まことにエロティックな、艶小噺の数々。花見の席で、ビアガーデンで、忘年会で、はたまた歓送迎会などで、アメリカン・ジョークを超える、日本のユーモアを披瀝してみては?
あるご夫婦でございます。この女房というお人スタイル抜群の上に美人なのはよろしいんですが、まことに性格がきつい、ばかりでなく金遣いが荒い、しかも酒癖が悪く昼間っから缶ビール呑みながら何時間もパチンコをしているという困った女性でございます。 ご亭主もほとほと手を焼いておりましたが、といって、この女房をたたき出してしまおう、という気はさらさらございません。 と申しますのが、このご夫婦、夜の方の相性が抜群によろしい。ご亭主が小言を言い始める、と女房がスリップ一枚で、腰をくねらせながら「ン、ねぇ〜」なんて...すると亭主はうへへへ...というわけで、女房が使うぶん、亭主は営業に励む。亭主がどれだけ頑張るのも、すべては女房に、エェ、お手合わせ願いたいばっかりに、というわけですな。 ところがこの女房が、ちょっとした病気で寝付いた、と思ったら、あれよあれよ、という間にコロッと死んじまった。ふだんからの不摂生が祟ったんでしょうなぁ。 旦那は特にこの女の性格がよかったとか、人間に惚れていた、とか云うわけではないのでさほど落ち込みはしなかったんですが、抜群の相性であったところの、夜のお相手に死なれたのはちょっと困りました。 | |
亭主 | あぁ、いい女だったよなぁ...こう、抱き甲斐のある身体でさぁ...尻なんぞプリプリしててさぁ...大事に使えばあと二十年や三十年は楽しめたんだよ...あぁ、アソコだけでもいいから、化けて出ねぇかなぁ |
女房 | ...ひゅ〜...どろどろどろどろ |
亭主 | な、なんだ、この音は! |
女房 | ...うらめしや〜... |
亭主 | オォッ! こ、こいつぁ...あつらえた通りじゃねぇか! |
見ると、青白い陰火を伴って、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がりましたのは、懐かしい女房の...アソコでございます。亭主が恐る恐る触わってみると、感触もおケケの生え具合もナニもカモ、昔のまんま。 | |
亭主 | こりゃ、ありがてぇ! 久しぶりにお相手願おうじゃぁねぇか! |
と、イチモツを取り出しますてぇと、ズッコン、ズッコンと...まぁ、アソコだけ浮かんでるってぇのもなかなかやり難いものですが、そこは永年慣れ親しみました相手ですので、なんとかこなしまして、あぁ、ご馳走サマ、とイチモツを引き抜こうとして驚いた。根元のとこでプッツリとちぎれて、無くなっている。 | |
亭主 | あぁっ、こ、こいつぁ、どうしたこった!!? |
女房 | あと二、三十年、大事に使わせてもらうよ... |
ある新婚初夜のご夫婦でございます。この新婿というのがまったくのズブの童貞でございまして、いったいなにをどうしたらどうなるのか訳が分からない。 聞きかじりの知識で新妻の腹の上に乗りまして抜き身を振り回しておりますと、上手い具合に秘め所に命中、めでたくズブリ...新妻は感極まって 「アァッ! 死ぬゥッ」 などと悲鳴を上げたものですから、この亭主の驚いたのなんの...そのまんますっ飛んで逃げて、わけも言わずに友達のうちの押し入れに隠れて出てこない。それでも、四日目の夜にほっかむりをして自分のうちの近所へやって参りました。 | |
