アメリカにおける単元学習の開発と実践の歴史


 戦後,日本の学習指導要領のモデルとなったのがアメリカのヴァージニアプラン。その開発は1930年代から1940年代にかけて行われていた。そして,その前の1910年代から1920年代にかけては,現在日本の教育のキーワードとなっている「総合的な学習」の原型とも言えるプランが私立学校において実践されていた。もちろんアメリカにおいても受験を中心とした教育が行われてはいるが,創造的な単元学習が今から80〜90年前にすでに実践されていたのである。これは,日本の教育が国中心であるの対して,アメリ カは地方中心であることに起因する。日本も今になって地方分権の時代とは言っているが,アメリカでは各州によってカリキュラムが全く違っているのである。この州ごとのカリキュラムの違いを第一の理由に引っ越しをする人も少なくないと言う。この州中心のアメリカの風土は多様なカリキュラムの開発を妨げなかったが,反対に子どもたちの学力差等の問題をも招いている。日本においては,国中心のカリキュラムが戦後の経済成長をもたらし,現在の世界における日本を築いてきたとも言えるのであるが,様々な教育問題を引き起こしていることも事実である。
 総合的な学習が始まろうとする今,そのルーツでもあるアメリカの単元学習の開発と実践の歴史を振り返ることは大いに価値あることである。私自身は,シティ・アンド・カントリー・スクール等で実践されていた「散策」の時間をこれからの日本の学校の中に大胆に導入していくことが必要であると考える。
 なお,詳しくは佐藤学氏著「米国カリキュラム改造史研究」をご一読のこと。読み応えのある一冊である。

時期

単元学習の歴史的な展開

備考

1889年〜1917年

「方法的単元」の導入

から第一次世界大戦

単元学習の基本課題
「教科教材の教授」の改造
「子どもの思考と経験」に基づく教材と授業の再構成 → 単元学習の成立

1 ヘルバルト主義「方法的単元」の受容の改造

 思考過程に即して教材を再構成する実践
 「タイプ・スタディ」「トピック・スタディ」
  …カリキュラムの制度的な自由,「子ども中心主義」の改造運動との交渉

2 初期実験学校における「経験」を基礎とした単元開発の始動
 ○パーカー,デューイ等の実験
  「教材」と「経験」の統合と方法的再構成
  「観察」「探究」「調査」「実験」「作業」「表現」
  学習経験と学問的文化的経験との連続性の実現
  学習経験と社会生活との連続性の実現

3 「効率性」原理による単元学習の再編動向
 「教育目標」と社会的に有用な「教材」と「活動」で単元を構成する原理
 社会的効率主義の単元学習の特徴
 (1)教材と学習活動の選択の原理と構成の原理の二分化…作成主体を教育行政官に限定
  (2)目標と手段のシステム化…生産過程の経営理論」
  (3)単元学習の適用領域の限定…「発見」「観察」「作業」など

4 「効率性」原理に対抗した学習経験の開発の実験
 ○ジョンソンの学校(オーガニック・スクール)
 ○メリアムの学校(ミズーリ大学附属初等学校)
  子どもの発達における学習経験の個性的な価値と方法的な価値の探究
  「観察」「物語」「表現」「手仕事」「産業」などの大単元の組織
  「プロジェクト」「トピック」「オキュペーション」等の単元学習の実践

 

 

 

 


「教科教材の教授」対「子どもの思考と経験」

 


産業主義の台頭

教育行政の官僚化

 


「効率性の原理」対「子ども中心の原理」

産業主義による学校教育の再編に対する抵抗

1918年〜1929年

第一次大戦から大恐慌勃発

私立の実験諸学校における創造的な単元学習の開発

1 「子ども中心主義」の学校
 ○プラットの学校(シティ・アンド・カントリィ・スクール)
 ○ノームバーグ学校(ウォルデン・スクール)
  子どもたちの「想像力」や「構想力」を発見し掘り起こす知性的な実践

  子どもの発達とカリキュラムの開発における実験的・実践的研究
  新進の科学者や芸術家が多数教師として実践に参加
     …知性的「経験」と芸術的「表現」を子どもの学習経験に組織


2 キルパトリックの「プロジェクト・メソッド」(1918年)
 単元学習の反知性的方向での展開
 中心概念「目的的活動」…変動する社会に目的的に適応=社会化する行為を示す概念
 社会改造の課題を教育活動で担う様式として単元学習一般を理論化
 ・社会的態度の形成を学習の中心的価値とする原理…「付随学習」の原理
 ・単元展開の段階的方式…「目的」→「計画」→「実行」→「判断」
 単元学習の活動主義的傾向を促進する機能を果たす

 ○リンカーン・スクールで開発された「作業単元」

  「興味の中心」を核として諸教科の教材を構成した総合学習の単元
  知性主義的な単元学習の展開と反知性主義的な単元学習の展開との合流による所産
  <直接経験>→<構成的作業>→<各教科学習(関連学習)>→<学習結果の表現>

 ○1920年代後半の「社会改造主義」による「子ども中心主義」批判

  社会的経験の即時的な価値を追求する活動主義への傾向
  単元学習の適用領域を社会科の内容領域に限定する傾向
  「教科学習の課程」と「総合学習の課程」に二分化

地方教育機関では「社会的効率主義」のカリキュラム作成運動が主流

都市化と文化の大衆化

個人主義思想の成熟

半世紀後のオープン・スクールの教師達に影響を与える

 

 

 


以後の単元学習に大きな影響を与える

 

 
公立学校プログラムに広く普及した単元の原型

1930年〜1945年

大恐慌から第二次大戦の終結

「子ども中心主義」の実践は限定的となり,「社会適応主義」の理念が主導
 社会適応主義の中心課題…「社会的態度」の形成と「人格の統合」
 ○カリフォルニア・プログラムが受け継ぐ「子ども中心主義」の系譜
  「子ども中心主義」の原理と知性的学習の伝統を公立学校で継承し発展させた典型
  1930年版「活動単元」「作業単元」…活動主義的,拡散的
  1936年版「作業単元」…社会科と理科の教科単元として発展
                「教材」と「経験」の目的的な統合を追求する知性的な学習経験の単位として発展

 ○ヴァージニア・プログラムに代表される「社会適応主義」の展開
  キャズウェルの理論による折衷的な性格
  ・「教育目的」に対応させて「教材」と「活動」を組織し,社会生活の機能領域で「作業単元」を組織する「社   会機能法」を採用
    …社会的効率主義」のカリキュラム理論に準拠
  ・「興味の中心」で表される主題を中核として組織する「総合学習課程」
     …「子ども中心主義」の伝統を受け継ぐ
  「教育目的」…「態度」「理解」「技能」
  「興味の中心」の系統(シークェンス)と問題領域(スコープ)により組織
  「作業単元」…社会生活の諸機能を理解し,生活技能と社会的態度を形成して,社会生活への適応を達   成することを目的とした総合学習の単元
  「経験単元」…「社会適応主義」の系譜における「作業単元」←→「教材単元」
           社会的態度の形成を中心目的とする単元

大恐慌以後の経済と文化と教育の復興計画

地方教育機関のカリキュラム改訂運動により「作業単元」が公立学校プログラムに普及・定着