよ。なんだ、ありゃ。なんたって首がねえんだよ。胴からすぐに頭なんだ。喉がねえから風邪ひかねぇんだ。襟巻きすると肩掛けになっちまう。丸太とあいつと谷底に落としたら、丸太が潰れてもあいつぁ活きてる、そういうやつなんだ。顔がいびつで眼が細くて口がでかくて...あたしたちゃ「ブリのあら」って呼んでたんですけどね...
ご隠居 なんだい、その「ブリのあら」ってのぁ
熊五郎 いや、血生臭くって骨太くて脂ぎってるってんで。あんなブリのあらとあの美人のお嬢さんが、うまくいくのかねぇって言ってると、女ってのぁ妙なもんだねぇ。先の亭主より一層仲がいいんだ。あーあ、まあ、勝手にしねぇな、なんて言ってるとね、一年半ほどするとブリのあらがゲソッ、...サンマくらいになっちゃった。あれ、いいのかな? って言ってたら寝込んだってんだ。あれ、見舞いに行こうかな? って言ってたら死にましたってんですよ
ご隠居 お前さんのは、手後ればかりじゃないか
熊五郎 いや、それほど急な話しなんでさ。
それからまた独り身でいるわけにゃいかない、てんで三人目のご亭主を貰ったところが、一年半どころか八ヶ月でこの世とおさらばしちまったってんで。
しかし、不思議じゃねぇですか。
せ、せき、せきせきの家は余計もの?って言葉があるらしいけど、「いいことをした人の家にはいいことがある」ってんでしょ。大旦那、あんないい人だったのに、そのお嬢さんに来る亭主来る亭主、どうしてああコロコロ死んじまうんだろうねぇ
ご隠居それを言うなら「積善の家に余慶あり」(善行を積むとその子孫にまでいいことがある」)だ。しかし、そりゃ...お前...分かりそうなもんじゃないか。お嬢さん、器量がいいんだろ?
熊五郎 いいなんてもんじゃねえよ。今年三十三なんだけどさ、美人は得をするね。どう見たってそうは見えねえ、十は若く見えるね。悔やみに行ってね、お嬢さんに会えると思うと...へへへっ...なんか嬉しくて、震えが来るんだよ。いい女だよぉ
ご隠居 そうだろ? そういう具合に、女房の器量が良すぎる、夫婦仲が良すぎる、亭主に暇が有りすぎる、これを俗に「三過ぎる」といってね。たいてい亭主は短命なんだ
熊五郎 なんです、その「たんめい」ってのは
ご隠居 「短い命」と書いて「短命」。長生きすれば長命だ
熊五郎 へぇ。...何かい? 女房の器量が良すぎたりすると、亭主が早く死んじゃうの?
ご隠居 お前、...分かりそうなもんじゃないか。夫婦仲がいいんだろ?
熊五郎 それだよ! あの二番目のブリのあら、あの仲の良さったら、バカバカしいくらいだよ。庭の椎の木が茂っちゃったから切ってくれ、てんで、あっしゃ枝に足掛けてノコ引いてたんだよ。そいでさ、ひょいと見ると、障子が半間ほどあいててさ、あっしゃ見るとも無しにじっくり見ちゃったんだけどさ。お膳が出てて、ご飯ができててさ、そしたらお嬢さんが「あなた、お給仕をいたします」なんて...悔しいねぇ!
ご隠居 何がだよ?
熊五郎 何がったって! 相手がブリのあらだよ! それを「あなた」なんて言うんだよ!
ご隠居 ...当たり前だよ。相手がなんだろうが、夫婦なんだから、女房が亭主に「あなた」くらいのことは言うだろう
熊五郎 うーーっ、ん...そりゃそうなんだけどさぁ...まあ、それでね、お鉢のふたをパッと取る、湯気が上がってるおいしそうなご飯、それをお嬢さんがね、フワッ、フワッ...ヒッヒッヒッ...あぁたの前だけどね、変わってるんだ、あのうちは...飯をフワッとよそる
ご隠居 当たり前じゃないか。飯はフワッとよそった方がうまいだろう
熊五郎 ええっ? そうかな、おれなんか、兄弟大勢で育ったろう? だからさ、ちょっとでもいっぱい詰め込もうってんで、茶碗の中にギュウギュウ押し込むんだよ、こう、...こうやって
ご隠居 そりゃ、お前のうちが変わってんだよ
熊五郎 えっ? そうなんですかぃ? こりゃ、つまんねぇことで恥じかいちゃったな...

