蛙茶番



 この頃、祭りというものがまた盛んになってきましてね、ただ、昔の祭りと今の祭りではちょいといでたちが違うんですな。
 まあ、御輿(みこし)というものは職人の町のは大きいんですね、鳥越だとか深川なんか行くと大きい。商人の町はってぇときらびやかだけど小さい。職人の町はみんなふんどしで担いだんですな、半纏(はんてん)着てふんどしで担いだ。商人の町はってえと半股引(はんももひき)ってやつですね。今はってえと、なんかみんな鳶職(とびしょく)の寄り合いみたいに長い股引で担ぐんですね。で、昔はみんなで御輿を守るように背中を向けて担いだ。後ろ前がないような形ですな。だからどっちからみても顔がこっち向いてたもんですが、今は後ろから来るヤツは前向いてんですな。籠かきやもっこ担ぎとおんなじですな。昔は「わっしょい、わっしょい」って言ったもんですが、今は「せいや、せいや」ってんですね。いろいろと変わってきたもんです。

 それから御輿の出ない祭りというのもございました。恵比須講なんてのはそうですな。十月の十九日の晩にべったら市というのが立ちまして翌日の二十日は江戸のほとんどのお店はお休みになる。そうなるてぇと町内の人たちがお店(おたな)に集まって広間の片っぽに舞台をこさえて、片っぽに客席をこしらえて、素人芝居なんてのを楽しんだそうで...


 昔は男を形容する言葉が様々にございました。

 「伝法」てぇのは「江戸浅草寺の伝法院の寺男が寺の威を借りて乱暴狼藉を働いた事」から、粗野で野生的な「男らしい」男、例えば清水の次郎長一家などを指す言葉ですな。

 一方、「いなせ」とは漢字で書くと、

いなせ


でございます。「イナ」てぇのはボラの幼魚の名前で、ブリの若いのがハマチと呼ばれるのと同じでございます。これが、背鰭がピンとしていてたいそう威勢の良い魚とされていおりましたようで、イナの背鰭のような髷 ?! をいなせいちょうと呼び、若い者の間でずいぶんと流行(はや)ったそうで。そこから一心太助のような若者を「いなせ」と形容したようです。

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