東西落語特選

江戸版 饅頭恐い



 十人寄れば気は十色、と申します。お顔の形が違いますように皆さんそれぞれに心持ちというものが違ってございます。

 好き嫌いなどというものはどなたにもあるものですが、あれが好き、これが嫌いというのがこれまた一人ひとり違っておりまして、私なんぞは大変にお酒、とか申すものを...えー、好むのでございますが、これがどうしたあんばいかどうしても呑めないとおっしゃる方が必ずございまして、そういう方は甘いものがたいそうお好きですな。わたくしなんかはどちらかと申しますと、饅頭、羊羹、ぼたもちなんてものは考えただけで胸焼けがして参りまして、どうも苦手でございますが、好きな人にそう言うと「お前は酒の呑み過ぎで胃が荒れてるんだよ」なんて怒られたりなんかしまして、「面目ない」なんて思わず謝ったり...いや、別に謝らなくてもいいんですけど。

 ま、そうは申しましても、お酒というものはやっぱり、たいそう結構なものでございます。並んでちびちびやっておりますと知らない人とでもすぐに仲良くなれるんですな、不思議なもので。

「あなた、どちらからおいでで? 品川? はー、あたしも品川ですよ。奇遇ですねぇ。おひとりでやってらっしゃる? そうですか。どうですか、お近付きの印に、一献...」「あ、そうですか...へへへ、あたしも嫌いじゃない方ですんでね、へい、じゃ遠慮無く...(グイッ)あぁ、あなたいい酒呑んでますねぇ。うらやましいねぇ、どうも。じゃ、まぁ御返杯」なんてやったりとったりしているうちにもうすっかりお友達ですな。

 そこへいきますと、どうも、ぼた餅をやったりとったり、というのはいけませんな。

「どうですか、お近付きの印に、一個。ぼた餅、噛りかけですけど...」

 これはどうも具合が悪うございますが、ま、人それぞれに違いがあるからこそ人生面白いのでございましょうな。
兄貴分 おうおうおう、なんだなんだ、表が騒がしいじゃねぇか? なんだ、長太じゃねぇか。蒼い顔して駆けてくるぜ、おい、長さん、こっち入りねぇ!
若い衆 ひぇーっ、はぁっ、はぁっ、驚れぇたぁ...
兄貴分 なんだよ、えらい汗だねぇ、どうしたってんだ、いったい?
若い衆 す、すまねぇ...水、いっぱい飲ませてくれ...お、おぅ、ありがとよ...(ゴクッ、ゴクッ...)ふぁーっ、やっと落ち着いた...
兄貴分 どうしたよ、何かあったのかよ、長さん
若い衆 どうしたもこうしたもねぇや、おぅ、なんだか大勢集まって来やがったなぁ、いいか、おれの話を聞いて驚くなよ

 おれぁ、今、この町内のお湯屋の裏路地を抜けてきたんだけどさ、おめぇらも知ってるだろう、あの路地は大家んちの植込みが伸び放題で、湯屋のひさしとに囲まれて、昼間でも薄暗くってじめじめしてらぁ。おれぁ、なんとなく陰気臭せぇ、薄っ気味の悪い思いがしてよぉ、さっさと通りすぎちまおう、とスタスタっと足を速めたと思いねぇ。その時だ、フと気がつくと、暗がりの奥から、まるで路地を吹き抜けてくる風の音みたいな声が

『長さん...長さん...』


...おれの名を呼んでるじゃねぇか...ところが振り返ると誰もいねぇ。気のせいかな、と思って歩き出すとまた

『長さん...長さん...』

...振り返っても誰もいない。そんなことを二度、三度と繰り返して、もうこれが最後、とギッ、と振り返ると...そこに...

