東西落語特選
反魂香
どういうわけですか、幽霊の絵などを見ますてぇと、必ず柳が描いてございます。幽霊に柳がつきものの様にされておりますが、円山応挙という人が最初に幽霊の絵を描いた時には柳はついておりませんでした。後世の画家がいろいろと研究をいたしまして、幽霊に柳をあしらったところがこれがまたたいそうピッタリする。 どういうわけでピッタリするか、と申しますと、幽霊というものは当然陰なもの。柳があれで陽木なんだそうですな。陰陽がピッタリ合いまして幽霊と柳、これがまことに相性がよろしいんだそうで。 梅や松や桜では幽霊にはあわない。あれらは陰木だそうですな。陰と陰とで合わない。「梅松桜はあかよろし」なんて申しますが、赤はよろしくても幽霊にはよくないんですな。 | |
どういうわけですか、日本の幽霊、圧倒的に女性が多いようですが、幽霊は女性ばかりの専門職か、と申しますとどうもそうでもないようで、日本でも昔から男性の幽霊ってものがございます。佐倉宗五郎、小幡小平次、おばけのQ太郎...立派に男性の幽霊でございます。 あの、佐倉宗五郎てぇなぁ農民の代表でございます。領主が大変に税金を掛ける、あらゆるものに税金を掛ける。しまいにゃぁもっている天秤棒一本にも税金を掛ける。これでは農民はやっていられない。領主に直訴におよびます。領主に最初は掛け合ったんですが、なかなかうまくいかない。しまいにゃ将軍に直訴。これはうまく通ったんですが、その身はそのまま佐倉に送られます。領主がたいそう怒りましてね、「おれというものがありながら将軍に直訴をするなどとんでもないやつ!」 磔け(はりつけ)柱に磔けられましてね、自分の見ている前で女房子供の首を切ってしまう。これは化けて出ないわけにはいられませんな。 | |
佐倉宗五郎の幽霊。これは狭いところには出てこられなかったそうです。どういうことかってぇますと、親子団体で、後ろに磔け柱をしょって出てくる。後ろに角材をしょって出てくる。佐倉宗五郎は政治的な幽霊ですから、常に角材 (昔は左翼的主張をもったデモ隊はヘルメットと手ぬぐいの覆面で顔を隠し、ゲバ棒と称する角材を振り回して通りを練り歩いて機動隊と衝突を繰り返したんです。ちなみにゲバとはゲバルトの略で、暴力的直接行動をいうらしい。「全共闘時代用語の基礎知識」より')> がついてまわるわけですな。 | |
それから、小幡小平次(こはだのこへいじ)。これは役者でございまして、このしろ伝兵衛 (「このしろ」の子は「こはだ」、と、これは魚の話ですが、そこからつけられた芸名でしょう。寿司ねたとして人気ですな。「小幡」という字は「小魚羞」とも書いた例も見ました。) という人の弟子でございましたが、これが腕がよくて男っぷりがいい。己惚れ(うぬぼれ)ってぇものがございました。「なぁに、俺くらいの腕と器量があればひとりでも商売ができる」親方の所を離れて、一人で日本国中を回る。 出羽、と申しますから、ただ今で言う山形県でしょう、その辺でうちが恋しくなって参りまして、「そろそろうちへ帰る」という手紙を出しました。手紙をもらった女房が驚いた。たいがいの女房は亭主が帰ってくるったって驚かない。ここの女房は驚くわけですな。亭主の留守を幸いに、男を引きずりこみましていいことをやっていた。亭主が帰ってきたんじゃこれから色男といっしょに生活ができない。帰ってくる途中で首を絞めて、沼へ沈めてしまいました。 これもやはり悔しいってんで化けてでてくるんですが、小平次が出るときはちょっと前に生臭い風が吹くんだそうで、それはそのはず、こはだだけに生臭い風が付き物だろうなんてんで... 恨めしい...なんて。これも小平次が初めて作った言葉です。うらめしい。こはだの裏はたいがい裏が飯になっておりまして、裏飯い、と...これはどうもあまりあてになった話じゃございませんで。 | |
