ふとどきな女房 へのこを 二つ持ち
「へのこ」と申しますのは、男のお道具のことですな。昔は女は嫁入りしたら、一生その亭主と添いとげるのが人の道、とされておりました。まぁ、女房用のへのこは亭主のひとつだけ、てぇことになっておりました。「女房へのこ二つ持ち」てぇのは、つまり間男ですな。
町内で 知らぬは亭主ばかりなり
てぇことになる。まことにふとどきな話しでございます。
間男と亭主 抜き身と抜き身なり
女房が不義密通している現場に亭主が抜き身を引っさげて乱入して参ります。と、慌てた間男、びっくり仰天ですな。女泣かせの抜き身を丸出しにしてうろたえてるてぇ...えぇ、心温まる光景でございます。こういうときに、亭主が姦夫姦婦を二つ重ねといて四つにする、八つにする、つまり斬り殺しても別に罪にならなかったんだそうですから、間男てぇものも命懸けのお仕事でございます。
間男は 七両二分と値が決まり
据えられて 七両二分の膳を食い
えぇ、間男も命が惜しいですからな、亭主の方へいくらか払ってご勘弁願う、その値が、最初のうちは五両でした。そのうちに物価が上がりましたものか、七両二分に値が上がった。七両二分といえば当時の庶民にとっちゃ大金ですな。それでも、ちょいとよそのかみさんの寝てみたい、亭主に隠れてよその男をつまんでみたい、なんて気持ちてぇのは今も昔も変わらないようでございます。
べつに、じゃぁ、隣の嫁さんが自分のカカァよりいい女か、てぇとそうでもないんでございまして、その証拠に隣の亭主が自分のカカァと間男していたりいたしまして、ま、人間、だんだんと慣れて参りますと麻痺してくるんですかなぁ、あっちのほうが...えぇ、南蛮のほうのことわざにも「隣の芝生は青く見える」てぇのがございますが、面白いものでございますなぁ...
ごく風流な秋のお咄でございました。