    いたんだよ...
若い衆 さ...さようなら
兄貴分 こらぁ、そこのやつらぁっ、捕まえろ! いいか、逃げるんじゃねぇぞ、てめぇら! ここまで聞いたら付き合いだ。最後まで聞きやがれ。そ、それで、長さん、だ、誰だったんだよ
若い衆 誰がじゃねぇんだよ、こう、ズズーッと長いのがグルグルッととぐろを巻いて、鎌首をヒョィッと持ち上げてさぁ...赤い口をパクッと開けて青い舌をチロチロッと...
兄貴分 ...そりゃぁ...おめぇ、ヘビじゃねぇか?
若い衆 じゃねぇかじゃねぇや、ヘビなんだよ! そりゃぁおっかねぇのおっかなくねぇのったらねぇや! ヘビの野郎、おれへ向かって『おいで...おいで』って手招きして...
兄貴分 ウソつきやがれ! どこの世界に手招きするヘビがいるんだよ。まったく、さんざん人を脅かしといてヘビ!? ったく、臆病だねぇ
若い衆そんなこと言ったってさ、おれはガキの時分からヘビは大の苦手なんだ。ヘビだけじゃねぇ、鰻、どじょう、めめず (めめず:ミミズのこと。西日本では「ひき肉」のことを「ミンチ」と言うが、東京では「メンチ」というのと同じで、江戸弁では「み」が「め」になるらしい) 、とにかくなげぇものは何だって苦手なんだ
兄貴分 そのくせ名前が「長太」か?
若い衆 だから、名前を呼ばれるってぇとぞっとするんだ
兄貴分 だらしがねぇなぁ、ったく...ま、人間、偉そうなこと言ったってひとつくれぇ嫌いなもの、恐いものがあるってぇのが正直な話だ。おぅ、春さん、おめえさん、何が恐い?
若い衆 え? おれか? へへっ、そう、面と向かって聞かれると決まりが悪いけど...ま、カエルだな
兄貴分 へぇ、市さんは?
若い衆 ナメクジ
兄貴分なんだよ、ヘビから始まってカエル、ナメクジかい? 三すくみ (ヘビはカエルに勝ち、カエルはナメクジに勝ち、ナメクジはヘビに勝つと考えられていた。これを三すくみといい、ジャンケンのような「虫拳」という勝負事が行われていた。) が揃っちまったな。忠さん、お前さんは?
若い衆 オケラ
兄貴分 そりゃ妙なものが恐いんだな
若い衆オケラ (昆虫のケラのこと。コオロギに似ているが、手(というか、前足)がモグラの手のようになっていて、畑などで穴を掘って、作物の根っこを食う。「オケラ」には「無一文」の意味もある) をばかにしちゃいけないよ。人間、オケラになっちゃお終いだよ。第一、オケラは人の言葉が分かるんだ。あれは去年の夏の終わりのことだったなぁ...近所の子供がおれんところにオケラを持って来てさ、『おーけらおけら、忠さんのちんちん、どのくらい』って聞いたんだよ。そしたら、オケラの野郎、『このくーらい』って、手でこうやって...オケラの野郎...どこで見てたんだ...
兄貴分 おい、おめえの持ちモノはホントにそんな小せぇのか? 情けねぇなぁ...で、隣は? おめえさん、どうだい?
若い衆 クモ。やだねぇ、あれは。ところ構わず巣を張ってさ、ああやって待ち伏せしようってぇ了見が許せねぇ
兄貴分 怒ってるねぇ。で、隣は?
若い衆 ウマ。曲がり角からあの長い鼻面が出てきたら、誰だって腰を抜かすぜ
兄貴分 抜かさねぇよ。そっちは?
若い衆 アリ
兄貴分 な、なんだと?
若い衆 アリ
兄貴分 アリだと? ウマの次はアリか? こいつはやけに小さくなりやがったなぁ。なんだってアリが恐いんだよ
若い衆 いや、おめえはアリ一匹だけを考えるからそんなことを言えるんだよ。いいかい、アリってぇのは何かってぇと行列をつくってさ、こう、何だか知らないけどお互いにツラ同士突き合わせて、ゴジョゴジョ、ゴジョゴジョ言ってやがるンだよ。おれ、あれ見るとさ、いったいおれのことでどんな悪口言ってやがるんだろうって...それ考えると夜も眠れねぇ...
兄貴分 ずっと起きてろ! くだらねぇこと心配してるんじゃないよ! おい、その隣で脇向いてタバコ吸ってンの...源さんじゃねぇか。お前さんは何か恐いもの無いかい?
源さん ...ん? ...恐いもの? ヘッ! 無いね。恐いものなんざ、ねぇよ