亭主 | もし、ちょいとモノを尋ねますが... |
通行人 | ハイ、何でしょう? |
亭主 | このあたりで、三、四日ほど前に婚礼を上げたうちをご存知で? |
通行人 | そういえば、あそこのうちで...それが何か? |
亭主 | そこのうちの嫁が、腹を突き刺されて大変なケガを... |
通行人 | へぇ、そりゃぁえらいことだ |
亭主 | その後、命に別状ないか、ご存じありませんか... |
ある若夫婦でございます。まことに仲がおよろしい。自然と、夜のお仕事にも精が出まして、 「おい...」 「はい...」 で、もう通じる。 「ねぇ...」 「うん...」 で、他に何も言うことは無い、というくらいで、毎晩毎晩このありさまでございますから、だんだんと顔色が悪くなってくる。眼肉が落ちて目の玉が窪んでくる、頬の肉が落ちて顎がとんがってくる。とうとうお医者様に、 | |
医者 | こりゃ、いくらなんでもチト過ぎますな。夜の仕事は、するなとは申しません。せめて今の半分になさいませ |
といわれてしまった。 | |
夫 | 半分ですか... |
医者 | さよう。さもないと、おふたりとも命を縮めることになりますぞ |
お医者にここまでいわれてはしょうがない。半分にしよう、と二人で誓いあいます。ただ、半分といったって回数や時間が半分ってわけじゃない。お道具の半分だけ使って、あとの半分は使わないでおこう、てな、妙な約束ができあがりました。 さて、その夜のことでございます。 | |
妻 | ねぇ... |
夫 | うん... |
てんで、また始まった。亭主は約束通り、半分入れて、それ以上は入れません。これではかみさんが承知をしない。亭主の腰を抱きしめてグイッとばかりに、全部入れてしまった。 | |
夫 | おい、約束が違うじゃないか |
妻 | いいぇ、違いません... |
夫 | 半分の約束だったろう? |
妻 | あなたは先の方の半分をお使いなさいませ。あたくしは根元の方の半分を使いますワ |
いまの娘さんは、たいそう活発でございますから、いろいろと、あれこれと、えぇ、経験なさっておりまして、えぇ、そのォ、モノを知らないなんてぇことはあまりありませんが、昔の娘さんは押し並べてたいそうウブでございました。ことにお屋敷の奥深くに住むという「お姫様」などというものは、それこそ、下世話な話しは何も知らない。そういうお姫様がヘンなことを耳にした、という小噺を二つほど。 毎日まいにち、お城ンなかにこもったきりじゃ身体によくない、気分も晴れないてぇんで、野行きでございます。お姫様、お駕籠ン乗って田舎の方へとお出かけンなりまして、小さな湖のほとりでご休憩でございます。すると、渡り鳥がギャァ、ギャァと鳴きながら飛び立ちました。お姫様、それを見て | |
姫 | 爺、あれを見やれ、ガンが飛ぶぞ |
爺 | 姫様、ガンと申すは下世話の言葉。やんごとなきお方様は「雁(かり)」と呼ばれるがよろしかろう |
姫 | ...さようか... |
しかられて、しょぼんとしております。さて、爺が一服つけようてぇんで、煙草入れを取り出し、キセルに刻みを詰めまして、スパスパッと煙草を吸います。この灰を、コンコンッとやって落とそうとすると、キセルのガン首が緩んでおりましたものと見えまして、ポロリと取れた。 | |
姫 | 爺、あれ、カリ首 ?! が落ちた!