それでね、フワッとよそったものをお嬢さんがね、素直にすっと出さねぇんだよ。脇へこう手をついてね、カクッとからだ「くの字」にしちゃってさ、七分三分にブリのあらを見ながら茶碗を差し出して「あ・な・た〜」...
言われたブリのあらがね、終電車が出るような声出しやがってね、声が上ずってんだよ。「ヘーェェェ」。
でね、お嬢さんが差し出した手を握り締めてね、そのまんま放さねぇんだよ。そいでもって「いつも楽しいねぇ」
何いってやがる!

 こっちゃ焦れちゃってさ「早く食えぇっ!」なんてさ、思わず言っちゃった。
それが聞こえたわけじゃないんだろうけどさ、お嬢さんがさ「あなた、いつまでこうしていても仕方がありません。あたしが食べさせてあげますから、お口をあーんして下さいな」 

お口あーんて顔か!? 

ブリのあらなんだよ! あいつぁ顔中口なんだよ。あんなものぁ、茶碗ごとほうり込んで、飯を喉に落とし込んだらあとで茶碗吐き出しゃそれでいいんだよ。

それがあのでけぇ口をわざわざおちょぼ口にしやがって、「あぁぁぁぁ〜ん」間抜けな顔しやがんの。

そしたらね、お嬢さんがね、箸に米粒を三粒半ほど乗せてね、ほ、と口の中に入れてね「あなた、胃に障りますから、よく噛んで召し上がれ」 胃に障るわけねえじゃねえか。あいつなんざ、お櫃ごとだって呑み込めるんだぁ。

そしたらブリのあらがね「よく、噛みかみしたら、おいち〜ぃ...も一つ」 バカだぁ、ありゃぁ!!

 しかしね、よく仲のいい夫婦ってのが世の中にあるってのは話しにゃ聞いてるよ。だけどね、あんな仲のいい夫婦ってものはなかったね
ご隠居 そうだろ? そういう風に仲がいいから短命なんだ。早く死んじまうんだ
熊五郎
ご隠居 そうじゃないか。湯気が立ってるあったかいご飯、優しくよそって色っぽく差し出す。受け取ろうとするブリのあら。触れ合う手と手、あたりを見ると誰もいない。顔を見るといーい女だ...早死にだろ?
熊五郎 わかんねぇなぁ...こう、手を出すだろ? すると手と手が触れる、と、コロッと死ぬ?
ご隠居 バカ、別に即死するわけじゃないよ! おまえは、野暮だねぇ。いいかい、よく聞きなさいよ、お鉢のふたをそっと取る、湯気が立ってるあったかいご飯、優しくよそって色っぽく差し出す。受け取ろうとするブリのあら。手と手が触れる。握ればまるで吸い付くよう、白魚ならべたような五本の指。あたりを見ると誰もいない。顔を見るとゾクッとするほどの美人...ヘッヘッヘ...早死にだろ?
熊五郎 ...わかんねぇなぁ...こう、手と手が触れるだろ? すると、ジワジワ死ぬ? アッ、指から毒が移るんだ!
ご隠居 怒るよ、あたしゃ! いいかい、お鉢の...イヤイヤ、止めよう、飯はくどくなるから。あのうちにこたつ、あるかい
熊五郎 あるかどころの騒ぎじゃねぇよ、けっこうなおこただよ。もう、桧造りでさ、ふとんがまたいいんだ。加賀友禅ってぇぜぇたくなもんでさ、そいで不思議なのはさ、綿がまんべんなく入ってんだ
ご隠居 お前はいったいどういう育ち方をしてきたんだぃ。いいかい、どこのうちの布団でも綿はまんべんなく入ってるんだよ
熊五郎 嘘だぃ、うちなんか、綿が偏って、そっちを女房が引っ張るもんだからおれぁいつも風邪引いてんだよ
ご隠居 お前のうちが変わってんだよ。どこのうちだって綿はまんべんなく入っていて...まあ、いいや、そのこたつにブリのあらが足を入れるだろ。すると隣にお嬢さんが足を入れる。友禅の布団、重みがある。足を入れると裾前がハラっとはだける。ブリのあらの裾がハラ...お嬢さんの裾もハラ...こたつはほのかに暖かい。布団は掛かってる。あたりを見ると誰もいない。暇はありすぎるほどある...早死にだろ?
熊五郎 ...あ、やっぱりね。おれぁそうじゃないかと思ったんだよ。察しがいいから分かるんだ...足から毒が...
ご隠居 お前の知恵は毒にしか行かないのか? あのね、そうじゃないよ、川柳にもあるだろ? 「その当座、昼もたんすの鐶が鳴り」ってさ
熊五郎 そりゃそうだよ、うちなんざ建て付けが悪いから、表を車が通るだけで...
ご隠居 ちがう! 「何よりも、そばが毒だと医者が言い」っていうだろ?
熊五郎 はぁ、蕎麦はよくないのかね。...うどんにしよう
ご隠居 何を言ってんだぃ! あのね、お前、分かるでしょ、こう、...こうやって...
熊五郎 ...?...あ...あれか?! 分かった! 分かったよ! おれぁ、察しがいいから
ご隠居 良くない! お前は察しが良くない!
熊五郎 そうか、そういうことですかぃ。いやーぁ、過ぎちゃ毒だ、なんてよく聞きますよ、いゃーぁ、よく分かりました。へぃ、じゃまた伺います。ごめんなさぃっ