兄貴分 そ、そんな言い方しなくたっていいじゃねぇか、みんなで楽しくやってんだから...付き合いってものがあるじゃねぇか。オケラが恐い、アリが恐いってみんなで言ってんだからさ、お前さんも何かあるだろ、言ってごらんよ
源さん 何を言ってやがるンでぇ! おぅ!! さっきから黙って聞いてりゃぁ何だ!? だらしがねぇ、アリが恐いってヤツぁどいつだ? おう! てめぇ、ちょっとは恥を知れ、恥を。いいか、人間は万物の霊長ってんだ。動物の中で一番偉くて一番賢いのが人間様だ。それが何だ? ヘビが恐い、ナメクジが恐い、オケラが恐い、挙げ句の果てにアリが恐いだぁ? 笑わせるなってんでぇ!!
兄貴分 たいそうな啖呵を切るじゃねぇか。源さんにゃ恐いものは無いのかい? ヘビとか、クモとか
源さん おぅ、ヘビを見たらゾクゾクすらぁ
兄貴分 ほら、やっぱり恐いんじゃねぇか
源さん ヘッ! 食いてぇンだよ
兄貴分 食う?
源さん 当たり前よ! 場違いな鰻なんぞ食うよりよっぽど旨めぇや!
兄貴分 カエルは?
源さん ありゃぁトリ肉に似てタレを付けて焼くと旨めぇ
兄貴分 あ、これは聞いたことがある。土地によっちゃウシガエルなんてのを食うそうだ
源さん当たりめぇよ、ナメクジが恐いってヤツ、よく聞いとけ。ナメクジにきな粉を塗して食ってみろ。葛餅よりずっと旨めぇんだ。クモなんぞ、納豆に混ぜて食うと糸の引き様が全然違って旨めぇの旨くねぇのったらねぇぜ。ウマはな、馬肉と言ってな、刺し身で食うと旨いんだ。おれはな、四つ脚のあるものは何だって食うんだ...と、もっとも、『本当に食うか』って櫓炬燵(やぐらこたつ)を持ってきやがったやつがいたが、こういう当たる (「こたつに当たる」と「中毒する」の洒落) ものは食えねぇ
兄貴分 ...俺達は落語を聞いてるんじゃないんだよ...
源さん アリが恐いってやつ、あんなものはゴマの代わりに赤飯にパラパラふって食うと、酸味が利いて旨いんだ。ただ、ゴマが動いて食いにくい
兄貴分 そりゃ食いにくいだろうよ...
源さん ヘッ! この通りよ! こちとら恐いものなんざねぇんだ! なんでも持って来やがれ...ってんだ...あっ...な、何でも...ほ、本当だぞ...恐いものはねぇ...や...
兄貴分 な、なんだよ、その「あっ」てのは。ちょっと調子が変わってきたねぇ
源さん い、いや...ちょっと、イヤなものを思い出しちまってな...
兄貴分 何を
源さん いや...実は恐いものがあったんだ...
兄貴分 なんだよ、散々啖呵切っといて、いまさら...
源さん いや、実はおれにもあったんだよ。いや、つい勢いで啖呵切っちまったけどさ、思い出しただけで寒気がしてきた...ああ、脈が早くなってきた...む、胸が苦しい...ウウッ、持病の癪が...
兄貴分 なんだよ、急に情けなくなっちゃったな。で、なんだよ、その恐いものってのは。言っちまいなよ、そのほうが気が楽になるぜ
源さん おれの...恐いものは...ま...まんじゅう...
兄貴分 ま...んじゅう? ってのはどんな虫だい?
源さん 虫じゃねぇ、食う饅頭なんだ
兄貴分 食う饅頭? あれか? あの、手のひらに収まるくらいで、丸くって、薄い皮があって、パカッと割ると中にアンコガ...
源さん よ、よしてくれよ...饅頭と聞いただけでコワイってのに、割るとアンコが入ってるなんて...
兄貴分 へぇ、変わってやがんねぇ、じゃあれか? 唐饅頭とか、栗饅頭とかも恐いのかい?
源さん や、やめてくれぇ! いい饅頭になればなるほど恐い!
兄貴分 へー、そんなもんか?
源さん 気分が悪くなってきた...隣の部屋で休んでいいか?
兄貴分 ああ、そうしねぇ。おぅ、おめぇ、布団敷いてやんな...どうだい、源さん、医者呼ぼうか?
源さん いや...それはよしてくれ...饅頭で寝込んでるなんて知られたくねぇ...横になってりゃじきに治る...
兄貴分 なんか薬でも飲むかい?
源さん いいよ、心配しなくても
兄貴分 そうかい、じゃゆっくり休みな...

