全国総合学習実践交流会
「総合学習」in2000 〜こんな総合がしてみたい〜
平成2年2月18日(金)
奈良女子大学文学部附属小学校
1 基調提案 新しい「総合的な学習」のあり方と奈良の「学習法」の営み
1-1今,「総合的な学習」が求めていること
まず第一に,教育の機軸を子どもの側に移すこと。生活科は,教科であることが足かせとなって発足時ほどの活力を失いかけている。その大きな理由は,「教科=教える」という旧態依然たる教育現場の土壌が災いしているからである。なお,この機軸を移すという「基調の転換」は,総合的な学習のみならず,教育課程の全般に求められている指針である。
第二には,新しい教育理念に対応した実践則の確立が緊急の課題である。そのためには,「授業の改革」が求められている。私たちは,これまでの発想を転換し,有用な実践則を確立していかなければならない。それに関連して,学級集団やグループ学習,その指導体制,学校の日課のあり方などが差し迫った問題である。
第三には,教師としての自立と自己決定力を挙げたい。つまり,子どもたちに求める「生きる力」と同等に,教師にもこの「生きる力」が求められているのである。総合的な学習の内容が上から一律に示されず,教科書も用意されないのであるから,それぞれの学校の学校や教師が創意工夫をして決定すればよいのである。反面,それに対する責任を負うことになるが,だからこそ教師の情熱や使命感,豊かな構想に導かれた判断力や意思決定力が,総合学習の正否を左右することになるのである。
1-2「奈良の学習法」が歩んできた道
明治42年(1909年) 全国で2つ目の女子高等師範学校が設立
明治44年(1911年) 附属小学校として創立
1-2-1木下竹次主事の時代(大正8年〜昭和15年)―「自律的学習法」の創始と「合科学習」の実践―
木下竹次は,「教授法」とか「教授学」や「教授訓育」などの言い方が通例であった教育現場に「学習」という言葉を全面的に取り入れた日本教育界の草分け。その「自律的学習法」は,学習則生活,生活則学習の思想を根底にして,「機械的な分科学習を拝して渾一的に生活を把握せしめる合科学習法(低学年に行われる総合学習)」の主張へと発展していった。
1-2-2戦後,重松鷹泰主事の時代(昭和22年〜27年)―新生「奈良の学習法」樹立とその実践―
「しごと」「けいこ」「なかよし」の3本柱から成る“奈良プラン”は,木下主事時代の合科の精神や,生活発展主義の思想,自由主義など,すでに伝統となっていた自律的学習法が採り入れられた。
1947年から奈良プランは実施に移されていったが,その詳細は『たしかな教育の方法』(昭和24年5月発刊)に報告されている。当時の記録からは,「新しい教育計画は,学校内に新鮮な学習活動をよび起こすとともに,しだいに子どもたちの生活の惰性(から)から脱して,子どもらしい−それゆえに人間らしい姿を表してきた」とある。そして,「とくに学習態度の上で著しく伸展してきたものは,協同的な態度と,追求開拓的な態度であったと思われる」と記されている。
1-2-3新制「奈良女子大学文学部附属小学校」となって―「しごと」「けいこ」「なかよし」の発展―
学制改革によって文学部附属小学校となってからさらにその意を強くして,戦後の「奈良の学習法」の骨格となっている「しごと」「けいこ」「なかよし」を強化し,また奈良版「学習指導要領」となっている「各種学力の指導系統表」も改訂してきた。
1-2-4「奈良の学習法」と「総合的な学習」について―「しごと」「けいこ」「なかよし」の総合性―
「しごと」「けいこ」「なかよし」のそれぞれの学習活動が,密接に連携し合い,関連して,一つに機能しているのである。つまり,教育の実態としての全体像が総合的になっており,子どもの調和的で豊かな人格の形成を考えた場合どの一つも不可欠なものである。このことは教科を否定するものではなく,その指導や学習のあり方を問題にしているのである。子どもの視点に即した教育実践を行う限り,そこに現れる子どもの学びの様相は,自ずと「総合的になる」のである。
1-3 「奈良の学習法」から「総合的な学習」へ,5つの提言
「子どもから出発すること」にこだわろう。
・教師の個性や持ち味を発揮しよう。
・知識や教科を否定してはならない。
・子どもに任せよう。
・子どもに学ぼう。
2 公開学習 1年星組「さんぽでみつけた早春」協議会
谷岡先生より
・親の思いを大切にしながら日々の教育活動にあたる。…発表順etc.