男性の幽霊もございますが、圧倒的に女性の幽霊が多い。どういうわけで女性が幽霊になるのかと申しますと、女性は男性に比べましてものに対する執着心がたいそう強うございます。ああ、畜生、悔しい...という気持ちが幽霊となって現れてくるんだそうで。 幽霊の姿形てぇものは昔から決まっておりまして、着ているものは夏場でございますから、白か鼠色。髪はいつでも洗い髪でございます。で、手を胸のところに七三に構えまして、これが幽霊のトレードマークでございます。 魂魄この土にとどまりて...恨み晴らさでおべきか... これが幽霊のせりふだそうですな。わたくし不思議に思いますのが、幽霊てぇのは必ずどの幽霊を見ましてもみな、標準語でございます。こんな馬鹿なことはないだろうと思います。九州の方で恨みをもって亡くなった幽霊、東北・北海道の方で亡くなった幽霊。生前はお国の言葉を使ってらっしゃる。いまはいろいろとドラマ番組などで盛んにお国の言葉が出ております。お差し障りがありましたらご勘弁を願います。えぇ、東北弁...選挙の応援演説などではたいそう重々しい、また候補者になりましても信頼感を与える。重々しい気持ちがいたします。 | |
「えー、こんかぇー、わだくすぇがりぇっこうほのあかつきぇには、ふんこつせぇぁぁしん...」 なんて、まぁ、この人なら間違いがなかろうと思いますがね。幽霊はどうもあちらの言葉では具合が悪いようで。 | |
「うらめしいでぇす。うらめしいったらわかんねぇっかな、このけつめどやろう」なんてなぁどうも。幽霊の怖さってぇものが無くなります。 | |
幽霊の出てくる時間ってぇのも決まっておりまして、草木も眠る丑三つ時...どんなそそっかしい幽霊でも、日中、お昼の時報を合図に銀座の真ん中に出てくる幽霊なんてなぁ、凄みがない。 | |
「え? な、なんだい?」 「へへっ、恨めしいッ」 「なんだ、おめぇ?」 「...幽霊です」 「幽霊? 幽霊ってなぁ、夜中に出てくるもんだ。なんだって昼間に出てきやがった?」 「いや、夜中、あたし怖いんです」 | |
なんて、そんな幽霊はどうも具合がよろしくございません。 | |
幽霊が出てくるときにはそれに協力をいたします、楽屋の方で鳴り物という太鼓の「うすどろ」という太鼓が鳴ります。本来、太鼓というものは陽気なもので、よくお祭りなんかで子供たちが「どーんどーんどんがらかっか」なんて、陽気な楽器でございます。あの太鼓を長いバチで、どろどろどろどろと細かく叩きますと、気持ちが悪い。芝居などで舞台にまだ幽霊が出ていない、そういうときに楽屋のほうでドロドロドロと叩きますと、どっかから幽霊が出てくるんじゃないか、と太鼓の音を聞いただけで気持ちが悪くなります。 じゃぁ、太鼓だけが気持ちが悪いのか、ってぇますと、そうでもございませんで、夜中の一つ鐘、これまた気持ちの悪いものでございます。夏場、暑いさなか、ムシムシムシムシして寝られない、ようやくうとうとっと来たときに「ッカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン」などとなりますと、それからさき寝ることができない、あんな気持ちの悪いものは無いようで。 | |
カ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンンンンン・・・ | |
八五郎 | ウアァァ、ブルブルブルッ...畜生、隣の坊主、また鐘叩きやがった! どうしてあん畜生は、夜中ンなるってぇと鐘叩きやがるかねぇ。長屋の子供が怯えちゃって手水にもいかれやしねぇ。あのやろう、こらちょっと文句言ってやろう。 (トントントントン)オウッ!(トントントントン)ちょっと!(トントントントン)開けてくんねぇっ! |
島田重三 | はい...はいはい、どなたで、ございますかな? お声のご様子では、ご隣家の八五郎殿かな? 締まりはございません。どうぞ開けてお入りを |
八五郎 | 開けてお入りじゃないよ! どうしてお前は、夜ンなるってぇとそう鐘を叩くんだよ! 長屋の子供が怯えちゃって手水場にも行けやしねぇ、みんな寝ションベンばっかしてらぁ...おれもこないだしちゃったけど... なんだっておめぇ、夜ンなると鐘叩くんだよ!? |
島田重三 | ......夜分、まことにおやかましい次第でございますが、わたくしが鐘を叩きますのは、亡き妻の回向をしておりますので、どうぞ、おやかましい段、ご容赦を願います。 |
