地域調査による教育
1 地域素材の教材化のねらい
1-1 地域調査の楽しさ
子どもたちは,地域に出かけていくのが好きである。地域の中で,目を輝かせて生き生きと活動する子どもたちの姿を見ることができる。地域に出かけることの楽しさは,生きた社会事象と直接触れ合い,思いがけないものに出会えることにある。また,五感を生かした活動が可能なので,自分から多様な活動を工夫することにもある。
しかし,地域を見たり,調査したりしただけで終わってしまったのではいけない。地域の事象を客観的に分析すると共に,地域の人々の活動を肌で感じ取り,地域を自分にとってかけがえのないものと感じ,愛着がもてるようにしていきたい。
1-2 地域への思いを高める学習
地域に出かけ,地域の素材に直接ふれることのできる学習は,学習指導要領第3学年社会科の目標(2)「 地域の地理的環境,人々の生活の変化や地域の発展に尽くした先人の働きについて理解できるようにし,地域社会に対する誇りと愛情を育てるようにする。」の達成を目指す有効な学習活動であると考える。特に,第3学年の子どもたちは,第2学年までの生活科の学習において活動を中心とした学習を経験しており,多くの子どもたちが生活科の学習に楽しさを感じている。このことから,第3学年の社会科においては,生活科との関連から座学を中心とした学習ではなく,活動を主体とした単元及び授業設計を行うことが必要である。しかし,こうした学習を展開するためには,教師自身が地域のことを理解しておくことが求められる。
2 地域素材の教材化の観点
ここで地域素材を教材化するための観点として次の3点をあげる。
(1) 子どもたちにとって身近であること。
(2) 子どもたちが直接触れることができるものであること。
(3) 実生活にとって切実感があること。
さらに,学習課題とのかかわりから次の2点をあげる。
(4) 家庭でも話題になることが可能な課題であること。
(5) 課題解決のために子ども同士が協力しなければならない課題であること。
これらの視点の中で学習としての価値を考えると,学習課題とのかかわりを重視しなければならい。それは,ねらいと素材,ねらいと授業設計とが整合しているかどうかということである。そして,学習を通して新たな疑問が生まれることが大切であり,こうして地域から学ぶことができるという学習を創造していくことが教材化の観点となる。さらに,忘れてはならないことは,直接人間とのふれあいがもてることが地域を教材化する最大の利点でもあるということである。
3 地域調査のポイント
本講義や野外調査を通して,地域調査を実施することの意義について考え,具体的な調査の方法を学ぶことができた。ここで,地域調査を実施するにあたっての留意点について,田中力氏(筑波大学附属小学校)による「地域調査のポイント」を参照してまとめる。
(1) 調査の観点
観点をしぼっていても地域に出かけるとその他のものに注意をひかれるのだから,しぼっていないと観点に振り回される結果となってしまう。また,観点をしぼらずに出かける場合は,子どもの意欲の大きさが重要となる。
(2) 調査の場所
調査の場所を生徒の発達段階や生活経験を考慮して選択し,成果があがるようにしなければならない。実際に場所を選択する際は,次の3つの視点から考えなければならない。
@歩きながらの調査と立ち止まっての調査
A全体の景観の調査と一カ所をじっくり見る調査
B点的把握をめざす調査,線的把握を目指す調査と面的把握をめざす調査
(3) 調査する時期
調査しようとする内容が最も顕著に現れる,また見えるときはいつかということを考え,よりその時期に近い時期に実施する。
(4) 調査結果の数量化
数量化を図ることによって,事象をより具体的に捉えることができる。
(5) 調査の比較
比較することにより地域の特色を見えやすくすることができる。
(6) インタビュー調査
見ただけでわからないことも人に話を聞くことによって分かる。ただし,あいさつなどのマナーの指導は欠かせない。また,インタビューカードなどを用意し,観点に沿ったインタビューができるようにする。
(7) 調査の記録
地図を活用し,記録を調査の中で行うようにする。
(8) 教師の働きかけ
意図的な投げかけを行ったり,スケッチなどで模範を示したりすることが必要である。
4 社会科における地図技能の育成
そもそも地図は,言語で説明しにくいものを二次平面に表すことによって,お互いのコミュニケーションを図るものである。地図を使用する目的については,次の2点をあげることができる。
1 与えられた課題をもとに探すとき
2 自分が今どこにいるかということを探すとき
学習指導要領及び指導書の趣旨からは,地図指導においても発達段階を考慮しなければならないということを理解することができる。つまり,立体概念の未成熟な子どもたちにとって,2次平面に表された地形図から3次元空間を認識することは難しいことであり,この問題を解決するためには地図の読図と経験を積み重ねる他ないということである。ただ,地形図のよさを絵地図等と比較してクローズアップすることができれば,地形図の使用を保証することができるであろう。
次に,地図指導と教材としての問題を考えなければならない。この学習が,地図を学ぶ学習なのか,地域を学ぶ学習なのか,それとも地域で学ぶ学習なのか,そのねらいを考える時,地図の在り方に違いが表れてくるのは必然のこととなる。