・今日の学習が明日の学習につながっていく。…お水とり,のりこぼし
・保護者への啓発により,家庭におけるコンピュータの保有率…約7割
・子どもたちだけで対応する力を育てるために徐々に見守る姿勢で臨む。
・幅広い意味での日記帳への継続的な取り組みを大切にしている。
・用紙の大きさを決めて年間3回(連休・夏休み・冬休み)実施。6年まで継続実施予定。
・低学年においては,親の思いをもちながらそれぞれの子どもが調べたり,活動したりしていく学習が大切である。
・発表形式の総合学習が多過ぎる。
・1週間に1回散歩に出かけ,散歩の中で見つけたものを絵に描いていく。その後「どうしようかな」と問いかけ,子どもの意見で絵本にした。1ページできたら朝の会で発表し,友達の発表に驚くことを通していろいろな工夫を知る。
・クラスの子どもたちがいかに幸せになれるか。教育には愛情が必要。
3 実践発表
発表校一覧
第1部会 国際理解を育てる(異文化理解・交流)
●東京都文京区立誠之小学校 国際社会に生きる児童の育成
●山口大学教育学部附属山口小学校 あくなき追求を楽しむ「総合の時間」をつくる
●大阪教育大学教育学部附属平野小学校 子どもの意識が連続発展する国際交流のあり方
第2部会 情報活用力を育てる(情報処理・活用)
●大阪市立箕面市立萱野小学校 多様な<ネットワーク>を活用した総合学習の展開
総合学習をネットワークを組み込んだ学習,あるいは学習のネットワーク化としてとらえ,開かれた学校を基盤に図書館,研究者,コンピュータ,地域・保護者などの多様な要素を結びつける学習として実践している。特に重要になるのが,子どもどうしを結ぶネットワークである。
・滋賀県大津市立平野小学校 情報教育を基盤とした総合的な学習のあり方
100校プロジェクトへの参加を契機に学校予算で徐々にコンピュータの増設を行い,校内LANの設置においては教師が天井裏に入り設置作業に当たるなどメディア環境の充実を図っている。その中で「インターネットの教育利用」をテーマに,人と人との関わり方を学ぶところまでを視野に入れながら,教師も知識の伝達者から媒介者となって学習を展開している。4年「心をつなぐ」ではメディアを活用して校区内を福祉の視点から調査したり表現したりする学習を,6年では市内在住のドイツ国際交流員の支援を受けドイツについて調べたり現地の学校と交流したりしながらWebページに発信する学習を行った。また,情報倫理に関する学習も年間計画の中に取り入れ,情報化社会に参画する態度の育成を図っている。
●東京学芸大学教育学部附属世田谷小学校 情報収集・整理能力を高めることば遊び絵本づくり
低学年において,情報能力として育成すべきは,事実を右から左に移すという操作したり処理したりする能力ではない。日常の事実や現象,発見したり見出したりした一つ一つのことがらに自分なりの価値を付けて受容し,自分のことばとして発信する能力である。この視点から,単元『へんしん!!』の構想のもと,ことばについて探究し表現し合う学習に取り組んだ。また,朝の会や帰りの会でもことば遊びやゲーム,クイズなどを行い,子どもたちのことばへの興味を高めている。
第3部会 環境から学ぶ子どもを育てる(環境・自然体験)
●鳥取県東伯郡泊村立泊小学校 夢いっぱい喜びいっぱい〜ともに創る総合学習〜
●新潟県上越市立大手町小学校 人と環境の調和的なあり方を探る活動構成
●岐阜県岐阜市長良小学校 総合学習『みがき』郷土の自然・社会・文化の中で,心豊かに生きる子
第4部会 共生の目と心を育てる(福祉・ボランティア)
●千葉県館山市北条小学校 生活ある子どもであれ!―求め,なしとげ,共感しあう体験を重ねて―
●愛知教育大学附属岡崎小学校 子どもの思いや願いの高まりを軸に学級を育む
●兵庫県三木市立自由が丘小学校 地域総合(町づくり)から地域と共生できる子どもを育てる
第5部会 地域に学ぶ子どもを育てる(郷土・文化)
●京都府京都市立御所南小学校 追求力を育てる総合「かがやき」
●北九州市立門司海青小学校 「私達のまち 門司港レトロから発信」の実践 〜6年 地域を通して学ぶ〜
●上越教育大学学校教育学部附属小学校 生き生きとした子供が育つ学校〜季節とめぐり,地域にふれる〜
第6部会 子どもの文化や生きる力を育てる(教育計画・カリキュラム)
●富山県富山市立堀川小学校 子どもがくらしを創造する“4つの活動”
「はじめに内容ありき」ではなく「はじめに子どもありき」を基本としなければならない。総合的な学習は,子どもが学習しようとしている対象を教材として,それを学習する過程で,自分のもてる力を存分に発揮して学習するのが本来の趣旨である。