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ハハハッ、そうかそうか。だいたいあの人ぁ、話しを回りっくどく言うからわかんないんだよ。「お鉢のふたをパッと取る、湯気がポッ」するとおれぁうまそうだなって思って、それでわかんなくなっちゃうんだよ。ハナからそう言ってくれりゃいいんだよ、おれだってわかるよ

おぅっ、おっかぁ、今けぇったぜ
おっかあ まぁ、お前さん、いったい今までどこをほっつき歩いてやがったんだい? もう、のたくってんじゃないよ!
熊五郎 おめぇ、帰る早々、なんて言い草だ。「のたくって」ってなぁ、何だよ。おれぁご隠居のところで...あれ、何の話しだったっけ...ああ、そうだ、悔やみの文句だ、それを教わってたんじゃないか。ちょいと腹が減っちまったんだ。昼飯用意してくんねぇ
おっかあ そこに出てんだろ?
熊五郎 出てるって、そういうこと言うなよ...って、ここにあるのはミカン箱の上にネコの茶碗だけじゃねぇか
おっかあ 心配しなくたっていいよ。お前さんが食べた後、綺麗に洗っとけば、ネコはなんとも言いやしないよ
熊五郎 ...お前、何か間違ってねぇか...なんか違ってるような気がするぜ、ウン...
おっかあ お前さん、何か考えるんじゃないよ、お前さんは考えたって分かりゃしないんだから。お前さん「竹を割ったような」頭なんだから
熊五郎 ...ヘヘッ、照れるな
おっかあ 誉めてんじゃないよ、嫌だねぇ、この人ぁ... それより早くお店へ行かなきゃなんないんだろ、あんたお悔やみに行くって言ってたじゃないかさ...わかったよ、もう、うるさいねぇ! そんなに言うんなら、あたしがよそってあげるよ。出しな、茶碗を
熊五郎 いや、最初からさぁ、お前がやってくれよぉ
おっかあ うるさいねぇ、もう、めんどくさい...これでいいゃ、よいしょ!
熊五郎 お前、今、どうやった? 茶碗でしゃくったろ! 何の為にしゃもじがあるんだよ、それじゃどぶ掃除みたいじゃないか。ちゃんとしゃもじでよそってくれよ
おっかあ うるさいね、しゃもじにご飯粒がつくとなかなか取れないんだよ、どうせ腹に入っちゃえばおんなじじゃないか、まったく女の苦労も知りやがらないで...わかったよ、やってやるよ! よいしょ! ホレッ!
熊五郎 オィッ、放ったりするんじゃねえよ、おれは慣れてるから受け止められたんだぞ。頼むから、こう、はすっかいになってさ、からだ「く」の字にして七分三分におれを見ながらさ、「あ・な・たぁ〜」って言いながらさ、渡してくれよぉ...
おっかあ な、なんなんだい、それは...まったくバカだねぇ、男ってものは、外で妙なこと覚えてきちゃうちで女房にやらせようとするんだから...わかったよ、やれってんならやるよ、あたしだって女の端くれなんだから...こうかい? ...もう、生涯に一遍きりだよ...クスッ、もう、照れくさい! 車に轢かれたイヌっころみたい...ほら、取っとくれ...ワン!
熊五郎 こら、そうじゃなくてさぁ、「あ・な・たぁ」って、頼むから...
おっかあ わかったよ! もぅ...あ・な・たぁ
熊五郎 お、お、やりゃ出来るじゃねぇか...
おっ、手と手が触れた、ありがてぇ、手を動かすんじゃないよ、あたりを見ると誰もいない...