八五郎 | 亡き妻...? へぇ、お前さん、カミサンいたのかい? |
島田重三 | はい...ただいまこそ、頭を丸め、名も道哲と申しておりますが、若いころには島田重三郎と申し、二本差す身でございました。 |
八五郎 | ふんふん、いや、お前さんが侍だったってぇことはね、長屋のもんに聞いて知ってるがね、それがどうして? |
島田重三 | 若いころ、友達に誘われましてな、花の郭に足を踏み入れました... |
八五郎 | 花の郭? 中へ行ったのかい? へへへっ、うまくやりゃぁがったね。もてたかい? |
島田重三 | はい。わたくしの相方に出ましたのが当時全盛の、三浦屋高尾太夫。お互いに気性の合うたものと見えましてな、末は夫婦とのかたい約束をいたしまして「好いつ好かれつ、好かれつ好いつ」という間柄で。 |
八五郎 | ったくよぉ、この野郎は、夜中に人を起こしやがって、せんのカカァののろけぇ聞かせようってぇのか!? |
島田重三 | 話の順序だによって、お聞きを願いたい。その高尾がな、金を万と積まれ仙台公に見受けの相談。わたくしのところに参りましてな、なんとかいたしてくれぇとな。わたくしも浪々の身、身に一文の蓄えもございません。今までのことは無き縁と諦めてくれぇと申しました。高尾の申しますには、仙台公のところに参りましてもあなた様に操をたて、必ず生きてはおりません。わたくしの亡き後はどうぞ十分回向のほどをと...そのとき取り交わしましたのがこの、魂返す反魂香。この香をば火の中にくべますときは、煙の中から高尾の姿が現れます。菩提を弔うため、鐘を叩いております。おやかましい段、なにとぞご容赦を願います。 |
八五郎 | ええ? じゃ、なにかい、その香をくべるってぇと、あれかい? 幽たがでてくるってぇの? ...へっ、う、嘘だい! そりゃぁねぇ、芝居なんかでそういうのが出てくるけどさぁ、そんなもの、実際にいるわけが...えっ? 今、見せてくれるの? ここで? 悪いねぇ。なんならいくらか木戸銭だそうか? |
島田重三 | あなた様の疑いを晴らすためにそうしますので...すまんがその戸を閉めていただきたい。 もそっとこちらへ...もそっと...よろしいかな...この香をな、かよう火鉢にくべますとな! ... |
真っ白い煙がサーッ! と立ち上がり部屋の中になんともいえないいい香りが立ち込めました。風も無いのに煙の先端がクラクラッと揺れますと、それが見る見る人の形に変わってまいります。 | |
高尾 | お前は...島田...重三様... |
島田重三 | そちゃ女房、高尾じゃないか! |
高尾 | 取り交わせし反魂香...徒に焚いてくだしゃんすな...香の切れ目が...縁の切れ目... |
島田重三 | そりゃ焚くまいと思えども、そなたの顔が見たきゆえ、俗名高尾! 尊称菩提、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏... ごらんになりましたかな? |
八五郎 | へえぇぇっ! いやぁ、こりゃおでれぇた。きれぇなもんだねぇ、お前さんが鐘叩くのも無理ゃぁねぇや! 夜っぴぃて叩いてな。いゃぁ、長屋から何か言ってきたら俺が口利いてやるから、そう言ってきな。 いゃぁ、おでれぇたねぇ! あんな粉、入れただけで霊たが出てくるたぁねぇ... ときにね、ちょいとお前さんに相談があるんだけどね、いやぁ、あっしもね、三年前にカカァ亡くしちまってね、今ひとりで寂しくってしかたねぇんだ。今夜あたりね、カカァの面が拝みたくってね、お前さんのその粉、ね、ちょぃとこっちへ分けちゃもらえねぇかね |
島田重三 | これはわたくしと高尾が取り交わしましたもの。あなた様がお持ちなされてもなんの足しにもなりませぬ |
八五郎 | んなこと言わねぇでよ! いや、少し... |
島田重三 | 少しでもダメ |
八五郎 | いや、ちょっぴり |
島田重三 | ちょっぴりでもダメ |