そして,子どもの能力を全面的に信頼することが,主体的で個性的な子どもの取り組みを保障することにつながる。教師は,謙虚に子どもから学ぼうとする姿勢をもつことが大切である。そのためには,日々の授業実践の中で子どもの事実や授業の記録を累積して子どもを理解する解釈力を身に付けなければならない。
【実践事例】
○日課運営及び週時程…ノーチャイム制,子どもと触れ合う時間の確保,子どもの足場を築く継続活動
○くらしを支える4つの活動…朝活動・くらしのたしかめ・授業・自主活動
子ども一人一人の生活基盤が違うんだから,その背景をしっかりと受けとめてやる。そのためには,視聴覚機器を活用して子どもの記録をしっかりととる。子どもの事実(発言)から始めることが大切。0からのスタートができるかどうか。
●神戸大学発達科学部附属明石小学校 カリキュラム構成と単元展開
子どもの学びにストーリーをもたせること,これがカリキュラムづくりであり,単元づくりであると考え,1980代からの実践カリキュラムを分析し報告している。具体的には,カリキュラムにおいては大きく3つ(並列タイプ・関連タイプ・融合タイプ)に,単元としても大きく3つ(独立型・関連型・全面融合型)に分類されている。また,単元作成時のポイントについても考察を加え,5つのポイントを挙げている。
●愛知県知多郡東浦町立緒川小学校 緒川小学校の総合的学習の時間の進め方
4 講演「総合学習のカリキュラムづくり」
講師 国立教育研究所教科教育研究部 奈須正裕先生
●はじめに〜総合学習は新しいものではない〜
総合学習は,何も新しいものではない。古くは1896年,デューイの実験学校に始まる歴史をもつ。当時の実践からも,子どもによりそっていけば総合はできるのである。もちろん戦後の学習指導要領にもその意図は含まれていたのだがその意図は徐々に失われてきた。では,今公立学校できる総合学習のカリキュラムはどうすればできるのか。目標−内容−単元構成と段階的に,そして表を作ってから始めていくと子どもの存在なく大人中心のカリキュラムになってしまう。ここでは,内容が最初にあってカリキュラムを作る方法ではないカリキュラムの作り方について話す。
第1ステップ:子どもの求めから活動を組織する
1 なぜ,子どもの求めなのか
子どもの求め≠享楽的なもの
子どもの求め=主体的な生き方の最前線
「子どもが〜したい」と言った背後には何かわけがある。それは,自己の更新・生活の拡充を求める子どもの願いや気がかり・不安にに通じるものである。
Ex.家を作りたい。→自分の居場所を求めている。
Ex.埼玉の2年生「ダイオキシンとキングギドラとどっちが強い?」
→社会問題を取り入れた子どもの求めを重たいものとしてとらえていく。大人(教師)がこなす生き方,ぼーっとした生き方をしている限り子どもの求めに応えられない。
2 求めから立ち上げる3つの方法
@「何をしましょうか」と問うことから始める。
・そのためには子どもたちに総合の時間についての説明をしなければならない。説明せず教師が主導していることが多い。子どもたちが答えに困っている時は例示することも大切である。
A「お散歩に行きましょう」
・地域の特色について…結果として特色はでる
・子どもの生活現実から始める。
・地域にあるもの(伝統的なものなど)をそのまま取り入れることが地域の特色を生かすということではない。
・教室で考えてもイメージがわきにくい。服を買う時,考えるより店(現場)へ行った方がよい。現場へ行ったらすぐに決めようとする。見ても買わずに買ってくることがあるでしょう。
B「こんなことをしてはどうかな」
・子どもの潜在的な求めを提案する。
・投げかけて響かなければやめればいい。
・学年の定番メニューというものがある。
・メニューとして作ることはいいが,すぐに食べさせるのではない。
3 子どもが問題解決をする
○うまく(問題なく)成功させることが支援ではない。うまくいかない,困る,失敗する時によく学ぶ。
○支援=子どもの追究を強くするハードルの調整。
・準備はだれがするの?→子どもがするの。
・子どもの求めに応じる?→先生が何でも準備するのではない。だから片付けもできない。
・先生が頼りにならないふりをすると子どもが自立する。
・先生ばかりがたくましくなって子どもがひ弱になっている。教師が問題解決し,子どもが支援してしまっている。
・活動を支援し学習を妨害している。学習を支援して活動を妨害してはならない。