おい、聞いたか、源の字、源公、あのざまだ。あんな嫌なヤツはいねぇよ、おれたちが右ってぇと左、左ってえと右。白いって言えば黒い、黒いってえと白いってんだ。「皆で集まって呑もうか」ったって、「ヘッ」の一言で、一度だって付き合ったことがねぇじゃねぇか。お前たちだってオケラだのアリだのが本当に恐いわけがねぇじゃねぇか。みんな付き合いで言ってんだ。それを言いたい放題言いやがって
若い衆 いや...おれはホントにアリが恐い...
兄貴分 おめえは帰れ! とにかくだ! あの野郎、散々偉そうな啖呵切りやがって、『人間は万物の霊長』だってやがって、挙げ句の果てに饅頭が恐いだと? 笑わせるねぇっ!?
若い衆 どうだろうね、ここらであの野郎をギャフンと言わせるためにさ、饅頭買ってきてあいつの寝てる枕元に山積みにしてやろうじゃねぇか
兄貴分 そいつぁ面白れぇや! 乗ったよ、その話!
若い衆 よしなよ、饅頭のことを思い出しただけであんなに蒼くなって寝込んじまったんだよ、饅頭を見せてごらんよ、死んじまうよ
兄貴分 いいよ、死んだって...いいんだよ! 世のため人のためになるヤツじゃないんだ。死ねば喜ぶやつが大勢いるはずだ
若い衆でもさ、饅頭で殺したから「餡(暗)殺」だなんて...
兄貴分 いいねぇ、アンサツなんて...よーし、源公に永年の恨みを晴らしたいヤツは早速銭をはたいて饅頭を買ってこい! いろんなのがあった方が面白いや!


