日本教育新聞2000年12月15日特集号に執筆
生きる力を培うための評価とは
1 総合的な学習をつくる評価
本校では,平成8年度から総合的な学習の実践研究に取り組み,地域の特色を生かした総合学習のカリキュラム開発を行ってきた。その過程で,いかに学習を展開するかという段階から子どもの学びをどう評価するかという段階に至った時,それまで学習の在り方を見直すことの必要に迫られたのである。つまり,子ども一人一人の育ちを重視して評価を行う時,評価とカリキュラムとの間にずれが生じてきたのである。ここで内容を重視しようとすると,そのずれはさらに大きくなるのだが,本校では改めて子どもの思いや願いに立つスタンスをとることにより,そのずれを修正していこうと考えたのである。したがって,子どもの育ちを重視した評価は,総合学習における活動の流れと一体化するものであり,子どもの育ちとともに一連の文脈で語られるべきものである。
2 子どもの学びをまるごと捉える評価
生きる力の育成をねらいとする総合学習においては,子どもの学びをまるごと捉え,多面的に評価することが重要である。そのためには,教師の評価だけにとどまることなく,子どもどおしの相互評価,さらには子ども自身による自己評価が活性化されなければならない。また,評価の観点についても,成果の評価だけではなく,学習過程の評価,学び方の評価などの観点が盛り込まれなければならない。本校では,総合学習だけではなく,教科等の学習においても座席表などを用いたカルテに子どもの記録をとりながら,上記の視点からの評価活動に取り組んでいる。
(1) 問題解決能力に視点をおいた教師の評価
本校では,生きる力の中心的能力を問題解決能力として,単元を構成する際に,この問題解決能力を感受性・情報探求力・拡充性・自己概念・実践力・知識理解の6つの視点から捉えている。したがって,評価においてもこの6つの視点が評価の視点にもなってくるのだが,教師は学習展開において特に身に付けさせたい資質・能力・態度を明確に把握し,常に意識して学習に取り組んでいる。
(2) 複数の教師による評価
全学年2ヶ学級の本校の総合学習は,主に学級を解体して2〜3名の教師によるティーム・ティーチングによって実施されることが多い。また,生活科では異学年の学習集団によって学習が展開されることもあり,その場合にも複数の教師によって子どもの学びを多面的に評価している。この複数の教師による評価は,一人一人の子どもへの具体的な支援を考える上でも有効である。
(3) カルテによる子どもの記録
子どもの願いや思いを大切にした総合学習を子どもとともにつくっていこうと考えた時,問題解決能力の6つの視点から分析的に学びの評価を行うとともに,子どもの生活全体における活動をカルテに記録していくことが必要であると考えた。つまり,生きる力の育ちをとらえるのに学習の場面だけではなく,くらし全体の評価が必要だと言うことである。具体的には,座席表や一覧表などを用いて,一人一人の子どもの発言や行動をできるだけ具体的に記録している。
特に身に付けさせたい資質・能力・態度を明確にすることについては先に述べたが,それとともに子どものとらえをもとに教師が一人一人の子どもに対する願いをもち,その願いをカルテに記入することで,より個に即した支援が行えるようにも配慮している。
3 自らの生き方を考える自己評価
評価活動と言えば,これまでどちらかと言えば教師による他者評価が中心となっていた。そこでの評価の基準は教師によって設定され,子どもはその基準を達成することが求められていた。しかし,総合学習では,子どもたちが「〜してみたい」「〜を調べたい」などという一人一人の興味・関心に基づき自分たちで学習をつくっていくことが大切なねらいである。そこで総合学習では,子ども自身による自己評価を積極的に取り入れることとした。
自分のやりたいことを自分でできる限りやってみて,その「めあて」を実現できたかどうかということを自分で評価できる資質・能力・態度の育成が求められているのである。子どもたちが真に学び続ける意欲をもつようにするためには,学習を子ども自身が価値あるものとして捉え,また習得した知識を他教科や生活に生かすことができるように自分自身の生き方と結び付けて,吟味していくことが大切になる。また,子ども一人一人にとって,学習が充実し満足感を得られるようにするためには,結果の評価も大切なことではあるが,学習の過程において自分が立てた計画に基づいてどれだけ取り組むことができたか,学び方についてはどうであったか,この学習でどれだけ自己実現が図られたかなどについて,子どもなりの基準によって確かめることが必要である。この自己評価を行うことによって自分自身についての修正が促進されるのである。