以上のことから,地図指導については,社会科として地図を教えることと地理として地図を教えることの違いがあるということを認識することができる。さらに,今後は,地形図の活用については,限られた社会科の時間の中だけではなく,発展的な学習としての総合的な学習の中にその場を求めていきたい。
5 メディアとしての写真資料の活用
篠原先生が実施した大洲中学校での野外学習では,写真資料を活用し,過去の水害の状況と現地の様子を比較して調査する活動が取り入れられていたが,この活動はたいへん効果的であったと考える。この学習テーマが「水害と人々の生活の工夫」であったことを考えると,水害の様子を直接調査することはできないので,その時の写真を用いることによって,現地における臨場感を醸しだし,生活への切実感を感じながら調査にあたることができたと考える。ただ,配布された資料が鮮明であれば,生徒達はさらに深く学ぶことができたであろう。
6 21世紀の社会科と地域教材開発
社会科学習の特色は,@子どもが自分でいろいろ調べることができる,A地域を基本にものを見ることができることである。21世紀の社会科においては,調べ活動で語る社会科,具体例で語る社会科,そういうものを通して一人一人の個性を伸ばしていく,そういう社会科が実現していくことが求められている。地域教材の開発は,この点から21世紀の社会科に求められる特質として重要な要素となる。
6-1 地域教材開発における留意点
ここで注意しておきたいことがある。それは,小西正雄氏(鳴門教育大学助教授)のいう「教師自身が何かのきっかけでおもしろい素材に偶然出会ったり,あるいは長い取材の須恵に苦労して興味深い素材を発掘したりすると,思い入れがあるだけに,何としてもそれを教材化して授業をしてみたいと熱望するようになる。しかし,注意しておかないと,その熱意が仇となりかねない恐さが地域素材の教材化にはある。地域にこだわるが故に化学的な根拠の薄弱なままに安易に一般化してしまったり,よく考えてみればどこにでもあるような事実を大げさに取り上げてしまったりしかねない。」ということである。
6-2 地域から日本・世界へと発展する学習
中学校学習指導要領においては,身近な地域の学習の位置付けについて,国際化の進展への対応,見方や考え方の重視などからの賛成と,小学校で既習,諸般の事情から野外学習がしにくいなどからの反対の賛否両論が聞かれる。一方,地理はよく「身近な地域から入って身近な地域に戻る」といわれるように,身近な地域の学習は諸地域学習の中核に位置づけられ大きな役割を果たしてきた。
中学校の地理学習が,日本の諸地域や世界の諸地域との関連を考えた学習でなければならいことを考えると,地域調査のテーマをもとに日本の諸地域やさらには世界の諸地域において類似した地域をとりまとめて学習できるのではないかと考える。しかし,実際にはこうした学習を社会科の中だけで実施していくことは難しく,この点から,このような学習の場を総合的な学習の中に求めることができるものと考える。
7 おわりに
伊予三島市の調査へと向かうバスの中で,「景色を見る目を養うこと」について篠原先生から指摘があった。調査の最中,この「景色を見る目」という言葉が常に私の頭から離れなかったのである。ある放送局が「車窓より」とう番組を放送しているが,この番組の中で語られる言葉には実際にその地を自分の足で歩いた人でしか分からないようなことも多い。確かに真実を確かめようとするならば,自分の足でその地を歩くことが必要であるが,反対に歩けばすべてが分かるのかというとそれもまた然りである。このことから言えることは,歩くことを支える学びと実際に歩くこと,この繰り返しによってその地域のことが見えてくるのではないかと考える。
その点から,本講義は,篠原先生のこれまでの野外調査によって得た研究成果を教材として学びながら,塩江町大屋敷地区をはじめとした山村の調査と伊予三島市の調査という野外調査に取り組むことによって,今後教育活動を行うに当たって価値ある成果を上げることができた。その地域がどのような地質・地形の上に成り立っているのか,またどのような気候条件などの自然条件を有しているのか,さらにそれらをベースにしながら人々がどのような生活を営んできたのか,そしてその人々の願いは…と言うように,一連の流れの中で「地域調査」というものを考えることができるようになった。今後は,実際に自分の足で歩くことを基本としながら,子どもたちと共に地域を見つめる学習を実施していきたい。さらに,自分自身においても生涯学習の一環として「景色を見る目」を養い,さらには「景色を楽しむ」ことができるようにもなりたい。
最後に,講義の中で一貫して教育現場における野外調査の重要性を論じ,人とのふれあいの大切さに気付かせて下さった塩江での野外調査と,酷暑の中しかも連日の野外調査にもかかわらず私たちに野外調査の大切さを体得させるために伊予三島市の野外調査を実施して下さった篠原先生に感謝の意を表する。
【参考文献】
小学校学習指導要領 1998.11 文部省
中学校学習指導要領 1998.11 文部省
社会科教育'89.2月号 319 明治図書
社会科教育'95.7月号臨時増刊 408 明治図書
新村出編,1999.5,『広辞苑 第5班』,岩波書店
エンカルタ97エンサイクロペディア『マルチメディア百科事典』,マイクロソフト