えぇ...まことに困ったもんでございます。 このお姫様がお駕籠に乗って道を行きます。春も真っ盛りでぽかぽかと暖かく、お駕籠の御簾をおろしていては暑苦しいほどで、ちょっと開けて涼をとっている、その様子を見て、沿道で若いものが云いたいことを云っております。 |
甲 | おぅ、見てみなよ...お姫様だよ...ヘェッ! いい女だねぇ...いゃぁ、うちのカカァたぁえれぇちげぇだ |
乙 | そりゃぁあたりめぇだ。おめぇのカカァなんぞと一緒にすることがどだいまちげぇってぇもんだ。拵えからしてぜんぜん違うぜ |
甲 | おめぇ、それはねぇだろ...とはいうもんの、いゃぁ、やっぱ、いい女だ。ああいうおんなといっぺんでいいから、やってみてぇもんだ |
乙 | へっ、なにをいってやがんでぇ。おめぇなんぞ、そんないい女とやれるようなご面相かよ! うちへけえってせんずりでもかきゃぁがれ! |
云いたい放題ですな。これを聞いたお姫様、せんずりをかく?? と、これがなんだか分からない。そこで奥女中のひとりに聞いてみた | |
姫 | これ、あやめや、あやめ |
女中 | はい、こちらに |
姫 | さきほど沿道のおのこが、「せんずりをかけ」と申しておった。あれはいかなる意味かえ? |
お女中も、これには弱った。 | |
女中 | は、はい...あの...うちへ帰りまして...あの、ゆっくりと休息することを、下世話にてそのように申します |
と、その場はうまくごまかした。さて、翌朝でございます。ご家老の三太夫さんが登城して参りまして、姫様の前にてご挨拶 | |
三 | 姫様には麗しき御尊顔を拝し奉り、三太夫、恐悦至極に存じ奉ります |
姫 | む。そなたも、老体の身で、毎日の登城、大儀である。苦しゅうない。次の間に下がって、せんずりをかけ |
えぇ、間男、てぇやつ、要するに人妻といいことをしようてぇやつですが、これが亭主にばれますてぇと大変ですな。相手が武家の女房だったりしますてぇと、二つ重ねといて、四つだの八つだのに切り刻まれたものです。ま、町人の場合は殺すてぇわけにゃ参りませんが、そのかわり、その慰謝料の額が七両二分と相場が決まっておりました。 据えられて 七両二分の 膳を食い なんて川柳が残っておりますな。 | |
亭主 | やぃ! こんちくしょう! 間男、見つけたぞ!! |
間男 | うわぁ、か、勘弁してくれぇ! 出来心なんだよ、つい魔が差したんだ。近所のよしみで、勘弁してくれぇ |
亭主 | やかましい! 勘弁できるけぇ! おれが旅に行く、てぇ話しをしてうちを出たとたんにカカァ誑し込みやがって! そんな出来心があるかってぇんだ! さぁ、間男見つけたら重ねといて四つにできるんだ。このナタでぶった切ってやる! |
間男 | か、勘弁してくれ! たった一回なんだよ、たった一回でぶっ殺されちゃたまんねぇ! 頼むよ! |
亭主 | じゃぁ相場どおり七両二分払うか!? |
間男 | い、いや、おめぇ、たった一回で七両二分てぇのはちょっと高すぎやしねぇか |
亭主 | この野郎、間男値切ろうてぇのか? いったいいくらなら払うんでぇ! |
間男 | いや...あの...三両くらい... |
亭主 | さ、三両!? 七両二分を三両! ま、いいや、とっとと持って来い! ぼやぼやしてるとぶった切るぞ! |
間男 | うわぁ、た、大変だ...おぅ、おっかぁ...す、すまねぇが、三両、用立ててもらえねぇか |
女房 | えぇ? お前さん、なんだい、薮から棒に...どうしたんだい? そんな蒼い顔して...何かあったのかい? |
間男 | それが、面目ねぇ... |
女房 | なにが面目ないんだよ。どうしたんだよ、云ってごらんよ |
間男 | すまねぇ。いやぁ、実はな、辰んちのカミさんとできちまって...その、始めたところを辰に見つかっちまったんだよ。それで三両持って来ないと重ねといてぶった切るってぇんだ。すまねぇ、頼む! 三両、なんとか用立ててくれ |
女房 | まぁ、辰さんってぇとすぐご近所じゃないか...そんなところのおカミさんと...ったく、ロクな稼ぎもないくせに、助平の方は一人前で...で、いったい何回やったの? |
間男 | たった一回だよ。きょう初めてだったんだ |
女房 | 一回? 一回で三両かい? ずいぶん高いねぇ...いいよ、持ってかなくて |
間男 | ...えっ!? おれぁ、ぶっ殺され... |
女房 | 大丈夫だよ。もう一度向こうへ行ってね、辰っつぁんに、女房がそう云ってましたって云ってね、差し引き六両もらっといで |