自己評価活動を行い,自分の成長をとらえるためには,学習内容におけるめあてや学び方の見通しを明確にしておかなければならない。その際に,子どもたちは学習内容と自分の能力とを照らし合わせながら学習目標を決定していく。そして,学習が終わった段階で,自分を自分で捉えられるようにするのである。このような態度の育成を,学び方として組み入れておくことが必要である。
ただし,子どもたち自身が自分の目標についてどれだけ正確に捉えられるかが問題になる。また,正確に自己を見つめる訓練をすることや,自分の学習目標が定められない子どもに対しては,時と場に応じてその子ども自身の成長が認められるような肯定的な教師の助言なども必要になる。
(1) 振り返りカードによる自己評価
本校が総合学習の実践に取り組み始めた頃は,活動の連続化と子どもの学びの自立を図るために,毎時間のめあての確認とその時間の反省を行うことが大切であると考え,「めあてカード」や「振り返りカード」を用意し,学習時間の始めと終わりには,そのカードへ記入する活動を設定していた。ところが,活動や交流の時間をもっと確保したいと考えるようになり,これらのカードへの記入の時間をどこで確保するかということが問題となってきたのである。さらに,内容面でも学び方にかかわる設問に対しては,子どもたちの振り返りがマンネリ化し,形骸化の傾向が見られるようになってきた。
そこで,現在は,これまでの実践を生かし,子どもたちが手軽に取り組め,しかも教師がその時間の子ども一人一人の学びを把握し,次の活動への支援の手ががかりとなる振り返りカードを作成し,使用している。例えば,5年生では次のようなカードを用いて継続的
に学習の振り返りを行っている。
今日の活動をふりかえって
●何をしたの?
●どうだった?
(^O^)…うまくいった。
(*_*)…困ったことがあった。
どちらかに○を付ける。
●ひとこと
「どうだった?」で○を付けたことに
ついてのコメントを記入する。 |
この振り返りカードでは,特に(*_*)に○を付けた子どものひとことに注意して目を通すように心がけている。困ったことに直面している子どもの問題を把握し,次の活動時間までにそのための支援を考えておく。そうすることで,その子どもの学びを保障していくことができるのである。
(2) 新しい評価への試み
総合学習を展開する中で,子どもたちは課題を解決するために多くの情報を収集し,友達の考えと合わせて自分の考えを多様な方法で表現している。
これまでの実践では,収集した情報や作成した表現物をファイルに綴じたり,ボックスにストックしていったりして,活動に応じて必要なものを取り出しては活用していた。収集した情報や作成した表現物は,すべて次の活動への資料となるもので,自分自身の学びの足跡となるものである。この足跡を振り返ることによる評価,つまりポートフォーリオ評価にも,今,取り組んでいるところである。中には,一人一人の学びの足跡を発信していくために個人掲示板を作成し,活用している実践も見られる。一人一人の学びの足跡を互いに情報発信していくことで,問題の共有化を図ったり,新たな気付きやかかわりをもたらしたりすることができるものと考える。
ただし,個人掲示板やファイル,ボックスの資料を自らの学びの総体として捉え,自分の学習を客観的に評価し,次の活動やひいては自らの生き方を考えていくけるようになるためには,このポートフォーリオによって自らを観る目を養っていかなければならない。
4 開かれた評価をめざして
本校では,総合学習や生活科の学習を推進するに当たって,地域や学校外の多くの人々の協力を得ている。これらの人々をゲストティーチャーと呼び,分野ごとに分けて「中央小人材バンク」として登録している。
そして,ゲストティーチャーとして学習に協力してくださった方々にその結果の成果を見ていただくことを目的として,保護者や地域の方も招いて,年に一度「中央小子ども祭り」を開催している。この子ども祭りでは,1年間を通して,総合学習や生活科の学習で学んだことをそれぞれの学年の個性を生かしながら発表したり,参観者とともに考えたり活動したりしている。この年に一度の子ども祭りは,子どもたちの表現の場であるとともに評価の場であるとも考えている。子ども祭りでの活動を通して,子どもたちに寄せられる声は,次年度への子どもの意欲を高める上で効果的である。ただ欲を言えば,ここでの活動が次の活動への新たな問題を提起してくれる評価となることを期待している。
さらに今後は,ふだんの学習の中でもゲストティーチャーなど,専門家の眼から見た評価を積極的に取り入れていくなどして,開かれた評価をめざしたい。そうすることで,子どもたちの学びが学校の中だけの閉ざされたものに終わることなく,地域社会に向かって開かれた真に生きる力の育成につながるものになると考える。
<参考文献>
坂出市立中央小学校教育研究会『21世紀の新しい教育を目指して−地域社会とともに生きる学校づくり』美巧社,1998