八五郎 | ヘッ! いらねぇや、そんな粉! もう頼まねぇや、そんなもなぁ、おれぁ、生薬屋行って買ってくらぁ! その代わり、今度鐘叩いて見やがれ、おめぇんちに火ィつけてやらぁ! ちくしょう、あんなしみったれた坊主ってぇもなぁねぇなぁ! こっちが隣だと思うから下手に出てりゃぁ、よこしゃしねぇや! (トントントントンッ)おう、薬屋さんっ!(トントントントンッ)おう、薬屋さんっ!(トントントントンッ)開けておくんなさいっ!! |
旦那 | はいはい...定吉、定や、表をなにやら叩いてらっしゃる。急病人かもしれませんよ。あけてお上げなさい。 |
定吉 | へーい、ただいま(ポカッ)イテッ |
八五郎 | おうっ、なにしやがんでぇ、この馬鹿やろう、人がこっち向いて叩いてるときにいきなり開けやがるからポカッといっちまうだろう! |
定吉 | 戸だか頭だかわかりそうなもんでしょ |
八五郎 | そう言われると、妙に柔らかい戸だと思ったんだ、へへっ、戸の出来立てじゃねぇかって |
定吉 | 何ですよ、その「戸の出来立て」ってのは |
八五郎 | おぅ、いいから、あれ、くんねぇ、あれ。「お前は島田重三さん」ての、あれ三百文 |
定吉 | え? |
八五郎 | わかってんだよ、幽太郎の出る、あれ、三百 |
定吉 | ...薬の名前、忘れちゃったんですか? ここにいろいろ書いてありますから、これみて思い出してくださいよ。 |
八五郎 | うるせぇなぁ、いろんなこと言いやがって。えぇ? 目が書いてあって薬...ははぁ、こりゃぁ目の薬、目薬だな。その隣は...相撲かおやく? なんだよ、この相撲かおやくってのは |
定吉 | 相撲膏薬ですよ |
八五郎 | へぇ、おれはまた相撲の顔役でも売ってんのかとおもったよ。で、その隣は...伊勢...浅間...よろず...かね...たん |
定吉 | 萬金丹ってんですよ |
八五郎 | その隣が、越中富山の反魂丹...越中富山の反魂丹?? ...「取り交わせし反魂丹...」 |
定吉 | 大丈夫ですか、お客さん |
八五郎 | よし、わかった、その反魂丹、三百くれ! |
定吉 | ええ、だんな、わかりました。反魂丹でした。へい、大きな袋に入ってますので、こぼさないようにお持ちください。ありがとうございました! |
八五郎 | へっ、どうでぇ、三百買えばこんなにあるんだ。あの乞食坊主、こっから先もよこしゃしねぇ。へへっ、今晩これでカカァ呼び出さなくちゃいけねぇ、ありがてぇ、ありがてぇ。ええと、そうだ、火がすっかり消えちゃったよ。こりゃいけねぇ...フーッ、フーッ... (パタパタパタ)思い起こせば三年前だよ...風邪が元でねぇ、今考えても可哀想なことをしたよ。(パタパタパタ)もうおれが見たってこりゃいけねぇって時に、苦しい息の下で言いやがったよ(パタパタパタ) あたしが死んだらお前さん、若いおかみさんを持つだろう? 冗談じゃないよ、おれぁ、お前が死んだら生涯やもめで暮らすよ ほんとかい? 本当だとも!(パタパタパタ) あたしゃ心残りがあるんだよ そりゃいけねえ。病人が心残りがあっちゃいけねぇ。なにが心残りだよ。 あたしがこしらえてまだ袖に手を通していない羽織が、たんすの一番下に入っているけれども、あれを若いおかみさんに着せて出て行くところを思うと、あたしゃもう死ぬにも死に切れないよってぇから、 馬鹿なことを言っちゃいけねぇよ! おれはね、お前が死んでも生涯やもめでくらすよ、ほんとかい? ほんとだよっと手をキューッと握ったのがこの世の別れだったんだからな... へへっ、それが今晩出てきやがんだね、なんて言って出てきやがんだろうね... お前さん! 久しぶりに逢ったんだから!もう今晩、寝かさないよ! おいおい、寝かさないったって、おめえ、おれぁ、明日仕事があるじゃねぇか、眠くてしょうがねぇ 寝ちゃやだよ、眠るならつねるよ、つねるなってんなら、くすぐるよ、こちょこちょこちょ へへっ、おれぁ、くすぐられるのに弱いからなァ... お前、今、何してるんだ? あたし、蓮の台の上で、お前さんが来るのを待ってるの。お前さんも早くおいでよ。 おいおい、おいでよったって、おれぁ、死ななきゃいかれねぇじゃねぇか 早くお死によ! 