えぇ、昔の江戸という街は世界的に治安のよい街だった、と歴史の先生方はおっしゃいます。とは申しましても、夜ともなりますてぇと、ぶっそうな夜盗、辻斬りなどが横行しまして、いまに比べますとやはりぶっそうでした。 さて、落語の方でも、こういうぶっそうな目にあいまして、首と胴が泣き別れになっちまった男の咄が『首提灯』なんて残っておりますが、今日お話ししますのは居合いの名人に胴斬りにされた男の咄で... 上と下とがばらばらンなっちまって、しょうがねぇから、ってんで、上は上、下は下、で奉公に出た。 胴の方は湯屋の番台に坐る。こりゃぁぴったりですな。足の方はいらないわけですからな。 足の方はてぇと、コンニャク屋に奉公に出ました。コンニャクてぇのは足で踏んで作るんですから、これも適任てぇやつです。 | |
友達 | おぃ、胴さん、これからちょいと足さんのとこへ行くんだが、何か言づてないかい? |
胴 | あぁ、そいつぁすまねぇ。いやぁ、足の野郎にあったらね、近頃、陽気のせいか、目がかすんでしょうがねぇから、足の三里に灸をすえてくれるよう、云っといてくれねぇか |
友達 | あぁ、いいとも...おぅ、足さん、さっき胴さんに会ったら、三里に灸をすえてくれって云ってたよ |
足 | あぁ、そりゃ、わざわざどうもご親切に...で、恐れ入りますが、こんど胴にお会いになったら、お言付け願えませんか... |
友達 | あぁ、お安い御用だ。なんて云う? |
足 | あまり女湯ばかり覗いてくれるな。こっちはフンドシが痛んで困ります |
この咄は、もうちょっと膨らませて『胴切り』という一席の落語にもなっております。その場合は、オチが違いまして、最後の言づては「あまり茶ばかり飲んでくれるな。小便が近くてしようがない」です。 |
さるお屋敷の若様がお嫁さんをおもらいになりました。ところがこの若様というのが堅いお人で、いまだ童貞でございまして...さて、初めてのお床入りということになりますが、いったいどうしたらどうなるのか、皆目見当もつかない。そこで、爺にこっそりときいてみた。 | |||||||
爺 | では、若、こういたしましょう。この爺めが次の間に控えまして、太鼓にて合図をいたしましょう。 | ||||||
若 | 太鼓にて、ふむ。で、いかがいたすのじゃ? | ||||||
爺 | さよう。まず、若が姫様の上に、お乗り遊ばしませ | ||||||
若 | 予が、上に乗るのじゃな | ||||||
爺 | 御意! しかる後、若のお道具を姫様の秘め所におあてがいなさいませ | ||||||
若 | うむ、予の抜き身を姫の秘め所にな | ||||||
爺 | 御意! そのとき、拙者が太鼓をひとつ叩きまする。その一番を合図に、まず若はお道具を秘め所に、ズズイ、とお進めください | ||||||
若 | なんと、ズズイと...差し込むのじゃな | ||||||
爺 | 御意! しかる後、拙者が二番太鼓を打ちますれば、こんどは中ほどまでお抜きくだされ | ||||||
若 | 中ほどか。全部抜くのではないのだな。ふむ。一番で入れ、二番で中ほどまで抜くのじゃな。ふむふむ... | ||||||
爺 | 三番でまた入れ、四番で抜く。つまり太鼓の拍子の通りになさいませ | ||||||
若 | うむ! 心得た。大儀であるぞ | ||||||
どーん...どーん...どーん... 爺は忠義の心をバチに込めまして、ゆっくりと一番、また一番、おごそかに太鼓を打ち続ける。すると、襖が三寸ほど開きまして 若
| 爺...
| 爺
| はっ!
| 若
| もう少し早打ちにいたせと、姫が申しておる...
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そもそも、「姫」という言葉の響き自体がエロティックだ...と思うのは私だけですか? |
落語には必ずオチが必要です。なぜ、それが必要なのか。お話しなんだから、 途中が面白ければいいじゃないか、というのは落語の歴史を考えると間違いであることがわかります。
落語はもともとは、このページに収録したようなごく小さな笑い話でした。こんなに小さな話しですから、ハッとする結末で笑わせなくては、途中経過の面白さなんて盛り込みようが無かったわけです。この笑い話がだんだんとさまざまなテクニックでふくらんで、いまの落語になりました。従って、落語の締めくくりとして、オチは不可欠なのです。