顔を見...

ああ...おれぁ...長命だ
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 「縁は異なもの味な物」という。日本では縁結び担当の神様といえば言わずと知れた(知ってました?)出雲の神様、すなわち大国主命(おおくにぬしのみこと)である。旧暦の十一月は神無月と呼ぶ。全国の神様が全員出雲に集まり、縁結びの会議を開くので、出雲以外の神社という神社はみな神様が留守になってしまうのだそうだ。ゆえに出雲ではこの月を神有月というのだという。

 日本の神様は天照皇神さえ専制君主ではない。絶対権力者とか絶対的な責任者というのは日本人という民族の風土にはそぐわないのだろう。

 柔道でも剣道でも審判は合議制である。詳しくは知らないが、主審が「一本!」をとっても副審二人が旗を揚げなかったらそれは無効なのだそうな。

 相撲などまことに典型的で、主審たる行司以外に四人の審判が土俵下に控えている。行司は決着がついた時点でいずれかに勝ち名乗りを与える。これは「分かりませんので保留です」というのは許されないのだが、間違っていても一向にかまわない。もし問題があれば審判が「物言い」をつけ、ビデオまでをも参考にして「真実」を明らかにする。主審である行司は決してその判定に全責任を負っているわけではない。じゃ、誰が「責任者」だ? ということになると、どうなんだろう。九重審判部長かな?

 欧米で生まれたスポーツの審判は専制君主である。フットボール系のスポーツの主審は一人である。その人が笛を吹けば、レッドカードを出せば、誰もそれに異を唱えることは許されない。たとえビデオで明らかに誤審であることが証明されても、異を唱えること自体がルール違反なのである。この辺は、唯一絶対神を戴くユダヤ教やキリスト教の国でできた仕組みだと感心させられる。

 米大リーグから留学してきていた審判が日本のプロ野球界の審判のあり方に幻滅してわずか三ヶ月ほどで帰国してしまった。「日本人は真実を要求する。審判は人間がやってるんだから、間違えることはある。しかし審判は絶対なのだから、なんだろうが従ってもらわなければやっていられない」ということだそうだ。もしこれが日本でできたスポーツだったとしたらどんなだったろう。ホームベースの周囲に球判定審判が四人並んで、あやしい判定には物言いを付けるのだろうか。恐らくは放送局のビデオテープまでも参照してストライクかポールか、アウトかセーフかを厳密に判定してくれるに違いない。審判が巨人寄りだという説が根強いが、そんな疑惑も完全に霧散してしまうことだろう。 これは、いい。

『短命』の歴史
 別名『長命』『長生き』。落語の題名というのは噺を区別するために内容によって便宜的につけられた咄家仲間内の「あだ名」「符丁」のようなものなので、いまのように「○○氏作、XXXX」というようなちゃんとした題名はついていないのが普通である。従って『短命』の別名が『長命』だったりする。

 原話は『軽口はなしどり』(1727年)にある。一種の艶笑落語である。



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