・「どうしたらいいかな」と考える時,学びが成立する。
第2ステップ:活動から内容に迫る流れで学びを組織する
1 横断的・総合的課題の扱い方
@気がかりや・不安の解消:直接的取り扱い
A夢や願いの実現:間接的扱い
・見通しがないものは打ち切ればよい。
・生活や総合はほめなくてよい。もともと子どもたちがしたいことだから。
・教科はしたくないことだからほめながら進めなくてはならない。
・生活みたいなことを学ぶのではなく生活そのものを学ぶ。
・生活する中で問題にぶつかりそれを解決していくことで強くなる…生きる力が育つ
ex.50円と250円の豆腐の違い
何度もつくる。豆腐屋のおやじさんの技に迫る。豆腐から遺伝子やポストハーベストや食料輸入,貿易の問題へと発展させることができる。
・国際,環境,健康にかかわる素材はスーパー(くらし)の中にある。国際,環境,情報,福祉の視点は,大学の入門学科の視点ではない。子どもが生活者として強くならなければならない。→「子どもが歩くと問題に当たる。」
・教科は文化遺産の創造
2 活動と内容の区別
・子どもは活動がしたい。教師は内容への洞察が深められるように考え,活動あって学びなしでは這い回る経験主義に終わらないようにしなければならない。つまり,子どもの生活現実から始め,教師が問題を吟味し構成することが必要。活動と内容を融合する。
Ex.ジャム作り 子どものジャム 対 紙パック入りのジャム(着色料・水飴含有量大)
ハム,ソーセージでも可能。…ボーっと生活している現実を自覚し吟味する。
3 教師の意図性,指導性の発揮
・総合を何年かやっていると教科へ向かっていく。子供中心であれば総合の方がやさしい。反対に,今教科が難しい。
・教科を教師主導でやってしまう教師ほど総合は放任してしまう。
・・教師の出方…教材研究
・教材研究の手だて:ウェビング…クモの巣状に教材分析する。
・教材研究してないから育てて,作って,終わりになる。
・カボチャから英会話や地域のまつりへと発展することが容易にできる。
・学習地図をマーカーでつないで一本化すると単元計画になる。先に枠から始まるから教師の価値が先行する。
●第3ステップ 実践と修正の繰り返しの中からカリキュラムを生み出す
1 2つのカリキュラム
・4月1日の教師の指導計画:計画カリキュラム
・3月31日の教師の指導経過:実施カリキュラム
見通しをもつことと無理からやるのとは違う。
・計画は立ててみる。そのままいくとは思わないこと。ずたずたになっていく。20%もいけばよいと考える。
・4月1日に作ったカリキュラムは予算みたいなもので3月31日のカリキュラムは決算。
・3月30日にカリキュラムはできる。子どもの学びの履歴を残す。(デューイ)
・繰り返すことでだんだんずれなくなっていく。カリキュラムは実践を通して次第にできていくもの。子どもの事実を通して発見していく。
・仮キュラムor紙キュラム
・教師が数時間で作ったものに子どもは1年間拘束されなくてよいのではないか。
・日本は紙に書いたものに弱い。単に紙切れと考えることもできる。
2 スコープの設定
「はじめに子どもありき」だからと言って内容がない,フリーでよいというわけではない。なぜ,スコープを設定する必要があるのか。
・意図性,指導性の発揮(授業展開)のよりどころ
・対外的説明責任,公共性の保持
・評価のよりどころ
○スコープ設定のよりどころ
・ねらい「自己の生き方を考えることができるようにすること」
・カリキュラムの構造として,生活科の発展・延長が総合である。
・社会・理科は第3学年から,低学年では廃止。生活科と総合は法制度上違うけれど教育方法上は同じ。教科が科学・学問・芸術を基盤とするが総合は生活を基盤とする。
・3つの課題…横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題
・教師集団の願い
○スコープの例
Ex.・呉小…人口が少なくなっても誇りをもってくらせる町にしようと考え,50年前になくなった大綱引き大会を復活しよう。地域の生活問題に子どもたちが取り組むことが地域の活性化にもつながる。
・ジェンダーや進路など私自身に関する個人的な問題でも立派な総合である。生き方が育っているからである。
●おわりに
総合って楽しいもの,明るいもの。暗いもの,重たいものと考えることで,自分が自分に地獄をつくっている。子どもに寄り添って学びをつくろう。帰っていく子どもに手を合わせて見送るのが教師の最終コースである。こうした悟りを開けることが教師の力量につながると言っても過言ではない。