冗談じゃねぇ、そうそう急に死ねるもんじゃねぇ まぁ、いやだよお前さん、こんな娑婆に未練があるのかい? だれか好きな女でもできたんじゃないの、憎いよこの! ...なんておれのほっぺたをキューッと...つねるかどうか、まだ出てこないんじゃわからねぇなぁ。 へへっ、なんてって出てくるんだろうね。「お前は島田重三さん」ってぇのは隣の乞食坊主だな。「お前はやもめの八五郎さん」っと来るね。「そちゃ女房高尾じゃないか」ってのは隣だな。「そちゃ女房お梅じゃないか」「取り交わせし、越中富山の反魂丹...徒には焚いてくだしゃんすな。香の切れ目が縁の切れ目」「そりゃ焚くまいと思えども、そなたの顔が見たきゆえ。俗名お梅、尊称菩提、南無阿弥陀仏、南無...」 おっそろしく火がおきちゃったねぇ、どうも。こりゃ少し灰かけなきゃダメだな。へへっ、ありがてぇ、ありがてぇ。三年ぶりにカカァに会える。ええ、今から焚くからねぇ。すぐ出ておいでよ、間違えて隣にでちゃいけないよ。あの乞食坊主、なにすっかわからねぇからな。え、おいでなさいよ、えっ、焚きますよ、...モクモクと......... あれ? なんだよ、おれんとこは煙だけで、何にも出ちゃこないな。... ああ、そうか。三年ぶりだからってんで、決まり悪がってんだね。おぅ、決まり悪がるこたぁねぇじゃねぇか。亭主の所ン出てくるんだからよぉ。さ、決まり悪がらずに、出てらっしゃい、ホラホラホラ... どっかにつっかえてるわけじゃあるめえなぁ...ははぁ、こりゃ薬の量が足りなかったか。ケチケチするこたぁねぇんだ。三百買えばこんなにあるんだ。さ、今度はたっぷりまこうね。ホラホラホラ... 薬、間違えたわけじゃねぇだろうなぁ...ちっとも出てきやがらねぇ。 ええい、袋ごといれちゃえ! ...うわあぁぁ、こりゃいけねぇ、ゲホゲホッ、うちン中、煙だらけになっちまったよ!ゲホゲホッ、ゲホゲホッ! |
おさき | ちょいと、八っつぁん、ちょいと、八っつぁん! |
八五郎 | お、おれんとこは煙んなかじゃなくて、表からどうどうと出てきやがったな! そちゃ女房、お梅じゃないか! |
おさき | こっちだよ、こっちだってば |
八五郎 | お、表からじゃバツが悪いからってんで、裏へまわりゃがったな。そちゃ女房、お梅じゃないか! |
おさき | 何を言ってんだよ、この人は。あたしゃ隣のおさきだけどね、さっきからきな臭いのはお前さんとこじゃないかい? |
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ずいぶんと長い枕だが、本編が短いので全部収録した。三笑亭夢楽さんの高座が元になっている。 漢の武帝が愛妃・李夫人に先立たれ、香をたくとその面影が現われたという故事にならい、死者の霊を煙の中にあらわす香を反魂香という。 | |
反魂の法としてこんな話が残っている。説話集『選集抄』にある話だが、あの西行法師が反魂法を行ったというのだ。あるとき、孤独感に襲われ、俗世への未練が断ちがたく、そこで、「友も恋しく覚えしかば」とばかりに反魂法にて一種の人造人間の友達を作ろうとしたのだという。 | |
作り方は、
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というものだ。こうしてフランケンシュタインの怪物そこのけの存在が誕生したが、顔色も悪く、心を持たない、声も酷い。ということで友達にはとても不適切で、始末に困り、高野山の山奥に捨ててしまったという。後日、その道の大家の源師仲に顛末を話したところ、「大筋で正しいが、技が未熟」と言われたそうだ。ちなみに師仲の作った人造人間はそのころには大臣にまで出世しているが、「誰かを明かせば術者も人造人間もたちどころに溶け失せてしまうので秘密」と言われたそうな... | |
歌舞伎・浄瑠璃の方には近松門左衛門作『傾城反魂香』という人気演目がある。近江六角家のお家騒動を軸に恋愛・三角関係が絡む筋書きで、上中下三巻の、落語とはだいぶボリュームの違う狂言である。 |
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