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ずいぶんと揃ったねぇ...唐饅頭に田舎饅頭、蕎麦饅頭、栗饅頭に腰高饅頭、葛饅頭、中華饅頭、豆大福...大福ってのは饅頭か? まぁいいや

よーし、この饅頭を全部盆の上に載せて、このままヤツの枕元に持っていこうじゃねぇか。で、ヤツがキューッと参っちまったところですぐに医者を呼んで来ておくれよ。ホントに殺しちまったらこっちが警察に引っ張られて面白くねぇからな。いいかい、石屋じゃないよ、医者だよ。墓を建てようってんじゃないからね。石屋は早すぎますよ...

そうだ、今のうちに湯を沸かしといておくれ。何でって、野郎が片付いたらみんなで茶を飲みながら饅頭食おうってんだよ
若い衆 おれに葛饅頭をひとつおくれよ
兄貴分 おい、意地汚いねぇ。野郎を片づけるのが先だよ
若い衆 いや、食おうってんじゃないんだ。葛饅頭って柔らかいからさ、野郎の頭に思いっきりぶつけてやったらさ、おでこに張り付いて『うぎゃぁっ、饅頭に食いつかれたぁ』なんて右往左往...
兄貴分 お、いいねぇ、その右往左往ってのが。じゃ頼むよ、葛饅頭。じゃ、ひのふのみ、で襖をあけとくれ、枕元へスッと置くから。それから葛饅頭のうぎゃぁ、で右往左往だよ。いいかい、ひの、ふの、みっ
若い衆 どうだい?
兄貴分 いや、布団被ってガタガタ震えてて、様子がわからねぇ...源さん...源さん、どうだい...
源さん なんとか、動悸は治まったようだが...まだ寒気がして...なにやらうつつとなく幻となく...饅頭が目の当たりにあるような気がして...
若い衆 虫が知らせたのかねぇ...目の当たりにあるような気がするとよ
兄貴分 へへっ...源さん、俺達はあっちの部屋でいるけどさ、ちょっと起きて、目の当たりに見たらどうだい
源さん うるせぇな、まったく。「起きて、目の当たりに見ろ」だと...薬でも持ってきてくれたのかい? ...あぁっ、枕元にっ、こんなに饅頭が!! ああぁっ、こ、こんなに山盛りに! うぎゃぁぁぁっ
兄貴分 始まった始まった。うぎゃぁ、で右往左往だぜ
源さん 恐いーっ、恐いよぉっ、なんだ、こりゃ、唐饅頭、なんて恐いんだぁっ(もぐもぐ)、 中は黒餡だぁっ、(もぐもぐ)おれは粒餡よりはこし餡の方が恐いーっ(むしゃもぐ)
若い衆 な、なんだよ、その「むしゃもぐ」ってのは...ああっ、見てみろよ、一杯食っちゃった!
兄貴分 食ったんじゃない、食われたんだ! あいつ、饅頭食ってるよ!!
若い衆 ふざけやがって、こん畜生! 葛饅頭でも食らいやがれ! えいっ!
源さん (ベチャッ)こらっ、せっかくの恐い葛饅頭が潰れちまったじゃねぇか! ったく罰当たりめ...うわーっ、こりゃ恐いや(もぐもぐ)、この葛の皮のツルッとしたところが(クチャクチャ)恐いこわい。こう恐くちゃ目の当たりに置いておけねぇや(もぐもぐ)、風呂敷き貸してくれぇ
兄貴分 饅頭をたもとに突っ込んでやがる...やい! 源公! お前の本当に恐いものはいったい何なんだ!
源さん いやーぁ、今度は苦〜いお茶が一杯恐い
  
  
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 この噺は「寿限無」に比べると聞くことの多い噺である。

 江戸と上方に共通した噺というのがいくつかあるが、これは代表的なものである。ただし、上方版の「饅頭恐い」は江戸版に比べると間にいくつものエピソード(各自の恐怖体験で、この噺の最初の長太の話が長くなったようなのがいくつか)が挿入されていて、とても大きな話になっている(近日中に収録予定)。江戸版はそれに比べると、皆が源さんにいっぱい食わされる(食われる)というこの噺の主題がストレートに語られている。

 出だしの部分、たいていの場合、登場人物達は何らかの理由を付けて既に集合しているように演じられる。曰く「今日はおれの誕生日だ...」、曰く「暑気払にいっぱいやろう」...

 しかし、どうも作為的になって面白くないので、今回は長太が大騒ぎしながら駆け込んできたため、何事かと、長屋の衆が集まってきたことにして噺を作った。おかげで前座噺とは言えないようなふくらみのある噺になってしまった。

 また源さんがふだん飲み会に付き合ったことが無い、というのもわたくしが挿入した部分で、これは枕の部分に対応している。つまり源さんは付き合いが悪いのではなく(ま、実際、良いとは思えないが...)、酒が呑めないのである。しかし、意地っ張りなのでそれを認めたくないので、小馬鹿にしたように「ヘッ」とやってしまう。それでますますみんなからイヤがられてしまうのである。しかし、「付き合いが悪い」といいながら、長太の騒ぎに「何事か」と駆けつけてくるのであるから、恐らくはそれほどでも無いのだろう。要するに悪人ではないのだが、意地っ張りで、人よりちょっと偉そうにしていたいだけなのだ。キムタクみたいに。

『饅頭恐い』の歴史
中国は明の時代の『五雑俎(ござっそ)』という本に「貧乏書生が饅頭が恐いと言って饅頭屋の主のいたずら心を掻き立てて饅頭をせしめる」という原話がある。これが日本に伝わり、『気のくすり』(1779年)、『詞葉の花』(1797年)などで日本版『饅頭恐い』として成立。大阪で練り上げられたものを明治末期に蝶花楼馬楽が東京に持ち込んだ。「濃いお茶が一杯恐い」というのが当時の通人の間で流行した。




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